百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第194話 信じる心

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ーー翌日の朝。

ヴィダの街の人々の視線が向けられる。
その視線の先にある存在に人々は絶句しているようで、声の一つあげやしない。
それはそうだろう。何せ、本来であればこんな場所にいるはずのない存在。
しかも、人類と敵対するはずのその存在は異様過ぎる存在感を放っている。
牙を見せつけて今にも人々を襲うかのような存在。

それに伴い、ヴィダの街の人々が俺たちに向ける視線もまだ疑心を感じてならない。
昨日、魔人と魔物からヴィダの街を守った勇者一行だとしても、さすがにこの状況は疑心を与えかねない。

「近くで見ると恐ろしい……」

「こんなのがこの世界にいるなんて……はぁ」

ティナはそのあまりの存在に立ちくらみをしたようだ。隣にいたアレクがさっとへたり込んでいくティナを抱える。

「さっきも言ったがこいつは俺と『血の契約』関係にある。つまり、お前らを襲うようなことはしない……はずだ」

ローゼンが人々を集める前、早朝にボルティスドラゴンを呼んでおいた。
ただ、いくら『血の契約』をして俺たちに被害がないとしても、ボルティスドラゴンを従属させた本人がいなくなったらどうかという疑問が残っている。

「はずってなんだよ! はずって! こんな奴をこの街に置こうとしてたのかあんたは! ひいっ!?」

ヴィダの街の男が大声を出してそう言っただが、ボルティスドラゴンに向かれて悲鳴をあげた。

「ローゼンさん、いくらあなたが認めた勇者たちとはいえ、これはあまりにも……」

また別の男がそう声をあげて言う。

「うむ。だが彼らが昨日このヴィダの街にしてくれたことを皆はその目でしかと見ただろう? 私も悩んで一晩考えた」

「だったらなおのことこんな化け物さっさと追い返してくれよ! そこの勇者さんらは平気かもしれないけど、お、俺たちは一般の人間なんだよ!」

「そうですローゼンさん! 怖いものは怖い! 見てくださいよあの恐ろしい牙! 絶対俺たち人間を食おうと機会を待ってるんだ! そこの勇者たちが出て行ったら暴れるんじゃないか!?」

次々と異論を言って来るヴィダの街の人々。その言葉も最もなものばかりだ。

「ローゼンさん!? 何を!?」

ローゼンがまさかの行動をとった。あろうことか、ローゼンがボルティスドラゴンの方へ歩いていく。
ボルティスドラゴンは大きく口を開けては閉じるが、その眼光は鋭く、歩いて来るローゼンを直視している。

おいおい、まさか食うつもりじゃないだろうな。いや、それはないか。魔竜は人々に対して甚大な被害を与えてしまうが、人間は食わないとされる。
ただ、魔物という存在は人間を食うことが常識になってしまっている為、魔竜も同様だと思っている人々も多い。
そのことも後でヴィダの街の人々には説明しないといけないな。

「ローゼンさん……」

ティナが胸を撫で下ろしたようだ。

ローゼンがボルティスドラゴンの鼻付近に触れて、ヴィダの街の人々の方へと振り向いた。

ローゼンも肝が座ってるな。いくら、俺が『血の 契約』をしている魔竜だとしても、勇者でもない人間が向かっていくなんて精神力どうこうで出来ることじゃないぞ。
ヴィダの街の長、ローゼン=ブラジウス。その立場から行ったことなのだろうが、何にしても重要な行動になった。

その後は改めてボルティスドラゴンのことをヴィダの街の人々に説明した。
初めは半信半疑だったヴィダの街の人々も、ボルティスドラゴンに恐る恐る近づいてみたり、さらには触れたりして徐々にだったが警戒心が解けていったように見えた。
だが、ボルティスドラゴンが一度立ち上がると、悲鳴をあげて逃げていく。
どうも、慣れるまで時間がかかりそうだが、俺たちもずっとヴィダの街にいるわけにもいかない。

そうして、最終的には昼頃まで慣れの時間が必要だったようで、俺はボルティスドラゴンにヴィダの街と人々を守るように頼んで俺たちは出発した。

ただ1人の勇者が残って……





俺たちは岩壁の見える傾斜の道を進んでいた。傾斜の先には段差のある場所が見えて、その先には海を挟んで岩壁の高い別の地がある。

「メア大丈夫かな?」

「心配するなセシル。何かあったらこの魔法水晶体で連絡すると言ってただろ」

ボルティスドラゴンが『血の契約』をしている俺から離れることで、本来の魔竜の血が騒ぎ出すなんてことも可能性はゼロではない。
正直俺はメアが残ることには反対だったのだが、当の本人が残ると言って聞かなかった。

「えらく彼女を信頼しているんだな」

「まあな。いざとなれば何とか出来そうなのはメアくらいだろう」

「ムウ! セシルも出来るよ!」

セシルが頬を膨らしてそう言った。

「そうかい。なら、俺たちは先を進もう。ちんたらしてると、他の魔竜に見つかってしまうかもしれないぜ」

そう言ってテールは先を行く。

「……テール、道はこっちだ」

方向音痴なのだろうか。1人道を逸れて行ったテールを呼ぶと黙って戻ってくる。
方向音痴、仮にそうだとすると、1人でカリダ村に帰るのは厳しいものがあったかもしれない。
まあそれは置いといて確かにテールの言うように、他の魔竜に見つかる可能性はある。ここはもう魔王の城がある地。古文書の情報では確認されているだけでも八体の魔竜がいるとされる。
ボルティスドラゴンやイクリプスドラゴンがフィールドに出て来たことを考えると、他の魔竜も魔王の城を出て来ている可能性はいれておくべき。
それに魔竜だけではない、魔物も注意する必要がある。

メアはヴィダの街に残ると言ったが、様子を見て大丈夫そうだったら後で追いつくと言っていた。
そして俺たちが今目指しているのはプリズンタウンという場所。グレイロットにいた青年、トーマスの話とヴィダの街で聞いた話を合わせると其処を通って行く必要がある。
もちろんメアにもその場所は伝えている。





俺たちは森の中にいた。目指しているプリズンタウンに行くにはこの森を抜ける必要がありそうだった。
というのも、傾斜奥の川のずうっと先に橋が見えたからだ。そこを渡る為にも森を通っているというわけだ。

「グーラか」


グーラ
LV.67
ATK.89
DEF.94


森を入って中盤あたりだろうか、当然のように魔物は現れた。
グーラ、森の大食いと呼ばれる魔物は大型の食人植物。森に迷い込んで来た人間を食う。いつかの森で見たキラープラントを思い浮かべるが、大きさがその比ではない。
キラープラントも平均でも5、6メートル級と巨大ではあるが、グーラはその二倍近くある。
最も、レベル67なんてアスティオンを使うまでもないが。

ただ、いくら俺たちの相手ではないと言っても離れてはいるがヴィダの街もある。だがグーラは森の中でしか生息出来ず、その理由は地中深くまで生やしている根がある為だ。

「テール、やるならやると」

テールの放った矢がグーラの正面を捉えた。

「グ、ギ、ギギ……」

キラープラントもそうだったが、食人植物の急所はコア。人間でいうところの心臓を狙えば、今、テールが放った矢のように一撃で葬ることさえ可能……のはずなのだが。

貫いたはずの場所から裂けていくように変形していく。

「……こいつはパラサイトヒル」

裂けていく場所に見えた粘り気のある紫色の液体。こういう特徴を出すのは今言ったパラサイトヒルが当てはまる。

「何でもいいさ! 俺の矢がコアに当たってなかったって言うんならまた撃つまで!」

テールが放った矢は再度グーラのコアがあるところを狙った。
確かにコアが欠けた様子は見てとれる。だが、グーラ……もといパラサイトヒルは平然としている。

「シンさん、パラサイトヒルってどういう魔物なんですか?」

「簡単に言うとだな、ああして魔物の身体に寄生することでしか生きれない魔物だ。本体は弱い」

そう言っている間にもパラサイトヒルに寄生されたグーラはバキバキと音を鳴らして変形していく。そうしてなったのは、もはや木の化け物。カマキリのような雰囲気と無数に飛び出た鋭い木の先。


パラサイトヒル(寄生中)

LV.92
ATK.110
DEF.99


なるほど、やはり情報通りだった。パラサイトヒル本体は勇者になったばかりの新米でも倒せるレベルだが、寄生してしまったらそうはいかない。
観察眼で見て分かる通り、パラサイトヒルは寄生後、その魔物のステータスを引き継いだ上で大幅なパワーアップを果たす。
ただし、それには条件があってそれが本体の死。
つまり、さっき本体だったグーラが死んだことでパラサイトヒルが本性を現したということだ。

勇者がパラサイトヒルに寄生していると知らずに倒した魔物でも、本性を現したパラサイトヒルに反撃されてしまう事例も耳にする。
あまりこいつの情報が少なかったのはそういうことだろう。

「セシルがやる!」

セシルが意気込み前に出る。

「よっし、ここは皆んなで一気にーーはい?」

パラサイトヒルに寄生されて変形したグーラは、飛んで来た3つの斬撃によって斬り刻まれた。迅斬波、逆浪、十分な威力だ。

「ピギャアアアアアアアアアア!?!?!?!?」

森中に響くほどの煩い鳴き声。これはグーラの声じゃない、パラサイトヒルの鳴き声だ。
三等分されたパラサイトヒルに寄生されたグーラは地面に倒れ落ちた。

へえ、あれが。

俺も情報でしか知らなかったのだが、三等分されたその間からひょこっと姿を現した10センチもなさそうな魔物。こんな奴にグーラは寄生されてしまっていたのか。
レベルは……5。

「えや!」

「ギャピッ!? ……」

セシルの蹴り一発。パラサイトヒルは液体状になって地面に広がっていく。
セシルは自分で蹴っておいて、すごい勢いで地面に足を擦り付けている。まあ、そうなるよな。

それからも、メアがいないまま俺たちは森の中を進んで行く。

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