百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第182話 弓の名手

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ややあって広場に行くと、そこでは勝利後の宴と言わんばかりに勇者たちが食事をしていた。さっきスニーズベアを毒味していた勇者はさっそく調理したようで、他の勇者も食べられると判断したのか集まって来る。

「いつもこんな感じなのか?」

広場の端の方で座っていた男に声をかけた。
その男は両腕を曲げて掌を上げては首を左右に振った。

「もうお決まりって感じさ。あんたらは参加しないのかい?」

「ああ、俺たちはそういうんじゃない」

男はそうかと言ったっきり、広場で騒いでいる勇者たちを眺める。

「お~い! お前もこっち来いよ!」

そう呼ぶのは長い黒髪をした男。
俺たちの前にいる白髪の男は自分はいいというような手で払うジェスチャーをする。白髪の男を呼んだ黒の長髪の男は別の者と談笑する。

「俺も昔はあの輪の中にいたんだ。でもいつしか飽きて、もう何の為に勇者やってるかわからない」

そう唐突に白髪の男は話始める。

「だったら、さっさとこの地を去ればいいだけだ」

「それが出来れば苦労はしないさ。今、俺を呼んだ男ともう1人仲間がいるけど、あいつらはこのカサルの地を気に入り過ぎてる。住みやすいのも分かるけど、もう2年もこの生活してるんだ」

2年もこのカサルの地に……俺だったらまずそんなに居ない。居ても3ヶ月かそこらだろう。

「……俺が言うのも何だが、それならお前1人で出て行けばいいんじゃないのか?」

そう聞くと、白髪の男は首を振った。

「さすがにそれをする勇気は俺にはないよ。少なくとも今の俺の勇者ランクじゃあ、生まれ育った村には帰れない」

なるほどな、カサルの地を離れたい理由はそれか。

「ちなみに、ランクは?」

白髪の男は開いた掌を見せた後、もう片方の手で二本指を重ねる。勇者ランク7か。

「そんなに高いなら帰れそうな気はするけど……」

メアが不思議そうに白髪の男に聞く。

「無茶言わないでくれ。このカサルの地からカリダ村までどのくらいの距離だと思う?」

知っている村だった。

「カリダ村……確かに遠いな」

「カリダ村を知ってるのかい?」

身を乗り出してそう俺に聞いて来る。

「旅の途中で通って来た村だ。スライムの大群が来て、まあいろいろあったが問題はなかったけどな」

カリダ村に行った時はまだラピスとアルンはいなかった。俺とメア、セシルの3人で助太刀するような形でスライムの大群を討伐した。中にはスライム以外の魔物もいたが大半がスライム系統だった。

「どうしたの?」

俺の言葉を聞いた瞬間、顔を俯け頭を抱えてしまったテールに対してセシルが言う。

「……いや、なんでもない」

そう言って、立ち上がっては去ろうとする。

「お前、名はなんて言うんだ?」

「何? 俺に興味あるって? ……冗談だよ、そんな顔よせ。俺はテール=アヴレーク、別に覚えてもらわなくて結構」

そう言い残し、テールは去って行った。

テール=アヴレーク、俺はその名を知っていた。
メアがカンパーナで白髪で長弓を持った者を見たと言っていた。それに対して、カリダ村で会った少女ルナは兄だと発言していた。

去って行ったテールは長弓を持ってはいなかったが、特徴の白い髪と名が一致した。
本人っぽいが。

そう考えているとセシルは何を思ったか何処かへ行くテールの後を追って行った。





「ーーそうだったか」

戻って来たセシルによると、テールはカリダ村で出会ったルナの兄その人だった。
セシルがルナの名を出すなり安堵の表情を見せたようで、カリダ村のことが心配で、可能であれば帰りたいと言っていたそうだ。

「私たちで送ってあげたいところだけど……」

「そういうわけにもいかないしな」

メアの言葉を繋ぐようにして俺はそう言った。
現実、このカサルの地からカリダ村だと相当な距離。日数にすると数ヶ月はかかるだろう。
もちろん過去の俺たちの強さと今を比較すれば魔物に苦戦する時間は少ない。
それでも距離を考えると数ヶ月かかるのは容易に分かる。

ただ、ボルティスドラゴンの力を借りれば数日足らずで着くかもしれないが……騒ぎになる。
本来であれば魔王の城にいるはずの魔竜が突如姿を現わせば、カリダ村にいるまだいるだろうシーラ王国の兵団が迎え討つのが目に見える。
しかもだ、そんな魔竜を連れて来たのが顔見知りの俺だと分かれば大問題間違いなしだ。

「……そうだね」

セシルは両耳をシュンと垂らし、そう口にする。
俺もテールをなんとかしたいのは山々だが現状どうすることも出来そうにない。

「あ」

そんな時、ラピスが気付いたように視線を奥に送る。
そいつは先ほど勇者たちの集まりの中にいて、テールを呼んだ黒の長髪の男。隣にはまた別の男、両剣を背にかける。
翠髪の男の背から飛び出すように柄の両端の刃が見える。

「お前ら、さっきテールと何か話してた……」

翠髪の男はそう言って隣の男に顔を向ける。

「どうも、俺はゼラ。君らはテールの知り合いか何かかな?」

「知り合いというか……まあ間接的な知り合いか」

「なんだそれは? はは」

ゼラは微笑する。

「ねえ、ちょっと言いたいことがあるんだけど」

「なんだ? まさか俺に惚れた?」

メアが呆れたように俺の方を見る。

俺を見るな俺を。

メアが交代と言わんばかりに俺の腕を引っ張る。
メアは言葉を発さず、口元では言っての動きをする。
自分が言うんじゃなかったのか。

「お前がリーダーか?」

「いかにも。勇者3人旅して、もう随分経った」

ゼラは思い返すように左上に顔を向ける。

「俺から言いたいのはだな……テールのことだ」

いちいち他の連中のことを気にかける性格ではないのだが、一度行った村で世話になったルナの兄のこと。
ボルティスドラゴンで送ってやることは出来ないが、発言することくらいは出来る。

ゼラは俺の次の言葉を待つように腕を組んだ。隣にいる翠髪の男はポッケに手を突っ込む。

「テールは生まれ育った村に帰りたいんだそうだ。お前ら、仲間なら送ってやったらどうだ?」

そう言うと、ゼラは深い溜息を吐いては左右に大きく首を振った。

「無責任、あ~無責任。お前に俺たちの旅の何が分かる? それを踏まえての発言だったとしても他人のお前にとやかく言われる筋合いなんてこちとらないんだよ」

「それはそうだが……俺はだな、テールの言葉を代弁してやったまで。言いたかったのはそれだけだ」

ゼラは腕を組んだまま黙り込む。と思えば、俺の方へ歩いて来る。

「あいつはな、俺たちの仲間には必要不可欠! さすがにヴィクター=ファルコメンにその力は及ばなくても、あれほどの弓の名手はそうそういない。イアンも十分過ぎるくらい弓の名手だが、それでもテールの教えを乞うほど。良いコマは使えるだけ使うのが俺の信条なんだよ」

ゼラは俺に人差し指を突き立てて力強く力説した。

そして今ゼラの発言の中に出て来たヴィクター=ファルコメンーー彼はかの先代魔王を討ち取ったアルフレッド一行の1人の勇者。弓を使う勇者の中では間違いなくトップクラス。

ゼラはイアンと共に、テールが去った方向へと歩いて行った。

「嫌な奴」

メアはそう言って背を向けて歩いていくゼラたちに舌を出す。

「……そうか、それほどの弓の名手だったか」

「何? シン。何考えてるのよ?」

「いや、なんでもない」

と言いつつ、俺は思案していた。

ヴィクター=ファルコメンに及ばなくとも、その名を出してまで比較するほど。
しかもその当人テールは生まれ育ったカリダ村に帰りたいと思っている。

……よし、良い案が一つ浮かんだ。
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