百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第124話 動く者たち

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A級犯罪者ドララキスを逃してからエルピスの街を適当に歩いていた。
まだ日中、賑わいを見せる街中に犯罪者がいるなど到底思えない光景だ。

「こういう時、セシルがいたらな」

セシルの嗅覚は人間を遥かに超える。
セシルはチクチクした匂い、それが魔石粉の匂いだと言っていた。
魔石粉なんて使う奴の気がしれない。

「ちぇっ! たったこれっぽっで金貨7枚だって!? ……でも、これで俺も少しは役に立つかな」

小包を大事そうに抱えた少年は人目を気にしつつ、足早に歩いて来る。

小さな包み、それに対する7枚の金貨……想像に出る物は限られる。

「少しいいか?」

足早に行く少年の肩に触れ呼び止めた。

「何? 俺急いでんだけど」

直球で聞くのもいいが、少年は疑心な様子を見せる。
根を辿りたい。

「この街に闇商人がいるって噂を聞いたんだが、俺もそいつに用があってな。知ってたら場所を教えてくれないか?」

鎌をかけてみた。

「し、しし知らねえよ! そんな奴いるわけないだろバーカ!」

俺を罵倒して、少年は小包を抱え込んで行ってしまった。

「やっぱりいるのか……」

あからさまな演技だったが、それでも少年の反応から分かった。
闇商人がこのエルピスの街の何処かにいる。

俺が初めてエルピスの街に訪れたのは勇者ランク2の時。当時は犯罪者の話など全く聞かず、まさに平和な街そのものだった。

だが、今こうして長年の月日を経て来てみればどうだ。犯罪者、闇商人、魔石粉……謎の傭兵までいる。兵士たちに犯罪者と疑われているというラピスという女にしてもそうだ。
どうもややこしい状態になっている気がしてならない。
最もそれらが俺に何の関係もないと言われればそうだ。
ただ、犯罪者から得られるであろう情報次第では俺が動く理由になる。
時として情報はどんな武器にも勝るものだと言われているのはどの時代にも言えること。

闇商人が居そうな場所……そんなあてもない場所を探しながらエルピスの街の中を行く。





「怪しい奴か……」

俺は今、闇商人を探しているわけだが、そうなるとどいつもこいつ怪しい奴に見えてくる。
まあ、闇商人もあからさまに目立つ格好なんてしていないだろうから、必然的に視界に見える人々を確認する。

そしてふと、視界に入って来た存在。

巨大門。
およそ20メートル強の高さで、ソフィア王国が開発した代物。
当初、巨大門が出来た頃はよく稼働していたようだが、もう6年も前から使われていないと新聞でみた。どうやら見た感じも相当年数が経っているだけのこともあって、古びれた感じが出ている。

「シン!」

巨大門を眺めていると俺の名を呼ぶ声があった。

「戻ったか」

セシル、そしてやや後方にメア。
メアはまだ浮かない表情をしている。

「私のこと……聞いたの?」

「ああ」

そう返事をしたらメアが深いため息と共に俺の方へと歩いて来る。

「それで、どう思ったの?」

「どうって言われてもな……」

メアは何故そんなことを俺に聞いたのだろうか。どうと聞かれても、人間様々、いろんな過去くらいある。
俺がメアの過去を知ったところで可哀想だとか大変だっただとか思ったところで、既に起きてしまった変えられない過去話の感想なんて言ってどうする。

「ごめん、変なこと聞いちゃったわね」

メアが俺に背を向けた。

「シン違うよ!? メアはただ自分の過去のことが知られて、足手まといになりたくなかっただけ! んん!?」

メアがセシルの口を両手で素早く押さえた。

なるほどな。確かに俺がメアの過去を気にする可能性もゼロではない。

「メア」

俺がメアの名を口にするとセシルがさっと横へ退いた。

「はい」

メアはそう二つ返事をしただけで、俺が何を言うか待っている様子。
そんな畏まらなくてもいいのにな。

「メアはメアだ。この先の旅も宜しくな」

そう、言葉短くメアに伝えた。

「……私こそ、これからも宜しく」

間が少しあった後、メアが手を差し出した。

互いに握手を交わし、俺は改めてメアの過去が知れて良かったと思う。

巨大門が俺の左側視界にある中で勇者2人が握手を交わし、獣人1人の手もそこにそっと加わった。

「なんだか、改めると照れくさいわね」

メアが辺りをキョロキョロとする。

「気にするな、誰も見ちゃいない」

人間、街中を歩きながらその他の人間が視界に入るだろうが、対して気にしていないというのがほとんどだろう。

「シンー! セシルこの街に来てからずーっとあの門が気になるの! どうやって仲間の元にいけるの!?」

セシルの力は強かった。
巨大門のある方へと腕を引っ張られた。

「セシル言っただろ? あれは国の兵士たちがこの街に来る為のものだって」

一応、セシルと巨大門についての話をしていた時に正して言ったつもりだったが……セシルは仲間の元に帰れるものだと思っているらしい。

「だけどシン言った! セシルの仲間のところに繋ぐ扉だって! ウソだったの!?」

セシルの理解力を見誤った。
セシルは必死になって俺を見る様子。いや、見誤ったのではない。
セシルはそれほどまでに仲間の元に帰りたい気持ちが強いということだろう。

「……すまない、セシル。ああ言ったのは例えの話で……」

「メアー!」

メアの懐に行ってしまうセシル。

「お~よしよし。シン、どうするつもりよ?」

うっうっと聞こえる声。
まさか泣いているのか?

「セシル、俺の話を聞いてくれ」

そう言ったら、初めてセシルが俺に対して不機嫌な表情を見せた。
今まで一緒に旅をして来て共に魔物と戦ったこともあった。
セシルの身体能力の高さを知って驚くこともあった。
ウォールノーンでは開かずの扉の奥の出来事ーーセシルには辛い思いをさせた。
まだ子供だ、そう理解はしていても大人として接する場面も多々あった。

だが、改めて分かった。セシルはまだ子供。バタリアの地下で捕らえられている仲間の獣人たちのことで深く悲しみ、何処かにいるであろう同じ獣人の仲間に会いたいと願い言う。

「セシルの仲間の元へは俺が責任を持って送り届ける。いつになるか分からないが、それまで待っていてくれないか?」

「いつっていつ? セシル、今すぐにでも仲間に会いたい!」

それほどもう仲間に会うのを我慢出来ないのだろう。

「セシル、シンも言ったでしょ? それにシンだけじゃない、私もセシルが仲間の元に帰れるようにもちろん協力する。だから、嘘つきのシンを許してあげて」

メア……俺は例えで言ったわけで嘘をついたわけではないんだが。
まあそんなのセシルからしてみればただの言い訳にしか聞こえないか。

「……わかった。セシル、シンを許すの」

セシルは拳を作り俺の腹に当てた。

「ありがとう」

セシルがにこりと笑顔を見せたところで、とりあえず一件落着といったところ。
俺の言葉足らず、例えが悪かったな。

「じゃあ、じゃあ! 兵士さんたちが来るところ見てみたい!」

「セシル、それはわがままって言うのよ。何でもかんでも思い通りになるなんてことはないってこと。分かった?」

メアが居て良かったとつくづく思う。
同じ女性同士というのもあるが、セシルと一緒にいる時間はメアの方が明らかに長い。そう考えると、同じ言葉を言ったとしても伝わる伝わらないの差は多少なりとも生じるだろう。

「わかった!」

一瞬にして解決した。

俺もセシルとの約束を守らないとな。

その時だった。
知った顔が俺たちの元へ走って来る。

「いたいた! メアさん! やっぱり貴方はお美しい!」

走って来るなり片膝をつけながらスライディング。メアの前で止まって右手を差し出す。

「エル、馬鹿やってないで何か言いに来たんだろ?」

「そうそう、フィラがウェストランドに来いって」

地面についた汚れをはたいてエルは立つ。

「フィラが?」

「行ってみましょう。フィラさんだもの、何かきっといい話を聞かせてくれるわ」

「あのお姉さん~、セシル苦手」

香水の匂いがそれほどキツかったのだろう。
セシルはフィラがいないのに俺の後ろに隠れる。

「大丈夫だ、フィラは別にセシルに何もしない」

「ほんとにい?」

「ほんとだ」

獣人は元々、人間と暮らすような種族ではない。人間たちが送る文化はおろか、今、世界がどうなっているかという情報すら把握していないだろう。
セシルは俺とメアの旅に同行しているからその道中で得た情報なら分かるだろうが、人間たちの文化や世界の現状などは正直掴めていないと思われる。

ただ旅の最中で出会う人々に対しては、俺が知っている者であれば確かなことは伝えられる。

その後、俺たちはフィラのいるウェストランドへ向かった。
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