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三章
第69話 思い、思われ
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「……お、真桜。」
誰かの声が耳元で響き、真桜はゆっくりと目を開ける。
目の前には拓海の顔があった。
「…お兄ちゃん!」
ガバッと勢いよく顔を上げると、はらりと肩から何かが落ちた。
見るとタオルケットだった。
兄がかけてくれたのだろうか。
「大丈夫か?何度か呼んだんだけど、だいぶぐっすり寝てたな。」
冷蔵庫から大好きなオレンジジュースを取り出しながら、拓海は苦笑して言った。
あれ?瑞穂さんは?
さっきまで家にいて話してたよね?
目を擦りながらスマホを手に取ると、青い通知ランプが点滅していた。
画面を見ると、瑞穂からだった。
『話してる途中で真桜ちゃん寝ちゃったから、先に帰っちゃった。疲れてたのかな?ゆっくりしてね( ^^) _旦~~』
あちゃー。やっぱり寝ちゃってたのか。
話してる途中で寝ちゃうだなんて、なんて失礼なこと……
そう思いはぁっとため息を吐こうとして、はっと飲み込んだ。
さきほど瑞穂に言われた言葉が、走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
"妹のあなたには言えないことが沢山ある"
"時にはあなたのためなら自分を犠牲にすることだってあるでしょうね。"
真桜は思わず両手で肩を抱いていた。
私のせいで、お兄ちゃんが負担になっている?
いつだって明るいお兄ちゃんだけど、それは私の前だから無理してるだけなの?
「…真桜?どうした?」
よほど怖い顔をしていたのか、拓海が心配そうに顔を覗き込んでくる。
真桜は顔を上げると、無理矢理笑みを作った。
「なんでもないよ!お兄ちゃん今日はご飯何にしよっか?」
その様子に安心したのか、拓海も笑顔を見せた。
「何にすっかなー。真桜の好きなハンバーグはどうだ?」
「わーい!賛成!」
「おし、待ってろ。今作ってやるからな。」
フンフンと鼻歌を歌いながら台所に向かう拓海の背中を見送ると、真桜は笑顔の仮面をすっと外した。
**********
バイトの帰り道、舞ははぁ、と深いため息を吐いた。
今日のバイト中はミスをしてばかりだった。
絵理には"めずらしいわね"なんて言われたけれど、原因は分かっている。
LINEで真桜が変なことを言ったからだ。
拓海が私のことを好き、だなんて。
そんなことはありえない、と舞は心の中で否定した。
拓海と私はバイト先の先輩後輩で、少し仲が良いというだけ。
頼りになる優しいお兄ちゃん。
拓海に対しては、それ以上の感情はなかった。
少なくとも、舞にとっては。
それに万が一にも真桜が言ったことが本当だとしても…困るのだ。
拓海は、友人である千早が好きな人なのだから。
いつもはへらへらしている拓海でも、千早の気持ちはとうに分かっているはずだ。
(あれだけ分かりやすいのだから…)
分かっていて、拓海はそれ以上千早には踏み込ませないようにさりげなく線を引いている。そして、千早も彼に対して見返りは求めていない。
もし拓海が私に好意を持っていたとしても、さすがに私にそのことを伝えてくることはないだろう。
千早と私との仲を壊すようなことを、絶対にしない。
そういう人じゃないと、断言できた。
それにしても。
「恋って、上手くいかないものだな…」
無意識に出た言葉が、切なく夜の空へと溶けていく。
「そうですよねー。」
「えっ?」
独り言に返されて、びっくりして振りかえると。
「バイト帰りですか?舞先輩。」
そこには、雨宮紗耶香が立っていた。
誰かの声が耳元で響き、真桜はゆっくりと目を開ける。
目の前には拓海の顔があった。
「…お兄ちゃん!」
ガバッと勢いよく顔を上げると、はらりと肩から何かが落ちた。
見るとタオルケットだった。
兄がかけてくれたのだろうか。
「大丈夫か?何度か呼んだんだけど、だいぶぐっすり寝てたな。」
冷蔵庫から大好きなオレンジジュースを取り出しながら、拓海は苦笑して言った。
あれ?瑞穂さんは?
さっきまで家にいて話してたよね?
目を擦りながらスマホを手に取ると、青い通知ランプが点滅していた。
画面を見ると、瑞穂からだった。
『話してる途中で真桜ちゃん寝ちゃったから、先に帰っちゃった。疲れてたのかな?ゆっくりしてね( ^^) _旦~~』
あちゃー。やっぱり寝ちゃってたのか。
話してる途中で寝ちゃうだなんて、なんて失礼なこと……
そう思いはぁっとため息を吐こうとして、はっと飲み込んだ。
さきほど瑞穂に言われた言葉が、走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
"妹のあなたには言えないことが沢山ある"
"時にはあなたのためなら自分を犠牲にすることだってあるでしょうね。"
真桜は思わず両手で肩を抱いていた。
私のせいで、お兄ちゃんが負担になっている?
いつだって明るいお兄ちゃんだけど、それは私の前だから無理してるだけなの?
「…真桜?どうした?」
よほど怖い顔をしていたのか、拓海が心配そうに顔を覗き込んでくる。
真桜は顔を上げると、無理矢理笑みを作った。
「なんでもないよ!お兄ちゃん今日はご飯何にしよっか?」
その様子に安心したのか、拓海も笑顔を見せた。
「何にすっかなー。真桜の好きなハンバーグはどうだ?」
「わーい!賛成!」
「おし、待ってろ。今作ってやるからな。」
フンフンと鼻歌を歌いながら台所に向かう拓海の背中を見送ると、真桜は笑顔の仮面をすっと外した。
**********
バイトの帰り道、舞ははぁ、と深いため息を吐いた。
今日のバイト中はミスをしてばかりだった。
絵理には"めずらしいわね"なんて言われたけれど、原因は分かっている。
LINEで真桜が変なことを言ったからだ。
拓海が私のことを好き、だなんて。
そんなことはありえない、と舞は心の中で否定した。
拓海と私はバイト先の先輩後輩で、少し仲が良いというだけ。
頼りになる優しいお兄ちゃん。
拓海に対しては、それ以上の感情はなかった。
少なくとも、舞にとっては。
それに万が一にも真桜が言ったことが本当だとしても…困るのだ。
拓海は、友人である千早が好きな人なのだから。
いつもはへらへらしている拓海でも、千早の気持ちはとうに分かっているはずだ。
(あれだけ分かりやすいのだから…)
分かっていて、拓海はそれ以上千早には踏み込ませないようにさりげなく線を引いている。そして、千早も彼に対して見返りは求めていない。
もし拓海が私に好意を持っていたとしても、さすがに私にそのことを伝えてくることはないだろう。
千早と私との仲を壊すようなことを、絶対にしない。
そういう人じゃないと、断言できた。
それにしても。
「恋って、上手くいかないものだな…」
無意識に出た言葉が、切なく夜の空へと溶けていく。
「そうですよねー。」
「えっ?」
独り言に返されて、びっくりして振りかえると。
「バイト帰りですか?舞先輩。」
そこには、雨宮紗耶香が立っていた。
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