虹恋、オカルテット(わけありな男子高校生と美少女たちの青春がオカルトすぎない?)

虹うた🌈

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第四章 手紙

第93話 月明かりの下で……

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 梅雨明けも近付き、もう直ぐ7月とはいえ夜はやはり肌寒さを感じた。

 特に今年の梅雨は、本当によく雨が降り続いた。今日は一日中、曇り空だったが、ようやく雲の割れ目から月が顔を覗かせ、夜空を流れる雲のシルエットを浮かび上がらせている。

 そんな途切れ途切れの月明かりが照らす如月家を見渡せる裏路地に、三つの人影があった。二人は立ち姿で、もう一人は何かに座っている様だ。

「……そんなことだろうと、思いました」

 その内の一人が口を開いた。か細く、そしてどこか神秘的な雰囲気を感じるさせる声。……黒木青葉だ。

「ええ、やはり憑りつかれていたわね」

 白い狐の面を被った二人目の人物がそれに同意した。こちらは、落ち着きのある女性の声色だ。

「憑りつかれるって、ユウくんどうなっちゃうの!?」

 何かに座っている、の面を被った三人目の人物も女性のようだ。口調は慌てているが、その声は晴れ空を楽しむ金糸雀カナリアを思い起こさせる可愛らしさだ。

「大丈夫よ、いずみちゃん。私達でちゃんと祓うから、心配しないで」

「本当!? よかった…… もうあんなユウくん、見てられないの」

 三人目の人物がのお面を外すと、顔を覗かせたのは金森いずみだった。

「ふふっ、いずみちゃん。そのお面、似合ってたのに、もう外しちゃうの?」

 そして白い狐面を外し、笑顔を覗かせた二人目の人物は勿論、黒木紅葉だ。

「ひどいよ!私もその狐さんのお面が、よかったのに……」

 自分の着けていた、のお面に目を向けた後で、いずみは恨めしそうな視線を紅葉に送った。

「それは仕方ないわ、いずみちゃん。お面との相性があるんだから。
 この子たちは、『視えざるものを視、聴こえざるものが聴こえる……』この世に二つは無い貴重なお面たちなのよ」

 そう言って紅葉は、いずみが手に持っているを愛でた。

「う~!分かってるよ!また紅葉ちゃんは、そんなお面に認められただけでも奇跡的だって言いたいんでしょう?わかってる……けどさ」

 それにしたって、ってこと……ある?

 ユーモラスな表情を向けてくるお面を見つめて、いずみは顔を引きつらせた。

「……あら、私はとっても可愛らしいと思うけれどね」

 そんな彼女の心情をくみ取って、紅葉は悪びれずに素直な感想を彼女に伝えた。


 あの廃ビル以後、いずみが霊を視る事は無かった。だが、このお面を被ることで、それは可能になった。紅葉が所有していた二つの希少な面は、自らが認めた者が被る時にだけ、『視えざるものを視、聴こえざるものが聴こえる』のだという。

 本当はお面の力を借りなくても、それを出来たらよかった。だけど、いずみは何かの助けがないと、どうやらそれを出来ないらしい。

 何故あの時だけ、優樹君の姿が視えたのかは分からない。
 恐らく如月ユウと長い時間、体を密着させていた事がその要因ではないか?とは、紅葉の考察である。

 密着って……

 その言葉を聞いて、急に恥ずかしい気持ちが込み上げてきたことを思い出し、いずみは、また顔が熱くなってきた。

 キャー!密着って言い方が、なんだか恥ずかしいよ!


「―――っ! 二人とも、お面を被って下さい」

 その時、青葉の緊張した声が届く。

「……また誰か、来ました」

 その声に慌ててお面を被り直した、いずみが、如月家の前を通る道の先に視線を向けると、ゾロゾロと10人程の人影が、こちらに向かって歩いてくるのが視えた。


 ……11人。

 青葉は、瞬時に人影の人数を把握していた。

 暗闇でも、良く視えている。薄っすらと、きび色に光る様子から人ではなく霊だと分かる。その人影は全員、女性だった。自分達と同じ年頃の女性の容姿をした霊ばかりが11人、如月家の玄関の前で立ち止った。

「もしかして、あなた達……」

 前へ出ようとした青葉を制して、紅葉は一人で女性達へと近付いてゆく。

「――っ!? ――何?あなた、私達が視えてるの!?それに話も……?
 ……話せる人は、初めて。ユウさんは視えているけど、彼に私達の声は届かないから……」

 女の子の一人が話し掛けてきた。突然話し掛けてきた紅葉に、全員がかなり驚いた様子で、どよめきが起きた。しかし、それを無視して紅葉は話しを続けた。

「――あなた達、あの事件の被害者の子よね?如月君に何か用事かしら?
 まさか…… 今、中にいる子と同じ様に、全員で如月君に憑りつく気じゃないでしょうね?」

 紅葉の凛とした声が女の子達に叩きつけられると、その場はシーンと静まり返った。白い狐面を被った姿が月の光に怪しく照らし出され、かなりの迫力を醸し出している。

 そんな中、一人の女の子が振るえる声を上げた。

「わ、私たちっ……!ユウさんに、そんな……事してません。ただ……記憶を視てもらっているだけなんです」

「―――ッ!
 ……それを、憑りつくって言うの。何時から……こんな事を……?」

「い、いつからって……ここ、2週間くらいです。美月さんは、もっと前から、らしいんですけど詳しいことは分かりません」

 その女の子の話を聞いて、紅葉は息を吞んだ。


 そんなに、 ……前から?

 それも、こんなに大人数を相手に……?


 記憶視は、一人の記憶の一部を視るだけでも相当の負担が掛かる。それを長期間に渡って、こんなにも大人数の記憶を視れば、彼に掛かった負担は計り知れない。
 それに、この子達は…… この子達の記憶は……とても視ていられない記憶もあったに違いないのだ。


 ……ばか。無茶にも……程ってものが、あるのよ?


「……あんた達さ、何者なんだ?さっきから話を聞いている感じだと、ユウさんの知り合いみたいだけどさ。悪いけど私達は、何も悪い事はしていないよ。だから邪魔しないでくれるかな?」

 今度は、別の霊から声が上った。

「……悪い事は、していないですって?」

 その声に、紅葉の声色が変わった。

「勝手なこと、言わないでよ!あなた達は、いいかも知れない!だけど生きている人間は、十分な睡眠を摂らないと生きていけないの!それに他人の記憶を視る事が、どれだけの負担になるか分かって言ってる!?
 ……このままだと、如月君は間違いなく死ぬ。あなた達に、……殺されるの」

 紅葉の話を聞いた彼女達に、ざわめきが起き……

「そんな馬鹿なこと……」

「そうだよ。ユウさん、あんなに楽しそうに私達の記憶を視てくれていたじゃない」

 口々に戸惑いの声が上がる。


「――あの人は、そういう人なの!それが分かっているから、あなた達は彼に会いに来たんじゃないのっ!?彼に、頼っているんじゃないの!?
 ……お願いだから、もう止めて。これ以上、彼を苦しませないであげてよ!」

 紅葉の必死な訴えは、彼女達の声を止めさせた。


「……紅葉ちゃん、少し落ち着こう?」

 いずみが、紅葉の手を握った。

 震えて……いた。

 いつも冷静な紅葉ちゃんが、こんなになるなんて……

 そっか――

 紅葉ちゃんも……やっぱり……そうなんだね?


「あのね……私達は、ユウくんの仲間なの。この人が紅葉ちゃんで、この人が青葉ちゃん。私はね、いずみっていいます。私達は色々あって、あなた達が視えるし、話も出来ます。……今、紅葉ちゃんがお話ししたことは全部、本当のことです。
 このままだと、ユウくんは死んでしまいます。
 ユウくんは私達にとって、本当に大切な人なの。だからこれ以上は、彼に無茶をさせないで下さい。……どうか、お願いします」

「……いずみちゃん、貴女」

 そう言って深々と頭を下げた、いずみの姿が、紅葉をハッとさせた。


「そ、そんな……!もうユウさんと会ちゃいけないんですか?私たち……」

 女の子の誰かが声を上げ、すすり泣く声も聴こえ始めると、その場はすっかり、卒業式後のホームルームみたいな雰囲気になった。暫くは誰も言葉を紡ぐことも無く、すすり泣く声だけが続いた。


「…………いえ、負担が掛からない様に会うのは問題ないの」

 そんな彼女達に、声を掛けたのは紅葉だ。

「さっきは感情的になってしまって、本当に御免なさい」

 それから紅葉は、そう言って頭を下げた。そしてずうっと、自分の手を離さないでいてくれた親友の手を優しく握り返した。


「……いえ。紅葉さんの気持ち、よく分かりますから。私達こそ、あなた達の大切な人に負担を掛けているなんて知らなくって、本当に御免なさい」

 すると今度は、女の子達が皆で頭を下げてきた。どうやら、こちらの気持ちはちゃんと彼女達に届いていたようだ。お互いに笑顔になって、小さく笑い合った。

「……そうだわ。あなた達、今からうちに来ない?うちはお寺だから、大人数で来ても大丈夫なの。中の子も誘って、女子会でもしない?」

 紅葉の提案に、女の子達から嬉しそうな歓声が上がる。

「楽しそう!ね!青葉ちゃん!」

 そして提案した本人はもちろん、いずみも楽しそうに盛り上がっている。


「……はい」と、返事はしたものの青葉は内心、面倒な事になったなと一人、心の中で苦笑いを浮かべていた。初対面の人と話すのも、大人数も苦手なのである。

 でも……

 そこで青葉は、チラリ…と、ユウの自室の窓に視線を送った。

 でもこれで、ユウがゆっくり寝られます……

 ……本当に、お疲れ様でしたユウ。


 心の中で、青葉は彼にそう話し掛けた。
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