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本編
LEVEL31 / 合宿先(前編)
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学校で合宿をする……それ自体は不可能ではない。
だが現実問題として、今からやろうというのだろうか?
まず、そのような合宿をやるとすれば「引率責任者」の教師が必要だ。そして利用目的の書類も作成する必要がある。
いや、そもそも夏休みがあと1週間程度しかない。そんな時期に合宿なんてものをわざわざやろうってことは……
おそらく佐田弘の母親が息子一人だけの問題ではなく、複数の生徒の相談を受け、それをまとめて自分に連絡していると見て間違いない。そうでなければ「合宿」などという話が出てくるわけもない。
(苦戦するとは思っていたが、まさかここまでとは……)
ゲーム感想文はゲームをやれば書けるというほど単純ではない。それどころかコピペサイトが使えない分、通常の読書感想文よりも苦戦する可能性のある内容である。
それは和久井、というより嵯峨野ゲームスが自分に提案をしてきた際、既に想定していた内容だ。
しかもそれだけではない。ゲーム感想文、と聞いて子供達は油断し、自分がゲームを長時間プレイしていることを「課題をやっている」と信じて疑わない。
ところが実際にはそれは「罠」だ。実際に感想文の書き方が分からない状態でいくらプレイをしても「書けない」のである。
気付いた時にはもう手遅れ……
そして、最初からそのような事態を想定し、夏休みの終盤になって「ゲーム感想文講座」という体験入学のカリキュラムを入れる。おそらく阪口ではなく、和久井の入れ知恵であろう。
(あれが本当に21歳の若者なのだろうか……)
もはや、ゲーム感想文は完全に彼の手の内にある。そんな状況で今更、合宿なんかやったところで単に時間を浪費するだけだ。
いや、敢えて方法が一つあるとすれば、今からでも遅くはない。それは「阪口塾の体験入学」以外に選択の余地は存在しないのではないだろうか。
「それがね、先生。感想文の終わった子がいて、」
「えっ? 終わった? 」
「いや、私も子供から聞いただけなんですが……」
「それはないですね」
「どうしてそう、言い切れるんですか? 」
「あれは普通の子に書ける内容じゃないですよ」
「でも、それが東大生に教えてもらって書けたって」
「どういうことですか! ? 」
東大生、というのは東大生の家庭教師だろうか? 別に、中学生が大学生の家庭教師を雇っていること自体は珍しい事ではない。
しかし、その東大生とやらが、ゲームにかなり詳しい上に、かつゲームの内容を感想文に書けるような人であるとしたら? そしてその方法を教えられるような指導力を持っていたとしたら一体どうなるのだろうか……
「それで先生、コピペはやらないっていうんですよ」
「コピペをやらない、といいますと? 」
「感想文の書き方を説明すれば、誰でも簡単に書けるって」
「そんなこと……いや、何故そうなるんですか! 」
「私には分かりません。けど子供がそう言ってるんです」
彼女の様子だと、その感想文を書き終えた生徒の誰かが、他の生徒に教えるという形になる。
いくら大学生の指導があったらしいとはいえ、中学生がその内容を教えるなんて可能なのだろうか? しかし電話の相手は生徒本人ではなく母親だ。単なるイタズラ電話ということはおそらくないだろう。
「だから先生、終わると思うんですよ。合宿で」
「そうですね~でも、合宿となりますと」
「1日あれば終わるって言ってましたけど? 」
「1日! どういうことですか? 」
有り得ない。なぜなら阪口塾の体験入学は全3回だ。そして、その授業の内容である「ゲーム感想文講座」は最低でも2回は参加しないと理解できないようになっている。
それだけではない。今回、出した課題は原稿用紙5枚分。文字にして2000字である。中学生にとってはかなりの量だ。仮に文章の構成が完成したとして、それを文字に起こそうとするのは更に時間がかかる。
とりわけ、今回は「文字情報でない」ゲームを文字に起こそうというのだから、その負担は正直「文字情報である」文学作品とは桁が違う。
「佐田さん、その課題が終わった子は誰ですか? 」
「確か羽賀君……いや龍崎君と言ってましたかね」
龍崎。龍崎……えっと何だったっけ? 即座に思い出せないということは、もしかしたら影の薄い生徒なのかもしれない。少なくとも勉強やスポーツで特に目立った印象がある感じではない。そうなると、大勢の生徒と日頃から接している玉野にとって、おそらく「その他大勢」の中の一人なのだろう。
しかし、だからこそ逆に不自然だ。特別成績が良いわけでもない。あるいは月城のような文学少女というイメージもない彼が……いや、もしかしたら自分が知らないだけで、龍崎は文学少年か何かなのだろうか?
「一応、合宿自体は不可能ではありませんが……」
「なら、別に私の家でもよいと思いますが? 」
「いや、そうじゃなくて」
「じゃあ、どうなんですか? 」
玉野は「待てよ」と思った。先ほどの和久井の出版会議で、自分は正しいと思っていたことが実は勘違い。しかもそれによって一人の生徒に迷惑をかけてしまったばかりではないか。
だとしたら、その「特別に目立つ存在でもない」龍崎勇人が、また自分の勘違いによって彼を傷つけてしまう事にもならないだろうか?
「一応、校長にも話を伺っておきませんと」
「いつ、返事は頂けますか? 」
「もう今日は遅いですし、明日連絡してみます」
「それでは、お願いします」
玉野との約束を確認すると、彼女は電話を切った。
「果たして、校長が納得するだろうか……」
もし仮に、自分が引率をやれというのであれば、それ自体は不可能ではない。逆に校長が「勝手な事をするな」と否定すればそれまでの話だ。
最悪の場合には佐田の家で合宿らしきものが行われるようだし……いずれにせよ自分にはリスクがない。
「とりあえず連絡だけはしておいた方がよさそうだな」
だが現実問題として、今からやろうというのだろうか?
まず、そのような合宿をやるとすれば「引率責任者」の教師が必要だ。そして利用目的の書類も作成する必要がある。
いや、そもそも夏休みがあと1週間程度しかない。そんな時期に合宿なんてものをわざわざやろうってことは……
おそらく佐田弘の母親が息子一人だけの問題ではなく、複数の生徒の相談を受け、それをまとめて自分に連絡していると見て間違いない。そうでなければ「合宿」などという話が出てくるわけもない。
(苦戦するとは思っていたが、まさかここまでとは……)
ゲーム感想文はゲームをやれば書けるというほど単純ではない。それどころかコピペサイトが使えない分、通常の読書感想文よりも苦戦する可能性のある内容である。
それは和久井、というより嵯峨野ゲームスが自分に提案をしてきた際、既に想定していた内容だ。
しかもそれだけではない。ゲーム感想文、と聞いて子供達は油断し、自分がゲームを長時間プレイしていることを「課題をやっている」と信じて疑わない。
ところが実際にはそれは「罠」だ。実際に感想文の書き方が分からない状態でいくらプレイをしても「書けない」のである。
気付いた時にはもう手遅れ……
そして、最初からそのような事態を想定し、夏休みの終盤になって「ゲーム感想文講座」という体験入学のカリキュラムを入れる。おそらく阪口ではなく、和久井の入れ知恵であろう。
(あれが本当に21歳の若者なのだろうか……)
もはや、ゲーム感想文は完全に彼の手の内にある。そんな状況で今更、合宿なんかやったところで単に時間を浪費するだけだ。
いや、敢えて方法が一つあるとすれば、今からでも遅くはない。それは「阪口塾の体験入学」以外に選択の余地は存在しないのではないだろうか。
「それがね、先生。感想文の終わった子がいて、」
「えっ? 終わった? 」
「いや、私も子供から聞いただけなんですが……」
「それはないですね」
「どうしてそう、言い切れるんですか? 」
「あれは普通の子に書ける内容じゃないですよ」
「でも、それが東大生に教えてもらって書けたって」
「どういうことですか! ? 」
東大生、というのは東大生の家庭教師だろうか? 別に、中学生が大学生の家庭教師を雇っていること自体は珍しい事ではない。
しかし、その東大生とやらが、ゲームにかなり詳しい上に、かつゲームの内容を感想文に書けるような人であるとしたら? そしてその方法を教えられるような指導力を持っていたとしたら一体どうなるのだろうか……
「それで先生、コピペはやらないっていうんですよ」
「コピペをやらない、といいますと? 」
「感想文の書き方を説明すれば、誰でも簡単に書けるって」
「そんなこと……いや、何故そうなるんですか! 」
「私には分かりません。けど子供がそう言ってるんです」
彼女の様子だと、その感想文を書き終えた生徒の誰かが、他の生徒に教えるという形になる。
いくら大学生の指導があったらしいとはいえ、中学生がその内容を教えるなんて可能なのだろうか? しかし電話の相手は生徒本人ではなく母親だ。単なるイタズラ電話ということはおそらくないだろう。
「だから先生、終わると思うんですよ。合宿で」
「そうですね~でも、合宿となりますと」
「1日あれば終わるって言ってましたけど? 」
「1日! どういうことですか? 」
有り得ない。なぜなら阪口塾の体験入学は全3回だ。そして、その授業の内容である「ゲーム感想文講座」は最低でも2回は参加しないと理解できないようになっている。
それだけではない。今回、出した課題は原稿用紙5枚分。文字にして2000字である。中学生にとってはかなりの量だ。仮に文章の構成が完成したとして、それを文字に起こそうとするのは更に時間がかかる。
とりわけ、今回は「文字情報でない」ゲームを文字に起こそうというのだから、その負担は正直「文字情報である」文学作品とは桁が違う。
「佐田さん、その課題が終わった子は誰ですか? 」
「確か羽賀君……いや龍崎君と言ってましたかね」
龍崎。龍崎……えっと何だったっけ? 即座に思い出せないということは、もしかしたら影の薄い生徒なのかもしれない。少なくとも勉強やスポーツで特に目立った印象がある感じではない。そうなると、大勢の生徒と日頃から接している玉野にとって、おそらく「その他大勢」の中の一人なのだろう。
しかし、だからこそ逆に不自然だ。特別成績が良いわけでもない。あるいは月城のような文学少女というイメージもない彼が……いや、もしかしたら自分が知らないだけで、龍崎は文学少年か何かなのだろうか?
「一応、合宿自体は不可能ではありませんが……」
「なら、別に私の家でもよいと思いますが? 」
「いや、そうじゃなくて」
「じゃあ、どうなんですか? 」
玉野は「待てよ」と思った。先ほどの和久井の出版会議で、自分は正しいと思っていたことが実は勘違い。しかもそれによって一人の生徒に迷惑をかけてしまったばかりではないか。
だとしたら、その「特別に目立つ存在でもない」龍崎勇人が、また自分の勘違いによって彼を傷つけてしまう事にもならないだろうか?
「一応、校長にも話を伺っておきませんと」
「いつ、返事は頂けますか? 」
「もう今日は遅いですし、明日連絡してみます」
「それでは、お願いします」
玉野との約束を確認すると、彼女は電話を切った。
「果たして、校長が納得するだろうか……」
もし仮に、自分が引率をやれというのであれば、それ自体は不可能ではない。逆に校長が「勝手な事をするな」と否定すればそれまでの話だ。
最悪の場合には佐田の家で合宿らしきものが行われるようだし……いずれにせよ自分にはリスクがない。
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