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第一章
第1話
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「じゃあ、行ってきます。」
栗原千尋(くりはら・ちひろ)はリビングにいる母親に声をかけ、勢いよく玄関のドアを開ける。
青空が広がり、空気はすっかり春の臭いだった。
うーん、と声を出しながら千尋は思い切り息を吸い込み、両手を天に向けて伸びをする。
「頑張らなくっちゃ!」
両手で自分の頬を張り、気合を入れた。
20歳になったばかりの千尋は、今日からある家庭の家庭教師をすることになっていた。
なんでも、母の友人から二人の姉妹の勉強を見てあげてくれないか、と頼まれたらしい。
千尋は大学でも英文科を専攻しており、英語の教員を目指していた。
だから少なからず英語には自信があったのだが、他の科目については人並みにできる程度で人に教えることができるレベルじゃない、と初めは渋っていた。
だったらせめて英語だけでもいいから、と母に食い下がられ、それなら了承したのだ。
働くのは西園寺様というお金持ちのご家庭らしい。
初めての千尋に務まるのだろうかという不安もだったけれど、母は大丈夫大丈夫と豪快に背中を叩いた。
お母さんのお友達なのだから、そんなに気負いしなくていいのよ、と。
母親の友人である西園寺明美(さいおんじ・あけみ)という人は看護婦を、明美さんの旦那さんである道彦(みちひこ)は某有名飲食店の経営者だという。
そして今回千尋が勉強を見ることになった、もうすぐ中学二年になる姉妹だ。
母の話だと、年子で同じ学年だという。
千尋は子供が好きだったし、会えるのが楽しみでもあった。
住宅街を抜けると、小高い丘の上に、一家だけ家が建っていた。
おそらくあれが、西園寺家だろう。
門の目の前まで来たところで、想像以上の大きさに千尋は一瞬たじろぐ。
まるで外国の映画に出てきそうな家だった。
お城みたいだ、と千尋は思った。
ごくりと喉を鳴らしてインターフォンに指を伸ばす。
しばらくすると女性の声がして、名乗ると自動的に門が空いた。
玄関から顔を出して出迎えてくれたのは、40代前半くらいの女性だった。
おそらく、明美だろう。
花柄のワンピースがとてもよく似合い、品があって綺麗な人だなと千尋は思った。
「千尋さんですね?今日はありがとうございます。」
そう言って丁寧にお辞儀をしてきたので、千尋も慌てて倣った。
「はい、栗原千尋と言います。あの、宜しくお願いします!」
「娘たちはあちらです。」
そう言って、明美は千尋を案内してくれた。
リビングに通され、入った瞬間、千尋は息を呑んだ。
ソファーに座った女の子二人の視線が千尋に向けられる。
二人はいきなり入ってきたお客にびっくりしたのだろう、同時にびくりと肩を震わせた。
二人とも、信じられないくらい美しく整った顔立ちだった。
陶器のように肌が白く、鼻筋がすっとしていて、まるでお人形のようだった。
ただ、どちらも美しいが、似ているという感じではなかった。
一人は目がぱっちりしていてフランス人形のような可愛らしい印象、もう一人は切れ長の瞳でどちらかというと可愛いというよりは綺麗という印象だった。
「今日から家庭教師をしてくれる方よ。ご挨拶なさい。」
明美に促され、二人はソファーから立ち上がると頭をぺこりと下げる。
その仕草は洗礼されたかのように、優雅だった。
こんにちは、とそのうちの一人の子が先に前に出てにっこりと微笑んだ。
「私、姉の果穂です!」
子供らしい、無邪気な愛らしい笑顔。そして、果穂の声までもがなんとも可愛らしかった。
まるで天使ではないかと思うほどだった。
「ほら、瑞穂もご挨拶なさい。」
姉の果穂に促されて、もう一人の女の子がおずおずと遠慮がちに前に進み出る。
切れ長で少し吊り上がった目が、千尋を見つめる。
「こんにちは、瑞穂です。」
姉の果穂に隠れるようにして、瑞穂は挨拶をした。
果穂はとても人懐っこい感じがあるが、妹の瑞穂のほうは控えめで、大人しい印象を受けた。
「私、栗原千尋です。今日から宜しくね、果穂ちゃん、瑞穂ちゃん。」
これが私、栗原千尋と二人の美しき姉妹との出会いだった。
栗原千尋(くりはら・ちひろ)はリビングにいる母親に声をかけ、勢いよく玄関のドアを開ける。
青空が広がり、空気はすっかり春の臭いだった。
うーん、と声を出しながら千尋は思い切り息を吸い込み、両手を天に向けて伸びをする。
「頑張らなくっちゃ!」
両手で自分の頬を張り、気合を入れた。
20歳になったばかりの千尋は、今日からある家庭の家庭教師をすることになっていた。
なんでも、母の友人から二人の姉妹の勉強を見てあげてくれないか、と頼まれたらしい。
千尋は大学でも英文科を専攻しており、英語の教員を目指していた。
だから少なからず英語には自信があったのだが、他の科目については人並みにできる程度で人に教えることができるレベルじゃない、と初めは渋っていた。
だったらせめて英語だけでもいいから、と母に食い下がられ、それなら了承したのだ。
働くのは西園寺様というお金持ちのご家庭らしい。
初めての千尋に務まるのだろうかという不安もだったけれど、母は大丈夫大丈夫と豪快に背中を叩いた。
お母さんのお友達なのだから、そんなに気負いしなくていいのよ、と。
母親の友人である西園寺明美(さいおんじ・あけみ)という人は看護婦を、明美さんの旦那さんである道彦(みちひこ)は某有名飲食店の経営者だという。
そして今回千尋が勉強を見ることになった、もうすぐ中学二年になる姉妹だ。
母の話だと、年子で同じ学年だという。
千尋は子供が好きだったし、会えるのが楽しみでもあった。
住宅街を抜けると、小高い丘の上に、一家だけ家が建っていた。
おそらくあれが、西園寺家だろう。
門の目の前まで来たところで、想像以上の大きさに千尋は一瞬たじろぐ。
まるで外国の映画に出てきそうな家だった。
お城みたいだ、と千尋は思った。
ごくりと喉を鳴らしてインターフォンに指を伸ばす。
しばらくすると女性の声がして、名乗ると自動的に門が空いた。
玄関から顔を出して出迎えてくれたのは、40代前半くらいの女性だった。
おそらく、明美だろう。
花柄のワンピースがとてもよく似合い、品があって綺麗な人だなと千尋は思った。
「千尋さんですね?今日はありがとうございます。」
そう言って丁寧にお辞儀をしてきたので、千尋も慌てて倣った。
「はい、栗原千尋と言います。あの、宜しくお願いします!」
「娘たちはあちらです。」
そう言って、明美は千尋を案内してくれた。
リビングに通され、入った瞬間、千尋は息を呑んだ。
ソファーに座った女の子二人の視線が千尋に向けられる。
二人はいきなり入ってきたお客にびっくりしたのだろう、同時にびくりと肩を震わせた。
二人とも、信じられないくらい美しく整った顔立ちだった。
陶器のように肌が白く、鼻筋がすっとしていて、まるでお人形のようだった。
ただ、どちらも美しいが、似ているという感じではなかった。
一人は目がぱっちりしていてフランス人形のような可愛らしい印象、もう一人は切れ長の瞳でどちらかというと可愛いというよりは綺麗という印象だった。
「今日から家庭教師をしてくれる方よ。ご挨拶なさい。」
明美に促され、二人はソファーから立ち上がると頭をぺこりと下げる。
その仕草は洗礼されたかのように、優雅だった。
こんにちは、とそのうちの一人の子が先に前に出てにっこりと微笑んだ。
「私、姉の果穂です!」
子供らしい、無邪気な愛らしい笑顔。そして、果穂の声までもがなんとも可愛らしかった。
まるで天使ではないかと思うほどだった。
「ほら、瑞穂もご挨拶なさい。」
姉の果穂に促されて、もう一人の女の子がおずおずと遠慮がちに前に進み出る。
切れ長で少し吊り上がった目が、千尋を見つめる。
「こんにちは、瑞穂です。」
姉の果穂に隠れるようにして、瑞穂は挨拶をした。
果穂はとても人懐っこい感じがあるが、妹の瑞穂のほうは控えめで、大人しい印象を受けた。
「私、栗原千尋です。今日から宜しくね、果穂ちゃん、瑞穂ちゃん。」
これが私、栗原千尋と二人の美しき姉妹との出会いだった。
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