何でも屋(仮)

牡丹

文字の大きさ
上 下
4 / 4
1章

3話

しおりを挟む

少女の話を聞いてすぐに思いつく名前があった。

「…その学者ってもしかして、飯嶋直人?」

その名前を聞いて少女の目がこれでもかってくらい開いた。

「アイツを知ってるんですか…!?」

私は思わず顔をしかめる。


飯嶋直人。
学者とは名ばかりで、何も知識を持たない老人から貴重な品物を奪ってはコレクターに売りさばいているとこっちの世界でも有名な噂だ。

売りさばいてるコレクターは富裕層からヤクザ、マフィア、政治と多岐に渡っていた。


強盗、もしもそのターゲットがこちら側の人間だとしたら少々骨が折れる。

「とりあえず話はわかった。
けど、まだ肝心なことを聞けてない」

「肝心なこと…?」

少女の言葉に私は頷く。


「私のことどこで知ったの?」

「…1週間くらい前、お金を借りに行ったんです。70万円」

「は?」

「そこで偉い人っぽいお爺さんに聞かれたんです。何で私みたいな子がそんな大金を借りようと思ったのか。

それで祖父のことを全部話したんです。私の貯金30万円と合わせて100万円。これだけあればあの男も祖母の形見を返してくれるんじゃないかって」

「馬鹿ね」

飯嶋が狙うほどの品物だとしたら100万円ぽっちの金じゃきっと足元にも及ばない。


「… お爺さんにもそう言われました。
そしたら、お爺さんが何でも屋さんのことを教えてくれたんです。ここならきっと解決してくれるって」


私のことを紹介できて、そんなことをする奴は知る限り1人しか知らない。

逢坂組の組長、逢坂平八郎だ。


「あのクソジジイ…」


人情派のあの人がいかにもやりそうなことだ。大方、無垢で堅気丸出しのこの子を放っておけなかったのだろう。



思わず大きなため息が出る。


「わかったわ。貴女の依頼を受けるわ」

「ありがとうござ「だだし、」

私は少女の言葉を遮る。


「前金800万円。ターゲットによって、プラスで500~1000万円くらい、その値段が貴女に払えるならね」

歓喜の色に染まっていた少女の顔にみるみると絶望が広がっていく。


「そんな大金私にはとても…」

「でしょうね。ならすぐに帰ってちょうだい。
本来なら一般人をタダで帰す訳にはいかないけど特別に何もなかったことにしてあげるから」

「そんな…!なら祖母の形見を諦めろってことですか…!?」

そう言った少女がすぐに言葉を飲む。

私が投げたナイフが少女の頬をかすり頬からはうっすらと血が流れたからだ。


「さっきからごちゃごちゃとうるさいな。悪いけど、あのジジイと違って私はお人好しじゃないの。

こっちはボランティアじゃないのよ。お金が払えないなら帰れ」

少女は恐怖からかカタカタと震える。


「あぁ!でも、私の知り合いに若い女を拷問するのが好きな変態が居てね。
見たところ健康そうだし、そいつに貴女を売れば前金くらいにはなるかもね」


私は少女が座っている後ろに回り込む。


「生きたまま1枚ずつ爪を剥がされ、舌を切られ、目を焼かれる……。


貴女にその覚悟がある?」


耳元で囁くと少女は震えたまま涙をボロボロと流す。





これだけ怖がらせれば充分か。


「分かったら大人しく帰りなさい」

「……………………わかりました。
私をその人に売って下さい」

少女の言葉に私は動きが止まる。

「……本気で言ってるの?」

「…本気です。それだけ私は自分の行動を後悔しているんです。



おじいちゃんは、本当に優しい人でした。私のせいでこんな目に合うなんて許せない……」


私は少女の目をじっとのぞき込む。


決して嘘や強がりには思えなかった。
本気だ。本気でこの子は覚悟した。



「…………ははっ」

面白い。まさか一般人のこの子がそこまで覚悟するとは。

たかだか血が繋がっているだけで幼いこの子がここまで覚悟するなんて、理解出来ない。

理解出来ないからこそ、気が向いた。



「いいわね、貴女。気に入った」

私は少女にニッコリと笑いかけ、改めて少女の向かいに腰掛ける。


「こう見えて私は気まぐれな性格でね。


貴女の運命はこれで決めようか」




目の前の机に1枚のコインを差し出すと少女は戸惑ったような顔をこちらに向けた。


「コインを投げて表が出たら、そうね…貯金とやらの30万円で貴女の依頼を受ける。
裏が出たら、貴女を売り飛ばして依頼を受ける。

どう?やるかやらないかは貴女の自由よ」

微笑みながら差し出す私に少女はゴクリと息を飲んだ。


「…どちらが出ても私の依頼を受けてくれるんですよね」

「えぇ、お婆さんの形見はきっちり取り返してお爺さんに返す。
どっちにしても破格の値段よ」

「……やります」

「そう来なくっちゃ」

少女は緊張した面持ちでコインを受け取ると、落ち着かせるように大きく深呼吸をした。


「私を助けて、おばあちゃん……」

少女はそう言うと、

コインを投げた。




コインは机の上に落ち、出た目は………









「表…………」

少女が脱力したようにソファーに深く寄りかかる。



「OK、それじゃあ成功報酬30万円で貴女の依頼を受けるわ」

「よろしく、お願いします…」

涙声で言い、深く頭を下げる少女の肩に手を置く。

「藤岡桜様、貴女の依頼はこの何でも屋 相澤愛華が必ず叶えましょう」





しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...