27 / 39
2nd GAME
12th inning : 「妾とともに、夢を」
しおりを挟む
「ブッブーッ。違うよ、ボールが体に当たってもね、ストライクゾーンを通ってたら、ストライクなんだよ」
なるほど。珠姫は物知りじゃの。
「えっへへ、今、勉強してるからー。わたしね、中学のチームでピッチャーになったの! 男の子にだって負けないんだから!」
ほう、では珠姫はあれを目指しておるのか?
「アレ?」
なんじゃったか、毎年暑い盛りに、よく『すまほ』で見せてくれる、こう、こうす……?
「甲子園? うーん、でもでもね、高校野球だと、女の子は試合に出られないんだって」
そうなのか。
世は変わったと聞くが、相変わらず、おなごが出られぬ場もあるのじゃな。
「そーなの。でもでもね、だいじょーぶ! わたしには、甲子園よりもっとでっかい夢があるのですっ!」
夢?
「うんっ。ズバリ! メジャーリーグ!」
め? めじゃあ、るぅ……?
「メジャー、リーグ。アメリカってとこにあってね、そこには世界中からすっごい野球選手が集まってくるの。昔、定吉おじいちゃんが言ってた。女でも夢はでっかく持てって。日本一になれないんなら、世界一になれって!」
なんと。すごいの、珠姫は……
妾は思いもせなんだ。この世界の一番、などと。
「えへへ。ねぇ、きゅーびちゃん。わたしの夢、応援してくれる?」
無論じゃ。妾には何もできぬが、せめて願おうぞ。
めじゃあ……りぃぐ。
世界一、か。
「はぁ……」
どうしたのじゃ、疲れた顔をして。
野球の練習が厳しいのか。
「うーん、それもあるけど、最近、なんかすっごく疲れやすいの。握力も弱ってて、球数投げられないし……うーん、なんでだろ」
年ではないのか?
「し、失礼なっ! まだピチピチの女子高生だよぉ!」
ふふ、怒るな。戯言じゃ。
「むー、きゅーびちゃんキライ。もう来てあげない」
なんと、それは困る。
すまなんだ、許してたも。
「ふふっ……。……あのね。本当に、これからあんまり来れないかもしれないんだ」
む?
「お父さんに、ここに来てるのがバレちゃった。きゅーびちゃんとお話してることは、黙ってたけど……すっごい怒られちゃった」
……そうか。
「うちの家ね、ずーっとずっーと昔から、きゅーびちゃんを封じ込めるのがお役目なんだって。お父さんは、きゅーびちゃんの声が聞こえないみたい。だから、分からないんだ。きゅーびちゃんが本当は悪い妖怪なんかじゃないって」
悪い妖怪じゃよ、妾は。
「そんなことないよ! わたし、分かるもん! きゅーびちゃんは……!」
もうよい、珠姫。
妾はぬしがそう言ってくれるだけで十分じゃ。
「……あのね、きゅーびちゃん。わたしね、夢があるの」
めじゃあ・りぃぐ、じゃろう。覚えておるぞ。
「うん。それもだけど、もう一つ」
ほう、それはまた欲張りなことじゃ。
して、何じゃ?
「……ないしょ」
これ、それはなかろう。
話を振ってきたきたのはぬしではないか。
「えへへ……。あっ、いけない。お父さんが帰ってきちゃう。それじゃあ、またね!」
うむ。気をつけて帰れよ。
……本当に疲れておるようじゃな、あやつ。
珠姫。
珠姫よ。
そこにおるか。
……今日も、来ておらぬか。
もうひと月になるか。
ふふ。滑稽じゃ。
封じられて幾百年、細かい日を数えることなど、とうに捨てたというのに。
あの小娘一人が来るのを、恋焦がれるように待ちわびておる。この九尾が。
珠姫よ。妾は知りたい。
ぬしのことを。ぬしの愛する、野球のことを。
珠姫よ……明日は来るか?
「きゅーび、ちゃん……」
おお、珠姫。来たか。半年ぶりじゃな。
しかしどうした。わざわざこんな真夜中の、大雨の中……で……?
「えへへ、ごめんね……会いにこれなくて……」
珠姫。
ぬし、その姿は。
「えへへ。髪の毛、ぼさぼさでしょ……全然手入れしてないから……」
そんなことではない!
その体……!
「うん……すっごい細くなっちゃった……」
いったい、なにが……
「わたし、ね……病気なんだって……。体の筋肉が、だんだん弱ってくる……」
……。
「もう、ほとんど歩けなくて……息も苦しくて……お医者さんもお父さんも大丈夫、きっとよくなるって言うけど……分かるの。もうこのまま、治らないんだって」
馬鹿な……馬鹿な!
なら、なぜじっとしておらぬ。
その格好、寝間着であろう。
病院とやらに、いたのでないのか。
まさか着の身着のまま、抜け出してきたのか?
「動けなくなる前に、どうしても、来たかったの……」
なぜ!
「こうするため……」
――?
……珠姫。
ぬし、封印を……
「よかった。夢がかなって……」
ぬしの夢というのは、妾の封印を……
「うん……。このお札、わたしの家の血筋じゃないと剥がせないんだって……。えへへ、ご先祖さまに怒られちゃうね……」
……。
「でも、何百年も、ずっとこんなところに閉じ込めてるほうが、ずっとひどいよ。だから……この夢だけは、絶対に叶えたかったの。世界一の夢は……もう、叶わないから……」
……珠姫。
「わたし……死んじゃうのかな……? 『ごくらく』に……行っちゃうのかな……?」
珠姫。
「……『ごくらく』には……やきゅう、あるかなぁ………。………」
珠姫! しっかりせい!
起きよ! こんなところで……!
……駄目じゃ。
死ぬな。
死ぬな、珠姫。
妾の力を貸してやる。
妾がぬしの夢を叶えてやる。
めじゃあ・りぃぐに連れていってやる。
世界一に、してやる。
だから、生きよ。
生きて、生きて、妾とともに、夢を――
なるほど。珠姫は物知りじゃの。
「えっへへ、今、勉強してるからー。わたしね、中学のチームでピッチャーになったの! 男の子にだって負けないんだから!」
ほう、では珠姫はあれを目指しておるのか?
「アレ?」
なんじゃったか、毎年暑い盛りに、よく『すまほ』で見せてくれる、こう、こうす……?
「甲子園? うーん、でもでもね、高校野球だと、女の子は試合に出られないんだって」
そうなのか。
世は変わったと聞くが、相変わらず、おなごが出られぬ場もあるのじゃな。
「そーなの。でもでもね、だいじょーぶ! わたしには、甲子園よりもっとでっかい夢があるのですっ!」
夢?
「うんっ。ズバリ! メジャーリーグ!」
め? めじゃあ、るぅ……?
「メジャー、リーグ。アメリカってとこにあってね、そこには世界中からすっごい野球選手が集まってくるの。昔、定吉おじいちゃんが言ってた。女でも夢はでっかく持てって。日本一になれないんなら、世界一になれって!」
なんと。すごいの、珠姫は……
妾は思いもせなんだ。この世界の一番、などと。
「えへへ。ねぇ、きゅーびちゃん。わたしの夢、応援してくれる?」
無論じゃ。妾には何もできぬが、せめて願おうぞ。
めじゃあ……りぃぐ。
世界一、か。
「はぁ……」
どうしたのじゃ、疲れた顔をして。
野球の練習が厳しいのか。
「うーん、それもあるけど、最近、なんかすっごく疲れやすいの。握力も弱ってて、球数投げられないし……うーん、なんでだろ」
年ではないのか?
「し、失礼なっ! まだピチピチの女子高生だよぉ!」
ふふ、怒るな。戯言じゃ。
「むー、きゅーびちゃんキライ。もう来てあげない」
なんと、それは困る。
すまなんだ、許してたも。
「ふふっ……。……あのね。本当に、これからあんまり来れないかもしれないんだ」
む?
「お父さんに、ここに来てるのがバレちゃった。きゅーびちゃんとお話してることは、黙ってたけど……すっごい怒られちゃった」
……そうか。
「うちの家ね、ずーっとずっーと昔から、きゅーびちゃんを封じ込めるのがお役目なんだって。お父さんは、きゅーびちゃんの声が聞こえないみたい。だから、分からないんだ。きゅーびちゃんが本当は悪い妖怪なんかじゃないって」
悪い妖怪じゃよ、妾は。
「そんなことないよ! わたし、分かるもん! きゅーびちゃんは……!」
もうよい、珠姫。
妾はぬしがそう言ってくれるだけで十分じゃ。
「……あのね、きゅーびちゃん。わたしね、夢があるの」
めじゃあ・りぃぐ、じゃろう。覚えておるぞ。
「うん。それもだけど、もう一つ」
ほう、それはまた欲張りなことじゃ。
して、何じゃ?
「……ないしょ」
これ、それはなかろう。
話を振ってきたきたのはぬしではないか。
「えへへ……。あっ、いけない。お父さんが帰ってきちゃう。それじゃあ、またね!」
うむ。気をつけて帰れよ。
……本当に疲れておるようじゃな、あやつ。
珠姫。
珠姫よ。
そこにおるか。
……今日も、来ておらぬか。
もうひと月になるか。
ふふ。滑稽じゃ。
封じられて幾百年、細かい日を数えることなど、とうに捨てたというのに。
あの小娘一人が来るのを、恋焦がれるように待ちわびておる。この九尾が。
珠姫よ。妾は知りたい。
ぬしのことを。ぬしの愛する、野球のことを。
珠姫よ……明日は来るか?
「きゅーび、ちゃん……」
おお、珠姫。来たか。半年ぶりじゃな。
しかしどうした。わざわざこんな真夜中の、大雨の中……で……?
「えへへ、ごめんね……会いにこれなくて……」
珠姫。
ぬし、その姿は。
「えへへ。髪の毛、ぼさぼさでしょ……全然手入れしてないから……」
そんなことではない!
その体……!
「うん……すっごい細くなっちゃった……」
いったい、なにが……
「わたし、ね……病気なんだって……。体の筋肉が、だんだん弱ってくる……」
……。
「もう、ほとんど歩けなくて……息も苦しくて……お医者さんもお父さんも大丈夫、きっとよくなるって言うけど……分かるの。もうこのまま、治らないんだって」
馬鹿な……馬鹿な!
なら、なぜじっとしておらぬ。
その格好、寝間着であろう。
病院とやらに、いたのでないのか。
まさか着の身着のまま、抜け出してきたのか?
「動けなくなる前に、どうしても、来たかったの……」
なぜ!
「こうするため……」
――?
……珠姫。
ぬし、封印を……
「よかった。夢がかなって……」
ぬしの夢というのは、妾の封印を……
「うん……。このお札、わたしの家の血筋じゃないと剥がせないんだって……。えへへ、ご先祖さまに怒られちゃうね……」
……。
「でも、何百年も、ずっとこんなところに閉じ込めてるほうが、ずっとひどいよ。だから……この夢だけは、絶対に叶えたかったの。世界一の夢は……もう、叶わないから……」
……珠姫。
「わたし……死んじゃうのかな……? 『ごくらく』に……行っちゃうのかな……?」
珠姫。
「……『ごくらく』には……やきゅう、あるかなぁ………。………」
珠姫! しっかりせい!
起きよ! こんなところで……!
……駄目じゃ。
死ぬな。
死ぬな、珠姫。
妾の力を貸してやる。
妾がぬしの夢を叶えてやる。
めじゃあ・りぃぐに連れていってやる。
世界一に、してやる。
だから、生きよ。
生きて、生きて、妾とともに、夢を――
0
あなたにおすすめの小説
【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました
東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。
王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。
だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。
行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。
冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。
無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――!
王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。
これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
貴方だけが私に優しくしてくれた
バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。
そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。
いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。
しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写と他もすべて架空です。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる