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第一章
第10話
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「で、ここはこっちの公式を使うから…あてはめると……」
千尋は今、瑞穂の勉強を見てあげていた。
さきほど姉の果穂の勉強を終え、瑞穂と交代したのだ。
千尋は特に何の気もなしに「じゃあ、瑞穂ちゃんの勉強から見よっか。」と言ったのだが、それを聞いた果穂は「姉の私が先に決まってるじゃない!」と激怒した。
ここに来てから、瑞穂はいつも姉に一番を譲っていたのは知っていたのだが、それは暗黙の了解だったらしい。
だけどいつも瑞穂が二番目で可哀そうに感じていた千尋は、たまにならと瑞穂に声をかけたのだった。
しかし、それが果穂の怒りを買うことになってしまった。
ごめんね、と謝ると「気をつけてよ。」と冷たく言われ、千尋はその目に竦んでしまった。
中学生なのに、果穂相手にすると、いつも年上と対話しているかのように緊張してしまう。
勉強の時も「教え方が下手。」「ちゃんと分かりやすく教えなさい。」などと指摘されてばかりだ。
これではどちらが先生なのか分かったものじゃない。
だけど、瑞穂は…
と千尋はちらっと瑞穂の横顔を見つめる。
大人しくて物静かな瑞穂の相手をするのは、千尋にとってとてもやりやすかった。
なんというか、少しほっとする。
それに、元々瑞穂は頭もいいのだろう。果穂も賢いが、瑞穂も負けず劣らず…いやそれ以上に頭が良かった。
教えたことはすぐに吸収してしまい、目を見張るほどだった。
これほどの頭脳を持っているなら、わざわざ家庭教師など付けなくても良いのではないか、とさえ思ってしまう。
「先生、どうしましたか?」
千尋の視線に気づいた瑞穂が、ペンを止めてこちらを見ていた。
千尋ははっとして胸の前で手を振る。
「なんでもないよ!瑞穂ちゃんは綺麗だなーって見ていただけ。」
あながち嘘ではない。
瑞穂は、果穂とはまた違った美貌を持っている。
果穂はどちらかと言うと「可愛らしい」が、瑞穂は「綺麗」という表現が合っている。
切れ長の目に、まっすぐに長く伸びた栗色の髪。
物静かだけれど、その瞳にはなぜか影があるような鋭さがあった。
瑞穂ははにかむように頬に手を当てた。
彼女のそんな表情は珍しい。
姉の果穂の前ではあまり見せない表情だけれど、千尋の前ではこうして子供らしい一面も見せてくれた。
「そんな、とんでもないです。」
「ねぇ、瑞穂ちゃんはいつも果穂ちゃんの後でいいの?」
「え?」
「あ、いや、あの…いっつも果穂ちゃんを優先してあげてるでしょう?なにをするにも果穂ちゃんが一番で。だから、瑞穂ちゃんはそれでいいのかなぁって思って。」
そう問うと、瑞穂はきょとんとして目をしばたたかせた。
心底不思議そうに。
「それはお姉様ですから、当然です。私は妹という立場なのですから。」
「そ、そっか。果穂ちゃんがいいならいいんだけど。果穂ちゃんは、お姉ちゃんのことが好きなのね。」
ほんの一瞬だけだったと思う。
ふっと瑞穂の顔が曇ったように感じた。
だけど、すぐに彼女は天使のような笑顔を浮かべた。
「ええ、もちろん大好きです。私の自慢の姉ですから。」
千尋は今、瑞穂の勉強を見てあげていた。
さきほど姉の果穂の勉強を終え、瑞穂と交代したのだ。
千尋は特に何の気もなしに「じゃあ、瑞穂ちゃんの勉強から見よっか。」と言ったのだが、それを聞いた果穂は「姉の私が先に決まってるじゃない!」と激怒した。
ここに来てから、瑞穂はいつも姉に一番を譲っていたのは知っていたのだが、それは暗黙の了解だったらしい。
だけどいつも瑞穂が二番目で可哀そうに感じていた千尋は、たまにならと瑞穂に声をかけたのだった。
しかし、それが果穂の怒りを買うことになってしまった。
ごめんね、と謝ると「気をつけてよ。」と冷たく言われ、千尋はその目に竦んでしまった。
中学生なのに、果穂相手にすると、いつも年上と対話しているかのように緊張してしまう。
勉強の時も「教え方が下手。」「ちゃんと分かりやすく教えなさい。」などと指摘されてばかりだ。
これではどちらが先生なのか分かったものじゃない。
だけど、瑞穂は…
と千尋はちらっと瑞穂の横顔を見つめる。
大人しくて物静かな瑞穂の相手をするのは、千尋にとってとてもやりやすかった。
なんというか、少しほっとする。
それに、元々瑞穂は頭もいいのだろう。果穂も賢いが、瑞穂も負けず劣らず…いやそれ以上に頭が良かった。
教えたことはすぐに吸収してしまい、目を見張るほどだった。
これほどの頭脳を持っているなら、わざわざ家庭教師など付けなくても良いのではないか、とさえ思ってしまう。
「先生、どうしましたか?」
千尋の視線に気づいた瑞穂が、ペンを止めてこちらを見ていた。
千尋ははっとして胸の前で手を振る。
「なんでもないよ!瑞穂ちゃんは綺麗だなーって見ていただけ。」
あながち嘘ではない。
瑞穂は、果穂とはまた違った美貌を持っている。
果穂はどちらかと言うと「可愛らしい」が、瑞穂は「綺麗」という表現が合っている。
切れ長の目に、まっすぐに長く伸びた栗色の髪。
物静かだけれど、その瞳にはなぜか影があるような鋭さがあった。
瑞穂ははにかむように頬に手を当てた。
彼女のそんな表情は珍しい。
姉の果穂の前ではあまり見せない表情だけれど、千尋の前ではこうして子供らしい一面も見せてくれた。
「そんな、とんでもないです。」
「ねぇ、瑞穂ちゃんはいつも果穂ちゃんの後でいいの?」
「え?」
「あ、いや、あの…いっつも果穂ちゃんを優先してあげてるでしょう?なにをするにも果穂ちゃんが一番で。だから、瑞穂ちゃんはそれでいいのかなぁって思って。」
そう問うと、瑞穂はきょとんとして目をしばたたかせた。
心底不思議そうに。
「それはお姉様ですから、当然です。私は妹という立場なのですから。」
「そ、そっか。果穂ちゃんがいいならいいんだけど。果穂ちゃんは、お姉ちゃんのことが好きなのね。」
ほんの一瞬だけだったと思う。
ふっと瑞穂の顔が曇ったように感じた。
だけど、すぐに彼女は天使のような笑顔を浮かべた。
「ええ、もちろん大好きです。私の自慢の姉ですから。」
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