花言葉は「私のものになって」

岬 空弥

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ゾンビ令嬢

 そんなに私のことが嫌ならば、この婚約を解消してくださいと、婚約者様には過去に何度もお願いしました。お姉様が婚約なさった時などは、伯爵家へお邪魔するたびに伝えました。もちろんお父様にも頼みました。お父様にとってカドワーズ伯爵は、学生時代からの親友です。しかし、いくら親友と言えど、爵位の高い相手ですから、当然お父様は困った顔をされます。それでも私のことを思って伯爵様に伝えてくれていたようです。

しかし、私がいくらお願いしても、婚約者様本人からは冷たくあしらわれ、伯爵様と夫人からは頭を下げられるだけで、婚約解消の話は全く進みませんでした。それどころか、私が婚約解消の話をすればするほど、なぜか伯爵家での「二人のお茶会」が増やされることになったのです。もしや、婚約者様だけではなく、伯爵家一丸となってお姉様をスワルス様から奪い取る作戦なのでしょうか・・・。どちらにしても、一体どこまでお姉様に執着しているのでしょう・・・。そもそも、私との婚約で、お姉様との接点は作れているのでしょうか?お姉様に聞いてみても首を傾げて困ってしまうばかりですし、私の犠牲は何かの役に立っているのでしょうか?

疑問は増えるばかりですが、この悩みも、もうじき終わりが来ることでしょう。
お姉様の結婚式まであと二か月ですもの。そうすれば早急に婚約は解消されることでしょう。なにもかもそれまでの辛抱なのです。
そう思って日々、静かに静かに暮らしていたというのに、なぜここにきてこんな大騒ぎになったのでしょう・・・。



 その日、私はいつものように数人のご令嬢に囲まれた婚約者様を見つけてしまいました。今では、慣れ親しんだいつもの光景ですから、私の感想などは特にありません。私には、近頃全く見せなくなった美しい微笑みを称えて、美男子どころか女神のような婚約者様のお顔もいつも通りでした。キラキラしたご令嬢に腕を取られて婚約者様も幸せそうです。

 さあ、そんなことより急いで通り過ぎましょう。触らぬ神になんとやらです。ですが、すれ違う時は気を付けないといけません。あの辺一帯は香水地獄です。昼食前に鼻をやられるわけにはいきません。足早に行きましょう。

と、いつものように何事もなく通り過ぎる予定でしたのに・・・。

「まあ、ユニーナ様、ごきげんよう。」

なんと、香水地獄の中から青白い手がぬぅっと―――いえ、一人のご令嬢に呼び止められてしまったのです。

(ぎゃーー!!出たーー!!)

と、お化けだったら走って逃げればなんとかなりそうですが、残念ながら相手は実体のある人間なのです。

(異臭を放って襲い掛かってくるので、お化けよりゾンビの方がいいかしら。)

「まあ、皆様、ごきげんよう。・・・では、わたくしは失礼いたします・・・。」

必死の作り笑いと俊敏な動きをもってしても、今をときめく、恋するゾンビにかなうはずもなく、私は、力強く腕を掴まれ、あえなく脱出失敗にございました。
婚約者様にすがる思いで、助けて!と目で訴えたところで、どうせあの凍るような緑の瞳で睨みつけられるだけですよね・・・。

(あーもぅー・・・面倒なことになったわ。ねぇ、ちょいとそこの婚約者様、あなたの愛人達をどうにかしてくださいませんかねぇ・・・。いい加減にしないと、お姉様に言いつけますわよ?毎度毎度、私を巻き込むのはやめてもらえませんか? もう、本当、嫌なんですけど・・・。)

「・・・あの、私に何か御用ですか?」

心の声はそっと胸の奥にしまって、面倒事をさっさと終わらせたい一心で、あえてビクビクおどおど、俯きながら訪ねてみましょうか。

「まあ、なんて情けない人でしょう!話してる相手と、満足に目も合わせられないなんて貴族としてマナーが足りてないのではありませんの?」

元気あふれるゾンビ令嬢1号が、淑女にあるまじき大声を張り上げています。その無駄に大きな声量のせいで、ガヤガヤと人が集まりだしてしまったではありませんか・・・。

「うふふ、ですが、下位貴族の男爵令嬢では仕方のないことではなくって?きっと満足な教育も受けさせてもらえていないのでしょう?」

今度は高飛車なゾンビ令嬢2号ですね。

「ねぇ、アレイドさまー、こんな人といつまで婚約を続けるおつもりですのぉー?こんな人、伯爵家には相応しくないのではありませんかぁー?」
来ました! みんな大好きあざとさ命のゾンビ令嬢3号。

「・・・・・・・。」

(んーーって、おいっ!!そこの婚約者殿!? 3号が失礼過ぎることを言ってますよ!?私を睨んでないで何とか言ってくださいなっ!こんな人、こんな人って、貴方の婚約者がこんなに馬鹿にされてますが、いいのですか? 平気なんですか? 何も感じませんか? うわぁ・・・そんなに眉間に皺を寄せて、これはもう、言われてる私が悪いってことですか?)

などと、私のことが嫌いな婚約者様にいくら不満を持ったところで、現状が変わることはありません。助けてもらえないことなんて、私だってわかっていますとも。ですが、少しくらい心の中で文句を言うことくらいお許しくださいませ。でないと、私の心が壊れてしまいそうですから。

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