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019.風噂
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店に入ると独特な香りがした。
魔法薬の原料だろうか。棚にはあまり見ない植物や魔物の角のような素材が所狭しと並んでいる。テーブルには小瓶に入った薬や、ちょっとしたアクセサリーなんかもある。
「いらっしゃい。おや、リリアかい」
カウンターから声をかけたのは、ベテランを超えて初老と言っていい素敵なおばさまだった。
「いつもお世話になってます。ティタさん」
リリアが明るく挨拶する。顔なじみのようだ。
「明日の入学試験の薬かい?」
「はい、当たりです」
「ほっほ。昨年もそうだったからねぇ…」
そう言いながらティタは棚にある魔法薬を見繕いはじめた。
「まぁこんなところだろう。前はちょっと足りなかったみたいだからねぇ」
試験管に緑の液体の入ったものを十本、同じく赤い液体が入ったものを五本ほど集めると箱に詰め始めた。
「赤いのは緊急用だよ。飲ませ過ぎには注意しな」
「ありがとうございます」
リリアはティタの選択を疑いもせず、そのまま代金を支払った。
なんという無駄のないやりとりだろう。
お互いを完全に信頼しているからこそできる、言うなれば買い物の完成形だ。
なんて密かに感動していたところで、声がかかった。
「さて、お前さんは…」
そう言ってティタから受けた視線は体を突き刺すような、見透かされるような圧を感じた。
スキルか?
咄嗟に自分をベールに包むように想像した。
「ほぉ…」
ティタが一瞬目を見開いた。
「お前さん、名前は?」
「総司だ……です」
「ほぉっほ。お前さんの話しやすい方で構わないよ。それよりも、あんたがオキタかい?」
「? ああ。沖田総司だ」
「なるほど、どおりで」
ティタが納得したようにゆっくりと頷いていると、隣にいたリリアが突然らしくない声をあげた。
「あー―っ!」
声を上げたリリアは同時に我に返って冷静を装うが綻びまくっていた。
「あー、こほん。そう。そういうことだったのね。やっと思い出したわ」
丁寧な風を装っているけどすでに敬語が抜け始めている。追求はしないけれどこっちが素なのかな。
リリアは続ける。
「以前、お祖母様の手紙に書いてあったのよ。エルフの森に迷い込んだ人間が高度な土魔法で見たこともない形だけれどとても理に適った快適な家を作って、どんどん村を住みやすくしていったってね」
リリアが少し興奮気味に説明する。
「あなたが建築家のソウシね!」
「……別に家業にした覚えはないぞ」
土魔法の修行がてらに現代世界の誇る最新の建築デザインを披露したまでだ。
リゾート風や西洋風も試したけれど一番ウケがよかったのは和をイメージした日本風のものだったなぁ。
なんて、ちょっと当時のことが浮かび上がってきたところで我に返る。
「そうか。あのときのエルフのなかにリリアの親族がいたんだな」
「はい、そうみたいです。とても喜ばれていましたよ」
リリアも落ち着きを取り戻してきたようだ。
「それは何よりだ。まぁこっちも魔法やエルフの知恵を教えてもらったからな」
ギブアンドテイク。持ちつ持たれつだ。
「もっと詳しい話を聞きたいのですが、生憎、これから士官学校の方に戻らないといけないのです」
そこまで心底残念そうに言われると悪い気はしないけれど。
「当面はガリオンに滞在するつもりだし、明日も会うだろう、きっと」
「ええ、そうですね」
リリアが嬉しそうに微笑む。
「では、すみません。お先に失礼します。ティタさん、ありがとうございました」
「あぁ。気をつけるんだよ」
リリアは一度お辞儀をすると小走りで駆けていった。
「意外と幼い面があるな」
「リリアがあんな姿を見せるのはちょっと珍しいんだがねぇ。よっぽど興味があったのか、それとも…」
ティタが笑う。
「もっとも、わたしが聞いたオキタソウシの噂話また別の武勇伝だったんだけどねぇ」
どこから話が漏れているんだ…。大概は山の奥やら森の奥で起こった出来事のはずなんだけど。
「話に尾びれや背びれがついてないことを祈りますよ」
ティタのいい暇つぶしを見つけたかのような笑みに、自然とため息が出るのだった。
魔法薬の原料だろうか。棚にはあまり見ない植物や魔物の角のような素材が所狭しと並んでいる。テーブルには小瓶に入った薬や、ちょっとしたアクセサリーなんかもある。
「いらっしゃい。おや、リリアかい」
カウンターから声をかけたのは、ベテランを超えて初老と言っていい素敵なおばさまだった。
「いつもお世話になってます。ティタさん」
リリアが明るく挨拶する。顔なじみのようだ。
「明日の入学試験の薬かい?」
「はい、当たりです」
「ほっほ。昨年もそうだったからねぇ…」
そう言いながらティタは棚にある魔法薬を見繕いはじめた。
「まぁこんなところだろう。前はちょっと足りなかったみたいだからねぇ」
試験管に緑の液体の入ったものを十本、同じく赤い液体が入ったものを五本ほど集めると箱に詰め始めた。
「赤いのは緊急用だよ。飲ませ過ぎには注意しな」
「ありがとうございます」
リリアはティタの選択を疑いもせず、そのまま代金を支払った。
なんという無駄のないやりとりだろう。
お互いを完全に信頼しているからこそできる、言うなれば買い物の完成形だ。
なんて密かに感動していたところで、声がかかった。
「さて、お前さんは…」
そう言ってティタから受けた視線は体を突き刺すような、見透かされるような圧を感じた。
スキルか?
咄嗟に自分をベールに包むように想像した。
「ほぉ…」
ティタが一瞬目を見開いた。
「お前さん、名前は?」
「総司だ……です」
「ほぉっほ。お前さんの話しやすい方で構わないよ。それよりも、あんたがオキタかい?」
「? ああ。沖田総司だ」
「なるほど、どおりで」
ティタが納得したようにゆっくりと頷いていると、隣にいたリリアが突然らしくない声をあげた。
「あー―っ!」
声を上げたリリアは同時に我に返って冷静を装うが綻びまくっていた。
「あー、こほん。そう。そういうことだったのね。やっと思い出したわ」
丁寧な風を装っているけどすでに敬語が抜け始めている。追求はしないけれどこっちが素なのかな。
リリアは続ける。
「以前、お祖母様の手紙に書いてあったのよ。エルフの森に迷い込んだ人間が高度な土魔法で見たこともない形だけれどとても理に適った快適な家を作って、どんどん村を住みやすくしていったってね」
リリアが少し興奮気味に説明する。
「あなたが建築家のソウシね!」
「……別に家業にした覚えはないぞ」
土魔法の修行がてらに現代世界の誇る最新の建築デザインを披露したまでだ。
リゾート風や西洋風も試したけれど一番ウケがよかったのは和をイメージした日本風のものだったなぁ。
なんて、ちょっと当時のことが浮かび上がってきたところで我に返る。
「そうか。あのときのエルフのなかにリリアの親族がいたんだな」
「はい、そうみたいです。とても喜ばれていましたよ」
リリアも落ち着きを取り戻してきたようだ。
「それは何よりだ。まぁこっちも魔法やエルフの知恵を教えてもらったからな」
ギブアンドテイク。持ちつ持たれつだ。
「もっと詳しい話を聞きたいのですが、生憎、これから士官学校の方に戻らないといけないのです」
そこまで心底残念そうに言われると悪い気はしないけれど。
「当面はガリオンに滞在するつもりだし、明日も会うだろう、きっと」
「ええ、そうですね」
リリアが嬉しそうに微笑む。
「では、すみません。お先に失礼します。ティタさん、ありがとうございました」
「あぁ。気をつけるんだよ」
リリアは一度お辞儀をすると小走りで駆けていった。
「意外と幼い面があるな」
「リリアがあんな姿を見せるのはちょっと珍しいんだがねぇ。よっぽど興味があったのか、それとも…」
ティタが笑う。
「もっとも、わたしが聞いたオキタソウシの噂話また別の武勇伝だったんだけどねぇ」
どこから話が漏れているんだ…。大概は山の奥やら森の奥で起こった出来事のはずなんだけど。
「話に尾びれや背びれがついてないことを祈りますよ」
ティタのいい暇つぶしを見つけたかのような笑みに、自然とため息が出るのだった。
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