日雇い魔法使いは人形遣いに雇われる

暁丸

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日雇い魔法使いの新人講習 3

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銀貨と聞いて少年たちが沸き立った。

「すげぇ、銀貨か」
「一匹だけならなんとかなるかな」
「やってみようぜ」

盛り上がるメンバーを、重戦士の少年が制止した。

「バカ、風狼は僕たちが狩れる魔獣じゃないぞ」
「でも、一匹だぞ?」
「風狼は…」

魔獣の攻撃を一身に受ける重戦士は、魔獣の情報を熟知する必要がある。彼はきちんと基本を守っているようだった。

「……」
「判った…」
「仕方無いね」

新人達はレント抜きでしばらく話し合っていたが、代表して重戦士の少年が依頼の辞退を申し出た。

「講師、皆と相談しましたがその依頼は受けられません。目標は一匹ですが風狼は群で行動します。群れと戦えば僕たちでは生き残れません」
「正解だ、それいでいい」
「え?」

表情は見えないが、レントの声はわずかに嬉しそうに感じられた。
風狼は単体なら大して強くない魔獣だ。だが、基本的に群れで行動するし、一匹だけ引き離しても呼び合ってすぐ合流してしまう。風狼が中級の魔獣扱いなのは、群れが前提だからなのだ。

「きちんと狩りの対象を調べ、依頼内容に書かれていないことまで読んで自分たちには不可能な依頼と判断した。それでいい。生き残る秘訣は、調べることと無理をしない事だ。そして仕事は義務ではない。依頼を受ける受けないは冒険者の自由だ、それを忘れるな」

新人達は、自分達がレントに嵌められそうになっていた事に気づいた、そしてどうやらそれを回避できた事も。

「さて、俺の罠に気づいてくれたのはうれしいが、それでは経験にならないな。という訳で俺が手伝うから一匹だけに集中して相手をしてみろ、残りは俺が引き受ける。ただし、報酬は銅貨5枚だ」
「一人銅貨1枚か~」
「急にショボくなったな」
「だけど、近くでベテランの戦いも見られる。自分たちの実力を知るにはちょうどいいと思うぞ」
「そうだね」
「講師、その依頼受けます」
「では、風狼を探しに行く、群れでも気にしなくていい」

ほどなく風狼の群れを見つけると、レントは斥候がおびき出してきた風狼の群れから1体だけ残し、残りの5体に片っ端から弱体魔法をかけまくった。5匹の風狼を順繰り麻痺させ、眠らせ、硬直させ、常に一匹だけを相手にしながら、剣鉈で斬っていく。時に狼の攻撃は当たるのだが、弱体された攻撃を鎧で受け、更に体に纏った魔力のベールで反撃まで与えていた。

「先生すごい」
「講師の『無理なく一人で狩れる』ってアレか。無理だあんなの」
「てか、斥候だと思ってたけど、なんで魔法使ってるんだ?」
「こっちは五人で一匹だ、負けてられないぞ集中しよう」
「はい」

気合を入れなおして挑んだ新人達だが、レントが五匹の風狼を倒すのと新人が一匹を倒すのは、ほぼ同時だった。
レントは散らばった狼の死骸を引きずって集めているが、五人は肩で息をして座り込んでいる。

「講師は魔法使いだったんですか」
「あぁ、斥候だとは一言も言ってないぞ。装備を見てお前たちがそう思い込んだだけだ。先入観は命取りになることもある、覚えておけ」
「くっそー、だまされたー」

同業だと思っていた斥候の少年が悔しそうに寝転がった。

「先生…私になにか魔法を使ってましたね?普段なら魔法3回で魔力切れなのに、4回目が使えました」
「継続的に魔力を回復させる魔法だ。予想より長引いたから念のため使った、無断でかけて悪かったな」
「魔力回復って…国の兵団が使う魔法じゃないですか」
「それは上級の魔法だ。俺のは下級のだから気休め程度の回復しかない。俺の使う魔法は魔力消費が少ないのばかりだから、この魔法があるだけでかなり長時間戦える」
「参考までに、おいくらしたか聞いてもいいですか?」
「金貨60枚だ」
「げ」

あまりの値段に皆絶句した。

「つまり俺は60枚の金貨を稼いだって事だ、そう思えば少しは希望が持てるだろ?。そして戦わなければ金は稼げない。実際に魔獣と戦ってみてどうだった?」
「訓練とは全然勝手が違いました」
「そうだ、そして実戦は毎回違う。だが経験を積めば、一度経験した戦いに似ていると気づくことが多くなる。だから生き残れる確率が上がる。経験が何よりの財産になる。…そろそろ動けるか?」
「はい」
「では次は素材と魔核の回収だ。倒して依頼料を貰うだけでは中々食っていけない。素材を売って稼ぐのが重要だ。だから、荷物の空きに注意しなければならない。そして、一頭丸ごと持ち帰るのは難しいから、なるべく価値の高い部位を選んで持ち帰る必要がある。どの魔獣のどの部位が金になるかを調べておけ。風狼は、毛皮は買い取ってもらえる。内臓は薬の材料になるから依頼が出る事があるが、日持ちしないから今日は持ち帰らない。肉は臭いから人気が無い」

言いながらレントは集めた五匹の狼を解体し、魔核と毛皮以外は穴を掘って埋めた。新人達も同じように狼を解体して埋めた。そのあとは戦闘後の武具の手入れを指導し、実戦の講習は終わった。

「街に戻る前に依頼達成の報酬を渡す。少額とはいえ本来組合を通さない依頼はご法度だから、黙ってろよ」

レントは一人一人に銅貨を1枚づつ手渡した。
たった一枚の銅貨だが、新人達が初めて自分達の手で依頼を達成して得た金だった。5人とも、一枚の銅貨を達成感と共に握りしめていた。

「このただ1枚の銅貨は、お前たちが流した血と汗と勝利の喜びでできている。お前達の命だ。だから冒険者は金にガメツくなる、当然の事だ。だが…他の冒険者が持つ金も同じく彼らの命であること、その金を騙し取る事がどれだけ下劣な事かを忘れるな。俺は、冒険者は金にガメツくなるのではなく、金に対して誠実になるべきだと思っている、仲間内でもな」
「はい」
「では、街まで戻る。その風浪の魔核と毛皮はお前達のものだ、組合の買取に持っていって査定してもらえ」
「いいんですか?」

新人達の声が弾んだ。風狼の魔核と毛皮なら、ひょっとしたら銀貨がもらえるかもしれない。

「お前たちが狩った魔獣だろ、持ち帰って換金するまでが冒険者の仕事だ」
「やったっ」
「忠告しておくが、お前達は講習を受けるための臨時小隊だから、この後すぐ解散になるかもしれん。その前に分け前の精算はきちんとしておくことだ」
「冒険者はお金に誠実に…ですね」
「そうだ」

レントと新人達は、何事もなく冒険者組合まで帰ってきた。風狼素材の売却は新人達には望外の収入となった。生きる知恵を教え支度金を持たせる。それがレントの新人講習だった。
もちろん5人は、依頼の評価書に<良>を付けた。

「最初に言った通り、この講習が終われば俺は講師でなくただのレントだ、敬称も要らん。それはつまり、お前達の同業者であり商売敵である一人の冒険者になるという事だ。偶然同じ小隊にでもならない限りは、お前たちが苦しんでいても助ける事はしないしできない。冒険者とは…人間とはそういう生き物だ。この街の冒険者も依頼者も商店主も宿の主も、隙あらば他人を食い物にしようと狙っている。どんなに注意してもそれを完全に避ける事はできないだろう。だからこそ…お前達がもし互いに支え合える仲間に出会えたなら…決して裏切るな。以上だ」
「ありがとうございました!」

レントの言葉を胸に刻み、五人は心からの感謝を込めて頭を下げた。
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