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早朝の来客
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屋敷に戻ったエリシアはベッドの上で大きな溜息を吐いた。
思い出すのは、先ほどまで一緒だったユーレットのことばかりだ。
(彼はとても立派な男性になったのね・・・)
今日のユーレットの言動を思い返すと、彼がこの二年の間でどれほど努力したのかが分かった。今の彼であればどんな女性とも上手に付き合って行けるだろう。
それほど今の彼は、どこに出しても恥ずかしくない魅力的な貴族男性に変わっていた。
静かに目を閉じたエリシアは、会場で他の令嬢と親しげに会話をしているユーレットを思い返した。
過去に学園でユーレットを庇った女性を見た時はあれほどまでに気持ちが動揺したというのに、今日の自分ときたら、いくらユーレットが他の女性に笑いかけていても動揺するどころか落ち着いた心は静か過ぎるくらいだった。
もう・・・彼の相手が自分である必要はない。
今のユーレットを前にして、当時感じていた心弾むような幸せな気持ちにはどうしても戻れそうにない。それはとても寂しいことに違いないがエリシアはそれを素直に受け止めようと思った。大好きだったユーレットとの思い出は自分の心の中にしっかりと刻み込んでいる。それだけで充分だと思った。その想いがあれば、この先愛情のない相手ともきっと夫婦として頑張って行けると・・・。
(明日、お父様に言って、お相手を選んでいただこう・・・)
すっかりユーレットを気に入ってしまった両親には申し訳ないが、このままユーレットと結婚しても誰一人幸せになどなれないだろう。二年もの間、一度も会うことなく彼の噂話にすら耳を貸さなかった自分は、きっと間違っていなかったのだ。
彼と距離を置いたことで、いつしか会えないのが当たり前になってしまい少しずつ過去の人にすることができたのだから・・・。
未だエリシアの記憶の中には、過去で時を止めたままの愛しいユーレットがいる。
エリシアの目には、変わってしまった現在のユーレットと、他の貴族男性との区別はつきそうもない。
(会場で、あれほどたくさんの女性に囲まれていたんですもの。私が婚約を断ったとしてもそれほど彼を困らせることにはならないでしょう。明日、もう一度お断りの返事をしないといけないわね・・・)
その時、ふと、先ほどの庭園での出来事を思い出した。婚約をはっきりと断るエリシアの瞳に映ったのは、怒ったような口調で眉をひそめる彼の姿だった。それは、ほんの一瞬のことであったが懐かしさに胸が震えるような心臓のざわめきを覚えた。忘れかけていた熱い気持ちが、体の底からぶわっと溢れかえるような感覚だった。
思い出すと未だに胸がドキドキする。エリシアは、胸を押さえて呼吸を整えた。顔が赤く火照ってくるのがわかる。だがしかし、今更それを期待してどうなるというのだ。貴族に生まれたユーレットが立派な紳士に成長したことは何も間違っていない。そう、間違っているのは彼の成長を拒むエリシアの方なのだ。
次の日の早朝。
ベッドの中で熟睡中のエリシアを無理に起こしたのは、慌てて部屋に駆け込んできたメイドであった。
「お嬢様、大変です。お客様がお見えです。起きてください、お嬢様!!」
「え・・・なんで・・・まだ寝てるのに。なに・・・来客の予定なんて、入れてない」
「お嬢様の婚約者様です!先触れなしでお見えになりました。下で待っていただいておりますので、とにかく早く起きてください」
「えっ!?どうして突然・・・」
すっかり大人になった彼が、そのような常識のない真似はしないだろうと思ったエリシアは、なにか大変なことが起こったのだろうかと大慌てで支度を整えた。
思い出すのは、先ほどまで一緒だったユーレットのことばかりだ。
(彼はとても立派な男性になったのね・・・)
今日のユーレットの言動を思い返すと、彼がこの二年の間でどれほど努力したのかが分かった。今の彼であればどんな女性とも上手に付き合って行けるだろう。
それほど今の彼は、どこに出しても恥ずかしくない魅力的な貴族男性に変わっていた。
静かに目を閉じたエリシアは、会場で他の令嬢と親しげに会話をしているユーレットを思い返した。
過去に学園でユーレットを庇った女性を見た時はあれほどまでに気持ちが動揺したというのに、今日の自分ときたら、いくらユーレットが他の女性に笑いかけていても動揺するどころか落ち着いた心は静か過ぎるくらいだった。
もう・・・彼の相手が自分である必要はない。
今のユーレットを前にして、当時感じていた心弾むような幸せな気持ちにはどうしても戻れそうにない。それはとても寂しいことに違いないがエリシアはそれを素直に受け止めようと思った。大好きだったユーレットとの思い出は自分の心の中にしっかりと刻み込んでいる。それだけで充分だと思った。その想いがあれば、この先愛情のない相手ともきっと夫婦として頑張って行けると・・・。
(明日、お父様に言って、お相手を選んでいただこう・・・)
すっかりユーレットを気に入ってしまった両親には申し訳ないが、このままユーレットと結婚しても誰一人幸せになどなれないだろう。二年もの間、一度も会うことなく彼の噂話にすら耳を貸さなかった自分は、きっと間違っていなかったのだ。
彼と距離を置いたことで、いつしか会えないのが当たり前になってしまい少しずつ過去の人にすることができたのだから・・・。
未だエリシアの記憶の中には、過去で時を止めたままの愛しいユーレットがいる。
エリシアの目には、変わってしまった現在のユーレットと、他の貴族男性との区別はつきそうもない。
(会場で、あれほどたくさんの女性に囲まれていたんですもの。私が婚約を断ったとしてもそれほど彼を困らせることにはならないでしょう。明日、もう一度お断りの返事をしないといけないわね・・・)
その時、ふと、先ほどの庭園での出来事を思い出した。婚約をはっきりと断るエリシアの瞳に映ったのは、怒ったような口調で眉をひそめる彼の姿だった。それは、ほんの一瞬のことであったが懐かしさに胸が震えるような心臓のざわめきを覚えた。忘れかけていた熱い気持ちが、体の底からぶわっと溢れかえるような感覚だった。
思い出すと未だに胸がドキドキする。エリシアは、胸を押さえて呼吸を整えた。顔が赤く火照ってくるのがわかる。だがしかし、今更それを期待してどうなるというのだ。貴族に生まれたユーレットが立派な紳士に成長したことは何も間違っていない。そう、間違っているのは彼の成長を拒むエリシアの方なのだ。
次の日の早朝。
ベッドの中で熟睡中のエリシアを無理に起こしたのは、慌てて部屋に駆け込んできたメイドであった。
「お嬢様、大変です。お客様がお見えです。起きてください、お嬢様!!」
「え・・・なんで・・・まだ寝てるのに。なに・・・来客の予定なんて、入れてない」
「お嬢様の婚約者様です!先触れなしでお見えになりました。下で待っていただいておりますので、とにかく早く起きてください」
「えっ!?どうして突然・・・」
すっかり大人になった彼が、そのような常識のない真似はしないだろうと思ったエリシアは、なにか大変なことが起こったのだろうかと大慌てで支度を整えた。
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