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とある爺さんの異世界転生
性癖としてはアリでも自分がなるもんじゃない 1
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「な、な…」
「デカイ声を出すな、気づかれるだろが」
『なんじゃこりゃー!』という素の叫びは、幸いにも声にならなかった。即座にシリオンが発声機能をoffにしたらしい。
うんざりしたように言うシリオンを睨みつけるが、どこ吹く風だ。長谷川さん(故人)は、こちらの都合なんぞ歯牙にもかけないシリオンにとっとと見切りをつけると、自分の身体の感覚をつかもうとして……泣きたくなった。
生きていた頃、自分が異世界転生したら…といろいろ夢想した中で、絶対したくないと思ったのは無機物転生だった。息をして、食って、出して生きている肉の身体を持っていた魂が、呼吸もしない、食事も排泄もしない、手足も無い無機物に転生したら、絶対耐えられないだろうと思っていた。魂でしばらく暮らしていたときに人間の生活を再現していたのはそのせいだ。数あるその手の主人公が発狂しないのは、転生する時に神様になんかされたんじゃなかろうかと思っている。だがどうやら自分はその苦行にどうにか耐えなければならないらしい。
この身体は一応人型をしていてある程度自分で動かせるようだが、無機物には違いない。ちょっと試した限り、生物らしさは一切無かった。鼓動も感じないから心臓も無いのだろう。呼吸もしない、触覚も痛覚も無い。匂いも感じないし、口の中の感覚も無い、たぶん味覚も無いのだろう。今のところ、かろうじて視覚と聴覚が機能しているだけだ。控えめに言って、最悪の事態の一歩手前…と言っていい。
そしてこうも思う。(最悪の事態にならなくて良かった)と。
自分には予備知識があったし、心構えもあった。もし、ウルスラがこの身体に転生していたら…傷だらけの彼女の心が耐えられたとはとうてい思えない。それだけでも、自分が主になって転生した意味はあると思えた。
(アイツ、この事態を知ってたのか?……いや、たぶんアイツも想定外だったんだろな。そうでなきゃ、ウルスラを転生させようと思うはずがない…)
管理神は、ウルスラ主+長谷川さん(故人)従で転生させようとしていた。かなりのポンコツだが、ホムンクルスの身体に耐えられないウルスラが、この身体に耐えられない事くらいは予想できるだろう。勇者とシリオンは、管理神の想像の斜め上に行ったという事になる。
(せめて生物にしてくれよ……トンでもねぇ賢者様だな…)
息はできないが、何回かエアー深呼吸してシリオンを見て軽く頷くと、即座に手許の装置で何事かを操作した。発声できるよう接続したらしい。
「聞いていいですか?」
「…なんだ?」
『余計な事を言うな』と一蹴されるかと思ったら、シリオンは長谷川さん(故人)の予想外の反応に興味を持ったらしい。
「私は…ウルスラって人は、機械人形だったんですか?」
「ンな訳あるか、『勇者の孫』だって言ったろ。勇者の娘…人間の女の胎から生まれた普通の人間だったよ」
「じゃあなんで今のわたしは機械の身体なんですか?」
「それも言ったろ。元の身体は朽ち果ててるって。というか、荼毘にされて灰しか残ってねぇよ」
シリオンはいかにも『つまらん事ばかり効くな』という態度だ。どうやら機械人形に転生させたのは、彼にとっては「些細な事」のように思っているらしい。
「だからって、人形の身体はあんまりです。私の身体が無いなら、そもそも『蘇生』は不可能じゃないですか」
「いやぁ、そうでもねぇぞ。魔神と呼ばれる異世界の連中は、人造の生命を作る事に成功している。原理さえ解明すれば、俺にも再現はできるはずだ」
「そうではなくて!。たとえ生物の身体でも、それってわたしの身体じゃないですよね?」
「……仮にだが…。別人の魂が入ったお前の元の身体と、お前の魂が入った別人の身体は、どっちがよりお前だ?」
「選択肢を示したように見せて、実は選択しようが無い設問で追い込むのは、詐欺の常套手段ですよね」
そう指摘されたシリオンは一瞬面食らったような表情を見せたが、直ぐにニヤリと笑った。
「ほ!、面白いなお前。それはウルスラの地か?それとももう一人とやらか?」
「もう一人と言っても、別な人格が居る訳じゃありませんよ。人格と記憶が一つに混じってるんだと思います。これがウルスラの地かどうかは、前の記憶が曖昧なので判りません」
長谷川さん(故人)は、当初の方針…ウルスラに長谷川さん(故人)が混じった状態…を演じる事にした。これなら嘘にはならないし、人格の違いも(少なくともシリオンには)説明が付く。
「益々興味深い!…が、とりあえず後のお楽しみに取っておくか。さっきの設問については、俺は後者が正しいと思っているということだ」
「…あなたは、魂こそが人間である…と?」
「そうだな。より正確に言えば、体験と記憶の蓄積+それに基づいて形成された人格…こそが人間の本質だろう。魂とはそれを包括し、肉体と結びつけるためのもの。体験と記憶の蓄積が違えば、仮に元が同じ魂でも別人になると俺は思っている」
「どうしてそう…」
「お前の魂を調べたからだよ。生の魂があったから、あらゆる方法で調べまくった。だから定着の瞬間に違いが出たことに気づいたんだ。……とんだ大失敗かと思ったが、とんでもない拾い物だ。今までは推論止まりだったことが、お前の口から『別な記憶が混じった』という証言が得られたことで、確信が持てた」
長谷川さん(故人)は、改めて(ヤベーやつだ、コイツ)という思いを新たにした。シリオンは、明らかに管理神の領域にまで踏み込もうとしている。
「いいなぁ、実にいい。魂だけ調べていたのでは判らなかった事が、当事者から情報として得られるのは大きい。いくつかの課題が解決する一方で、新たな課題がどんどん沸いてくる。お前は最高の研究課題だ」
(うわ、どこぞの教授みたいな事を言い出したよ…好物が焼きプリンとかじゃないだろうな。まぁ、あの人は「魂」の存在は否定してたけど…)
「で、だ。魂というものを精神力の根源だとするとだな、同様に肉体には生命力の根源のようなものあるんじゃなかろうか…」
シリオンは生徒に講義する教師のような口調になっていた。研究材料としてだけでなく、飲み込み良く議論の相手にもなりそうな『ウルスラ』に興味を持ったようだった。
「そしてこの二つがきちんと結び付かないと、生き物として成り立たない…と俺は考えている。不死者の存在を説明するには、肉と心を分けて考えないと説明が付かない」
(なるほど、魂魄みたいな考え方か…)
それがこの世界の理かどうかは長谷川さん(故人)に知る由も無いが、この世界でもトップクラスの異能がそう考えているなら、あながち外れていないように思えた。
「そしてだな、どうもこの二つには相性があるらしく、相性が悪いと魂を移植しても身体に上手く結びつかずに、直ぐに死んだり生きた屍になったりする」
「……試したんですか?」
「お、聞きたいか?」
「絶対気分悪くなると思うので遠慮します」
「蘇生魔法は人類共通の悲願なんだぞ。その貴重な実験結果だってのに…」
「そんなことより。機械の身体には『生命力の根源』が無いじゃないですか!今の説が正しいのなら、わたしは『生き物』じゃないって事になります」
「その通り。だから相性なんぞ関係なく魂が定着できた」
「えぇっ?!」
「『生命力の根源』が必須なのは、それが無いと肉体が朽ち、魂がすぐに霧散してしまうからだ。だがその身体はその胸の中の魔石、そいつが魂をその身体に固定し続けるから支障は無い」
「だ、だけど、勇者様の希望で『孫を蘇生』させるって話なのに、『生き物』じゃ無いなんて…」
「それがトールのご希望なんだよ」
「えぇっ?!」
いい加減驚き慣れたと思ったら、とんでもない爆弾が降ってきた。機械の身体はこの岩人の趣味全開なのかと思ったら、当の勇者様のご希望だというのは、さすがに予想外だった。
「『とにかく頑丈で、殺しても死なない身体を作れ…。例えば、魔銀の魔導兵(ミスリルゴーレム)に魂を移植とかできるか?』と言われてな。それだとどう取り繕っても魔銀の彫像にしかならんから、ちゃんと人間に見えるように、完璧に人間の体の構造を再現した機械人形にした。どこにやったか……」
そう言ったシリオンは続き部屋に入ると何かごそごそ探していたようだが、鏡を持ってきて長谷川さん(故人)の顔の前にかざした。
「見てみろよ」
長谷川さん(故人)は、しばし茫然として鏡を見つめていた。作りかけで構造剥き出しの身体と異なり、そこに映っていたのは、確かに魂時代に見た自分(ウルスラ)の顔だった。口を開けたり結んだり、瞼を開けたり閉じたりしてみても、人間とほぼ同じように表情豊かに動く。不気味の谷を飛び越えていると言っていい。記憶にある長谷川さん(故人)の世界のロボットより自然だった。
「す…すごい…ですね」
「当然だ。この俺が持てる限りの技術つぎ込んで作ったんだからな。複雑なぶん強度は魔導兵に及ばないが、代わりに人間に限りなく近い構造にしてある」
心からの称賛の言葉にドヤ顔をするだけの事はある。シリオンは技師としてだけではなく、造形作家としても超一流だった。なんの素材を使ったか不明だが、皮膚の質感まで再現され睫毛まで植毛されている。口を開ければ、舌まで動かす事ができた。
だが、完全に人間と同じ身体かと言えば、「全然違う」と長谷川さん(故人)は主張したかった。
「だけど…」
「あぁ?なんか不満があるのか?」
「身体の感覚が全然無いんですけど」
「…全身に高密度で触点を埋め込むのは無理だったんだよ」
「これだと、鏡見ながらじゃなきゃ表情作れませんよ」
シリオンはあんまり重要に考えていなかったようだが、実際に『中の人』になった長谷川さん(故人)からしたら大問題だった。足が痺れた状態で歩けと言われているようなものだ。
「人間だって、意識して作る以外に自然に表情が出るだろう、それと同じで表情のパターンを作ってそれを呼び出せるようにするしかないか…」
ぶつぶつと独り言を言いながら考えていたシリオンだが、やおら顔を上げると恐ろしく端的な解決策を告げた。
「慣れろ」
「無茶な!」
「無茶でもどうにかしろ。正直お前を失うのは惜しすぎる、重大な損失だ。だが、そのためにはお前が完全にウルスラで無いと困る」
「完全でないと…どうなるのでしょうか?」
「さっきそこにいたジジイが勇者トールだ…温和なジジイに見えるが、勇者ってのは、一人で一軍に匹敵するバケモノだ。そして、その勇者は…おかしくなりかけている。何しろ孫を機械の身体にしろって言いだすくらいだからな。それでも、孫の蘇生が正気を保つ最後のタガなんだよ。失敗したらブチキレて何仕出かすか想像もできんのだ。まぁそれはそれで見てみたいが…」
(何言ってるんだコイツは、勇者ボカン食らったら人類滅亡だよ。てか、目の下とか口の両脇に線とか無いけど、ロボはロボだろ。孫がこんなんでいいのかよ勇者。そのうち気に入らなくなってサーカスに売られたりしないだろうな…。しっかし、勇者もキチ〇イだが、こいつも大概だな。こんな二人を混ぜるなよ)
現状は最初から最後まで突っ込みどころしかない状況だ。クソゲーと言って言い。それでも長谷川さん(故人)は必死に生存ルートを探そうとした。利害は噛み合いそうだし、どうにかシリオンを味方にできれば打開の道も…そう思っていたら、シリオンが突如激昂した。
「失敗するはずは無かったんだ!。俺の理論通りに事が運ばなかった事の方が許せん。お前の中にいるウルスラ以外の誰かって誰だ?どこで混じった!」
(あ、そこに戻るのね…)
長谷川さん(故人)は(俺って転生してからため息ついてばっかりだな)と思った。
「デカイ声を出すな、気づかれるだろが」
『なんじゃこりゃー!』という素の叫びは、幸いにも声にならなかった。即座にシリオンが発声機能をoffにしたらしい。
うんざりしたように言うシリオンを睨みつけるが、どこ吹く風だ。長谷川さん(故人)は、こちらの都合なんぞ歯牙にもかけないシリオンにとっとと見切りをつけると、自分の身体の感覚をつかもうとして……泣きたくなった。
生きていた頃、自分が異世界転生したら…といろいろ夢想した中で、絶対したくないと思ったのは無機物転生だった。息をして、食って、出して生きている肉の身体を持っていた魂が、呼吸もしない、食事も排泄もしない、手足も無い無機物に転生したら、絶対耐えられないだろうと思っていた。魂でしばらく暮らしていたときに人間の生活を再現していたのはそのせいだ。数あるその手の主人公が発狂しないのは、転生する時に神様になんかされたんじゃなかろうかと思っている。だがどうやら自分はその苦行にどうにか耐えなければならないらしい。
この身体は一応人型をしていてある程度自分で動かせるようだが、無機物には違いない。ちょっと試した限り、生物らしさは一切無かった。鼓動も感じないから心臓も無いのだろう。呼吸もしない、触覚も痛覚も無い。匂いも感じないし、口の中の感覚も無い、たぶん味覚も無いのだろう。今のところ、かろうじて視覚と聴覚が機能しているだけだ。控えめに言って、最悪の事態の一歩手前…と言っていい。
そしてこうも思う。(最悪の事態にならなくて良かった)と。
自分には予備知識があったし、心構えもあった。もし、ウルスラがこの身体に転生していたら…傷だらけの彼女の心が耐えられたとはとうてい思えない。それだけでも、自分が主になって転生した意味はあると思えた。
(アイツ、この事態を知ってたのか?……いや、たぶんアイツも想定外だったんだろな。そうでなきゃ、ウルスラを転生させようと思うはずがない…)
管理神は、ウルスラ主+長谷川さん(故人)従で転生させようとしていた。かなりのポンコツだが、ホムンクルスの身体に耐えられないウルスラが、この身体に耐えられない事くらいは予想できるだろう。勇者とシリオンは、管理神の想像の斜め上に行ったという事になる。
(せめて生物にしてくれよ……トンでもねぇ賢者様だな…)
息はできないが、何回かエアー深呼吸してシリオンを見て軽く頷くと、即座に手許の装置で何事かを操作した。発声できるよう接続したらしい。
「聞いていいですか?」
「…なんだ?」
『余計な事を言うな』と一蹴されるかと思ったら、シリオンは長谷川さん(故人)の予想外の反応に興味を持ったらしい。
「私は…ウルスラって人は、機械人形だったんですか?」
「ンな訳あるか、『勇者の孫』だって言ったろ。勇者の娘…人間の女の胎から生まれた普通の人間だったよ」
「じゃあなんで今のわたしは機械の身体なんですか?」
「それも言ったろ。元の身体は朽ち果ててるって。というか、荼毘にされて灰しか残ってねぇよ」
シリオンはいかにも『つまらん事ばかり効くな』という態度だ。どうやら機械人形に転生させたのは、彼にとっては「些細な事」のように思っているらしい。
「だからって、人形の身体はあんまりです。私の身体が無いなら、そもそも『蘇生』は不可能じゃないですか」
「いやぁ、そうでもねぇぞ。魔神と呼ばれる異世界の連中は、人造の生命を作る事に成功している。原理さえ解明すれば、俺にも再現はできるはずだ」
「そうではなくて!。たとえ生物の身体でも、それってわたしの身体じゃないですよね?」
「……仮にだが…。別人の魂が入ったお前の元の身体と、お前の魂が入った別人の身体は、どっちがよりお前だ?」
「選択肢を示したように見せて、実は選択しようが無い設問で追い込むのは、詐欺の常套手段ですよね」
そう指摘されたシリオンは一瞬面食らったような表情を見せたが、直ぐにニヤリと笑った。
「ほ!、面白いなお前。それはウルスラの地か?それとももう一人とやらか?」
「もう一人と言っても、別な人格が居る訳じゃありませんよ。人格と記憶が一つに混じってるんだと思います。これがウルスラの地かどうかは、前の記憶が曖昧なので判りません」
長谷川さん(故人)は、当初の方針…ウルスラに長谷川さん(故人)が混じった状態…を演じる事にした。これなら嘘にはならないし、人格の違いも(少なくともシリオンには)説明が付く。
「益々興味深い!…が、とりあえず後のお楽しみに取っておくか。さっきの設問については、俺は後者が正しいと思っているということだ」
「…あなたは、魂こそが人間である…と?」
「そうだな。より正確に言えば、体験と記憶の蓄積+それに基づいて形成された人格…こそが人間の本質だろう。魂とはそれを包括し、肉体と結びつけるためのもの。体験と記憶の蓄積が違えば、仮に元が同じ魂でも別人になると俺は思っている」
「どうしてそう…」
「お前の魂を調べたからだよ。生の魂があったから、あらゆる方法で調べまくった。だから定着の瞬間に違いが出たことに気づいたんだ。……とんだ大失敗かと思ったが、とんでもない拾い物だ。今までは推論止まりだったことが、お前の口から『別な記憶が混じった』という証言が得られたことで、確信が持てた」
長谷川さん(故人)は、改めて(ヤベーやつだ、コイツ)という思いを新たにした。シリオンは、明らかに管理神の領域にまで踏み込もうとしている。
「いいなぁ、実にいい。魂だけ調べていたのでは判らなかった事が、当事者から情報として得られるのは大きい。いくつかの課題が解決する一方で、新たな課題がどんどん沸いてくる。お前は最高の研究課題だ」
(うわ、どこぞの教授みたいな事を言い出したよ…好物が焼きプリンとかじゃないだろうな。まぁ、あの人は「魂」の存在は否定してたけど…)
「で、だ。魂というものを精神力の根源だとするとだな、同様に肉体には生命力の根源のようなものあるんじゃなかろうか…」
シリオンは生徒に講義する教師のような口調になっていた。研究材料としてだけでなく、飲み込み良く議論の相手にもなりそうな『ウルスラ』に興味を持ったようだった。
「そしてこの二つがきちんと結び付かないと、生き物として成り立たない…と俺は考えている。不死者の存在を説明するには、肉と心を分けて考えないと説明が付かない」
(なるほど、魂魄みたいな考え方か…)
それがこの世界の理かどうかは長谷川さん(故人)に知る由も無いが、この世界でもトップクラスの異能がそう考えているなら、あながち外れていないように思えた。
「そしてだな、どうもこの二つには相性があるらしく、相性が悪いと魂を移植しても身体に上手く結びつかずに、直ぐに死んだり生きた屍になったりする」
「……試したんですか?」
「お、聞きたいか?」
「絶対気分悪くなると思うので遠慮します」
「蘇生魔法は人類共通の悲願なんだぞ。その貴重な実験結果だってのに…」
「そんなことより。機械の身体には『生命力の根源』が無いじゃないですか!今の説が正しいのなら、わたしは『生き物』じゃないって事になります」
「その通り。だから相性なんぞ関係なく魂が定着できた」
「えぇっ?!」
「『生命力の根源』が必須なのは、それが無いと肉体が朽ち、魂がすぐに霧散してしまうからだ。だがその身体はその胸の中の魔石、そいつが魂をその身体に固定し続けるから支障は無い」
「だ、だけど、勇者様の希望で『孫を蘇生』させるって話なのに、『生き物』じゃ無いなんて…」
「それがトールのご希望なんだよ」
「えぇっ?!」
いい加減驚き慣れたと思ったら、とんでもない爆弾が降ってきた。機械の身体はこの岩人の趣味全開なのかと思ったら、当の勇者様のご希望だというのは、さすがに予想外だった。
「『とにかく頑丈で、殺しても死なない身体を作れ…。例えば、魔銀の魔導兵(ミスリルゴーレム)に魂を移植とかできるか?』と言われてな。それだとどう取り繕っても魔銀の彫像にしかならんから、ちゃんと人間に見えるように、完璧に人間の体の構造を再現した機械人形にした。どこにやったか……」
そう言ったシリオンは続き部屋に入ると何かごそごそ探していたようだが、鏡を持ってきて長谷川さん(故人)の顔の前にかざした。
「見てみろよ」
長谷川さん(故人)は、しばし茫然として鏡を見つめていた。作りかけで構造剥き出しの身体と異なり、そこに映っていたのは、確かに魂時代に見た自分(ウルスラ)の顔だった。口を開けたり結んだり、瞼を開けたり閉じたりしてみても、人間とほぼ同じように表情豊かに動く。不気味の谷を飛び越えていると言っていい。記憶にある長谷川さん(故人)の世界のロボットより自然だった。
「す…すごい…ですね」
「当然だ。この俺が持てる限りの技術つぎ込んで作ったんだからな。複雑なぶん強度は魔導兵に及ばないが、代わりに人間に限りなく近い構造にしてある」
心からの称賛の言葉にドヤ顔をするだけの事はある。シリオンは技師としてだけではなく、造形作家としても超一流だった。なんの素材を使ったか不明だが、皮膚の質感まで再現され睫毛まで植毛されている。口を開ければ、舌まで動かす事ができた。
だが、完全に人間と同じ身体かと言えば、「全然違う」と長谷川さん(故人)は主張したかった。
「だけど…」
「あぁ?なんか不満があるのか?」
「身体の感覚が全然無いんですけど」
「…全身に高密度で触点を埋め込むのは無理だったんだよ」
「これだと、鏡見ながらじゃなきゃ表情作れませんよ」
シリオンはあんまり重要に考えていなかったようだが、実際に『中の人』になった長谷川さん(故人)からしたら大問題だった。足が痺れた状態で歩けと言われているようなものだ。
「人間だって、意識して作る以外に自然に表情が出るだろう、それと同じで表情のパターンを作ってそれを呼び出せるようにするしかないか…」
ぶつぶつと独り言を言いながら考えていたシリオンだが、やおら顔を上げると恐ろしく端的な解決策を告げた。
「慣れろ」
「無茶な!」
「無茶でもどうにかしろ。正直お前を失うのは惜しすぎる、重大な損失だ。だが、そのためにはお前が完全にウルスラで無いと困る」
「完全でないと…どうなるのでしょうか?」
「さっきそこにいたジジイが勇者トールだ…温和なジジイに見えるが、勇者ってのは、一人で一軍に匹敵するバケモノだ。そして、その勇者は…おかしくなりかけている。何しろ孫を機械の身体にしろって言いだすくらいだからな。それでも、孫の蘇生が正気を保つ最後のタガなんだよ。失敗したらブチキレて何仕出かすか想像もできんのだ。まぁそれはそれで見てみたいが…」
(何言ってるんだコイツは、勇者ボカン食らったら人類滅亡だよ。てか、目の下とか口の両脇に線とか無いけど、ロボはロボだろ。孫がこんなんでいいのかよ勇者。そのうち気に入らなくなってサーカスに売られたりしないだろうな…。しっかし、勇者もキチ〇イだが、こいつも大概だな。こんな二人を混ぜるなよ)
現状は最初から最後まで突っ込みどころしかない状況だ。クソゲーと言って言い。それでも長谷川さん(故人)は必死に生存ルートを探そうとした。利害は噛み合いそうだし、どうにかシリオンを味方にできれば打開の道も…そう思っていたら、シリオンが突如激昂した。
「失敗するはずは無かったんだ!。俺の理論通りに事が運ばなかった事の方が許せん。お前の中にいるウルスラ以外の誰かって誰だ?どこで混じった!」
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