1 / 47
プロローグ
*
しおりを挟む
「ねぇ。最近噂になってる不思議な郵便局の話、知ってる?」
夜空にぽっかりと浮かぶ月を見上げながら、髪の短い女が思い出したように口を開いた。
「不思議な郵便局? 何それ?」
「都市伝説の一種なんだけどね、夜にしか行けないちょっと変わった郵便局があるらしいの」
「夜? ……まぁその時間に営業してるのは確かに珍しいけどさ、騒ぐほどじゃなくない? それのどこが都市伝説なわけ?」
隣を歩いていたもう一人の女が怪訝そうな顔で聞く。
「その郵便局はね、届けたい相手が何処の誰であろうと、必ず手紙を届けてくれるんだって」
「は? そりゃそうでしょ。だってそれが郵便局の仕事じゃん」
「いやいや違うんだって! 相手が何処の誰であろうと必ず届けてくれるんだってば!」
「……どういう事?」
女は眉間にぐっとシワを寄せて言った。
「つまりね、受取人・差出人が例えこの世ならざる者であろうと、その郵便局から手紙を出せば届けたい相手に絶対届けてくれるってこと!! あ、この世ならざる者ってのは簡単に言えば幽霊とか妖怪とか宇宙人みたいな奴ね。もちろん人間もオッケーだけど!」
「えー何それ。うっそくさー」
顔を顰める彼女を余所に、髪の短い女は得意げな表情をして更に言葉を続けた。
「〝御入用の方はどうか月にお祈りください。さすれば、月の光があなたを此処まで案内してくれるでしょう〟」
「……は?」
「郵便局に行けるおまじない。その郵便局はね、強い想いを持った人しか行けないんだって。だから届けたいものがある人はまず月に祈るの。その気持ちが本物だって認められたら、月の光が案内してくれるらしいわ」
「月の光?」
「うん。細く長く伸びる光を辿って行くとね、いつの間にか目的の郵便局に着いてるんだって。そこは特別な空間で、色んな場所に通じてるらしいの。だから手紙や荷物が届けたい相手に必ず届けられるってわけ! すごくない?」
「うわ……ますます胡散臭い」
「え~? いかにも都市伝説って感じでいいじゃん! 月の光とかロマンチックだし!」
二人はゆっくり歩みを進める。
「……で? その郵便局はなんていう名前なの?」
「あれ? あれあれ~? あんた散々文句言ってたくせに興味あんの?」
「う、うるさいな! ちょっと気になっただけじゃない!」
からかわれた彼女は顔を赤くして反論した。ケタケタという笑い声をかき消すように先を促す。
「で!! なんていう名前なのよ!」
「えっとそれが……」
髪の短い女はすっと目をそらすと、ばつが悪そうに言った。
「……実はちょっとど忘れしちゃって」
「はあああ!?」
「ええと……なんだったかな。確かつ……つ……」
「ちょっと!! なんで肝心なとこ忘れてんのよ!!」
「だって~!」
夜の空と同じ、濃紺色の着流しに身を包んだ背の高い男が、楽しそうに会話を続ける彼女たちとすれ違った。
彼は空に浮かぶまるい月を見上げて歩みを止めると、ぽつり。独り言のように呟く。
「月の光に祈る者よ。抱えきれないその想い、届けたいというならば……」
──来たれよ、月野郵便局へ。
夜空にぽっかりと浮かぶ月を見上げながら、髪の短い女が思い出したように口を開いた。
「不思議な郵便局? 何それ?」
「都市伝説の一種なんだけどね、夜にしか行けないちょっと変わった郵便局があるらしいの」
「夜? ……まぁその時間に営業してるのは確かに珍しいけどさ、騒ぐほどじゃなくない? それのどこが都市伝説なわけ?」
隣を歩いていたもう一人の女が怪訝そうな顔で聞く。
「その郵便局はね、届けたい相手が何処の誰であろうと、必ず手紙を届けてくれるんだって」
「は? そりゃそうでしょ。だってそれが郵便局の仕事じゃん」
「いやいや違うんだって! 相手が何処の誰であろうと必ず届けてくれるんだってば!」
「……どういう事?」
女は眉間にぐっとシワを寄せて言った。
「つまりね、受取人・差出人が例えこの世ならざる者であろうと、その郵便局から手紙を出せば届けたい相手に絶対届けてくれるってこと!! あ、この世ならざる者ってのは簡単に言えば幽霊とか妖怪とか宇宙人みたいな奴ね。もちろん人間もオッケーだけど!」
「えー何それ。うっそくさー」
顔を顰める彼女を余所に、髪の短い女は得意げな表情をして更に言葉を続けた。
「〝御入用の方はどうか月にお祈りください。さすれば、月の光があなたを此処まで案内してくれるでしょう〟」
「……は?」
「郵便局に行けるおまじない。その郵便局はね、強い想いを持った人しか行けないんだって。だから届けたいものがある人はまず月に祈るの。その気持ちが本物だって認められたら、月の光が案内してくれるらしいわ」
「月の光?」
「うん。細く長く伸びる光を辿って行くとね、いつの間にか目的の郵便局に着いてるんだって。そこは特別な空間で、色んな場所に通じてるらしいの。だから手紙や荷物が届けたい相手に必ず届けられるってわけ! すごくない?」
「うわ……ますます胡散臭い」
「え~? いかにも都市伝説って感じでいいじゃん! 月の光とかロマンチックだし!」
二人はゆっくり歩みを進める。
「……で? その郵便局はなんていう名前なの?」
「あれ? あれあれ~? あんた散々文句言ってたくせに興味あんの?」
「う、うるさいな! ちょっと気になっただけじゃない!」
からかわれた彼女は顔を赤くして反論した。ケタケタという笑い声をかき消すように先を促す。
「で!! なんていう名前なのよ!」
「えっとそれが……」
髪の短い女はすっと目をそらすと、ばつが悪そうに言った。
「……実はちょっとど忘れしちゃって」
「はあああ!?」
「ええと……なんだったかな。確かつ……つ……」
「ちょっと!! なんで肝心なとこ忘れてんのよ!!」
「だって~!」
夜の空と同じ、濃紺色の着流しに身を包んだ背の高い男が、楽しそうに会話を続ける彼女たちとすれ違った。
彼は空に浮かぶまるい月を見上げて歩みを止めると、ぽつり。独り言のように呟く。
「月の光に祈る者よ。抱えきれないその想い、届けたいというならば……」
──来たれよ、月野郵便局へ。
2
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる