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第13話 ギルド案件
しおりを挟むアスティオンの特性を使わないなんて一度も考えたことがなかった。
俺にとってアスティオンの特性を使うことはごく当たり前のことで、女性店主が言ったことを疑った。
そもそも、魔力を必要としない剣の特性を使わずに済む話なんて聞いたこともない。
「その様子じゃあずっとその子の特性に頼って来たみたいね。そんなことじゃあ後が大変になるよ」
「だったら聞かせてもらおうか、話の続きを」
「相変わらずの物言いね」
俺の言い方が未だに気になるらしい。確かに彼女は情報屋であって金貨を渡すことによる等価交換は既に終わっている。
俺はいつもと同じような感じで話しているつもりなのだが、いかんせん、丁寧に話す癖がない。
彼女がこれから言う情報が本当なら、やはり信頼関係が大切になってくるな。
「……話を頼む」
意識的にそう言うと、彼女は微笑した後さらに椅子を引いた。
距離が一段と近くなると、本当に何故、身の危険があるかもしれない情報屋をやっているのか不思議に思う。
アリス王女には及ばないが、これほどの美女はそういないだろう。
だが、それも情報屋としての戦略なのかもしれない。少なくとも男であれば、美女から情報を買いたいものだ。
透き通った肌とさらさらとした美しい黒髪、大人びた雰囲気と色気を漂わせる。
格好こそその雰囲気に似つかわしくないラフな感じだが、着こなすのが様になっている。
黒のパンツにグレーのパーカー、それに情報屋のトレードマークiの入ったキャップを被る。
「宝剣を神の武器にするには、何より持ち手との絆が必要。あなたはその子を使いこなしているみたいだけど、まだ、その子は本来の力を発揮してはいない」
「ということは、この剣の本来の力を解放すれば魔王討伐もわけはないってことか?」
「それとこれとは話が別よ。確かに、本来の力を取り戻した宝剣は魔王と戦えるだけの力を持つことになるかもしれない。だけど、勝てるかどうかはその勇者の腕次第ってことになる」
「正論だな」
彼女の言う通り、たとえアスティオンの力が解放されたとしても、俺の力が追いついていない。
解放されたアステイオンの力がどれほどのものかわからないが、魔王と戦えるというくらいだ。少なくとも、俺にはレベル100以上の魔物を討伐出来るランクが必要。
それに、俺の目的は魔王の城に眠る秘宝を盗むこと。
だから、本心を言えばたとえ魔王と相見えなくても、秘宝を盗み出すまでに現れるであろう魔人や魔物と戦えるだけの力があればいい。
俺は俺に与えられた魔王の城に眠る秘宝を盗み出すという任務を遂行する。魔王討伐は悪いが今は視野に入れない。
勿論、可能であればそうしたいところだが、未知数の力を持つ魔王だ。たとえ力が解放された宝剣を持っているとしても、勝てるとつけあがるほど俺は自惚れちゃいない。
「その子の力を解放したいなら、とにかく特性に頼らず魔物と戦うこと」
「やり方はわかった。だが、特性を使わない方法なんて知らない」
「悪いけど、それは私にも分からないわ。それにその子を理解しているのは、やっぱり使用者であるあなただけだから」
あなただけ、か。
だが、まさか俺の持つ剣が伝説にも伝わる神の武器の一つだったとは思ってもみないことだった。
元々、俺の家系から代々受け継がれて来たもので、使われるのは初めてだそうだ。
「なるほどな」
特性を使わずに魔物と戦う、考えたこともなかった。これはかなり面倒なことになりそうだ。
何故なら、俺の戦闘スタイルはアスティオンの特性を活かした高攻撃力による短時間討伐。
何頭かの魔物はそうはいかなかったが、多くの魔物は数十分以内にけりいつもついていた。
しかし、これからはそうはいかない。
「私が話せることはこれくらいよ」
「そうか、色々と世話になった」
彼女は席から立ち上がり、ポケットの中から一枚のカードを取り出す。
「何か用があるなら、そこに書いてある場所まで来て。それじゃあね」
彼女は手を振り、そそくさと席を離れていった。
「アンナ、か」
もらったカードには彼女が言った場所と名前が書いてあった。
アンナ=レベリア。それが彼女の名。
そして俺も席を立ち、一階フロアに降りた。
そこで、ふと目に入って来た受付カウンター横にある掲示板を見る。
金貨10枚程度の魔物討伐依頼は掲示板に張り巡らされており、中には金貨30枚なんてものもある。
こうなると俺の勇者ランクでは到底足りない。
「魔物の討伐かしら?」
そう言って話しかけて来たのは受付カウンターの女性。
「ああ、そんなところだ」
「黒の紙は持ってる?」
黒の紙はアスティオンと同じように肌身離さず持っている。
この前、シーラ王国に捕らえられて没収された時はひやりとしたが、アリス王女から直接返してもらった。晩餐の時だ。
俺は懐から黒の紙を取り出して受付カウンターの女性に渡す。
女性は受け取った黒の紙を∞の紋章が彫られた盤の上に置く。すると、盤より少し浮いた空間に透き通った青白いホログラムが表示される。
「勇者ランク5ね。今日はどんな目的で来たのかしら?」
「いや、今日の用事はもう済んでいるんだが、強いて言うなら数が多い魔物を討伐したい」
宝剣アスティオンを神の武器にするには、ひたすら魔物をしないといけないらしい。
本当は勇者ランクを上げる為にギルドを利用するつもりだったのだが、大差はないだろう。
違うのは、アスティオンの特性を使わずに魔物を討伐しなければいけないということ。
「数が多いって言うなら、ドロウスバットの討伐かしら。ほら、左上の方にあるでしょう?」
掲示板の左上を見ると、勇者ランク4以上で承認と記載された依頼書がある。
【ドロウスバットの討伐】
『ドロウスバット20匹以上の討伐が確認された後、指定の金貨をお支払い致します。求める勇者ランクは4以上とします』
ドロウスバットは微量の毒性を持つ魔物。単体での行動は行なわず、集団での狩りを行う。
俺も旅路の洞窟の中で遭遇したことがあるが、さほど強い魔物ではない。だが、集団となると少々面倒な相手になる。
「どうされますか? 今夜でしたらちょうどいい案件だとは思いますよ?」
ドロウスバットは夜行性の魔物。日中は薄暗い洞窟や森の深部に潜んでいる。
今は既に日も暮れており、ドロウスバットの活動時間帯。
俺は少し考えた後、受付カウンターの前に行く。
「引き受けよう、その依頼」
ステータスの上昇にさほど影響はしないが、今回はアスティオンの特性について深く見極める為に試験的に引き受けた。
「かしこまりました。それでは、こちらで承認致しますね」
受付の女性は入力ボードを弾く。これは、俺が渡した黒の紙と依頼内容を連動させる為。
そうすることで、依頼以外で討伐した魔物と区別が出来る。区別する理由は、単純に報酬単価に影響するからだ。
そうしなければ、依頼以外で討伐した魔物を依頼された魔物の討伐と出来てしまう。
黒の紙は非常に優れた技術の賜物だが、欠点を挙げるとすれば、討伐された魔物が依頼された魔物かそれ以外の魔物かの区別がつかない。
その為、ギルドに討伐依頼が来る魔物には特徴が書かれている。
同じ魔物は姿形こそ変わらないが、人々に被害を及ぼした魔物はその個体ということになる。
勿論、複数体になる場合もある。そう言った場合、個々の魔物が確認されることは少ない。
4体5体はまだしも、今回のような20匹以上となって来ると、指定の討伐数が確認されれば報酬が支払われる。
入力が終わった後、受付の女性は黒の紙を俺に返す。
「期限は明日の明朝までです。頑張って下さいね。それから、これを」
そう言って渡されたのは毒消し草。
「依頼主からの支給です」
ドロウスバットは微量の毒を持つが、いくら少量でも積み重なれば危ない。
「助かる」
毒消し草は一応シーラ王国セイクリッドで買ってはいたが、多いに越したことはない。
俺は貰った毒消し草をリュックにしまった。
「くれぐれも、 ご無理はなされないように。勇者様のご健闘を祈ります」
巨大ギルド、リベルタを後にして街灯が指す街中を歩く。
ブルッフラは夜になると落ち着きを見せており、人通りは少なくなる。
それは情報を売る街として様々な人々がやって来る為に、監視の目が厳しくなるという理由もある。
不当な情報、物々取り引きの監視が主だが、一部の人々は夜になると活動を始めるからだ。
夜中に営業を行う店ならまだしも、そういった人々は夜にドーパミンが放出し始めて騒ぎ始める。
夜は一部騒ぎ始める者達にとってはパラダイスと化す。ブルッフラの街中に居住する人々にとっては迷惑この上ない話だ。
監視の目は、そういった連中をも厳しく見ている。
そんな街中を歩きながら、たまたま目に入って来た店で夜の食事を軽く済ませて、ドロウスバットの討伐の為にブルッフラを出た。
◇
「20匹か。まあ、楽勝だな」
ドロウスバット、20匹の討伐。勇者ランクを上げる為の魔物討伐数稼ぎにはちょうどいい。
だが、本来のアスティオンの力を解放する為にも、今後は特性を使わずに倒さなければいけない。
しかし、一体どうすればアスティオンの特性を使わないようにするのかが不明。
魔王の城へ辿り着くまでに俺はレベル100以上の魔物と戦えるだけの力が必要。
その為にも、アスティオンの特性のコントロール、そして力の解放とランク上げ。
それらが、俺のこれからの課題だ。
ブルッフラを出ると一層フィールドは暗くなる。そんなフィールドの中、俺は月の明かりを頼りにドロウスバットのいそうな方角へと向かった。
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