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第204話 過信と安心
しおりを挟む俺たちはプリズンタウンで滞在中、色々な事を知った。
プリズンタウンはプリズンロック跡に出来た街ではあるが、正確には同じ場所ではない。
岩壁の中に造られたプリズンタウンは時間軸は同じだが次元が別空間。
俺たちが入れたのはアルンの持つ能力である別次元への移動。つまり、プリズンタウンとは聖霊獣が移動出来る次元だということ。
イメージ的に言うと現実の空間には何処も別次元が存在しており、聖霊獣であるアルンは自発的にその別次元へと行き来出来るが、プリズンタウンは固定された場所。
そして、当時プリズンロックを造ったのはソフィア王国だということ。初代魔王が君臨して以降、月日が流れる中で別次元の存在に着目した為。
魔王と魔物の軍勢から逃れる為には別の次元に行くしかない。そうして、当時魔王がいなかったトリトン大陸で実験的に別次元への扉を開けた。
実験は見事成功。無事、別次元へ行くことが出来た。
だが、予想外のことが起きた。
別次元の世界は一方通行だったということ。
ただ元々、別次元に行く目的を考えると大した問題ではないという結論に至ったそうだ。
別次元で生活する為の必要物資を大量に移動させ、時を同じくして当時トリトン大陸にいた人々から、一方通行であることを伝えた上で別次元に移動したい希望者を移動させていった。
しかし、其処で重大な問題が起こった。
それは別次元の広さ。
いくら魔物がいない別次元に移動して安全だといっても、別次元内の移動には限りがあった。
俺がプリズンタウンで見た太陽や山々や大草原も人工的なもので、確かに其処にはあったがそれは自然のものではなかった。非常に似てはいたが、実際は似て異なるもの。
プリズンタウンがプリズンロックの位置と同じ理由は、守備の為だったという。
魔物から人々を離す場所と言えど、優先的に別次元へ行くのを気にくわないとする人間たちがいたからだそうだ。
同じ人間であるにも関わらず、優先される者たちとされない者たち。
セクゥンド大陸、ルフーマ王国で起きた"国落とし"の一件により、人々は今まで以上に恐怖し、聞き耳を立てていたらしい。
そうしたことの他にも別次元へ移動出来るソフィア王国の技術は一部の人間たちには漏れていたようだ。
ソフィア王国の技術には関心しかないが、俺は別次元ではなく魔物がいても現実世界のほうがまだいい。
ただそれでも、当時は魔物が居ない世界で暮らすことを望む人々がトリトン大陸には多かったそうで、プリズンタウンをはじめ、トリトン大陸の各地には別次元の世界が存在しているという。
俺がこれらのことを知れたのは、ダグラス、ホルト、ロサがソフィア王国と繋がっているからだ。
ボトロアは違う。ボトロアは別次元に行くことを望んだ希望者の1人。
ラピスが知っていて、見なくなったと言っていたのだが、そうした背景があったということ。
ただ、俺は話を聞いて疑問に思ったことがある。
それはホルトは何故、現実世界に移動出来たのかということ。
考えられるのはホルトがソフィア王国と繋がっている為。俺もベヒーモスと戦う為に一度入ったプリズンタウンから出ることが出来たのは、彼と一緒だったからだろう。
仕組みまでは聞いていないが……何らかのソフィア王国の技術なのだろう。
それと、魔王の城に行く為にボトロアに言われたのは、魔王の城への行き方は一つではないという話だった。
つまり、俺が過去にスターダスト付近にある森の中で見た大洞窟はその内の一つだということ。間違っても入らなくて良かったなとボトロアは笑いながら話していた。
◇
ボトロアが船を完成させるまでの間、俺たちはプリズンタウンから出て魔物の討伐に勤しんでいた。
此処らの魔物はレベルも高く、倒しがいもあってその上ステータス上昇にも繋がる。
俺はセシルと行動。セシルは華麗な動きで魔物を翻弄し、接近戦に持ち込んで倒す。
自身より何倍も大きいアイアンリザードは一方的に倒されていた。
今回、一月の時間が出来たことでカサルの地で教えるはずだった剣術を駆使して。
剣術に関しては早い飲み込みだ。それに加えて格闘術、レベル86のアイアンリザードはなす術無しといった感じだった。
「ーーセシル、話したいことがある」
樹の上にいるセシルに呼びかけた。
「っと! なに?」
と俺の元に着地。
今までの旅をセシルと過ごして来て言いたかったこと、それを言おうと思う。
「今回の旅ーー魔王の城に行くにはセシル無くしてはあり得ない。セシルは強い。……だが、無茶はするな」
セシルの戦いぶりを見てきて、心底強い獣人だと実感した。
ただ反面、誰かの為になると自分を犠牲にしかねない。
セシルがバタリアの無法地帯で売られてしまっていたのも、仲間を助けたいという一心から来た油断からの結果。
アルバードの爺さんが言っていた宝剣を神剣にする為の犠牲は回避出来たが、行く場所が場所。セシルの性格を考えると無茶をしかねない。
セシルは俺の言葉を聞いた後、何も言わず振り返った。
「セシルは皆んなの力になるだけだよ」
そう言ってセシルは微笑した。
◇
川の見える森の中を歩いていると魔法水晶体の反応があった。
この反応は……
「メアか」
『来たわよ、今何処?』
どうしたんだ?
口調が怒っているように感じる。
その後、メアから事情を聞いた。
話によると、メアは一度プリズンタウンに行き岩壁付近で髪の長い女に会ったそうだ。
そこで俺たちの仲間であることを髪の長い女に伝えたそうだが、証拠がないと突き返されたという。
確かに証拠がないと言われてしまうと証明は難しい。
一応、俺たちの他にも仲間が来るかもしれないことをプリズンタウンの管理人であるダグラスたちには伝えていたのだが。
ややあって、プリズンタウンの入り口から離れた岩壁付近でメアと合流した。
ムスッとした表情だったが、俺が現状を話しているうちにそれもなくなっていった。
その後、プリズンタウンに入る為待っているとロサが出て来てメアに謝っていた。
プリズンタウンは本来なら隠された場所。誰か分からない者を入れることは管理人の許可がいる。
その為、許可なしに入ることは本来なら禁止されている。
その上、別次元であるプリズンタウンに入る為には各国が秘密裏に行う調査の対象にならなければ本来であれば不可能なこと。
その為、調査対象に当てはまらなかった俺たちは警戒されてしまったというわけだ。
アルンのことは無理に話さなくてもいいだろう。
ソフィア王国と繋がりがあるんだ、尚更話すべきではない。
「そう言えば、貴方達の仲間のお二人はどうされました?」
「さあな、そう遠くには行かないと言ってたからその内戻るだろう」
ラピスとテールにアルンを付かせたのはもしもの時に別次元へ行ける為だ。
「……あまり、こんなことは言いたくありませんが、此処は魔王の城がある大陸。仲間への過信が悪いとまでは言いませんが、慎重にはなった方がいいと思います」
「それは確かに俺も思う。だが、あいつらは大丈夫だ」
テールの力の全てを見たわけではないが、彼は勇者。一緒にいるのは上昇の能力を持つ白魔導士に別次元へ瞬時に行ける精霊獣のアルンもいる。
過信というより、安心という感覚に近い。
「……そうですか。それなら私が何か言うのは野暮というものですね」
それから、俺たちはプリズンタウンで待っていたが、ラピス、テール、アルンはその日帰って来なかった。
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