伯爵令息は愛を叫びたい〜だが諸事情があって叫べません。なのでこっそり思い出作りを始めます〜

新川はじめ

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なすり合い

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「誰か来て!!」

 地下から上がってきたシャーロットは大声で叫んだ。

「地下にドラゴンがいるの! 早く退治して!」

 近くにいた騎士たちの中には、先程の超音波で倒れてしまった者もいる。なんとか持ち堪えた残りの者たちがいっせいに地下へ下りていった。

「お嬢様は安全な所へ避難してください」

 騎士の呼びかけを無視して、シャーロットは地下階段入口の向かい側――子爵令息カルロが待つ部屋の鍵を開けて中に飛び込んだ。

「カルロ!!」
 カルロはドラゴンの超音波に耐えられなかったようだ。扉のすぐそばで倒れている。

「カルロ! 目を開けて!」
「…………シャーロット……様」
「良かった……」

 カルロを抱きしめるその後ろで、冷たい声がした。

「シャーロット……あなたこんな日にまでこの男を連れ込んでいたの? 私と一緒に来なさい!!」
「お母様!! 嫌っ!! カルロ!!」

 シャーロットは公爵夫人に強く腕を引っ張られ、夜会会場である大広間へと戻っていった。

 一方デリクは、地下に下りてきた騎士の手を借りず、意識のないリリアを背負ってかろうじて石段を登りきった。ドラゴンから受けた傷は酷く、もうこれ以上は進めないと廊下の隅にリリアと身を寄せ合うように倒れ込んだ。

「――デリク様!!」
「……」
(この声は……)
 重たい瞼を薄く開けると、ウィルバートが必死にデリクの名前を呼んでいる。

「いったい何があったんですか……凄いケガじゃないですか!」
「……俺は大丈夫。ウィルバート、お前なら信用できる。リリアが毒に侵されてるんだ。医者の所まで連れていってくれ、頼む」

「ブレイン嬢が毒に!? はいっ、僕に任せてください!! 大広間に常駐医がいますからすぐに治療してもらいましょう! あの、ミシェル嬢とご両親は皆無事です」
「そうか、良かった」

 ウィルバートは弱々しく下がった眉をキリリと上げてリリアを抱きかかえた。デリクはふぅと息を吐くと、「誰か手を貸してくれ」とようやく騎士を呼んだ。



 ◇◇◇

 シャーロット、公爵夫人、そして侍女のメイベルの三人が夜会会場に戻ってくると、人混みを掻き分けて走ってきたクドカロフ公爵がシャーロットを抱きしめた。

「どこに行ってたんだシャーロット。お前の姿が見えなくて本当に心配した。頬が腫れてる、大丈夫か?」

 涙を溜めている父親を見て、母親に叩かれたとは言えず、シャーロットは小さな声で「ごめんなさい」とだけ言った。

「それにしても、なぜ公爵邸の地下にドラゴンがいるんだ……」
「それはお父様――」

 公爵夫人はシャーロットが余計な事を話すのではないかと目を見開いた。しかも、そのタイミングでリリアを抱きかかえたウィルバートが夜会会場へと戻ってきたのである。それを目にした公爵夫人は咄嗟に話を遮った。

「あなた! それは、あの娘のせいですわ!」

 公爵夫人は大声を上げてリリアを指差した。会場に響いた声に皆が引き寄せられる。その視線は公爵夫人から指先へと流れ、リリアを抱えるウィルバートの元にいっせいに集まった。

「えっ……?」

 固まるウィルバート。その後ろから騎士の肩を借りて歩いてきたデリクも、異様な雰囲気に足を止めた。

「ケイト、あの娘のせいとはどういうことだ。彼女はシャーロットの護衛ではないのか?」

「全部、あのリリア・ブレインのせいです! あの娘はデリクのことが好きなんです。だからドラゴンを召喚してシャーロットを殺そうとしたんですわ。でもデリクはシャーロットを愛しているから身を挺してあの娘から守ってくれたんです。デリク、あなたの勇気に感謝するわ。ありがとう」

(…………は?)

 公爵夫人の話があまりにも異次元すぎて、デリクは言葉を失った。

「クドカロフ夫人、先ほどの超音波で記憶が混乱しているのではないですか? リリアは毒――」
「騎士たちは何をしてるの!? 早くこの娘を牢屋に入れて!」

 余計な事を言われては困る。公爵夫人はデリクの言葉をかき消すように騎士たちに命令した。しかし、招待客の中に黙っていない者がいた。ミシェルだ。ウィルバートの前に飛び出して両手を広げた。

「リリア様はそんなことしません! 夜会の途中、シャーロット様はリリア様と二人で会場を抜けて一人で戻ってこられました。そのあとすぐに兄を連れて再び会場を抜け出したんです。兄たちが二人で夜会を抜け出すなんて初めてでしたし、護衛のリリア様がいらっしゃらないからおかしいと思って私たち跡をつけたんです。そしたら突然消えてしまって……」

「お黙りなさい!!」

 落雷のような公爵夫人の怒鳴り声にミシェルは肩をすぼめた。間を空けず公爵夫人とデリクが同時に口を動かす。

「全部リリア・ブレインの起こした――」
「違……う……これはシャーロ……」


「違います!! これはあの女の仕業です!!」

 シャーロットの冷たく澄んだ声が、その場の空気を変えた。先程自身の母親がしたように真っすぐ腕を伸ばして指を差す。その指先にいたのは母親――公爵夫人ケイト・クドカロフだった。
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