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とある爺さんの異世界転生
天寿を全うしたのに異世界転生させられた
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遠くで俺を呼ぶ声がする。
……あぁ、コタツで意識無くして救急車で担ぎ込まれたんだっけ。……息が…続かないから、もうダメだなこりゃ。
呼んでるのは上のか。下のは東京だから間に合わないかな。
「じぃちゃん」と呼ぶ声も聞こえる。ごめんな、お前の結婚式までは頑張るつもりだったんだが。
黙って手を握ってるのはかぁさんか。
どこにでもいるオタで、一生家庭も持たずに一人で養護老人ホームで死ぬんだろうなぁと思っていた俺が、孫にまで囲まれて死ねるのは君のおかげだよ。俺にはもったいないくらいの妻だった。……今でも現役で腐ってるけど、それも含めてな。ネットで知り合って、コ〇ケOFFの会場でなけなしのコミュ力振り絞って声かけて良かったよ。生涯現役だとか、徹夜で衣装作りとかしなきゃ良かったかなぁ。年寄りに風邪は致命傷だって、肺炎でポックリ死んだ親父見て知ってたはずなのに。まぁずっと頭ん中10代のまんまだったから仕方ないか…。
意識が…とぎ………あ、喋れるうちに「積荷を燃やして」って言うの忘れてた……。まぁ良いか、ヤバ目のは一応始末しといたし……、残りはKか駿〇屋にでも持ち込めば、幾らかにはなるだろ。
……何かを成し遂げたり極めた訳じゃないけど、趣味に生きてやり切って、妻と子供と孫に囲まれて死ぬんだから満足してるよ……。死んだらどこに行くか知らないけど、皆は……なるべ…く…ゆっくり……おいで…。
長谷川智弘、享年70歳。趣味に生き孫にも恵まれた男は、偉業を成し遂げる事もなく風邪をこじらせて平々凡々な生涯を閉じた。
「と、思ったらコレかよ……」
長谷川さん(故人)は、どう見てもこの世ではない空間で、戸惑っていた。
真っ白で上も下も無いような空間である。自分の身体を見ようとしても何も見えないし、触ろうと思っても触れないので、言うなれば「魂」だけの状態でプカプカ浮いているらしい。
長谷川さん(故人)はオタであるので、このシチュエーションに大変心当たりがある。次に来るのはと言えば、神様っぽい奴が、ファンタジーな異世界に行って好きに生きろと言って来るやつだろうか?。
「勘弁してくれ…」
オタにあるまじきことかもしれないが、長谷川さん(故人)はとてもではないが「異世界転生ヒャッハーーーー」という気分にはなれなかった。
「俺は若くしてトラックに轢かれた訳でも、落雷に会った訳でも、過労死した訳でも無いし、なんかの武術極めたとかMMORPGでカンストしたプレイヤーでもないぞ?。なんでこんなとこにいるんだっての……」
オタたるもの、一度や二度は「本当に異世界に転移したら(もしくは過去世界に転移したら)自分はどんな事ができるだろう」と夢想するものである。誰だってそーする。俺もそーする。長谷川さん(故人)もそーした。
だが、実際にヒャッハーしたいかと言えば、それはまた別の話である。夢想した結果が「ダメだこりゃ」なのだから。
だいたいが、長谷川さん(故人)は争い事が嫌いだった。競争も嫌いだった。テキトーに生きているのが一番幸せな人間だったのである。ダテに公〇員を進路に選んだりしていない。そんな人間が中世っぽい自己救済の世界に行ったって全然楽しく無いのだ。田舎でスローライフ?昭和の半ばの田舎に生まれたら、「田舎にそんなものは存在しない」と身に染みて知っている。
そもそも、なんで異世界に送られるのか、長谷川さんには全く身に覚えが無い。ゲームはそこそこ手を出したが、廃人というには程遠い、基本は課金もしないライトゲーマーである。若い頃にはレイ〇ングストームのコマンド入力くらいはできたが、今じゃ目押しだって怪しい。
体力方面はもう皆無である。若い頃からナマコのような運動量だったが、歳を経てホヤの運動量に低下している。自力で歩き回るのは、イベント会場と秋葉くらいのものだ。走ったら死ぬ。
こんなのを異世界に送ったって、何を為せるというのだ。
だいたい、好きな事しまくって天寿を全うした訳で、未練も無ければ神様に貸しがある訳もでない。仮に神様になにか貸しがあったって取り立てる気は無いのだ。ぶっちゃけ、70年も生きりゃもう十分なのである。異世界でハーレム?カミさんの他には二次元で十分だっての。どうやったって転生するというなら、今の記憶も意識も引き継がず、普通の輪廻に任せて欲しいと思っている。
そんな事を考えていたら…
「余計な説明しなくて済むので助かります」
突然、どこかから女性の声が聞こえた。
「おう、神様のお出ましですか……神様で良いんですよね?」
ブツクサ不満を口にしていた長谷川さん(故人)であるが、一応敬語は忘れない。そこはそれ、長年社会人をやっていたので、最低限の礼儀は守るのである。
突然、目の前にフッと姿を現したのは、金髪を結い上げたOLスーツ姿の女性だった。
基本、死ぬまで奥さん一筋だった長谷川さん(故人)から見ても十分すぎる美人だ。
「そういう存在だと思っていただいて結構です。唯一神を信仰している方だと説明に困るんですけどね」
「まあ日本人ですから、その辺はゆるゆるで大丈夫です」
「それもあって、多神教の方を召喚することが多いんですよ」
「……それはさておき、なんです?その恰好?」
何か、ごく当たり前のように会話が進むのでスルーしかけたが、あんまり神様らしくない格好なので一応突っ込んでみた。
「私、とある世界のとある銀河を担当している管理者ですので、あなたの世界の働く女性のスタイルに合わせさせていただきました」
「……眼鏡は?」
「は?」
「いえ、なんでもないです」
一瞬地が出かけたが、かろうじてごまかした。三次は着衣エロにしか興味のない(現物は除く)長谷川さん(故人)なので、美人のスーツ姿は大変ご馳走様でした。
「よくわからん理屈ですが、スーツは嫌いじゃないのでとりあえず納得しときます。あ、初めまして、御存知だと思いますが、長谷川智弘です」
「こちらこそ。テムテリス・タイサー……とっても長いので、略します。テムテリス世界の管理神、シャリウと申します」
「で、なんだって私はこんな所に居るんでしょうか?」
「はい、長谷川さんには私の管理する世界で第二の人生を…」
「きっぱりお断りします。とっとと死なせて下さい」
食い気味の長谷川さん(故人)の剣幕に、女神はしばらくポカーンとしていた。
「えーと…」
「なんで誰も彼もがチート能力貰って異世界で無双するのを望んでるとか思うんですかね?」
「いや、あの…」
「人並の人生送って、孫にまで見送られて全うしたんですよ。俺の晩節を勝手に汚さないでください」
「ちょ…」
「生憎と、世界を救うような器では無いんですし、トラックに轢かれて若死にした訳でも無いので、前世に未練もないんですが…」
「すいません、ちょっと話を聞いてもらえませんか?」
「はいどうぞ。聞くだけですけどね」
長谷川さん(故人)は基本的にへそ曲がりである。投資話の電話で「お話だけでも」と言われて30分近くセールストークに付き合って、「聞きました」と言って電話を切ったこともある。かなり大人げない。長谷川さんの妻は、常々子供たちにこう諭していた「お父さんを怒らせちゃダメだよ、お父さんは面倒臭い人だからね」と。
女神は一瞬だけ「なんだコイツ」という顔をしたものの、営業スマイルで話し始めた。
「あなたの魂…まぁ今は魂だけになってる訳ですが、私の担当する世界のとある人物の魂と非常に近いものでして。その方の魂が壊れかけて、そのせいで世界崩壊の危機になっています。あなたには、その方の魂の崩壊を補って欲しいのです」
「……はあ?」
聞いた長谷川さん(故人)は、神様の前でマヌケな声を出した。俺TUEEEEEEとか、勇者とかじゃなくて、どうも自分は接着剤かパテとして召喚されたらしい。
「えーと…私は、異世界の世界破滅のカギを握るどなたかの魂の亀裂を補修するために呼び出されたと?。私を補修材として使うなら、別に意識や人格を残さずそのまま補修材として使ってしまえば良いじゃないですか。死んだ身ですので文句言う気もありませんよ」
「…大変申し訳無いのですが…魂と人格って結構強固に結びついてまして。その方は魂が傷ついたせいで人格もちょっと影響を受けています。そのフォローをお願いしたいのです」
「つまり、私に誰かの人格の一部になれと?」
「そういうことになります。あなたは、元の世界でもごく普通の平凡な人格でした。基本穏やかで破壊や殺人の衝動もありませんし、あまりにそういった感情が強いようですといろいろ影響があるので、そういった点でも適任なのです」
「その方の魂を補修すると私の魂はどうなるんですかね?混ざって別の物になりそうな気がするんですが?次の輪廻はどうなるんでしょう?」
「魂の輪廻の詳細は、さすがにご説明することはできません。ただまぁ、"本来そういうものだ"とだけ申し上げます。あなたの知る”輪廻”とは、ちょっと違うとだけ理解してください」
「はぁ?…まぁ、どうせ次の人生の話ですんで、どうでも良いです。で、つまり、その人の一部になれば俺は消えられるって事なんですね?」
「一つの人格として統合されれば、やがてはそうなるはずですが、統合が進むまではしばらくもう一つの人格としてフォローしていただきたいのです」
長谷川さん(故人)は、『異世界もの』で良くある、ナビ機能のようなものもが思い浮かんだ。だが、アレは世界の理を知っているから機能するのであって、現地人に異世界人がナビできる訳も無い。まるで逆の話だ。
「いやあの、別の人に代わってもらえません?俺、普通に死にたいんですけど……」
長谷川さん(故人)は(故人)なので(故人)らしくしたかった。ぶっちゃけ言うなら、面倒事は大嫌いなのだ。死んだら責任負わなくて済むのに、誰ぞにくっついて世界の破滅を回避しろとか面倒の気配しかしない。しかも補修剤代わりである。良い気がする訳がない。
「魂を統合するには、相当に近い…例えるなら同じ色をした魂じゃないと無理なんです。しかも、長谷川さんはちょうど寿命で亡くなった所でした。性格も申し分ないし、渡りに船といいますか。……言っときますけど、トラックぶつけてこっちに召喚なんてのは、本来やってはいけない犯罪ですよ。殺人ですからね」
「本来本来やってはいけないって…、神様がトラックぶつけて召喚したりする事例があるんです?んなことしたら、轢いたトラックの運ちゃんも破滅じゃないですか」
管理神は「あ」という顔で口を抑えた。……事例があるらしい。
長谷川さん(故人)から、神様を敬おうという気がだんだん失せて来た。
「なんでこの手の神様って、無責任のポンコツしか居ないんだろな…」
「そんなことありませんよ!。世界の破滅をどうにか止めようと、必死になって手段を模索してこうなったんですから!」
「そりゃ、そっちの都合だけでしょ。気持ちよく死のうとした魂引きずり出して、意識を維持したまんま他者の一部になれなんて、なんの罰ゲームだっての、俺、損しかしてないスよね」
「申し訳なくは思いますが、他に手は無いんで、ここはどうあっても頑張ってもらうしか無いのです。なんとかお願いしますよー」
「判らんなぁ、神様なら俺の意思でもどうにでもできるんじゃないですか?俺はこの意識さえ死なせてもらったら、後は知ったこっちゃないので魂でもなんでも好きに使ってくれていいですよ」
「それじゃ意味が無いので、こうしてお願いしてるんですよ!」
「全然判らんから、ちゃんと事情を説明せーーーいっ!」
ポンコツ女神様の逆ギレVS長谷川さん(故人)の反転ダブル逆ギレ返しの戦いはまだ続いている。
天寿を全うしたのに異世界転生……まだできていなかった。
……あぁ、コタツで意識無くして救急車で担ぎ込まれたんだっけ。……息が…続かないから、もうダメだなこりゃ。
呼んでるのは上のか。下のは東京だから間に合わないかな。
「じぃちゃん」と呼ぶ声も聞こえる。ごめんな、お前の結婚式までは頑張るつもりだったんだが。
黙って手を握ってるのはかぁさんか。
どこにでもいるオタで、一生家庭も持たずに一人で養護老人ホームで死ぬんだろうなぁと思っていた俺が、孫にまで囲まれて死ねるのは君のおかげだよ。俺にはもったいないくらいの妻だった。……今でも現役で腐ってるけど、それも含めてな。ネットで知り合って、コ〇ケOFFの会場でなけなしのコミュ力振り絞って声かけて良かったよ。生涯現役だとか、徹夜で衣装作りとかしなきゃ良かったかなぁ。年寄りに風邪は致命傷だって、肺炎でポックリ死んだ親父見て知ってたはずなのに。まぁずっと頭ん中10代のまんまだったから仕方ないか…。
意識が…とぎ………あ、喋れるうちに「積荷を燃やして」って言うの忘れてた……。まぁ良いか、ヤバ目のは一応始末しといたし……、残りはKか駿〇屋にでも持ち込めば、幾らかにはなるだろ。
……何かを成し遂げたり極めた訳じゃないけど、趣味に生きてやり切って、妻と子供と孫に囲まれて死ぬんだから満足してるよ……。死んだらどこに行くか知らないけど、皆は……なるべ…く…ゆっくり……おいで…。
長谷川智弘、享年70歳。趣味に生き孫にも恵まれた男は、偉業を成し遂げる事もなく風邪をこじらせて平々凡々な生涯を閉じた。
「と、思ったらコレかよ……」
長谷川さん(故人)は、どう見てもこの世ではない空間で、戸惑っていた。
真っ白で上も下も無いような空間である。自分の身体を見ようとしても何も見えないし、触ろうと思っても触れないので、言うなれば「魂」だけの状態でプカプカ浮いているらしい。
長谷川さん(故人)はオタであるので、このシチュエーションに大変心当たりがある。次に来るのはと言えば、神様っぽい奴が、ファンタジーな異世界に行って好きに生きろと言って来るやつだろうか?。
「勘弁してくれ…」
オタにあるまじきことかもしれないが、長谷川さん(故人)はとてもではないが「異世界転生ヒャッハーーーー」という気分にはなれなかった。
「俺は若くしてトラックに轢かれた訳でも、落雷に会った訳でも、過労死した訳でも無いし、なんかの武術極めたとかMMORPGでカンストしたプレイヤーでもないぞ?。なんでこんなとこにいるんだっての……」
オタたるもの、一度や二度は「本当に異世界に転移したら(もしくは過去世界に転移したら)自分はどんな事ができるだろう」と夢想するものである。誰だってそーする。俺もそーする。長谷川さん(故人)もそーした。
だが、実際にヒャッハーしたいかと言えば、それはまた別の話である。夢想した結果が「ダメだこりゃ」なのだから。
だいたいが、長谷川さん(故人)は争い事が嫌いだった。競争も嫌いだった。テキトーに生きているのが一番幸せな人間だったのである。ダテに公〇員を進路に選んだりしていない。そんな人間が中世っぽい自己救済の世界に行ったって全然楽しく無いのだ。田舎でスローライフ?昭和の半ばの田舎に生まれたら、「田舎にそんなものは存在しない」と身に染みて知っている。
そもそも、なんで異世界に送られるのか、長谷川さんには全く身に覚えが無い。ゲームはそこそこ手を出したが、廃人というには程遠い、基本は課金もしないライトゲーマーである。若い頃にはレイ〇ングストームのコマンド入力くらいはできたが、今じゃ目押しだって怪しい。
体力方面はもう皆無である。若い頃からナマコのような運動量だったが、歳を経てホヤの運動量に低下している。自力で歩き回るのは、イベント会場と秋葉くらいのものだ。走ったら死ぬ。
こんなのを異世界に送ったって、何を為せるというのだ。
だいたい、好きな事しまくって天寿を全うした訳で、未練も無ければ神様に貸しがある訳もでない。仮に神様になにか貸しがあったって取り立てる気は無いのだ。ぶっちゃけ、70年も生きりゃもう十分なのである。異世界でハーレム?カミさんの他には二次元で十分だっての。どうやったって転生するというなら、今の記憶も意識も引き継がず、普通の輪廻に任せて欲しいと思っている。
そんな事を考えていたら…
「余計な説明しなくて済むので助かります」
突然、どこかから女性の声が聞こえた。
「おう、神様のお出ましですか……神様で良いんですよね?」
ブツクサ不満を口にしていた長谷川さん(故人)であるが、一応敬語は忘れない。そこはそれ、長年社会人をやっていたので、最低限の礼儀は守るのである。
突然、目の前にフッと姿を現したのは、金髪を結い上げたOLスーツ姿の女性だった。
基本、死ぬまで奥さん一筋だった長谷川さん(故人)から見ても十分すぎる美人だ。
「そういう存在だと思っていただいて結構です。唯一神を信仰している方だと説明に困るんですけどね」
「まあ日本人ですから、その辺はゆるゆるで大丈夫です」
「それもあって、多神教の方を召喚することが多いんですよ」
「……それはさておき、なんです?その恰好?」
何か、ごく当たり前のように会話が進むのでスルーしかけたが、あんまり神様らしくない格好なので一応突っ込んでみた。
「私、とある世界のとある銀河を担当している管理者ですので、あなたの世界の働く女性のスタイルに合わせさせていただきました」
「……眼鏡は?」
「は?」
「いえ、なんでもないです」
一瞬地が出かけたが、かろうじてごまかした。三次は着衣エロにしか興味のない(現物は除く)長谷川さん(故人)なので、美人のスーツ姿は大変ご馳走様でした。
「よくわからん理屈ですが、スーツは嫌いじゃないのでとりあえず納得しときます。あ、初めまして、御存知だと思いますが、長谷川智弘です」
「こちらこそ。テムテリス・タイサー……とっても長いので、略します。テムテリス世界の管理神、シャリウと申します」
「で、なんだって私はこんな所に居るんでしょうか?」
「はい、長谷川さんには私の管理する世界で第二の人生を…」
「きっぱりお断りします。とっとと死なせて下さい」
食い気味の長谷川さん(故人)の剣幕に、女神はしばらくポカーンとしていた。
「えーと…」
「なんで誰も彼もがチート能力貰って異世界で無双するのを望んでるとか思うんですかね?」
「いや、あの…」
「人並の人生送って、孫にまで見送られて全うしたんですよ。俺の晩節を勝手に汚さないでください」
「ちょ…」
「生憎と、世界を救うような器では無いんですし、トラックに轢かれて若死にした訳でも無いので、前世に未練もないんですが…」
「すいません、ちょっと話を聞いてもらえませんか?」
「はいどうぞ。聞くだけですけどね」
長谷川さん(故人)は基本的にへそ曲がりである。投資話の電話で「お話だけでも」と言われて30分近くセールストークに付き合って、「聞きました」と言って電話を切ったこともある。かなり大人げない。長谷川さんの妻は、常々子供たちにこう諭していた「お父さんを怒らせちゃダメだよ、お父さんは面倒臭い人だからね」と。
女神は一瞬だけ「なんだコイツ」という顔をしたものの、営業スマイルで話し始めた。
「あなたの魂…まぁ今は魂だけになってる訳ですが、私の担当する世界のとある人物の魂と非常に近いものでして。その方の魂が壊れかけて、そのせいで世界崩壊の危機になっています。あなたには、その方の魂の崩壊を補って欲しいのです」
「……はあ?」
聞いた長谷川さん(故人)は、神様の前でマヌケな声を出した。俺TUEEEEEEとか、勇者とかじゃなくて、どうも自分は接着剤かパテとして召喚されたらしい。
「えーと…私は、異世界の世界破滅のカギを握るどなたかの魂の亀裂を補修するために呼び出されたと?。私を補修材として使うなら、別に意識や人格を残さずそのまま補修材として使ってしまえば良いじゃないですか。死んだ身ですので文句言う気もありませんよ」
「…大変申し訳無いのですが…魂と人格って結構強固に結びついてまして。その方は魂が傷ついたせいで人格もちょっと影響を受けています。そのフォローをお願いしたいのです」
「つまり、私に誰かの人格の一部になれと?」
「そういうことになります。あなたは、元の世界でもごく普通の平凡な人格でした。基本穏やかで破壊や殺人の衝動もありませんし、あまりにそういった感情が強いようですといろいろ影響があるので、そういった点でも適任なのです」
「その方の魂を補修すると私の魂はどうなるんですかね?混ざって別の物になりそうな気がするんですが?次の輪廻はどうなるんでしょう?」
「魂の輪廻の詳細は、さすがにご説明することはできません。ただまぁ、"本来そういうものだ"とだけ申し上げます。あなたの知る”輪廻”とは、ちょっと違うとだけ理解してください」
「はぁ?…まぁ、どうせ次の人生の話ですんで、どうでも良いです。で、つまり、その人の一部になれば俺は消えられるって事なんですね?」
「一つの人格として統合されれば、やがてはそうなるはずですが、統合が進むまではしばらくもう一つの人格としてフォローしていただきたいのです」
長谷川さん(故人)は、『異世界もの』で良くある、ナビ機能のようなものもが思い浮かんだ。だが、アレは世界の理を知っているから機能するのであって、現地人に異世界人がナビできる訳も無い。まるで逆の話だ。
「いやあの、別の人に代わってもらえません?俺、普通に死にたいんですけど……」
長谷川さん(故人)は(故人)なので(故人)らしくしたかった。ぶっちゃけ言うなら、面倒事は大嫌いなのだ。死んだら責任負わなくて済むのに、誰ぞにくっついて世界の破滅を回避しろとか面倒の気配しかしない。しかも補修剤代わりである。良い気がする訳がない。
「魂を統合するには、相当に近い…例えるなら同じ色をした魂じゃないと無理なんです。しかも、長谷川さんはちょうど寿命で亡くなった所でした。性格も申し分ないし、渡りに船といいますか。……言っときますけど、トラックぶつけてこっちに召喚なんてのは、本来やってはいけない犯罪ですよ。殺人ですからね」
「本来本来やってはいけないって…、神様がトラックぶつけて召喚したりする事例があるんです?んなことしたら、轢いたトラックの運ちゃんも破滅じゃないですか」
管理神は「あ」という顔で口を抑えた。……事例があるらしい。
長谷川さん(故人)から、神様を敬おうという気がだんだん失せて来た。
「なんでこの手の神様って、無責任のポンコツしか居ないんだろな…」
「そんなことありませんよ!。世界の破滅をどうにか止めようと、必死になって手段を模索してこうなったんですから!」
「そりゃ、そっちの都合だけでしょ。気持ちよく死のうとした魂引きずり出して、意識を維持したまんま他者の一部になれなんて、なんの罰ゲームだっての、俺、損しかしてないスよね」
「申し訳なくは思いますが、他に手は無いんで、ここはどうあっても頑張ってもらうしか無いのです。なんとかお願いしますよー」
「判らんなぁ、神様なら俺の意思でもどうにでもできるんじゃないですか?俺はこの意識さえ死なせてもらったら、後は知ったこっちゃないので魂でもなんでも好きに使ってくれていいですよ」
「それじゃ意味が無いので、こうしてお願いしてるんですよ!」
「全然判らんから、ちゃんと事情を説明せーーーいっ!」
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