50 / 51
0049.夜明け
しおりを挟む「…………さい」
ん?
「……てください」
なんだ? どこから声が聞こえる……。
「……さん、起きてください」
懐かしい声が聞こえる……この声は……姫乃?
「兄さん、起きてください!」
ドンッ!
腹部に衝撃が走った。
「何すんだ、姫乃っ!」
長年の条件反射だろうか。目を瞑ったまま、起き上がって腹部への追撃を止めようとした。
「……ってあれ?」
ゆっくりと目を開けるとあたりはまだ薄暗い。どうやらここは布団ではないぞ。
体が固くなっているようで背中が痛い。ただ、身体の正面は柔らかい何かに抱きついていて……。
意識が覚醒していく。柔らかな正体は白狼でもなかった。
眼前には不機嫌なような、それでいて照れているような、微妙な表情をした少女の顔があった。
「リ、リッカ!」
自分が抱きついていたものの正体を知り、慌てて離すと少し距離をとった。
「ヒメノ……って誰?」
声の調子はいつも通りなのにどこか迫力がこもっている気がする。
「お……俺の妹の名前だ」
「妹……?」
リッカは聞こえないぐらいの声でブツブツ言う。
「……妹か。それなら……まあ……」
「って、なんでリッカがここに!」
「そりゃこっちのセリフだよ。いきなりいなくなったのはどっちだ!」
こっちだった。心配をかけてしまったようだ。
いや、仕方なかったんだ。とまるで浮気した夫のような負け確定の言い訳をしそうになる。やっぱりここは謝罪しておくべきか。
「すみませんでした」
「うむ。よろしい」
早いな! よろしいんだ。
リッカがため息をついて脱力する。そのまま隣に座り込んだ。
「家の前に血痕があって……探しに来てみれば傷口を広げて寝ているんだもんな」
気づけば傷口の部分が手当されていた。というかもう明け方だぞ? もしかして夜中の間に俺を探し出して介抱までしてくれたのか?
「何があったんだ?」
「あ、あぁ、実は……」
ベルグと謎の男に襲われたこと、そして黒大狼となった経緯について白大狼に聞いたことを説明する。その間リッカは静かに話を聞いていたが、説明が終わると口を開いた。
「よし、じゃあ行こうか」
「行こうか、ってどこに?」
「そりゃもちろん、ヤマトの元の世界の手がかりを探しに……だろ?」
「それは俺の都合に合わせすぎじゃないか。それに、見ての通り危険が伴う旅だぞ?」
手当してもらった場所を指した。
「わかってるよ」
リッカは目線を逸らして声のトーンを下げる。
「それでも、このままヤマトに一人で行かせるほうが……精神衛生上良くない」
どういう意味だ、と聞こうとしたが追求する暇は許してくれなかった。
「ほらっ」
空気を誤魔化すようにリッカが手渡してきた。
「おぉ! こいつは!」
ずっしりと手に馴染むような感覚。これこれ。これだよ。
数時間ぶりの愛刀との再会だった。
「ちなみに報酬の方は流石に貰いそびれたぞ」
「……それは仕方ないな」
黒大狼を迎撃した報酬は後でリッカの家に持ってきてもらう予定だった。しかし、ここまで早く出立することになるとは自分でも想像していなかったし、ましてやミラ達をや。
「報酬はクルト達に使って貰えばいいさ。この日本刀の代金だと思っておくよ。ミラ達にはミラ達で借りがあったし」
「すべてが対等とは思えないけど……相変わらずのお人好しだな」
欲がないな、とリッカが笑う。
話しているうちに徐々に周囲が明るんできていた。わずかな静寂を破ったのは自分だった。
「ありがとな。リッカ」
自然と口をついて出ていた。
「それは何に対して?」
何に対してだろう。傷の手当をしてくれたこと、黒大狼との戦いのときのこと、そして、これからも一緒にいてくれること。重要な場面でいつもリッカが支えになってくれていることを思い返す。
「全部まとめてだ」
きっとこの先もまたここぞという時に助けられるのだろう。でもそれに甘んじることがないようにしなければならない。そして、ついてきてくれる以上、何が何でも絶対に守り通す。たとえ自分の命にかえても。。
先に立ち上がってリッカに手を差し出した。
「これからもよろしく頼む」
「……不束者ですが」
深い意味はないよな?
差し込んだ朝日が固く手を握り合う二人の影を伸ばしていた。
「じゃあ、行くとしますか」
清々しい朝の空気を胸に二人は並んで歩き出した。
第一部 完
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。
黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。
そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。
しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの?
優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、
冒険者家業で地力を付けながら、
訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。
勇者ではありません。
召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。
でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる