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しおりを挟む「そういえば。あの時なんで私の髪の毛抜いたんですか? あれ意味あります?」
ふと思い出した小さな疑問。
「何言ってんのよ大有りよ。だってあの女、アンタの髪で出来た分身よ?」
「は?」
「だからぁ、アンタの髪でアンタの分身を作ったのよ。で、それに三人を追いかけさせたの。あ、普通の人には見えないようにしといたから大丈夫よ。見えるのは不法投棄してた悪い子たちだけ」
……つまり、なに? 捕まったあの三人を炎まみれで追いかけてたあの女は私だったってこと!? はあああああ!?
「人の髪をなんつーもんに使ってくれてんですかこのオネェ魔女!!」
「いいじゃないの。アンタみたいなのがもう二、三人居たって誰も困りゃしないわよ。煩いのは勘弁だけど」
「いやいやいやいや困るから!! 私が!!」
「……そういえば昔、大魔女だったおばあさまがうっかり消し忘れた分身を本人に見られて大騒ぎになったって失敗談聞かされたことがあるわね。ドッペルゲンガーなんて呼ばれて世界中に広まったって。それも、自分と同じ顔をした三人に会うと死ぬとか尾鰭がついた噂立てられて。人間は想像力豊かで面白いって笑ってたわ」
嘘でしょ。ドッペルゲンガーの謎がこんな所で解明されてしまった。全世界の学者に謝ってほしい。
「百歩譲って私の分身を作るのは許しましょう。でも火とか出す必要あります!? 普通に追いかけるだけで充分怖いじゃないですか!!」
「それだけじゃインパクトに欠けるもの。それにアサギくん、神通力の中で火を扱うのが一番得意だし? 何かあると火達磨にすんぞって脅すの口癖だし?」
「だからって私を火達磨にする必要ないでしょ!?」
「も~いいじゃないの。犯人も無事に捕まったんだしこれで河童も安心して暮らせるしアンタも給料分は役に立ったんだし万々歳じゃない。それに、燃やしたのはアンタじゃなくてアンタのぶ・ん・し・ん。その分身もちゃんと消したんだから何の問題もないわ」
それはそうだが……いまいち納得出来ない。
「ちなみに、この計画を考えたのはぜ~んぶアサギくん。あの人ああ見えてやる事は結構エグいのよ?」
「聞こえてるぞ」
山伏の格好をした浅葱さんが眉間にシワを寄せて現れた。
「それにしても。お前は随分彼女が気に入ったみたいだな」
「やだ、アサギくんったら視力悪くなった? アタシがこの女のどこを気に入ってるっていうのよ」
不満げなノアさんの言葉を無視して浅葱さんは私の前に座る。
「先日はどうも。おかげで助かった。河太郎さんも池に平和が戻ったって喜んでたよ」
「いえ、私は掃除しただけですし」
「いやいや。人手不足のうちとしては大助かりだった。これ、少ないけど給料だ」
給料と書かれた茶色い封筒を手渡された。
「ありがとうございます」
受け取ろうと封筒の端を掴むが、浅葱さんは何故か手を離そうとしない。偉い人から賞状を渡されるような格好のまま動けず、なんとなく気まずい空気が流れる。
「ところで。仕事の方は見つかったのか?」
脈絡のない問いに内心で首を傾げる。いやいや見つかるわけないでしょう。この数日はやる事がありすぎてハロワに行く暇もなかったし。
「まだですけど……」
「そうか。なら、俺から一つ提案なんだが」
ごほん、とわざとらしく咳払いをする。
「アンタ、うちで働く気はないか?」
「へ?」
「ここで会ったも何かのご縁って言うだろ。アンタは妖怪たちと普通に接してくれた貴重な人間だ。俺は……人間と妖怪が助け合って生きていける世の中にしたいと思ってる。だから、アンタみたいな人間がうちに居てくれると助かるんだ」
「ていうかぁ~」
ノアさんが隣で頬杖をつきながら言った。
「アタシ、まだ納得いってないのよね。何でアンタにアタシの薬が効かなかったのか。その謎が解けるまでは徹底的に調べさせてもらうから。覚悟しておきなさい!」
ニヤリと意地悪そうに笑う。
「……なんですか、それ」
「それでも来ないって言うなら最終手段使うしかないわよねぇ、アサギくん?」
「そうだなぁ。もし来ないって言うんなら……」
浅葱さんは私としっかり目を合わせると、口角を上げながら言った。
「アンタを火達磨にしてやる」
これはやはり脅迫だ。
でもまぁなんだかんだ楽しかったし、ここで働いてみるのも案外悪くないかもしれない。私はクスリと笑って、首をしっかりと縦に振った。
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