聖者の祈りに刃は沈む

はる

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1章

それでもあなたを信じたい リュシアン

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ゼファル様が戻ってきた——。
その報せを聞いたとき、胸が高鳴った。

また、あの声が聞ける。
また、あのまなざしに触れられる。
祈りの合間、ふと目が合って微かに目尻がゆるむ、あの優しさに。

……でも、神殿の門をくぐったその姿を見た瞬間。
胸に、冷たい何かが落ちてきた。

部下を連れていた。
顔は、任務のときと同じ。
命令に従う者の、よく知っている“仮面”だった。

「——リュシアン=セレスティア。王命により、拘束の上、王都へ連行する」

ああ、と心の中でつぶやく。

(そう……そうですよね。あなたは、王命には逆らえない。王様はきっと私を呪術師だと思っているのでしょう。)

(それはきっと、ずっとそうだった。……もしかしたら彼は私のことを信じてくれるかもと、私が、勝手に期待していただけ)

言葉が、のどに詰まった。
けれど、笑わなければいけないと思った。

「……わかりました。私が行けば、何かが解決するのなら」

悲しませたくなかった。
ゼファル様を、困らせたくなかった。
だから、笑った。

でも——
(本当は、少しだけでいい。あなたに……私を、信じていてほしかった)

***

風が吹いた。
ほんの少し冷たくて、それでいて、やさしい風。

その瞬間、足元に何かがふれた。
白い、やわらかな光の花。
ひとつ、またひとつ——あっという間に、あたりは青と白の海になっていた。

誰かが声を上げた。
驚きの声、感嘆の声、戸惑い。

けれど、自分の中には、ただひとつの想いだけが残っていた。

(……彼らは、私を見ていてくれた)

言葉を持たぬ精霊たち。
声を出さぬ小さな命たち。
でも彼らは、ちゃんと伝えてくれた。
「あなたは、悪くないよ」と。

その事実が、涙が出るほどに嬉しかった。


彼が一つも動かさないその意思のように凛々しい眉毛は悩ましげに寄せられている。

(——あなたが、どうして戻ってきたのか。
 私を“連れていく”ためなのか、“信じる”ためなのか。
 ……どちらでも、私はもう、あなたを嫌いにはなれない)

***

その後、学者や神官たちに囲まれて質問を受けていると、
不思議と、目の奥がじんと痛んだ。

みなさんは善意なのだ。わかっている。
でも、私はただ祈っていただけ。
何かを研究したり、導いたりするような存在じゃない。

こんなに持ち上げられても、私にはそんな大それたことはできないし、学者や神官の方たちの期待の眼差しが、重く、感じた。


……ゼファル様はどこに?

軽く辺りを見回すと、
少し離れた場所に立って、こちらを見ていた。

表情は読めなかった。けれど——目だけが、苦しそうだった。

(……来てくれたらいいのに)
(来てくれたら、私はもう少し、がんばれるのに)

その瞬間、体が動いた。
周りの視線も気にせず、彼のもとへ歩いた。

「ゼファル様」

名を呼ぶと、彼が顔を上げた。
ほんの一瞬、息を呑むような、静かな音が聞こえた気がした。

「お話、よろしいですか?」

「……ああ」

私の中の悲しみが、少しだけ和らいだ。
まだ、あなたの声が私に向けられることが、こんなにも嬉し
「こういうとき、ゼファル様がそばにいてくださると、安心するのです」

私の気持ちを、全部言葉にするのは難しかった。
でも、あなたはちゃんと受け止めてくれる気がした。

「必要なら、すぐ言え。俺が、全部追い払う」

ふいに、胸がふるえた。

(この人は、やっぱり……誰よりも、私のことを見てくれている)

「……それはちょっと、やりすぎです」

小さく笑うと、彼の口元も、わずかにゆるんだ。

(この人のそばにいられるだけで、私は強くなれる)
(だから——もう一度、信じたい)

このとき私は、再びはっきりと心に決めたのだった。

——私が祈るのは、もう“みんなのため”だけではない。
——あなたが、どうか、幸せでいてくれますように。


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