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第50話 盗人逃走劇
しおりを挟む街行く人々が何事かと見てくる。何があった? と話しかけてくる人もいて、兄妹喧嘩した挙句、疲れて眠ってしまってそれを待っているなどと誤魔化している。
まあ、寝ているようには見えないのだが。
ルイとルリカは背をもたれかけ合うようにして俯いている。
起きたら起きたで面倒ではあるが、きっちりと人のものを盗んだことを謝罪させねばなるまい。
一体、いつ盗んだのかは不明だが……そのあたりは手慣れているのだろう。
ルイの着ているくたびれた服も、ややサイズが大きいように感じる。それも、盗んだものなのだろうか。
まあ、たんにファッションというだけもある。
すると少女の方、ルリカが目を覚ました。
ルリカは『金縛り』の能力者だとルイが言っていた。
もしもその能力が触れなくても発動するのなら厄介だ。
距離をとって、待つ。
「あっ!?」
気付き、辺りを見回す。
そして背にもたれかかっていたルイに気付いて起こそうとする。
しかし、起きないルイ。体を揺さぶり、必死に起こそうとしている。
「ううっ」
起きて直ぐに首後ろを押さえる。ちょうど、俺が手刀を打ったあたり。
2人は俺に気付き、睨むように見てくる。
「お目覚めのところ早速聞きたいことがある。俺の剣を盗んだのはお前たちだな」
「お、おぉう、だったら何だってんだ! 盗まれたくなかったらしっかり持ってやがれ!」
こいつ、開き直りやがった。
「そうよ! そんな大事なものだったら盗まれる場所にぶら下げてんじゃないわよ!」
俺の宝剣を盗んだ挙句、言ってくれるな。
ルイとルリカは後退りして行く。
そしてピタリと止まった瞬間、互いに目を見合わせ走り出した。
俺は逃げるルイに集中する。
「なっ!? 何なんだよお前! ルリカ!」
スキル、回り抜けによってルイの背後に瞬時に移動して地面に押し伏せる。
ルイがルリカの名前を呼ぶと、ルリカの手が俺に向かう。
その手を軽く躱して両手首を強く払う。同じ手は何度も喰らわない。
ルリカは手を抑えて痛そうにしている。
「のけっ! のきやがれっ! このクソ勇者!」
クソ勇者とは酷い言われようだ。
無論、俺はそんなこと思ってはいないし、そんな挑発とも呼べない言葉にやすやす反応なんてしない。
ルイは腰元に手を伸ばすが、あれっ? あれっ? と言う。
俺が右手に持っている短剣を見せてやると、またクソ勇者! などと暴言を吐く。
そして、ずっとルイの上に覆い被さっているのに、何もしてこないルリカ。
そんなにも強く叩いたつもりはなかったのだが?
「ルイ、もうやめよう」
「……ルリカ? やめるって何を?」
俺は歩いてくるルリカを警戒した。
おそらくだが、ルリカの能力『金縛り』は能力者の手を触れない限り問題はない。
そう解釈したのは、目覚めた能力者の多くが自身の手を能力の発動源としているからだ。
少なくとも、俺の知る限りではその能力者の割合が圧倒的に多い。
「こんなこと続けてても、無駄だって言ってるの! 私たちがこの街に来て3年、何回危険な目に遭ってるの!?」
「……だったら俺1人でもやる! どけ!」
意外にも強かった力で俺は退かされた。
「ルイ!」
そうルリカは呼び止めるが、走るルイは暗くなって来ているバタリアへと消えて行った。
その方角は無法地帯でこそ無かったものの、バタリアには安全と呼べる場所はあまりない。
「そこをどいて!」
俺も何をやっているんだか。
ルイを追おうとするルリカの目の前に立ち塞がった。
ルリカは両手を握り締め……ばっと開いた。
なるほど、強力なエネルギー波を感じる。触れたら、最初の時のような金縛りでは済まないかもしれない。
ルリカは怒るとも悲しいとも言えないような表情をしていたが、両手全体に纏うエネルギーと共に無くなっていく。
「あの子は俺が連れ戻してやる」
「な、何故あなたがそんなこと!?」
「勘違いするな、俺はただお前ら2人に謝らせたいだけ。感謝しろよ。人様のものを盗むなんて、俺じゃなかったらどんな目に遭うか」
最も、宝剣を持っているのにも関わらず、幼気な少年少女たった2人に盗まれた俺も俺。
まあ一つ関心するのは、俺も気づかない間いつ盗んだのかということ。
そのことを聞きたいこともあって、ルイを連れ戻すとルリカに言った。
「……ごめんなさい。私、なんてことを。あなたのものを勝手に大会の人に……ルイの分も謝るわ」
ルリカはしっかりしている。もちろん、俺の宝剣を盗んだ上、大会の人間に渡したのは悪いが、そのことをちゃんと悪いことだと思っているだけマシだ。
「なんだ謝れるじゃないか。ーーだが、謝罪っていうのは本人が口にして初めて意味を持つ」
「分かってるわよ! だけど! その本人がいないからこうやって謝ってるんでしょう!?」
ルリカもルイを追いたくて仕方がないのだろう。
だが、それを許してしまえばこの2人はずっと変わらないかもしれない。
人の物を盗んで、最悪待っているのは死。今までは単に運が良かっただけで、それが永遠ずっと続くはずがない。
「俺はあいつに謝らせる」
親切心ではない。人の物を盗んではいけない、そう叱ってやるのだ。
「だったらそうすればいい! じゃ、私はもういいよね!?」
行こうとするルリカ。
「待て、まだ行っていいとは言ってない」
「まだ何かあるの!?」
人の物を盗んで謝ってはいさよなら、そんな都合のいい話はない。
口では謝らせたいなどと言ったが、この2人は放っておけない。
その後、通信水晶体を取りだしてメアに事情を説明した。
◇
「来たよ!」
「早かったな。あの獣人の子は大丈夫なのか?」
「ええ、ぐっすりお休みよ」
通信水晶体でメアが話していた内容では、宿屋に着くなり直ぐに目を覚ましたそうだ。
そして怯えるように毛布に包まり、メアを警戒していたようだ。
ただ、どうやら言葉が通じるようで、メアが敵ではないことを説明すると緊張の糸が切れたように毛布に包まったまま眠ってしまったようだった。
メアもその様子じゃあ何処にも行かないだろうと判断してこの場所までやって来た。
「それで、次はその子を宿屋へ連れて行けって?」
メアのその言葉を聞いたルリカは、腕を組んだまま俺を見る。
「聞きたいことがあるんでな、頼む」
「い、嫌よっ! なんであんたらなんかに!」
両手を向けるルリカ。
「聞いたわよ。あなた、この街の人じゃないって」
「え……なんでそれを」
また、俺を見るルリカ。
「頼む、メア」
メアは両手を向けてくるルリカに、自身の能力である氷で固まらせる。
「何!?」
「安心して。氷ではあるけれど、具現化した無温の氷よ」
ナイスだ、メア。そんな技も使えるのか。
メアはルリカを連れて行った。
さて、俺は放浪者ルイを探すとしよう。
謝らせて、何故、バタリアに居るのかを聞くために。
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