25 / 62
024.平常
しおりを挟む俺は今どんな顔をしているだろうか。
あんなに明るくて人懐っこかったハルが冷酷?
にわかに信じることができない。
ムクの街で起こった魔物の侵攻がハルを精神的に変えてしまったのだろうか。
「俺が街を離れなかったら……もっと早く戻っていれば……」
「たらればを繰り返しても、どうしようもないでしょ」
そうは言うけれど、やはり悔やむ気持ちが消えない。
「それに一年早く戻っていればあたしや村長と会うこともなかったのよ。そうなってたと思うと……寂しいわ。あたしは」
何も言えずにいるとカスミが続けた。
「ミハルが死んでしまっていたらどうしようもなかった。でも生きていれば何とかなるわよ。いや、何がなんでも何とかするの!」
「……」
……こいつ良いこと言うなぁ。
十九の若い少女に中身的には三十八のおっさんが慰められている格好だ。
カスミの優しさとある種尊敬のような感情と自分への情けなさが綯い交ぜになった複雑な心境で呆然とカスミを見てしまう。
「な、なによ……」
見つめられたまま何も言葉を発しないことに戸惑うカスミ。
「いや、優しいなぁと思って」
「……今頃気づいたの?」
「その優しさもスパイの仕事の一部か?」
「お得意様へのサービスよ」
ピシッと決まったウインクを貰った。
惚れてまうやろ。いや、割とマジで。
寝るにはまだ早い時間だったが、その後は特に出かける気になれず明日のことも考えて休むことにした。
翌朝、目が覚めると至近距離にカスミの顔があった。
「お・は・よ」
「…おはよ。挨拶はいいが、無駄に科を作るんじゃない」
「あら、冷たい。一夜を共にした仲じゃない」
「同じ部屋で過ごしただけだ。そういう意味では一夜どころか毎夜共にしているだろ」
「でも、同じ部屋にいて手を出さないってどうかと思うわ。男として」
昨日、襲われる前に逃げるって言ってたよな?
「女として自信なくなるなぁ」
そう言いながらも、スタイルの良さ…特に胸のあたりを強調して見せつけてくる。
「おまえはどんなキャラを目指してるんだ……」
「女心は複雑なのよ」
起き抜けから飛ばしている気もするが、今日も平常運転である。
「今日はいよいよ入学試験ね」
「そうだな」
一階でカスミと朝食をとる。朝のメニューはスープとパンだった。焼き立ての香ばしい香りに食欲をそそられる。そう言えば昨日の夕飯を食べてなかったな。
「どうやってミハルを見つければいいかと考えていたが、三姫の一人が本人だと判明したし、とりあえず試験の合格を目指せばいいか」
「そうね。試験内容次第だけど、もしかしたら期せずして会える可能性もあるわね。去年は在校生との模擬戦だったらしいし」
「なるほど、今年も同じだとミハル自身が出てくる可能性はあるか」
しかし模擬戦か。今どきの学生はどれぐらいのレベルだろうか。ここ一年ぐらい、まともに対人訓練したのはカスミとその父であるヒエイぐらいだ。この二人のレベルは参考にならないだろう。
強いて参考になると言えば、昨日フレアウルフを討伐した吹雪隊ぐらいだろうか。あまり魔法が洗練されている気はしなかったが。まっ、考えても仕方がないか。
朝食を終えるとカスミと士官学校へと向かった。
もともと近くの宿だったので士官学校は目と鼻の先だったが、正門が見え始めた頃、想像と様子が違っていた。人だかりが凄いのだ。
「あれ、全部入学希望者か?」
「そうね。ちょっと多いわね」
「ちょっと…?」
ざっと二千人ぐらいはいるんじゃないだろうか。ガリオンが大都市と言えど、ここまで集まるか?
幸いにも正門を超えたところは広大なスペースがあったので何とか収まりきってはいるのだが、とにかく人が多い。
「それだけ周囲の街や村からガリオンに移ってきているということか?」
「それしか考えられないわね」
思っているよりも事態は深刻なのかもしれない。
「ちなみに去年の人数は調べてるか?」
「去年は五百人の入学希望者のうち、二百人合格ってとこね」
「今年も同じだとすると合格率は十人に一人ってところか」
なかなかの競争率だな、なんて考えていたところで、よく響く声が届いた。
「諸君、よく来てくれた!これから入学試験を始める!」
少し高くなったところから発せられた声はクレアのものだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる