月野郵便、今宵も配達中

百川凛

文字の大きさ
22 / 47
2.春の秘密箱

11

しおりを挟む



「いっただっきまーす!」

 大きな声で叫ぶと、七尾は大好物のいなり弁当をもぐもぐと食べ始める。

「……よく飽きないわね」

 隣で同じように弁当の蓋を開けた宇佐美が言った。

「だっていなり弁当美味しいじゃないッスか!! なんだかんだ宇佐美さんだって食べてるくせに~!」
「それはアンタが毎回私達の分も買ってくるからでしょ? ま、美味しいのは否定しないけどね」
「ならいいじゃないですか!」
「たまには違う物が食べたいわ」
「文句言わずに! いなり弁当食べましょう!!」

 ぱくりと一口かじると、甘辛なお揚げがジュワッと口の中に広がり、宇佐美の顔もほころんだ。

「あ、そうそう! オレ、これ買ったとき桜さんから手紙預かってきました!!」
「桜さんから?」
「いやぁ。実は変化の術で黒髪好青年になってるのすーっかり忘れてて、普通にあれからどうですかって話しかけちゃったんスよね。そしたらあっちも気付いてくれて。月野郵便局の皆さんに手紙を書いたから戻るついでに渡してほしいって頼まれたんスよ」
「相変わらず間抜けね」
「誰にだってミスはあるんですぅ」

 言い訳をしながら七尾は月野に手紙を渡した。月野は箸を置くと、すぐにその封を開ける。


〝拝啓

 月野郵便局の皆さま、先日は大変お世話になりました。えっと、こういうしっかりとした手紙を書くのは初めてなので少し緊張しています。色々おかしい所があると思いますが、ご了承ください。

 さっそく本題に入りますが、先日、五十嵐輝喜さんと直接話をしました。

 お弁当を買いに来た時に思い切って話しかけたんです。そしたら五十嵐さんその場で泣いちゃって。ちょっとした騒ぎになって大変でした。

 その後近くの喫茶店で話をしました。一緒にいられなくてごめん、育ててあげられなくてごめん、ツライ思いをさせてごめん、生まれてきてくれてありがとう、会ってくれてありがとう。許してくれなんて言わないけど、謝らせてほしいんだ。そう言って引くぐらい何度も謝られて、引くぐらい何度も感謝されました。

 そこで初めて知ったのですが、おばあちゃんは天国から五十嵐さんにも手紙を出していたらしいです。今まで悪かった、桜にアンタのこと話したから、あとは好きにすればいいという旨が書かれた手紙を数週間前に受け取ったそうなんです。きっとその手紙も月野さん達が届けたんでしょうね。

 五十嵐さんは誰かの悪戯だと思っていたみたいですが、いつものようにお弁当屋に行ったらわたしが話しかけてきて本当に驚いたと言っていました。

 そして今度、五十嵐さんと一緒にお母さんとおばあちゃんのお墓参りに行く約束をしました。

 なんていうか、初めて家族が揃うので今からちょっとドキドキしてます。

 きっとおばあちゃんは五十嵐さんが来るのを文句を言いながら待っていると思いますが、この機会に仲直りしてくれたらいいなと思っています。ついでに、そこでわたしの名前に込めたお母さんの気持ちを五十嵐さんに話す予定です。これ知ったら絶対泣くだろうなぁ。あの人面白いくらい涙腺弱いから(笑)

 五十嵐さんとは、これから少しずつ近付いていければいいなって考えてます。やっぱりまだ実感がなくて五十嵐さんとしか呼べないけど、いつかお父さんって呼べる日がくればいいなぁ、なーんて。

 では、皆さん体に気を付けて。またお手紙書きますね。

 敬具 大木桜

 追伸:そういえば五十嵐さん、今度のお墓参りに渡そうと思っていた結婚指輪を持って行くそうです。そして、お母さんにもう一度プロポーズをすると意気込んでいます。その指輪は……お母さんとの結婚を認めてもらうため、海外で事業展開を頑張っていた時、自分でデザインして作った世界にたった一つの指輪なんですって。お母さん、喜んでくれるといいな!

 カウンターの中で一緒にいなり弁当を食べていた春子が真っ先に口を開いた。

「なんだいあの男。桜と墓参りに来るなんて図々しい奴だね。それに、墓場でプロポーズなんてやるもんじゃないよまったく」

 春子の眉間にはシワが寄っているが、口元の緩みは隠しきれていない。

「ふはっ! 春子さんってば素直じゃないなぁ~!」
「コラ! 余計なこと言ってるとその細い目さらに細くするよ!!」
「いやいや目は関係ないっしょ!?」

 七尾がすかさず反論する。

「まぁまぁ。いい方向に進んでるみたいで良かったじゃないですか」
「フン。アタシは桜が幸せならそれでいいのさ。今までツライ思いさせちまったからね」
「そんなことはありません。桜さんはあなたとの日々を幸せだと思っていたはずです。じゃなきゃあんなに笑顔の素敵な女性にはなれないでしょう?」

 そう言って月野はふんわりと笑った。

「……アンタのその善人顔、本当に腹立たしいね。聖人君子にでもなったつもりかい」
「不快に思われたならすみません」
「そういう所も腹立つんだよ」

 春子は拗ねたようにフイと顔をそむけた。

「これ良かったら食後にどうぞ。天邪鬼アマノジャクッキーです」
「……相変わらず生意気だね。この性悪女め」
「それは褒め言葉として受け取っておきます」

 相変わらず散る、激しい火花。

「まぁまぁ落ち着いて。みんなで美味しく食べてるんだから喧嘩はダメッスよ?」
「……はぁ。アンタはいるだけでイライラするわね。そのアホヅラなんとかなんないの?」
「おやおや珍しく同感だ。ほら細目、さっさとその腑抜けたツラ奥にしまいな」
「二人してひどい!! オレだから許してますけど、今の時代そういうこと言ったらすぐ訴えられますからね!?」

 春子と宇佐美の口撃こうげきに文句を言いつつも、七尾は得意げな顔を浮かべた。

「でもオレ知ってるんスからね! 口ではそんなこと言ってても、春子さん、ホントはオレ達のこと結構気に入ってるっしょ?」

 春子の眉間に深い深いシワが寄った。そのまま七尾を冷めたように見やる。

「何バカなこと言ってるんだいこの細目」
「えっ! えっ!? 違うの!? オレは春子さんと話すの好きなのに!? ちょ、それは傷付く!」
「ほら、さっさと残りの弁当食べな。好物なんだろ」
「うう……宇佐美さん、この傷を慰め合いましょう」
「嫌よ」
「即答!? 月さぁ~ん!! 春子さんと宇佐美さんがオレに冷たいー!」
「はいはい。いなり寿司一個あげるから機嫌直しなよ」
「さすが月さん!! 好き!!」

 その様子に耳を傾けながら、春子は宇佐美の淹れたお茶をすする。春子好みの、濃いめに淹れられたお茶だった。

「……まぁ。確かに細目の言う通りなんだけどね」

 春子は誰にも聞こえないよう、小さな声で呟いた。騒いでる三人を見るその目は、まるで自分の孫を見るような優しい眼差しである。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...