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まずはプライドを捨てる
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「エリシア様、少し向こうで話しましょうか」
そう言って微笑む口元が小刻みに震えているように見える。やけに強い力と無理やり作ったような怖い笑顔に恐れをなしたエリシアは、青ざめながらも彼と視線を合わせたまま、嫌だと首を横に振った。
その態度にユーレットは目を細めた。それはまるで有無を言わさぬ瞳。憎しみすら感じる眼光の鋭さにエリシアは身の危険を感じた。
彼女は咄嗟に友人の方に顔を向けると、助けて!と、目で合図を送った。だが、
「さあ、行きましょう」
冷淡な言葉と共に、ユーレットに引きずられるようにその場を後にすることとなった。
「先ほどの政略結婚とはどういう意味でしょうか?」
夜の庭園は、所々に灯された明かりと夜に咲く美しい花とで幻想的な雰囲気が作られていた。その静まり返った庭園にユーレットの感情のない声が響く。
俯いていたエリシアは、諦めたように顔を上げると真っすぐにユーレットを見据えた。
「ええ。私は両親の決めた相手と婚約しようと思います。ですので、申し訳ありませんがあなたからのお話はお断りさせていただきますわ」
「っ!! なんでっ!!」
顔を酷く歪ませたユーレットが、咄嗟に大きな声を上げた。
(えっ!? あれ・・・?)
しかしエリシアが、おや?と思った次の瞬間には、またもや気味の悪い笑顔のユーレットに変わっていた。
「エリシア様・・・私はあの時の約束通り、学園を卒業して直ぐにあなたを迎えに来ました。そしてあなたも私が学生の間、誰とも婚約しないで待っていてくださいました。私はあなたの隣に立っても恥ずかしくないよう外見も中身も磨いて参りました」
(そうだ。彼女と一緒になる為にこの二年間、俺がどんなに頑張ったと思ってるんだ。なのに、ここまで来て他の奴と婚約するだなんてそんなの絶対に許さない。なにがなんでも、そんなことさせてたまるものか)
あの日、エリシアに卒業まで待っていてほしいと言ったユーレットであったが、決して自身の身長が伸びるのをただ黙って待っていただけではなかった。
自分のせいでエリシアに嫌な思いをさせてしまった挙句、近付くことすらできなくなってしまったことを彼は深く後悔し、そして反省していた。
友人達にからかわれたくらいで気分を害し、素直になるどころか逆に素っ気ない態度を取り続けてしまった。努力もしないくせにあらゆることに劣等感を抱き勝手に卑屈になっていたのだ。彼女と一緒の時間はたくさんあったはずなのに、自分の幼い考えに縛られて大切だという気持ちを一切彼女に伝えることができなかった。
意地っ張りで女性慣れしていない上にプライドだけは一人前。そんな自分にユーレット自身も心底嫌気がさしていたのだ。
(彼女に相応しい人間に変わらなくてはいけない!)
そう決心したユーレットが一番初めにしたことは、くだらないプライドを捨てることであった。
屋敷に戻ったユーレットは、その足で父親の執務室に向かった。
中では父と兄が机を並べて仕事をしていた。話しかけてもろくに返事もしない反抗期息子が突然現れたことに目を瞠る親子であったが、ユーレットの話を聞くなり、これは大変なことになっていると直ぐに真顔になった。
実は、コットワール侯爵家の一人娘エリシアが、ユーレットに好意を持っているという噂を父と兄も聞いたことがあったのだ。
兄がその噂を知ったのは、友人からの信憑性に欠けるものであったが、父の場合はコットワール侯爵本人から直接聞いた話であった。
にも拘わらず、この親子は揃ってその話をまともに受け取りはしなかったのだ。
そう言って微笑む口元が小刻みに震えているように見える。やけに強い力と無理やり作ったような怖い笑顔に恐れをなしたエリシアは、青ざめながらも彼と視線を合わせたまま、嫌だと首を横に振った。
その態度にユーレットは目を細めた。それはまるで有無を言わさぬ瞳。憎しみすら感じる眼光の鋭さにエリシアは身の危険を感じた。
彼女は咄嗟に友人の方に顔を向けると、助けて!と、目で合図を送った。だが、
「さあ、行きましょう」
冷淡な言葉と共に、ユーレットに引きずられるようにその場を後にすることとなった。
「先ほどの政略結婚とはどういう意味でしょうか?」
夜の庭園は、所々に灯された明かりと夜に咲く美しい花とで幻想的な雰囲気が作られていた。その静まり返った庭園にユーレットの感情のない声が響く。
俯いていたエリシアは、諦めたように顔を上げると真っすぐにユーレットを見据えた。
「ええ。私は両親の決めた相手と婚約しようと思います。ですので、申し訳ありませんがあなたからのお話はお断りさせていただきますわ」
「っ!! なんでっ!!」
顔を酷く歪ませたユーレットが、咄嗟に大きな声を上げた。
(えっ!? あれ・・・?)
しかしエリシアが、おや?と思った次の瞬間には、またもや気味の悪い笑顔のユーレットに変わっていた。
「エリシア様・・・私はあの時の約束通り、学園を卒業して直ぐにあなたを迎えに来ました。そしてあなたも私が学生の間、誰とも婚約しないで待っていてくださいました。私はあなたの隣に立っても恥ずかしくないよう外見も中身も磨いて参りました」
(そうだ。彼女と一緒になる為にこの二年間、俺がどんなに頑張ったと思ってるんだ。なのに、ここまで来て他の奴と婚約するだなんてそんなの絶対に許さない。なにがなんでも、そんなことさせてたまるものか)
あの日、エリシアに卒業まで待っていてほしいと言ったユーレットであったが、決して自身の身長が伸びるのをただ黙って待っていただけではなかった。
自分のせいでエリシアに嫌な思いをさせてしまった挙句、近付くことすらできなくなってしまったことを彼は深く後悔し、そして反省していた。
友人達にからかわれたくらいで気分を害し、素直になるどころか逆に素っ気ない態度を取り続けてしまった。努力もしないくせにあらゆることに劣等感を抱き勝手に卑屈になっていたのだ。彼女と一緒の時間はたくさんあったはずなのに、自分の幼い考えに縛られて大切だという気持ちを一切彼女に伝えることができなかった。
意地っ張りで女性慣れしていない上にプライドだけは一人前。そんな自分にユーレット自身も心底嫌気がさしていたのだ。
(彼女に相応しい人間に変わらなくてはいけない!)
そう決心したユーレットが一番初めにしたことは、くだらないプライドを捨てることであった。
屋敷に戻ったユーレットは、その足で父親の執務室に向かった。
中では父と兄が机を並べて仕事をしていた。話しかけてもろくに返事もしない反抗期息子が突然現れたことに目を瞠る親子であったが、ユーレットの話を聞くなり、これは大変なことになっていると直ぐに真顔になった。
実は、コットワール侯爵家の一人娘エリシアが、ユーレットに好意を持っているという噂を父と兄も聞いたことがあったのだ。
兄がその噂を知ったのは、友人からの信憑性に欠けるものであったが、父の場合はコットワール侯爵本人から直接聞いた話であった。
にも拘わらず、この親子は揃ってその話をまともに受け取りはしなかったのだ。
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