百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第83話 ヘリオスの村の柱

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ヘリオスの村の住人も絶えず攻撃をしてはいるのだが、魔物の数は一向に減らない。
使徒の矢とは名ばかりなのか、それとも魔物のレベルが高すぎるのか。

魔力1を消費して観察眼を発動させた。

「なんだこのレベルの高さ……」

「ほんとね、こんなに集まるなんてそうそうないことだわ」

確認出来るだけでもレベル80代がおよそ10から20体。その他は70代が大半で60代のレベルの魔物は数体ほど。
異常な光景だ。

魔防壁が絶え間なく大きく波を打つ。

「ムムム……あの高さじゃ、セシルの攻撃届かない!」

地上にいる俺たちと魔物との距離はざっと見積もっても20メートル以上ある。
だが、攻撃以前にあの大群の中に突っ込むのは危険過ぎる。
攻撃したいセシルの気持ちも分かるが、接近戦は危険。

俺は撃技+3、さらに速技+3を解放した斬撃波を放った。

なんだ!? と村の住人が言い飛んで行く斬撃波を見上げる。

斬撃波は魔防壁をすり抜け複数体の魔物に直撃した。

「うわっあ!? 落ちて来た!」

村の住人たちが落ちて来たそれを避ける。

「こりゃあすげぇ……。俺たち、使徒の矢より強力だ」

村の住人が驚いたような表情で俺の方を見る。

そして俺の放った斬撃波に当てられて落ちて来たものは、魔物の腕だった。
鬼の手と言われても何ら不思議ではないほどにゴツく、そして赤々しく、鋭い爪。
斬撃波に当てられたであろう箇所からどろりとした液体が流れ出ている。

すると1人の青年が落ちている魔物の腕の方へ近づいていき、自らの手をかざした瞬間、腕は消滅した。

「これはこれは、若き勇者のお方。とても見事な斬撃波でした。我らヘリオスの村への助太刀、感謝します……と言いたいところですが、これは我らヘリオスの村の問題。正義感で動いても、この村の為にはなりません」

他の住人達とは違う服装ーー僧侶のような格好に首元に大きな数珠。
青年は落ち着いた口調で話す。

「正義感なんて、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないだろ。あの魔物の群れが見えないのか?」

「やめなさい勇者の人! 彼はこのヘリオスの村の柱、エデン様だ!」

俺にそう言って来た男性は青年より大きく歳が離れているようだが、様なんて付けるあたり、ヘリオスの村では力関係がはっきりしているのだろう。

「よしてくれパブロ。様だなんて仰々しいじゃないか」

「滅相もありません! あなたはヘリオスの村の柱! あなた達、柱がおられてこそヘリオスの村は村で在り続けられる!」

どうも、力関係というより位の高い人物というだけのようだ。

「だったらそういうことにしておこう。ヘリオスの村は過去、一度アイツらの手によって滅んだんだ。僕に出来ることは今在るヘリオスの村の存続ーーそして魔物の殲滅!」

両手の親指と人差し指を合わせた時、一直線に光が放出され次々と魔物を貫通していく。
貫かれた魔物たちは空中で静止することも出来ず、魔防壁を突き抜けてヘリオスの村へ落下していく。
どうやら、死んだ魔物は魔防壁をすり抜けるようだ。

「来た! 私達の守護神! スサーナ様よ!」

女性は村の高台にいるその者を指差して言う。
魔物の群れがヘリオスの村に来たからだろうか、村全体が明るくなっているようだ。
それでも、遠くにいるその者は僧侶だろう姿しか確認出来ない。

そして村に落下していくそれぞれの魔物の真下付近に十字の光がいくつも浮かび上がり、
魔物がその十字の光に触れた瞬間瞬く間に消滅した。

「ふっーーよし、皆はそのまま使徒の矢を撃ち続けてくれ。今夜の魔物は数が多いがヘリオスの村の敵ではない!」

おおおお! と青年エデンに合わせるように士気をあげる住人たち。
確かにこの様子じゃあ俺たちの出番はなさそうだ。

「君らは明日の朝までこの村にいる予定だったのでしょう? まあ賢明な判断だったかもしれませんね。村に居れば、魔物の手から身を守れますから」

そう言い残し、青年エデンは行ってしまった。

「何あいつえっらそうに! 柱が何よ! そんなに偉いわけ!?」

「落ち着けメア。この様子じゃあ俺たちに出番はなさそうだ」

「セシル、戦いたかった~」

「そう言うなセシル。今日は明日に備えて休息しよう」

結局、防戦と思われた戦いは柱と呼ばれる者たちと、そしてヘリオスの住人たちによってみるみる魔物の数は減っていった。
俺たち3人はそんな様子を見ていただけだった。



「凄かったわね、村の人達」

「国の連中が勧誘したくなるわけだ」

ヘリオスの村の柱の人間ーーエデンが俺たちの前に現れた後、魔物の群れは一方的に減っていった。
エデンにしても遠くの方に見えたスエーナと呼ばれた者にしても、他にも柱と呼ばれる者は戦いの中にいたのかも知れない。
様々な箇所から際立って目立つ光の攻撃がされていたこともあり、ヘリオスの村に押し寄せた魔物にとってはたまったものではなかっただろう。

そして魔物の群れのさらに上空にいた二体の魔物。魔物たちのリーダー的存在だったのだろうか、俺たちが見ていた間は一度も攻撃をしていなかった。

お山の大将的な魔物だったのだろうか。
二体もいて何もしない。ただ木偶の坊に見えていただけで何か攻撃をしていたのかもしれないが。

「さ、私達も寝よ」

セシルはクレアとシルビアの家に戻って来るなり、直ぐに眠ってしまった。
寝る子は育つ、良いことだ。
無駄な戦闘ではなかったかも知れないが、ヘリオスの村は俺たちを必要とはしなかった。
こう言えば自惚れに聞こえるかも知れないが、少なくとも手助けにはなるかと思っていた。

メアの氷魔法に剣技。
セシルの格闘体術。
そして、魔物特攻特性を今は持たない俺のアスティオンも技能を通せば強力な斬撃を繰り出せる。

もっとも、それらを繰り出せなかったのは正直なところ惜しい気もしている。
あれだけの魔物、そして高レベル。
討伐数、ステータスの上昇、そしてアスティオンを宝剣から神剣にする道へ一歩でも近づけただろう。

その日の夜、ヘリオスの村の住人と魔物との戦いの音は次第に小さくなっていき、そんな中俺たちは翌朝に備えて眠った。
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