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第1章 電車で
わるいこと
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カタン、カタタン
それはゆりかごのように繰り返すかすかな振動。薄暗い穏やかな空間。
長椅子に向かい合って座る二人。
その横の壁には電車の窓があり、四角く切り取られた光が差し込んでいる。
その窓の先には若々しい緑と鮮やかな青の彩り。木々、山、空、雲がゆっくりと流れ、飽きることのない絵画を描き続ける。
対峙する二人――セーラー服の女の子と黒服の少女が、その流れゆく風景をぼんやりと眺めている。
黒服の少女の口元から、噛みしめるような小さなあくびが漏れる。
セーラー服の女の子はそれを見て笑みを浮かべながら、手元のペットボトルを差し出す。
「私の飲みかけなんですけど、よかったら」
「あ、すみません。いただきます……ええと、その、なんとお呼びすればいいのでしょうか」
「みづきと言います。相沢みづき。こう見えても高校1年生、一人旅の真っ最中です」
「高校生、ですか。本当に……あ、いえ、すみません」
「大丈夫です! いつもの事なので。それよりも、あなたのお名前は?」
「かざは。…………?」
黒服の少女は名字を答えた後、目を細めて上向き加減で固まっている。
女の子――みづきはそれを見て不思議そうに首をかしげている。
「り、りん……か。ええと、たぶん……風羽凜霞だと思います」
「たぶん、って?」
「忘れていました」
みづきはさらに首をかしげる。これ以上は曲がらない位に。
「どういうこと、ですか? ……あ!」
みづきが頭をまっすぐに戻し、目を見開く。
そういえば、凜霞さんを助けるために必死で手を伸ばしたとき、階段の方からスーツ姿のおじさんが追ってきていたような。
そういえば、目つきが鋭かったような?
普通のおじさんにしては口ひげが濃かったような?
みづきは眉をひそめて、ひそひそ声で黒服の少女――凜霞に問う。
「凜霞さん、もしかして何かから逃げて……人に言えないわるいこと、しました?」
「え……! その」
凜霞は、目を見開き、ゆっくりとうなだれて、そして
「悪い事、だったの、かな……わた、し」
ぱたたっ、と膝にこぼれゆく水の欠片。
顔を伏せているから表情はわからないけれど、それは間違いなく、涙。
「わわっ! 私⁉ その! ぁ」
みづきは自分の声が大きすぎることに気づいて反射的に立ち上がり、あわてて両手を口に当て、きょろきょろと周囲を見渡して周囲を伺う。
誰もこちらを見ていない、よかった。
……一斉に視線を反らしたように見えなくもないけれど? だ、大丈夫! だから。たぶん。
なにもなかったことにして一息をついて、すとんと椅子に座る。
そしてぐっと体を前のめりにして凜霞に近づき、びくっと体を震わせる凜霞の耳元に、そっと言葉を添えた。
「なにか、あったのですね?」
それはゆりかごのように繰り返すかすかな振動。薄暗い穏やかな空間。
長椅子に向かい合って座る二人。
その横の壁には電車の窓があり、四角く切り取られた光が差し込んでいる。
その窓の先には若々しい緑と鮮やかな青の彩り。木々、山、空、雲がゆっくりと流れ、飽きることのない絵画を描き続ける。
対峙する二人――セーラー服の女の子と黒服の少女が、その流れゆく風景をぼんやりと眺めている。
黒服の少女の口元から、噛みしめるような小さなあくびが漏れる。
セーラー服の女の子はそれを見て笑みを浮かべながら、手元のペットボトルを差し出す。
「私の飲みかけなんですけど、よかったら」
「あ、すみません。いただきます……ええと、その、なんとお呼びすればいいのでしょうか」
「みづきと言います。相沢みづき。こう見えても高校1年生、一人旅の真っ最中です」
「高校生、ですか。本当に……あ、いえ、すみません」
「大丈夫です! いつもの事なので。それよりも、あなたのお名前は?」
「かざは。…………?」
黒服の少女は名字を答えた後、目を細めて上向き加減で固まっている。
女の子――みづきはそれを見て不思議そうに首をかしげている。
「り、りん……か。ええと、たぶん……風羽凜霞だと思います」
「たぶん、って?」
「忘れていました」
みづきはさらに首をかしげる。これ以上は曲がらない位に。
「どういうこと、ですか? ……あ!」
みづきが頭をまっすぐに戻し、目を見開く。
そういえば、凜霞さんを助けるために必死で手を伸ばしたとき、階段の方からスーツ姿のおじさんが追ってきていたような。
そういえば、目つきが鋭かったような?
普通のおじさんにしては口ひげが濃かったような?
みづきは眉をひそめて、ひそひそ声で黒服の少女――凜霞に問う。
「凜霞さん、もしかして何かから逃げて……人に言えないわるいこと、しました?」
「え……! その」
凜霞は、目を見開き、ゆっくりとうなだれて、そして
「悪い事、だったの、かな……わた、し」
ぱたたっ、と膝にこぼれゆく水の欠片。
顔を伏せているから表情はわからないけれど、それは間違いなく、涙。
「わわっ! 私⁉ その! ぁ」
みづきは自分の声が大きすぎることに気づいて反射的に立ち上がり、あわてて両手を口に当て、きょろきょろと周囲を見渡して周囲を伺う。
誰もこちらを見ていない、よかった。
……一斉に視線を反らしたように見えなくもないけれど? だ、大丈夫! だから。たぶん。
なにもなかったことにして一息をついて、すとんと椅子に座る。
そしてぐっと体を前のめりにして凜霞に近づき、びくっと体を震わせる凜霞の耳元に、そっと言葉を添えた。
「なにか、あったのですね?」
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