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003.飛躍
しおりを挟む軽い。軽い。体が軽い。息も苦しくない。
街の正面入口の方に走って向かう途中、不謹慎だと思いながらも思わず顔がにやけていた。いつものように走っているつもりでもその速さと疲労はいつもと違っていてオールマイティによって身体的な能力が向上していることを実感していた。さっきは頭が冴える感覚もあったし精神的な面も向上しているのかもしれない。これなら街の衛兵にも引けを取らないぐらいには活躍できそうだ。
体の内から湧き出るような力を感じながら走り続ける。すれ違う街の人達は避難すべき方向と逆走する自分を見て驚いた顔をするが、我に返ったときにはもう声が届かないぐらいの距離がひらいていた。
それにしても、さっきはちょっとクサかったと自分でも思わなくもない。
正義の味方。
誰でも一度は憧れる、あれだ。
まぁ、せっかくの転生。ちょっとぐらい格好つけてもバチは当たらないだろう。
でもあれ、よくよく考えるとスキルで正義の味方って変か?
何かカッコつけたつもりで意味不明なことを口走った痛いヤツになっているかもしれない。まぁ、ハルだからいいか。
そもそもユニークスキルの公表は基本的に自由だ。スキルを隠し通しても罪にはならないが、優れたスキルの場合は公表したほうが就職的な意味では有利になこともある。また、全てのスキルが明るみになったわけではなく毎年新たなスキルの発見が話題になったりもする。低く見積もってもウルトラレアなオールマイティはしばらく誤魔化すのがいいだろう。変なところで目をつけられるのは御免被りたい。能ある鷹はなんとやらだ。というか、よくよく考えれば普通に剣士系のスキルだったとかで誤魔化せばよかった気がしないでもない。
そんなことを考えながら前方を眺めると、街の正面入口の人だかりが見えてきた。どうやら衛兵が集まって防衛ラインを構築しているようだ。
少し手前で足を止め、周囲を見渡して一番高さのある家を見つけると勢いをつけて塀に登り、そのまま屋根によじ登った。
「視界までこうも変わるのか」
屋根の上から街の外を眺めると遠くまではっきりと見えた。どうやら視力も上がっているらしい。
「狩人系のスキルである遠視もこんな感じなのだろうか」
双眼鏡要らずだ。こいつはありがたい。
ただ状況は楽観できるものではなかった。
ざっと百匹近くの黒い集団が街の少し離れたところに集まっている。
「ワイルドボアの群れに…、最後尾にいるのはブラックベアか」
ワイルドボアは山や森が近い環境での出現は珍しくない。見た目はまんま猪である。ギルドのつけた危険度の目安ではDランク。知能は高くなく、動きは速いが直進的な動きなので複数人で側面から対処すれば討伐は難しくない。最後尾にいるブラックベアもそのまま黒い熊だ。ワイルドボアよりは比較的珍しく討伐難易度はCランクに当たる。その体の大きさから想像できない俊敏な動きと鋭い爪は危険度が高い。
とわかったように言っているがどちらも本に書いてあるレベルの知識だけで実際に自分で倒したことはない。さらに問題は数だ。ワイルドボアに壁のよう並んで押し寄せられると側面からの攻撃ができずひとたまりもない。そんな状況が今まさに起ころうとしている。
「しかし、一体なんだって突然こんなことに…」
確かにここ、ムクの街の近くには山あり谷ありで食用のモンスターは街の食料源にもなっている。ワイルドボアやブラックベアも例に漏れず、ときどき大人たちが狩ってはその肉を享受している。モンスターの立場からすると恨みがないわけではないだろうが、そんな仲間意識みたいなものが存在するのだろか。いや、無いとも言い切れないが。
「まぁ、考えてもわかるわけないし、やるだけやってみるか。正義の味方ってやつを」
ちょうどそのとき、前方の黒い集団が遂に街への進行を始めたのだった。
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