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第4話 卑怯千万

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「着替えたよー!」

 よし! それなら早速…………待てよ?

 すぐに入っていったらまるで俺が楽しみだったみたいじゃないか?

 誤解されるのは困る。

 別に楽しみじゃなかったけど、まあ呼ばれたし? 興味ないけど可愛い妹に付き合ってやってんだぜ? のスタンスでいこう。

 それが良い。

「やっとかよー。妹の遊びに付き合うのも楽じゃないぜまったく……。」

 俺は後頭部をボリボリと掻きながら、さも面倒くさそうに部屋に入る。

「じゃーん!」

 スカートをややたくし上げ、微妙に見えている状態をキープする怜。おまけに胸元を人差し指で引っ掛け、ブラもチラ見せしている姿がまたエロい……。

「本当にありがとうございます。」

「どうですかお客さん?」

 ニヤニヤしながら問いかけるエセ商人。

「ご契約頂ければいつでもお見せしますよ?」

「はい! 契約しま…いや、でも……します! 待って、やっぱり待って?」

 彼女はニヤニヤしながら俺の言葉を待っている。

 くっ…なんて卑怯な。

 俺の妹が卑怯な件について。

「お客さん、今契約する。いつでも触り放題ね。」

 何故カタコト?

 そしてこのセリフには覚えがある。

 前世で俺と彼女が恋人同士になる直前の場面だ。

 二人のドラマチックな恋の始まりが、鮮明に脳裏を駆け巡る。




(お客さん、今契約する。いつでも触り放題ね。

 そう言われても…やっぱりそういう事は好きな人同士じゃないと……。

 ——君。好きだよ

 俺も……ずっと好きだった。

 嬉しい。それじゃあ私達、今日から恋人だね。

 そうだね! 今日からは触り放題って事で良い?

 24時間年中無休でOKだよ!)



 今となっては懐かしい甘い恋の思い出……。

 俺としては別に前世の記憶を否定するつもりは無かった。

 単に兄妹という関係性がストップを掛けていたに過ぎない。

 こうして前世と同じシチュエーションになってみて、やはり俺は怜に特別な感情を抱いているのだと自覚する。



「お兄ちゃんもしかして、私達の関係が始まった時の事思い出した?」

「やっぱり俺には怜しかいないのかもしれない……。」

 そうして俺達は見つめ合い、唇と唇が触れ合う寸前に……

「ちょっと待った!」

 またかよ? 怜の顔にはまるでそう書いてあるかの如く、ありありと表情に浮かんでいた。

「俺達兄妹。チューはダメ。」

「兄妹でも時と場合によってはチューする。」

「しない。それどんな時?」

「妹にチューしないとお前の命をもらい受ける……。って殺人鬼に脅された時とか。」

 そんな限定的且つ特殊な状況は生涯訪れねぇよ!

「または……。」

「または……?」

 怜は溜めを作る。

「お兄ちゃんが昔好きだった女の子……。」

 急に何だ?

 確かに中学生の頃好きな子はいたが……。

「その子がどうした?」

「その子の歯ブラシを盗み出して勝手に使ってた事をバラされたくなければチューしろよって言われた時とか?」

 お…おどしかよ……。

 なんて汚い奴。

 お前は汚い妹だな。略して汚妹《おいも》。

「そ、そんな汚い手には乗らないぞ?」

「バレたら困らない?」

 くっ…。卑怯な奴め……。

 だが……

「困らない。」

 俺は動揺を悟られないよう、何でもない風を装って言葉を返す。

「そっか。残念だよお兄ちゃん。」

 そう言って怜は携帯をベットから拾いあげ、どこかへ電話をかけようとする。

「待つんだ!」

「どうしたの?」

「誰に電話するんだ?」

 嫌な予感がする。俺は今、今世紀最大のピンチに陥っているような錯覚を覚えていた。

「お兄ちゃんが昔好きだった子だけど?」

 当たり前の事聞かないでよとでも言いたげな表情だ。

「何でお前が連絡先を知っている。」

「お兄ちゃんが昔好きだった子なんだからチェックする必要があるでしょ?」

 何それ?

 どうやら怜は前世の記憶を取り戻す以前からブラコンだったようだ。

 ブラザーコンプレックス。それは兄や弟に対し並々ならぬ愛情を向けるという歴史的にも有名な大病。当然これも不治の病だ。

 俺がその子を好きだったのは昔の話。それでも俺の評判に関わるので、バラすのだけはやめて欲しい。

「その子に言わないで下さい。」

 この事を口止め出来るならいくらでも頭を下げてやる。

「チュー。」

 え?

「チューで手を打ちましょう。」

「脅迫は何も生まないと思います。」

「脅迫から生まれる恋もあるよ。お兄ちゃんの漫画にも描いてあるじゃん。」

「俺のエロ本勝手に読まないでくれます?」

 隠し場所がマズかったようだ。

 分散して隠しておいたので、全部見られたわけじゃないとは思うが……。

「チュー。するの? しないの?」

「ぐぬぬ……。」

「どっち?」

(勝ち誇った顔しやがって。脅しには屈しないところを見せてやる!)

「しま……。」

「しま……?」

「せ…」
 ブチュー!!

 突然唇を奪われ強制的に黙らされる。

(ちょっ!? 言ってない! するって言ってない!!)

 そして口内に感じる異物感。

(待って! ほんとに待って! お願いだから舌ねじ込まないで!?)



「ぷはっ!」

「今日のところはこの辺で勘弁してあげる。次は覚悟しておくことだ!」


 ああ神様……。

 あーはっはっはっと笑う妹の唇の感触が忘れられない俺はどうしたら良いのでしょうか?
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