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0037.本丸
しおりを挟むうーん。確かにこれは目立ってしまうかもしれない。
改めて目の前に広がる光景に唸ってしまった。
黒狼から白狼に変わりました。ついでに魔物じゃなくなりました。いや、順番は逆なんだけれど。
どっちにしても変化は大きくて誤魔化しようがない。
そもそも街の入り口でも能力は見せてきたし、能力バレについては時間の問題かもしれない。それは覚悟していたし、それをきっかけに魔物化解除の研究が進むかもしれないし、そういう意味では協力するにやぶさかではないけどモルモットにされるのは遠慮したい。まだ元の世界に戻るのをあきらめたわけじゃないからずっと留まり続けるわけにもいかないし。ただ、元の世界に戻ってまたしがないサラリーマンを続けるのかと想像すると、存外こちらの世界も悪くないかなと思ったりもするわけで。
「クルトさんが魔物化解除したことにすれば……」
「無理があるよね」
ボソッと呟いたつもりがしっかりと反論されてしまった。影武者作戦は失敗か。まあ破綻しまくってるけれども。
さてどうなるかわからない先の事を考え過ぎてもどうしようもない。そろそろ休憩は終わりにしてあの黒大狼のところへ向かわなければならない。久しぶりの家族水入らずに水を差すなんて文字通り過ぎて気がひけるところだが仕方ない。
「これからですが……ひとまずこの辺りはもう大丈夫でしょう。ですが念のためクルトさんは残って引き続き警戒して頂くというのはどうでしょう」
片腕が満足に使えないとは言えクルトの先ほどの戦いぶりからすると黒大狼との戦いでも戦力になるだろう。しかし母親一人残しておくのも精神衛生上よくないだろう。それにずっと動いていなかったようだし体力の衰えという意味では懸念が残る。
「引きこもってたツケだね。異論はないよ」
クルト自身も自覚があったようだ。
「リッカは……リッカがどうするかはリッカに任せる。これだけ白狼達を助けたんだ。白狼達が鍛えてくれた恩はもう返せただろう。形はどうあれクルトさんとのこともいい方向に転がってる。ここで敢えてさらなる危険に身をさらす必要はーー」
「あたしは行くよ。……ほっとけないから」
有無を言わさんとリッカが答えた。白大狼なのか、この国なのか、何がほっとけないのかは察せなかったが、何にしても決意は固そうだ。リッカの身を案じる家族の立場になって考えれば止めたい気持ちもあるが。リッカに任せると言った以上、もう一度確認するのも野暮ってものか。仕方ない。
「すみません。今は戦わない道を選ぶことはできません。でもリッカの安全には最大限気をつけますので」
以前の約束を思い出しリッカの母に向けてことわりを入れた。
「そのためにはあなた自身も十分に気をつけないといけないわね」
「? 善処します」
自分の身も守れないでリッカを守ることなんてできないという意味だろうか。
「正しく意味が伝わっていない気がするけれど……言わぬが花かしらね」
リッカの母は苦笑してリッカをお願いと付け加えた。
次いで口を開いたのはクルトだった。
「最初に見かけたときはどんな奴が妹を連れていくのかと思っていたけど……」
…最初に見かけたとき?
そう言えば以前リッカの家から出るときに視線を感じたことが会ったような気がした。もしかしてあれはクルトのものだったのだろうか。
「指示するのではなく大事な判断はリッカ自身に決めさせてくれているんだね。リッカの成長を支えてくれているようで安心したよ」
リッカとは対等な関係にあると考えていただけで正直そこまで考えてはいなかったが、沈黙は金。笑顔で返しておいた。
「リッカをよろしく頼む」
クルトに向かって頷くとリッカとともに城の方へと向かった。
「ありがとう」
城に向かう途中、不意にリッカが切り出した。
「何に対して?」
「色々と」
「曖昧だな」
「例えば、あたしが狼にやられそうになったときに叫んでくれたこととか」
「ぶふっ!」
変なとこから空気が漏れた。ピンポイントでそこにくるとは思っていなかった。
「もうダメかと思ったから、つい、な」
「あたしもダメかと思った」
「だよな」
まさに絶体絶命だった。
「……よかったな」
自分が助かっただけでない。ずっと塞ぎ込んでいた兄が立ち直って助けてくれたのだ。嬉しくないはずがない。
「あれだけ気力が戻ればリッカが腕を治す方法を探しに行かなくても自分で探しそうな気もするな」
「……そうかも」
単なる話の流れで放った言葉だったが、それはこの街でリッカと共に行動することをやめるということでもあった。一瞬想像して胸が苦しくなる。寂しいと感じるぐらいには自分の中でリッカの存在は大きくなっていたようだ。やれやれ。肉体と精神は密接に関係しているのだろうか。心のどこかは見た目相応かもしれない。
リッカに気付かれないように嘆息するとちょうど前方に城が見え始めた。
ここからは気を引き締めなければならない。リッカと頷き合うとそのまま城内へと足を踏み入れた。
「くっ……」
入ってすぐから悲惨な状況だった。
城壁は一部が破壊され幾人もの兵士がその近くにうずくまっている。おそらく跳ね飛ばされ、壁に叩きつけられたのだろう。
あわよくば黒大狼を取り押さえていないか、なんて期待は一瞬で消し飛んだ。
すぐに兵士たちを救護したい気持ちもあるがその間に被害が拡大するのもまずい。とにかく黒大狼を見つけることが先決か。
ウオォーン!
そのとき狼の遠吠えが聴こえた。
「近いぞ! この先だ」
急いで声のしたほうへと駆け出すと開けた場所に出た。
「嘘……だろ」
そこにはミラとフィーナ、そして白大狼を含めた白狼達がみな地面に横たわり黒大狼だけが天に向かって雄叫びを上げていた。
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