百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第111話 魔物近寄れぬ湖

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草原は尚も続き、東から吹く風は時折冷たく感じる。
魔物の気配はあのスライム以降全くといっていいほど気配もない。

「結構あるわね」

「後1時間くらいはかかるだろうな」

ここで何か乗り物でもあったらさっさとエルピスの街に着くのだが……そう都合良くあるわけもない。

メアが深い溜息を漏らす。

進んで行く草原の左側を見れば、ラーナの群れが大地に音を鳴らし走っている。
あれほどの群れ、討伐すれば数は稼げるが、ラーナのレベルは決して低いとは言えない。
40台から50台がラーナのレベルだが、稀に60台もいる。
幸いにラーナの群れが俺たちに気付いている様子はない。

「そう言えばシン、その手に付けてる籠手……」

「大層な籠手らしいな」

50年以上も開かずの扉の奥に存在し、数多くの勇者たちがこぞって扉を開けようとしたと木こりの爺さんは言っていた。
それが本当だとすれば村を出る前爺さんが言っていたことーー過去に存在した魔王と戦った勇者が付けていた籠手だということもあながち嘘ではない。

見たところただの籠手なのだが、見た目より不思議と軽いのが唯一の疑問点。
俺のステータスを見ても特に上昇しているわけでもない。

「セシル、どうかしたのか?」

セシルがじっと籠手の方を見ていたからそう聞いた。

「ううん! 何でもないよ! 早く次の街に行こ!」

ウォールノーンにいた時、扉奥にあった石の前でセシルは急に意識不明になるほどの頭痛に襲われた。
そのことを考えると、何か知っているのかもしれない。

「何する気なの!?」

メアが叫んだ。
俺は前を行くセシルを見ながらアスティオンを腰元から抜いた。

それに気付いたセシルは振り返る。

「セシル、この剣を見て何か感じるか?」

アスティオンの腹を見せるように横にする。

するとセシルは何も言わずにアスティオンに近づいて来る。そして、そっとアスティオンに触れる。

「セシル……」

メアが切なそうな声をしてそう言った。

「強い剣……だけどまだ、まだまだ強くなる」

セシルが真っ直ぐに俺の目を見ている。

「そうか……安心した」

「安心したって何がよ?」

「言葉の通りだよ。行くぞ、メア、セシル」

「あっ! 待ってよ! だから安心したって何がなのよ!」

「セシル何してる? 行くぞ」

立ち止まるセシル。だが、俺がそう言うと笑みを浮かべながら走って来る。

「セシル、メアに負けないくらいうんと強くなるから! 魔王の城に眠る秘宝、絶対取ってやろうね!」

「セシル……分かったわ。セシルがそういうなら、とことんこの旅をやってやろうじゃない!」

やっぱりセシルは心強いな。メアにも本当に感謝している。

魔王の城に眠る秘宝を盗み出すーー俺がシーラ王国に捕まったあの日、アリス王女から言われたこと。
1人では重荷過ぎる任務を半強制的に命じられ、任務放棄の言葉が頭に思い浮かんでいたのも事実。
その時の俺の勇者ランクは5。そもそも、魔王の城に行くこと自体、無謀としか言えない状況だった。
ただ、宝剣を持っていたという事実は少なくとも俺の中で可能性を0にはしなかった。
もちろん宝剣アスティオンを持っているからと言って、何処にも魔王の城に眠る秘宝を盗める確証は今もない。
だが宝剣というものがこの世に存在する意味を考えれば、アリス王女から命じられた任務の成功率は0どころか30%くらいは上昇するだろう。
魔王の城に入れば高レベルの魔物や魔人と遭遇するのは間違いないだろう。

アリス王女は俺の持つスキルーー解錠が魔王の城に眠る秘宝を盗む最後の頼みの綱だと言っていた。
アリス王女が俺の持つ剣が宝剣だということを知っていたのかは不明だが、あくまでアリス王女が俺に命じたのは魔王の城に眠る秘宝を盗み出すこと。
そう思えば、俺の持つ剣が何であろうが関係なかったのかもしれない。
俺の持つスキル、解錠。それを持って魔王の城への侵入。

だから正直なところ、わざわざ宝剣アスティオンを神剣にする必要はない。
魔王の城へ行って其処にあるだろう秘宝を確認し解錠出来そうなら試し持ち帰る。
それが成功すれば任務通りアリス王女への報告と秘宝とやらを渡す。
だがもし無理ならそのことをアリス王女に伝えるだけ。
魔王の城に眠る秘宝を持ち帰れなかった時のことはその時に考えるしかない。


そうしてエルピスの街へ目指す手前、数体の魔物が俺たちの行く手を阻んだが難なく討伐した。

非常に突進力がある蛇の魔物、マナバイソンはセシルが打撃技を連続で決める。

地面を這うように移動していた3体のサンドリザードは俺たちに気づいた瞬間に襲いかかって来た。
だが正当防衛、いや、勇者として俺が斬る。

そして草原をぞろぞろと移動していた十数体ばかりのアシッドアント。
草原の草はアシッドアントの酸によって溶かされ、こいつらの通った道は分かりやすいほどに直線を描く。
牙をガチガチと鳴らし威嚇、畳み掛けるように襲って来るものだから当然討伐対象。単体ではそれほど強くない魔物でも、レベル50台が集まれば厄介なことには変わりなかった。
その点、メアの能力がとても有能だ。
広範囲に渡り草原を一気に凍らせ、動きが鈍くなったところで俺とセシルで掃討。
こういう風にしようと決めていなくても、その場の状況に合わせて成せるチームワークは旅の中で確実に向上していた。



「あれがエルピスの街……」

アシッドアントの群れを討伐ししばらく歩いて見えて来たのは、外側に8本立っている建造物が特徴的な街。そして街の中央から右側には黒柱がそびえ立つ。
セシルは初めて見たのだろう。その街の幻想的な様子に目を奪われたのだろうか、じっと見つめているようだ。

「俺も久しぶりに来た時は驚いたけどな」

エルピスの街ーー人々が安住の地を求めて築いた街。そしていつしか人々は癒しを求め、街の周りに巨大な湖を作り上げた。

「こんな街があったのね。……でも、あんなところに湖があったら魔物とかやって来ないの?」

「大丈夫だ。あの湖には魔物はやって来ない。入ったら死ぬからな」

エルピスの街を囲うようにしてある湖は液体化した魔石が混ざったーーいわば魔物にとっては猛毒の湖。
色は無色透明、人間に害はないように改良されている。本来なら魔物が魔石を摂取すれば一時的なパワーアップの可能性がある代物だが、その心配はない。
何せソフィア王国が作り出した対魔物水で、猛毒の湖に浸かればものの数分足らずで死に至る。
これほどの技術を持つソフィア王国は他の国々からの信頼も厚い。

魔物は地上にも空にも、そして水の中にも生息する。
だがエルピスの街には空からの侵入を阻止する魔防壁の存在、さらには二重の策も兼ね備えた対魔物水入りの湖、移住したい人々は後を絶えないそうだ。

エルピスの街と湖に架けられた橋を渡り進む。
湖には魚も藻もいっさいいなく、ただ無色透明の湖があるばかり。
水深も見たところおそらく10メートル近くあると思われる。
広さはエルピスの街を囲うようにしてある為、稀に見る巨大湖。

そうして頭上に登る太陽を浴びながら、エルピスの街へ向かい歩みを進めて行く。

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