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真っ赤な顔

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「ユニ?聞いてる?  あの時の話って本当に冗談なんだよね!?もしもあの時、僕と、ライナーの恋人が何も言わなかったらユニはどうしてたの?まさかとは思うけど、本当にライナーと結婚するつもりだったの?」

今日は、久しぶりのカドワーズ伯爵家でのお茶会です。最近はアレイド様が我が家に来る頻度が高すぎて、こうして伯爵家の庭園でゆっくりお茶をする回数はめっきり減っていました。

「さあ?どうでしょうね。こればかりは相手の気持ちもありますからね。ただ、はっきりしているのは、学園に入ってから私の心の支えになってくれていたのはライナー、一人だけです。私にとってライナーが特別な人なのは確かです。」

「くっ・・・。じゃあ、ライナーと一緒になること、ユニは平気なの?」

「ええ・・・まぁ、私は平気で―――えっ!?」

私の言葉を最後まで聞き終わる前に、ガタっと音を立てて椅子から立ち上ったアレイド様が、いきなり私の腰にしがみ付きました。泣きそうな顔で私を見上げると、

「駄目だよ!駄目だ、ユニ!僕以外を好きにならないで?ライナーと一緒になれるなんて言わないで。 何度も説明したけれど、本当にただ驚いただけなんだよ。ライナーに恋人がいるなんて信じてなかったのに、本当に現れたから・・・、しかも、綺麗な人・・・だったから。ライナーは、ずっとユニのことが好きなんだと思っていたから・・・。ごめん、ユニ。他の人に目移りしたわけじゃないんだよ。信じて、ユニ。」

ついこの間まで、顔を合わせれば睨みつけてくるだけの嫌な婚約者だったアレイド様が、今は地面に両膝をついて必死に私に縋り付いているなんて、少し前の私なら想像もできなかったことでしょう。お姉様の結婚式と共にこの人との婚約もすぐに解消になると思い込んでいたのですから。

(人生って、いつ何が起こるのか、本当にわからないものなのね。)

「大丈夫ですよ。ライナーとの仲を心配する必要はありません。ライナーも結局は、お姉様のような美人が好きなんですもの。たとえ私が好きになったところで、ライナーとはうまくいきませんよ。」

「でも、二人共、あの時の話は冗談だって言ってるけれど、ライナーが辺境地に行こうって言った時、ユニ、本気で喜んでたよね!?」

「いっ!? いいえ。喜んでなどいません!!だって、あんなの、アレイド様とキャメロンさんに嫌な思いをさせる為の、ただの演技ですもの。」

少しだけ慌てた私の様子に、アレイド様の瞳は、怪しいと細められるのだった。

「・・・それは嘘だ。」

「ふふっ、アレイド様のその冷たいお顔、久しぶりに見ましたね。でも、これだけは信じてほしいのですが、私が求めている相手は、綺麗でも美人でも可愛いでもない、ただのつまらない私を好きだと言ってくれる人なんですよ? だって、これが重度の劣等感や被害妄想を拗らせた私の、唯一の望みなんですもの。」

「ユニは・・・わかってないよ。ユニは可愛いし、綺麗だよ。だから僕はいつだって心配なんだ。ちゃんと見張ってないと、他の奴に・・・すぐ・・・」

「アレイド様?・・・んっ!?」

途切れ途切れでよく聞き取れなかった私が、アレイド様の顔を覗き込んだその時、不意にアレイド様の顔が近づき、気付いた時には自分の唇に柔らかなものが当たるのを感じました。
それは一瞬の出来事でした。何が起こったのか直ぐには理解できない頭で、未だ至近距離にあるアレイド様の瞳を呆然と見つめていると、アレイド様はくっと眉間に皺を寄せた後、ふいっと顔を背けてしまいました。

「いきなり、ごめん・・・。でも、もう我慢できなかった・・・。」

まるで蚊の鳴くような小さな声でしたが、そう言ったアレイド様の横顔は真っ赤に染まっていました。
アレイド様のそんな顔を直視してしまった私が、もちろん平静を装う真似ができるはずもなく、私達は向かい合ったまま、何も言わずに、お互い真っ赤な顔をしながら心が静まるのを、ただひたすら待つのでした。

どれくらいの時間だったのでしょう。まるで金縛りにでもあったかのように、お互いピクリとも動かず、あまりの恥ずかしさから視線を合わせることもできません。途方もなく長い羞恥の時間がやっと終わったのは、先に心を静めることに成功したアレイド様が話しかけてくれたからでした。

「やっとユニと口づけができた。嬉しい・・・。ユニのこと、誰にも渡さないから。これでユニは僕のものだね。・・・ねぇ、ユニ。 もう一度してもいい?」

やっと、普通の顔色に戻ったアレイド様でしたが、自分で言った最後の言葉が思ったよりも恥ずかしかったのか、またもや顔が真っ赤に染まってしまい、それでも真っ赤な顔を隠しもしないで、私を見つめてくるので、私も真っ赤な顔のまま、黙って頷いたのでした。
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