ヴィーナスは微笑む~Another story~

蒼井 結花理

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第一章

第22話

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「どういうことなんだろう?」


帰り道、千尋と春華はうーんと唸りながら肩を並べて歩いていた。


東雲綾乃を助けるために潜入捜査まがいのことまでしたのに、結局謎が一層深まる結果になってしまった。


綾乃の話によると、西園寺姉妹に声をかけた生徒が次々とケガを負うなどの被害を被っているという話だった。


その事実を確かめるために、水ノ森中学校に入り込んだのだが。


東雲綾乃のクラスの委員長、深海薫から意外な言葉が飛び出した。


そんな事実は聞いたことがない、東雲綾乃の嘘ではないかと。


その後、念のために千尋と春華は他のクラスの子達にもこっそり話を聞きに回ったのだが、皆「知らない」「聞いたことない」という答えばかりだった。


となると。



「やっぱり綾乃ちゃんの嘘だった、ってことかな…?」


「うーん……でも見ず知らずの私に、そんな嘘つく必要ある?」


「それはそうだけど……」


「あの時の綾乃ちゃんは直接私に"助けて"とは言わなかったけど、明らかにSOSを出してたんだよ。本当に怯えてたし嘘をついているようには見えなかった。」


「そっかぁ、ちぃちゃんがそこまで言うならそうなんだろうね。でも、それじゃあなんで他の生徒はみんな知らないのかな。そんなことが起きているなら、さすがに噂になると思うんだけど……」


春華は分からない、と言ったように肩を竦めた。


「とにかく、綾乃ちゃんにもっかい話を聞いてみるしかないか。」


「そうだね。綾乃ちゃんとは連絡先交換してたんだ?」


「うん。一応何かあった時のためにって。放っておけない感じだったし。」


「そっか。」


春華がうんうん、と頷く。


「綾乃ちゃんはきっと勇気を出してちぃちゃんに話してくれたんだと思う。だから、ちぃちゃんがしっかり力になってあげてね。私も協力するから。」


「うん。」


「人の妬みっていうのは、思った以上に怖いから…」


そう言って、春華は悲しそうに顔を歪ませた。



そういえば春華は小さい頃、いじめにあったことがあったらしい。


特に女子からの風当りが強かったのだという。


春華はいじめられていた理由は分からないと言っていたが、千尋には分からなくはない気がしていた。


春華は元から人並み外れた容姿をしていたから、きっと妬みの的になっていたのだろう。


小さい子というのは純粋で、正直で、そして時に残酷なものだ。


そういう過去があったからこそ、今回の綾乃の話は見過ごすことができなかったのだろうと千尋は思った。


今回の大胆な行動に走ったのも、本当に綾乃のためを思ってのことなのだ。


ちらりと春華の横顔を見ると、その目にはうっすら涙が浮かんでいる。


もしかしたら、過去の自分と綾乃を重ねて見ているのかもしれない。



「やだ、ごめん!なんだかしんみりしちゃった!この話は終わり!」


春華が暗い空気を跳ね返すように、両手をぱちんと叩いた。


「それよりちぃちゃん!もちろん綾乃ちゃんのことも大事だけど、ちゃんと彼氏くんのことも考えてあげないとダメだよ。」


「え?」


「綾乃ちゃんのことばかり気を取られて後回しにされたら、湊くん傷つくよ~」


春華がいたずらっ子のように舌を出しながら、ふふっと笑った。


「はいはい、分かってるよぉ!」


「いいなぁ、ちぃちゃんは!毎日が幸せで。」


「ちょっと!春華が幸せじゃないみたいな風に言わないでよ!」


「嘘嘘、幸せだよ!だって大好きなちぃちゃんといつも一緒だもん!」



そう言って、春華はぎゅーっとくっついてきた。


その瞬間、仄かにふんわりと桃の香りが鼻をついた。
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