彼と私のお友達計画

百川凛

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STEP1:連絡先を交換しましょう

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 翌朝、スマホを見た私はひっと悲鳴をあげた。一件の新着通知を開くと、猫のアイコンとメッセージ。こ、これは間違いなく鳴海くんだ。

 どうやらスマホをカゴに置いたあと、すぐに返事が来ていたらしい。私はおそるおそるアプリを開く。


 鳴:フレンド登録ありがとうございます
 鳴:今日は突然ごめん。これからよろしく


 二つ並んだ吹き出しの下には、猫のキャラクターがぺこりとお辞儀をしているスタンプ。ぶっちゃけ、あの怖い顔からは全然想像出来ない可愛いスタンプのチョイスだ。

 画面をじーっと見つめて考える。……これ、返した方がいいんだよね? せっかく送ってきてくれたんだし、無視して逆ギレされたら怖いし。そう思って私はさっそくメッセージを考え始めるが、なかなかうまく作れない。

 打っては消して打っては消してを何度も繰り返し、ようやく出来たメッセージは昨日と同じような、当たり障りのないシンプルな文章となった。


 連絡ありがとうございます。
 実は、うちにはスマホを使えるのは夜九時までという決まりがあるので、昨日は返信出来ませんでした。ごめんなさい。
 こちらこそ、これからよろしくお願いします


 ちょっと堅苦しいかなぁとも思ったけど、初めてのやり取りだしこれくらいで良いだろう。既読をつけてからかなり時間が経ってるけど、怒ってたりするのかな? 鳴海くんの鋭い目付きを思い出して身震いする。

 どうか怒ってませんようにと願いを込めながら、親指で画面を軽くタップした。





 私のスマホから通知音がしたのは、その日の夕方頃だった。気を紛らわせるように宿題に取り掛かっていた私はドキドキしながらスマホを開く。そこには予想通り、可愛いキジトラ猫ちゃんのアイコン。


 鳴:部活が終わって今帰って来ました
 鳴:気にしないで下さい。知らなかったとはいえ遅い時間に送った俺が悪いんだし。これからは気を付けます
 鳴:それより、笹川さんから返信が来て嬉しかった。昨日怖がらせたかもって思ってたから


 ポンポンと並ぶ吹き出しを見ておや? と首を傾げる。なんだか鳴海くん、思ってたより怖くないんじゃないの? 文章が丁寧だからかな。こちらを気遣うような優しさまで感じる。……失礼ながらあの外見と日頃の噂話からは想像出来ない。それに「これからは」って事は、私とのやり取りをやめるつもりはないらしい。


 部活お疲れ様です
 こちらこそ昨日は突然ごめんなさい
 皐月ちゃんに無理やり頼まれたんですよね?
 変な事に付き合わせちゃってごめんなさい


 さっきと同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上の時間をかけてメッセージを送る。鳴海くんからの返信は早かった。


 鳴:マネージャーに頼まれたのは確かだけど、無理やりとかじゃないから安心してほしい
 鳴:むしろ、仲良くなりたいと思ってたからちょうど良かった

 柄にもなくドキッとした。だって、男子からこんな風に言われたことなんてないし……なんて返せばいいんだろう。ああ、頭を使いすぎて糖分が足りない。うんうんと悩んでいると、画面にポンと吹き出しが増えた。


 鳴:もし笹川さんが嫌じゃなければ敬語やめてタメ口で話しませんか? その方が友達っぽいし


 確かに……同級生なのに敬語はちょっと距離があるかもしれない。今まで男子と話すときは無意識のうちに敬語で喋ってたけど……直していかなきゃいけないな。


 嫌だったらこの計画、断ってくれて構わないですからね
 わかりました、敬語やめます
 鳴海くんもタメ口でいいですよ!


 鳴:嫌じゃないから断らない
 鳴:じゃあ遠慮なくタメ口で。怖かったり何か気に障ったりしたら言ってな?


 わかりました。ありがとうございます!


 鳴:てか笹川さん、言ってる側からずっと敬語だし笑


 それから何通かやり取りをしているとあっという間に九時になり、その日はきりのいい所で終了となった。

 私が返信の内容を考えまくるせいでやり取りに異常に時間がかかっているけど、なんかだいぶステップアップした気がする。画面越しのやりとりだけど。ただ文字読んでるだけだけど。

 どっと襲ってきた精神的疲労に、今晩もぐっすり眠れそうだなと思いながら小さく息を吐いた。
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