百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第229話 タイミング

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フォカロルが発射した光線の威力は一度目よりも強力なものだった。
非常に高エネルギーを感じる光線はアーマードマンティスと同等の装甲を持つ、グリタールまでをも貫通させた。
グリタールは6つそれぞれの腕の先が鋼の爪で蜘蛛のように立つ魔虫。後頭部に1メートルほどの盾のような頭を持ち、振るように攻撃する。

「気づくのが遅かったな」

「キィィィ!?」

フォカロルからの初撃の際、軽く本体に触れておいた。
回り抜けのスキルを得て以来、もう癖になってしまっている。

フォカロルの背後からアスティオンの刃が貫く。
フォカロルが人間と同じような場所に心臓があるならば致命傷だが、こいつは魔虫。
右半身を攻斬波で吹き飛ばされても平気なやつだ。

撃技+6の解放。
フォカロルが木っ端微塵になった。
撃技は剣に纏わせ剣技として放つことで本来の威力を発揮するが、放つ前は剣自体に撃技のエネルギーがある。

幼虫の方はそんな様子を見ていたようで、地中に潜ってしまった。

「……」

俺は暫し様子を見る。

そして、ちょうど俺の脚元から飛び出して来たところを一閃。まだ放っていない撃技+6の斬撃の的となった。
幼虫フォカロルは半分になって千切れてもばたつくように動いていたが、まもなく力尽きた。

2人は……
セシルは元の姿に戻っている。
テールは魔虫の攻撃を避けるばかりで反撃する様子は見られない。
2人は俺に気付きやって来る。

「倒したんだね!」

「ああ。先を行こう」

とは言うが、城の中とは思えないほどに生い茂った草木は方向感覚を狂わせる。
一体何処に次の階への道が……
辺りを見渡しても草木が多すぎて見えない。

「そう言えば、向こうに風が強い場所があったけどさ」

「本当か?」

そうして襲って来なくなった魔虫を見ながら着いた場所には、遠くに光が見える暗闇の通路があった。
念の為、観察眼による確認をするが魔物の表示はされない。

攻斬波、烈焔。
撃技+6を解放してまで通路を照らすのもどうかと思う。
とすれば、これの出番。

「それはなあに?」

セシルが首を傾げてそう聞いて来る。

「まあ見てろ」

俺が取り出した光沢のある小さな球体。
それを暗闇の通路に投げ入れる。

「まぶしいっ!」

通路から顔を背けるセシル。

「閃光弾かい。確かに、こういう時でも役に立つけどさ」

「持って来ておいて正解だったよ」

本当は面倒な魔物に使ってやろうと思っていたが、臨機応変さは必要だ。
それに予備の閃光弾はまだある。
だが、それも本当に面倒な敵の為に残しておきたい。
今、閃光弾を使ったことで、この暗闇の通路がただの通路だったことが判明して俺たちは進んで行く。

「また暗くなっちゃった」

収束していく光。
通路にはまた暗闇が戻ってしまう。

「ずっとは使えないからな」

だが、通路は問題なく進めそうだった。
罠が仕掛けられていればそれはそれで問題だが、戻って別の道を探すより今あるこの道を進んでいく。

そうして、暗闇の通路を進んでいるとセシルが背あたりの服を掴んで来る。
獣人のセシルもこの暗闇だとさすがに見えないのだろう。

「テールはいるか?」

気配で分かるが一応確認しておく。

「隣に」

そう返すように、隣では足音が聞こえている。

出口はまだもう少し先の方。
それに蒸し暑かった場所と一転、冷やりとする通路には水が溜まっている場所もあるようだ。

「ひんっ!」

セシルがたまにそう声を漏らすのは、俺が水を踏んだ後。
血という可能性もあるが、血独特の臭いはしないし、まあ水だろう。
こうして歩いていると、俺がシーラ王国に捕まって牢獄に入れられた時のことを思い出す。
懐かしいな、もう随分前のことだが昨日のことのように思い浮かぶ。

「シ~ン~、おんぶして~」

俺が過去のことを懐かしんでいると、セシルがなんとも甘えた声で言って来る。

「仕方ないな」

セシルを背負うと見た目通りそう重くはない。
だが、それでいて魔物と戦う様は体重の差などものともしない。

ややあって、無言で進んでいた。
そうしていればもう間も無く、出口に近づいて来る。

「長いな」

出口まで来ると、今度は広い場所に螺旋階段があった。
その螺旋階段を見上げると、結構な高さ。

「セシル、降りろ。……セシル?」

「彼女寝てるよ」

テールが言うように、耳を傾けてみるとスースーとセシルの鼻息が聞こえる。
仕方ない、このまま行くか。
今までのことで疲れが来たのだろう。

螺旋階段に足を運んで登って行く。
風が来るのはところどころの壁に空いている長方形の窓から吹いていると思われる。
外では割と近くの方で魔物の鳴き声が遠くへ行ったり来たりしているようだ。

螺旋階段は古い感じで、大幅で進んで一階段を踏める。
そんな螺旋階段をひたすら登っていく。





螺旋階段を登りに登り、ようやく半分くらいまで来た。
窓から見える景色は雄大だが、地上では何やら煙が上がっている様子が見られる。
そんな様子を見ていれば、背中でもぞもぞ動き出す獣人。

「ん……」

「起きたか?」

本当にあんな魔虫の数を一度に相手する力が思えないほどに華奢な身体。

「もう少しだけ……」

そう言ってまた眠ろうとする。
結局その後もセシルは俺の背中で眠ってしまった。

「まるで獣人さんの親だな」

「そんなつもりはまったくないんだがな」

俺はセシルを1人の仲間だと思っている。テールは比喩でそう言ったのだろうが、確かにまあこんなことをしていれば親などと言われても仕方ない。

「親でいいじゃないですか。シンさんならこの子も安心すると思いますよ」

「……」

「きゃ!? 何をなさるんですか!? あ、これ2回目ですね」

何故、舌を出して自分をこつくようなことをするのか。

俺は無視して螺旋階段を登っていく。

「ああ! 待ってくださいシンさん! 私が出て来たってことは大切な話があるからなんですよ!」

獣人サラ。
セシルの身体に突如こうして出て来ては重要そうなことを言う。

「なら、その大切な話とやらをしてさっさとセシルに身体を返せ」

「冷たいですシンさん! セシルにはあんなに優しくされておられるのに……」

そう言って、サラは声を小さくしていく。

「お前はお前、セシルはセシルだ。で、話は何だ?」

そう言うと、サラは何故かしょげるような表情をする。
セシルだがセシルじゃない。
まったく、変な感じだ。

「……早くしないと、また獣人さんに戻るんじゃないかい?」

テールは急かすようにサラに言う。

「獣人さん?」

「セシルのことだ」

サラは仲間なのにそう呼ぶのは変だとテールに言うが、テールはテールでその呼び方がしっくり来たようだ。
と、サラは気づいたように話し始めた。

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