百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第143話 魔竜の生態文献

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七星村に戻った俺たちはコンセットの息子であるルイと話し合った。
若干12歳の少年にとって、母親と別に暮らすことを選んだのは何もたんなるわがままなどではなかった。
七星村を守り抜きたい、その強い想いただ一つを持って七星村に残ったというのだ。
それは、自分を魔物の手から命がけで助けてくれたローレンへの恩返しだと、ルイは切実な様子で俺たちに話していた。

その後、ローレンがもう一度お礼がしたいということになり、俺たちは再びローレン宅に招かれた。

「君たちのおかげで七星村は守られた。この村の村長として深く感謝している」

「ごほおっ、ごほおっ……ローレン、七星村の村長はまだ儂じゃと言うとろう。改めて……あなた方のおかげで、無事、村は護られました。このご恩、後世に渡り話し伝えられるでしょう」

「そんな大袈裟だな」

「いいえ何をご謙遜を。よいですか? 七星村とは過去、偉大なる太陽神の御身心を儂らの先祖がお聴きになった。あの、ヘリオスの村の守り神という太陽神。だれ分け隔てることなく、儂らの七星村を御造りになった。つまり、あなた方はまさしく真なる勇者なのじゃ!」

セシルが自身の頭を揺らす。

「な、なるほどな」

「いんや! お主は分かっておらん! いいか? ……ごほおっ、ごほおっ……。シンさん、メアさん、セシルさん。あなた方の名は儂ら七星村に住む者たちの心の中に深く刻まれるんじゃ。この意味分からぬなら、しかと考えよ」

「あ、ああ分かったよ。ローレン、俺たちはもう行く」

サーガ村長がたまにする咳。そのたびにどうも苦しそうに見えてならない。何か、褒められているようなことはサーガ村長の言い方で何となく分かったが、これ以上長居していると、俺たちの旅も進まない。

「君たちには本当に感謝している。この先の旅の健闘を心から祈っている」

ローレンのその言葉を最後に、俺たちは七星村を後にした。





夜も既に深まる時間、俺たちはエルピスの街に戻って来ていた。

「まったく、呑気なものでいいな」

ウェストランドには俺たちの他にも武器を持った者たちが居て、魔物討伐から戻った宴だと飲み合っている。

「いいじゃない、彼らは彼らの自由だし。私も混ざって来ようかしら」

「おいメア! ……」

「大丈夫だって! 情報収集も勇者活動の一貫。あの時のようなヘマはやらないわ。男より女の私の方がいいでしょ? ちょっと待っててよね」

メアは3人の男がテーブルを囲い飲み交わす席に躊躇いない様子で行ってしまった。
情報街ブルッフラの酒場で絡んで来られたことを忘れたわけではあるまい。
出る言葉もないとはこのことだ。

3人の男たちはメアが来るなりさらに楽しそうに盛り上がっているようで、メアもメアで楽しそうに話している。

そんな様子を俺とセシルが見る中、フィラが奥の扉から出て来た。
俺とセシルがいるテーブル席にまで来たフィラは、持っている分厚い本をどすっと置いた。

「お待たせ。探すのに少し時間かかっちゃった。でも、本当に魔竜が来ていたなんて……私ったら恥ずかしぃ」

フィラが顔を赤らめ自身の両手で覆い隠す。俺たちがウェストランドに来て魔物討伐依頼完了を報告した後、もちろん魔竜イクリプスドラゴンのことも話した。
だがイクリプスドラゴンが来ていたことにフィラが気づいたのは、俺たちがウェストランドに戻って来るほんの1時間くらい前だったそうだ。
寝ていて気づかなかったなんて、まあそれはそれで良かったのかもしれないが。

「フィラ、疲れているんなら休んだ方がいい。無理して身体を動かしても、ろくなことが無いからな」

「ええ、そうさせてもらおうかな。本は読んだらカウンターの中に置いとって」

フィラはあくびをして眠そうにしながら、二階へと上がっていった。

ウェストランドは24時間開いているギルドで、フィラは雇われた受付嬢と交代でカウンターに立っている。時にはウェストランドに居座っている勇者にカウンターを任せることもあるが、それはたまにだそうだ。

「……それにしても、魔竜の本ってこんなにも分厚いものなんだな」

フィラがテーブルに置いていった分厚い本を手に取った。埃が本の上部にややかかっている様子から、そう頻繁に読んでいない様子が見受けられる。
その本には『魔竜の生態文献』とタイトルがある。
俺がウェストランドに戻って来るなりフィラに『魔竜の生態文献』という本があれば持って来てほしいと頼んだからだ。

「セシルも!」

セシルが自身の座る椅子を引きずって、俺の真横まで持って来る。

「字が読めるようになったのか?」

「んーん!」

と、何故か笑みを浮かべて首を左右に振る。

「……さて、読んでみるか」

まあ、この際だ。全てを読み伝えるわけではないが、ポイントポイント、セシルにも必要になりそうなことは伝えよう。

メアは……まだ、向こうのテーブルにいるようだ。

俺は『魔竜の生態文献』の1ページ目を開いた。茶ばんだ白紙。そして2ページ目。目次より、イクリプスドラゴン、その文字列を見つけ該当ページを開いた。





イクリプスドラゴンについて書かれてあったことはおおかた読んだ。また何処かで対峙するようなことがあった時の為に調べておいた。セシルには読み進めながら都度説明はしていた。

そして読み調べた内容によると、イクリプスドラゴンは魔竜の中では最も防御力が高く、また最大の体長を誇るらしい。
らしい、そう書いてあったのはおそらくそうであろうという調査の末に出た結論だったからだという。

その後は『魔竜の生態文献』に載っていた他の魔竜についても軽く読み進めた。

バタリアの西、森林手前の荒野で現れたボルティスドラゴンのこと。
あたり一面を火の海と化す、熱量を体内に宿すヴァレトスドラゴン。他にも魔竜は魔王の城にいるらしい。
過去、先代魔王を打ち取った勇者アルフレッド一行の証言を元に書かれていた為、既に情報がある程度開示されているイクリプスドラゴンより情報は遥かに少なかった。

「セシル怖いよぉ」

ずっと俺の隣で真剣に見ていたセシルが身体を震わせる。

「そうだよな、出来れば対峙したくない敵だな」

魔竜なんて怪物は1人で相手にするような魔物ではない。
と、俺がそういうのはやはり俺自身が過去に対峙したことがあるからだ。まあ、対峙と言っても岩影から様子を見ていただけだったのだが、セシルのように身体を震わせていたことをよおく覚えている。
一言でいうとすれば、勝てない相手に対する恐怖心。その時の俺の勇者ランクは4。勝てるとつけ上がるほど自惚れてはいなかった。
ただ、それは今も言えることで、勇者ランク8になっているからと言って、レベル100越えの魔竜に1人勝てるとつけ上がってはいない。

「戻ったよ! たんと良い情報仕入れて来ちゃった! あ、これねフィラさんが持って来た本」

「メアも読んでおけ。また説明するのは面倒だ」

「後でね。ねえ、それより……魔王の城への行き方を聞いて来たわよ」

「それは助かる」

今後行く目的地。魔王の城への行き方は必須だ。

メアが地図を広げた。

セシルが前のめりになって地図を見る。身体の震えはおさまっているようだ。

「まず、私たちがエルピスの街を出発した後、此処、レッドリングフォレストを渡ることになるわ」

「レッドリングフォレストか」

エルピスの街を北に出発後、レッドリングフォレストという名の、カディアフォレストとまでいかなくとも馬鹿でかい森がある。

「それからレッドリングフォレストの先を行くと、カサルの地があるからそこを目印にして」

「目印、というか寄るぞ? カサルの地は。ブルッフラでアンナが言ってただろ? 宝剣を持つ勇者がいる場所だって」

「そ、そうだったわね。じゃあ、その先のことはカサルの地に着いてからまた話しましょう。私、もう眠くて眠くて」

「だな、そうしよう。セシル、宿に戻るぞ」

セシルを呼んだ。聞く気満々だなと感心していたのだが、話の最中に眠ってしまっていた。

「んん……ん……」

仕方ない。

俺は眠るセシルを背負う。

「セシルって、ほんとお子様ね。でも、私も眠いかな~。だめ……だよね?」

「当たり前だろ。自分で歩け」

俺はいつから2人の保護者になったんだ。
魔王の城を共に目指す優秀な仲間であるはずなのに、たまに見る瞬間はまるで少女子供。

魔王の城。
決して遠過ぎる距離ではなくなって来ている。それは俺がシーラ王国のセイクリッドを旅立つ前に寄ると決めていたカサルの地が近いこと。
そして魔王の城にいるはずの魔竜、イクリプスドラゴンとの対峙。死の谷に架かるレッドリングフォレストを越え、カサルの地……

魔王の城に眠る秘宝を盗み出し、この眼で見るまでは俺は俺の旅を折るわけにはいかない。

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