オールマイティを手にした俺が正義の味方ぶってたら、いつのまにか詠われていた

瀬戸星都

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029.事情

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 全ての時が止まったかのようだった。

「え……うそ……」

 ミハルはまだ信じられないと言った様子だったが、次第に現実を認識していく。


 ドンッ!


 ミハルが無言で胸に飛び込んできた。

 勢いがあって、少しふらついたが何とかその場で受け止める。

「………っ!」

 ミハルが声にならない声をあげる。

「ハル……」

 感極まったのだろうか。

 温かい気持ちが伝播して目に慈愛の滴が溜まりはじめた。

 周囲の目があることも忘れて、優しくミハルの背中に手を回す。

 しかしながら、その手がミハルを抱きしめることはなかった。同時に視界がぐるりと変わった。


「えっ?」


 一瞬何が起こったのかわからなかった。

 ミハルが、そして世界が高い位置へ移動した。


 否。自分が低い位置に移動させられたのだ。


 ズシィィイ!


 激しい音とともに地面に亀裂が入る。

 身体に感じるのは大きなG。黒い悪魔の方ではない。グラビティのGだ。

 ありのままに言おう。

 今、俺は地面に這いつくばる格好になっている。

「じゅ、重力魔法?」

 かなり珍しい部類に入る黒魔法の一種である。

 地面に押さえつけられる圧はまるでどーげーざぁーを強要されるかのようだ。念のために言っておくが俺の前世はバンカーではない。

「ミ、ミハルさん…?」

 圧に耐えながら恐る恐る声をかけミハルを見上げようとするが、重力魔法のせいで顔が見えるほど頭が上がらない。なんて強力な魔力だ。呼吸も満足にできない。


「……人の気持ちも知らないで」


 暫く押さえつけられた状況が続いたが、上の方からそんな呟きが聞こえると体にかかっていた圧が消えた。重力魔法が解かれたようだ。

 少し息があがっていた。強張っていた筋肉を弛緩させ、膝と手を地面につけたままも状態で呼吸を整える。

 そして、ゆっくりと顔を上げるとそこには涙を流したミハルの顔があった。

 咄嗟に何も言葉が出なかった。

 ミハルはすぐに涙を拭ってそのまま校舎の方へ駆けて行ってしまった。


 周囲に沈黙が流れる。


 幸い最後尾だったので他の受験者に奇異の目で見られることは最低限に抑えられた。それにミハルがいなくなってしまったことによる影響もなかった。

 しかし、リリア、クレア、エンコ、という顔見知りにはガッツリと今の一幕を見られてしまった。ついでに言えば明日から世話になるフェリィにもだ。そしておそらく気の所為でなく生暖かい目で見られている。ちらりとエンコの方を見ると明らかに顔がニヤけている。

 ミハルに会えた喜び。地面に押さえつられた驚き。泣かせてしまった負い目。周囲に見られた羞恥。

 様々な感情が一度に溢れて、もうどんな顔すればいいのかわからない。
 

「笑えばいいと思うわ」


……知らないはずだよね。カスミさん。



「まったく、冷酷無比なんて言ったの誰だよ……」

 何とか気を取り直して立ち上がった。

「いえ、あのようなミハルさんは初めて見ましたよ」

 そう言って近づいてきたのはリリアだった。

「何か変なところを見せたな」

「いえいえ、感動(?)の再会だったのでしょう?」

 そりゃ疑問符がつくよなぁ…。

「普段のミハルさんは冷静沈着で、感情もほとんど表に見せていませんでしたので。さきほどのやり取りを見て少々驚きました」

 俄に信じがたいがリリアが言うのなら普段のミハルはそうだったのだろう。

「私も。初めて見た」

 会話に入ってきたのはフェリィだった。最年少入学の天才。銀色の髪に整った顔立ちで背は低め。どこか神秘的な雰囲気と幼さが同居したような風貌だった。獣人と聞いていたが外見からは目立った部分はない。獣人の血が薄いのかもしれない。先入観からかもしれないが利発そうな雰囲気を感じる。

「ミハルは以前住んでいた街での戦闘で父が重症を負った、と聞いた。ミハルはそれを悔やんで甘えを捨てることに熱心」

 ムクの街で見つけた日記にも同じようなことが書かれてあった。

 そうか。それでミハルは結果として冷酷無比と言われるほど、厳しく訓練してきたということか。ようやく話が見えてきた。

 っと、そう言えばもともとはフェリィに挨拶するところだったんだ。

「名乗るが遅れてすまない。俺の名前は総司で、出身はミハルと同じムクの街だ。明日は同じ隊に入ることになった。よろしく頼む」

 そう言って右手を差し出した。

「よろしく、女の敵さん」

 握手とともに辛辣なニックネームを頂戴したのだった。


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