もしも、夏休みの課題が「ドラクエのゲーム感想文」だったら…

hotelmo

文字の大きさ
36 / 45
本編

LEVEL33 / 合宿の目的って何ですか?

しおりを挟む
 「校長先生の許可がりませんでしたので」

 ゲーム感想文の合宿場所として、学校が使えない理由はそれで十分だ。だが、その校長が前向きな姿勢だとすれば話は別である。


 「ちょっと待ってください! 校長」

 予想を裏切られた形の回答に、春日は明らかに動揺している。

 「たった1日や2日で一体、何が出来るというんですか! 」
 「いや、1日でも出来ますよ」

 玉野自身も完全に信用しているわけではない。しかし、実際にそれが出来るという連絡があったのだ。本人ならばともかく、その親が嘘をつくというのは考えにくい……

 実際に感想文を見た以上、完全に信用など出来ない。だが、今は佐田の母親が言う「感想文が終わった生徒」。即ち龍崎勇斗にけるしかない。


 「どうやら、その合宿には価値がありそうですね」

 校長の発言に、先程までの不利な情勢じょうせいが一変。どうやら玉野にとって、の雰囲気となってきたようだ。

 「価値って、どういうことですか! 」

 それでも春日は納得いかないようである。当然と言えば当然だ。先ほどは玉野の責任問題を追及するような雰囲気だったにも関わらず、校長の「つる一声ひとこえ」が全てをくつがえそうとしている。

 もし仮に合宿が決行されたとして、そして結果が出てしまっては……自分はまるで「シンデレラをいじめる悪い継母ままはは」そのものではないか。
 

 「その合宿には話題性わだいせいがあります」
 「話題性、といいますと? 」
 「区の広報こうほうにアピールできるのではないですか? 」

 なるほど、と玉野は思った。「子供達が自主的に勉強合宿を行う」というのは、確かに絵になる光景だ。

 取り組むべき課題はゲーム感想文ではあるが……かといってゲームをやるわけではない。やるのはあくまで「国語の宿題」だ。

 だとすれば、その取材を受けた校長が「教育熱心な学校の校長」として取材をされる可能性もある。


 「何だ、売名行為ばいめいこういか! 」

 そう批判する人間もいるだろう。

 そして、そんな安易な売名行為をせずに「いい授業」をやり、「いい部活動」をやるべきだ。そうすれば周囲の評判などおのずとついてくる……わけがない。

 実際、部活動で区の広報に掲載される条件は基本的に「地区大会優勝」が一つのノルマである。当然だが、そのハードルは「非常に高い」。

 それに比べれば、単に学校に来て勉強する「だけ」の勉強合宿の方が「圧倒的に」コストパフォーマンスがよい。ただし、「同じように区に掲載けいさいされるのであれば」という条件付ではあるが。


 (なるほど、つまり「経営者けいえいしゃとしての判断はんだん」か……)

 学校を一つの企業として考えた場合、今の校長の考え方は教育的な配慮、というよりはむしろ「経営判断」といえるだろう。

 公立学校の教師は公務員だ。したがって授業のレベルが低いとか、あるいは部活動の成績が低迷ていめいしているという理由で解雇かいこ、というのは基本的に存在しない。

 だが、それでも自治体や国から一目いちもく置かれるような活動をした教師。あるいはそのである校長は当然、「教育界でも大きな発言力を持つ」のである。

 
 「予算の獲得は大変なんですよ」

 エアコンの設置や体育館、あるいはプールの改修工事かいしゅうこうじ。あるいは校舎こうしゃ耐震補強たいしんほきょう……

 全ての学校で同時に行われるわけではない。当然だが優先順位というものが存在する。

 即ち、予算獲得という「椅子取いすとりゲーム」に勝つためには校長の経営力、というより「政治手腕」が重要なのである。

 当然だが「区の広報に掲載された」という実績は、他の学校との差別化さべつかとして大きな意味を持つ。


 「確かに、それなら納得できなくもありませんが……」

 バスケ部の顧問である原保はらたもつ消極的しょうきょくてきながら、賛成の意思を示す。

 おそらくは「体育館の改修工事」という問題に食いついてきたのだろう。

 バスケ部は昨年、地区大会で1回戦負けを喫した。そして、それは1年生のレギュラーであった藤間翔とうましょうを「パワハラ」で退部に追い込んだのが原因だとして、他の教師から非難の的となった。

 そのため、今も体育館の使用においてバスケ部の優先順位は下げられている。卓球部やバレー部等が自分達の学校で練習試合をやりたいといえば、バスケ部はそちらにゆずらなければいけない。あるいは学校で合宿を計画したとしても、そのスケジュールは常にバレー部が優先となっているのである。

 ここで「校長の派閥はばつ」にくみしておけば、予算を優先的に回される側になる。それはいわば、「バスケ部の勢力を回復する」ということを意味する。

 
 (これはもしかして……)

 プールの改修工事、ということで水泳部の顧問もおそらく関心を示してくるだろう。

 あとは何部が予算獲得を望んでいるだろうか? いずれにせよ、顧問の教師達にはゲーム感想文の合宿を支持する理由が出来たのではないか……


 「まあ、生徒は消耗品しょうもうひんですからね~」

 校長に対する当て付けなのか、春日の言い方は明らかに挑発的だ。

 「部活動よりも、楽して自分の学校をメディアにアピールできる」

 目的は「生徒の成績向上」よりもむしろ「学校の宣伝」。ひいては「校長の点数稼てんすうかせぎ」といえる。そういった面があるのは決して否定しない。

 そういう意味では完全に「図星ずぼし」だ。皮肉を込めた言い方とはいえ、ある意味「正論」である。


 「春日先生、それは一体どういうことですか! 」

 原が春日に対して突っかかる。

 「どういうことって、原先生もよくご存知でしょう? 」
 「ご存知、といいますと? 」
 「去年の当間君のことですよ」

 これはバスケ部、そして顧問である原にとっては「アキレス健」だ。どうやら彼女はそれがよくわかっているらしい。

 「あれは、本人が無断で練習をサボったからで……」
 「部活にさえ出れば、課題が未提出でいいんですか? 」
 「それも含めてちゃんとやれってことですよ」
 「ムシが良すぎませんか? 生徒はあなたの所有物しょゆうぶつですか? 」

 一見すると正論をまくし立てている。だが要するに「古傷ふるきずかえされたくなければ合宿に反対しろ」ということだ。「大人の事情」あるいは「政治的判断」に異を唱えているようだが、本人のやっていることは「政治そのもの」である。


 「これ以上、余計な仕事を増やさないでくださいよ! 」

 そうだ。これが彼女の、というよりゲーム感想文に反対する教師全ての「本音」だ。

 確かに校長と、そして一部の部活動の顧問にとっては恩恵おんけいがあるかもしれない。

 しかし他の、それも「生徒は勉強が第一」と考えている教師にとって、成果が出るかどうか分からない上に保護者の対応に追われるゲーム感想文など「正直、ウンザリ」なのである。

 
 「まあ、でも1日か2日くらいなら、とりあえずやらせてみればいいじゃないですか」

 英語教師の米田英子よねだえいこが、原と同様に消極的な賛成の態度を見せた。

 その言動は決して好意的なものではない。逆に「これ以上、ゲーム感想文に付き合わされるのは御免ごめんだ」という姿勢が彼女の声の調子から垣間かいま見える。

 合宿の成果が出ない。そして区の広報にも掲載されない……そうなれば、もう二度とゲーム感想文など課題に出せないのではないか。

 その賛成には賛成ではなく、逆に「反対の口実を求めているような」姿勢にも感じられた。


 「私も、米田先生の意見に賛成です」

 続いて、数学教師の数見均かずみひとしが米田に続いて賛成の意思を示した。理由はやはり彼と同様。「本当は反対したい」のだろう。

 (これが、いわゆる「反対の賛成」というやつか……)

 いや逆だろ、「賛成の反対」ではないのか? しかし、今の玉野にとってはどうでもよい。とりあえず「賛成票さんせいひょう」がとれれば「勝ちは勝ち」だ。


 「では、決まりですね」

 反論が難しそうだという、周囲の空気を読みとった島津校長が全体の意見をまとめにかかる。

 こうなっては春日も渋々しぶしぶ、従わざるを得ない。そして他の反対派の教師も同様である。

 「では玉野先生、あなたに引率責任者いんそつせきにんしゃを命じます」
 「わかりました」

 その日の職員会議は、議題の大半がゲーム感想文に費やされた。本当はもっと別の議題もあったのだが、結局それは後日ごじつということでとなった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...