縁の下の能力持ち英雄譚

瀬戸星都

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0049.夜明け

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「…………さい」

 ん?

「……てください」

 なんだ? どこから声が聞こえる……。

「……さん、起きてください」

 懐かしい声が聞こえる……この声は……姫乃?

「兄さん、起きてください!」


 ドンッ!


 腹部に衝撃が走った。

「何すんだ、姫乃っ!」

 長年の条件反射だろうか。目を瞑ったまま、起き上がって腹部への追撃を止めようとした。

「……ってあれ?」

 ゆっくりと目を開けるとあたりはまだ薄暗い。どうやらここは布団ではないぞ。

 体が固くなっているようで背中が痛い。ただ、身体の正面は柔らかい何かに抱きついていて……。

 意識が覚醒していく。柔らかな正体は白狼でもなかった。

 眼前には不機嫌なような、それでいて照れているような、微妙な表情をした少女の顔があった。

「リ、リッカ!」

 自分が抱きついていたものの正体を知り、慌てて離すと少し距離をとった。

「ヒメノ……って誰?」

 声の調子はいつも通りなのにどこか迫力がこもっている気がする。

「お……俺の妹の名前だ」

「妹……?」

 リッカは聞こえないぐらいの声でブツブツ言う。

「……妹か。それなら……まあ……」

「って、なんでリッカがここに!」

「そりゃこっちのセリフだよ。いきなりいなくなったのはどっちだ!」

 こっちだった。心配をかけてしまったようだ。

 いや、仕方なかったんだ。とまるで浮気した夫のような負け確定の言い訳をしそうになる。やっぱりここは謝罪しておくべきか。

「すみませんでした」

「うむ。よろしい」

 早いな! よろしいんだ。

 リッカがため息をついて脱力する。そのまま隣に座り込んだ。

「家の前に血痕があって……探しに来てみれば傷口を広げて寝ているんだもんな」

 気づけば傷口の部分が手当されていた。というかもう明け方だぞ? もしかして夜中の間に俺を探し出して介抱までしてくれたのか? 

「何があったんだ?」

「あ、あぁ、実は……」


 ベルグと謎の男に襲われたこと、そして黒大狼となった経緯について白大狼に聞いたことを説明する。その間リッカは静かに話を聞いていたが、説明が終わると口を開いた。

「よし、じゃあ行こうか」

「行こうか、ってどこに?」

「そりゃもちろん、ヤマトの元の世界の手がかりを探しに……だろ?」

「それは俺の都合に合わせすぎじゃないか。それに、見ての通り危険が伴う旅だぞ?」

 手当してもらった場所を指した。

「わかってるよ」

 リッカは目線を逸らして声のトーンを下げる。

「それでも、このままヤマトに一人で行かせるほうが……精神衛生上良くない」

 どういう意味だ、と聞こうとしたが追求する暇は許してくれなかった。

「ほらっ」

 空気を誤魔化すようにリッカが手渡してきた。

「おぉ! こいつは!」

 ずっしりと手に馴染むような感覚。これこれ。これだよ。

 数時間ぶりの愛刀との再会だった。

「ちなみに報酬の方は流石に貰いそびれたぞ」

「……それは仕方ないな」

 黒大狼を迎撃した報酬は後でリッカの家に持ってきてもらう予定だった。しかし、ここまで早く出立することになるとは自分でも想像していなかったし、ましてやミラ達をや。

「報酬はクルト達に使って貰えばいいさ。この日本刀の代金だと思っておくよ。ミラ達にはミラ達で借りがあったし」

「すべてが対等とは思えないけど……相変わらずのお人好しだな」

 欲がないな、とリッカが笑う。

 話しているうちに徐々に周囲が明るんできていた。わずかな静寂を破ったのは自分だった。


「ありがとな。リッカ」


 自然と口をついて出ていた。


「それは何に対して?」


 何に対してだろう。傷の手当をしてくれたこと、黒大狼との戦いのときのこと、そして、これからも一緒にいてくれること。重要な場面でいつもリッカが支えになってくれていることを思い返す。


「全部まとめてだ」


きっとこの先もまたここぞという時に助けられるのだろう。でもそれに甘んじることがないようにしなければならない。そして、ついてきてくれる以上、何が何でも絶対に守り通す。たとえ自分の命にかえても。。

 先に立ち上がってリッカに手を差し出した。


「これからもよろしく頼む」


「……不束者ですが」



 深い意味はないよな?


 差し込んだ朝日が固く手を握り合う二人の影を伸ばしていた。


「じゃあ、行くとしますか」


 清々しい朝の空気を胸に二人は並んで歩き出した。


 第一部 完


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