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~第1章~

~第30節 森の民との別れ~

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 突然の大雨により急いで、ポルム樹の宿へ全員駆け込んだ。アキラ達パーティだけではなく、そこにいたドライアード全員も宿へ入ったため、なかはかなりせせこましく感じる。しかし樹の精霊であるドライアード達は不満どころか、土砂降りの雨にもかかわらず、逆に歓喜の声援で喜んでいた。それもそのはず、しばらく待ち望んでいた、恵みの雨だったからに他ならない。そして各々頭や服に被った雨を払っていく。

「カエデさん、どうもありがとうございます!これで1年は安泰です」

 カエデの両の手をガッシとつかみ、ライアはユッサユッサと何度も上下に揺さぶる。

「あ、いえ。でもこれで1年ももつなんて…」

「多分これで1時間も降れば、十分です」

 満面の笑みを浮かべて喜ぶライアに対して、カエデは自分自身の唱えた水魔術と、ライアの回答に半信半疑だった。

「ねぇ、1時間たっても止まなかったときは、自分で止められるの?」

 ふと不思議に思ったセレナは、地面に跳ね返り窓に激しく当たる雨の、土砂降りを見ながらカエデに問いかける。

「え…実は発動させることは出来るんだけど、止め方を知らないの…」

「えっ…ホントに?」

 カエデの意外な答えに、セレナは思わずその顔を二度見してしまった。そこへ、ライアのフォローが入る。

「心配はいらないですよ。こういう降雨の魔術なら、近辺に広がる水蒸気と術者の魔力が尽きた時点で、それは恐らく終わることでしょう」

 窓辺近くのベッドに腰をかけて、おなかの辺りをさすっていたカケルは、自分の傷が治った聖水に関して、ライアにたずねる。

「そういえば、ライアさん。いただいた聖水で打撲での内臓の傷や、アギトさんの切断された腕も治してしまう、そんな力が本当にあるんですか?」

「えぇ、あの聖なる泉の清らかな水は、中級から上級の治癒魔術に匹敵する効果があるようですよ」

 若干外の激しい雨音にかき消されながらも、にこやかにライアは通る声で答える。

「なるほど、それなら納得ですね。これでクエストクリアで完了かぁ!ホントRPGみたいだ」

 そのお気楽な受け答えに、上半身裸に左肩を中心に、包帯でドライアードにグルグル巻きにされながら、アギトはあきれかえる。

「おぃおぃ。昨日まで死にそうにして寝てたのが、ウソみてーに元気だな?」

「それはアギトさんも、同じじゃないですか?」

 口をとがらせ、不満そうにカケルはジト目を向ける。

「そりゃそうだろ、俺はお前よりももっと重症だったんだからなっ」

 それに対して片方の眉を吊り上げ、アギトは同じようにジト目で返した。そこにナツミが目を閉じながらパンパンと手を叩き、2人の間に割って入る。

「はいはい、そんなことで張り合わない!2人とも生きてるだけ、ありがたいと思わないと。ところでセレっち、このおっさんがやられそうになった時、一瞬でなにかやったみたいだけど、どうやったの?」

「それは僕も知りたかったことだよ。セレナくん、くわしく話してもらえるかい?」

 室内のテーブルで向かいのマリナが愛刀の手入れをする一方、温かい飲み物を飲みながら、聞いていたアキラはナツミの質問に乗って来た。

「あれは…あの時…」

 セレナは窓際の壁に寄りかかり、事の顛末を話しながら近くに寄って来た、ライムの頭の毛をナデナデする。その詳細を聞いた面々には、不思議な信じられないというような出来事を、聞いた顔が見え隠れする。

「時間を止める…って、そんなの神じゃん!」

 そう言ってベッドのヘリに座っていたカケルは、セレナに向かって身を乗り出す。

「それに、光属性の上級魔術を使えるなんて、わたしもまだなのに…ふぁ…」

 少し嫉妬気味で眠くなってきたにカエデは、セレナのそばで服の裾をグイグイ引っ張る。

「でも…いつでも使える力じゃないみたいで…」

「それは、セレナくんの潜在能力かもしれないね」

 アゴに手を当て、目を閉じアキラは鷹揚にうなずく。そして、ライアの読み通り豪雨がやがて止み、カエデの魔力と眠気が回復し次第、この地を発つ準備をした。

 ★ ★ ★

 旅の準備を終えたアキラ達は、ドライアード達及びポルムに謝意を伝える。さっきまでの豪雨が無かったかのように晴れ渡り、木漏れ陽がさんさんと照り付ける。
そのところどころで、雨露がたまった葉から雫がポタリと落ち、下の水たまりに波紋をつくる。

「本当にありがとうございました。お達者で…旅のご無事をお祈りします…」

 ドライアードの女王ライアは深々と優雅な礼をする。それに倣って他のドライアード達やポルムも同じように礼をする。

「いえ、僕たちが力になれて嬉しいです。それになんとなくですが、なんだかまた会えるような気がします」

 ミノタウロスを討伐したパーティ一行は、同様に礼を行い、再び決戦の行われた岩山へと足を向けて行進を始めるのであった。岩山へと到着すると、先日と変わらず黒色の巨大な亡骸がそこに横たわっている。それを横目で見ながら、カケルは誰にとはなしにつぶやいた。

「こちらの異世界では、僕らがいた世界のように、黒い霧になって跡形もなく消滅しないんですね」

「あぁ、ひょっとしたら奴らは元々こちらの世界の住人で、僕らの現世へ強制的に召喚させれらていたのかもしれないな…」

 確実なことは言えないが、可能性の高い答えをアキラは推測する。相変わらず岩の扉は閉ざされたままだが、その隣に据え付けられた小さな暗黒結石ダークストーンに、セレナは虹色の指輪を付けた手の甲側をスッとかざす。

「わたし達はこの先に進みたいの。ここを開けて!」

 闇のオーラに包まれたセレナから、瞬時に虹色の指輪を通し、その波動がはめられた暗黒結石ダークストーンに照射される。すると、今までピクリともしなかった岩の重い扉が、両側にズズズと引きずるように開いた。その中は明かりもなく、陽の光が届く先はただぽっかりと、暗い大きな穴が口を開けている。そこでアキラが先に入ろうとするところをアギトが制する。

「ちょっと待った、俺が先に行く。レプリカの斧が壊されちまったからな、だから俺はタンクをやる。カケル、その中型盾ミディアムシールドをくれ。なにが出てくるかわからねぇからな。お前は後衛から弓で援護してくれ」

「おい、まだ万全じゃ…」

 アギトに制止されたが、納得がいかずアキラは反論する。だがアギトの意志は堅く、まったく譲る気はないようだ。

「いいや、この仕事は俺以外にはできない。そうだろ?」

「わかったわかった。お前がそう言いだしたら、聞かないのは良く知ってるからな。だが、無理だけはするなよ」

 後ろにいたカケルから盾を受け取り、それをアギトに手渡しながらアキラは忠告した。そしてセレナの光属性の明かりで周囲を照らし、一行は未知の洞窟へと足を踏み入れて行くのだった。
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