がんじがらめ

しづ

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映画館

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買い物を終えて、映画館へ向かう。時間に余裕を持って向かったつもりだったが、思いのほか混んでいたため開演ギリギリで席に着く。

久しぶりに見る映画は感動的だった。登場人物が喧嘩するシーンなどは小説よりずっとリアルに感じられた。

その為、より主人公に共感してしまう。
上手くいって、気づいて、仲直りして、必死に願いながらスクリーンを見つめ続けた。
ハッピーエンドを迎えたラストシーン。公共の場にも関わらず、私は感極まって号泣してしまう。


双熾がそっと私にハンカチを差し出す。受け取り、涙を拭く。その時、微かに香る柔軟剤の匂いがどこか落ち着く。

映画の画面がエンドロールに切り替わった。チラホラと観客が席を立ち始める。
すると自然な動作で双熾が私の肩を抱き、優しく自分の方へ抱き寄せる。泣いている私の顔を他の人に見られないように隠してくれる。

そして、双熾は決して私を急かさなかった。
『早く泣きやめ』みたいなことは一切言わない。
半分以上の観客がすでに席を立ったが、気にもしていない様子だった。

ただポンポンと私の肩を一定のリズムで叩かれた。その動作はなんとなく落ち着く。

『大丈夫?』

とても穏やかな声で尋ねられた。

『はい、ごめんなさい』

今日の双熾は最高だった。優しさと気遣いで溢れている。双熾の存在がこんなにも温かく、心地良く感じられるなんて信じられなかった。
そして最後に

『モナの泣き顔って、うっとりする程可愛いよね』

余計な、本当に、余計な、一言を付け加えてくれた。
あろうことか、感嘆のため息まで添えて。
……そりゃ、どうも
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