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第一章
憎い相手
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「龍さんご指名です」
「はい」
指示された席に向かうと、そこには今年高校を卒業したばかりの可憐な少女が待っていた。
「龍くん来ちゃった♡」
「渚ちゃん、来てくれたの!ありがとう!」
間宮は笑顔で渚という名の客の隣に座る。
「龍くんと話してると楽しいんだもん。ねぇ龍くん、聞いてよさっき客がね…」
渚は席につくなりいきなり仕事の愚痴を始めた。いつものパターンだ。
風俗嬢の渚は、かなりの額を間宮につぎ込んでくれる有り難い太客のひとりだ。愚痴を聞くぐらいなんてことはない。
ホストという職業は、華やかな部分だけではなく人の負の感情を受け止めなくてはいけない一面もある。時にはしんどいこともあるが、間宮は心の中で「金のため金のため」と呟き、今日も丁寧な接客を心がけるのであった。
渚のお陰で今日の売上は上々だ。間宮は良い気分で仕事を終えた。
閉店は深夜の0時。アフターが入る日はここからまだまだ休めない。
たまたまこの日はアフターが無く、正直助かったと思った。長い目で見れば顧客の満足度に繋がるメリットがあるとは言え、直接の売上にはならないからだ。むしろデート代は男が負担するのが当たり前の世界だから、マイナスになることもある。
「今日はいつもより長く眠れそうだな…」
最近少し疲れ気味だったのでちょうどいい。間宮は深く息を吐いた。
タクシーを拾うか少し考えて、間宮は歩くことにした。自宅までかなり距離はあるが、なんとなく、今日は夜の空気を吸いたかったのだ。
帰路の途中、喉の渇きを覚えた間宮はコンビニに寄ることにした。ドリンクコーナーから適当に目についたペットボトルを手に取り、レジに並ぶ。
「ーーっ!?」
自分の番が来た時、びっくりし過ぎて思わず手に持っていたペットボトルを落としそうになった。
(なんでこいつがこんなところに…!?)
そこにはコンビニでバイトなんかしてるはずのない知り合いの男がレジ打ちをしていたのだ。
気を抜いていた。先に気付いていれば呑気に買い物なんてせずに帰ったのにーー
「ーーーっ」
間宮と目があったその男は、さっきから瞳をせわしなく瞬かせている。
相手の様子から、向こうも自分に気付いたのだとわかった。
慌てて会計を済ませさっさと店を出ようとしたその時、男が口を開いた。
「まっ、間宮だよね?西中の…。俺、三澄だけど…」
覚えているかな、と言う三澄に、忘れるはずがないだろうと心の中で悪態をついた。
そう、忘れるものか。
網膜にはっきりと焼き付いた、憎くて憎くて仕方がないその顔を。
威圧的な瞳で睨みつけてやると、三澄は遠慮がちに口を開いた。
「あの…少しだけ、時間をくれないかな…」
「はい」
指示された席に向かうと、そこには今年高校を卒業したばかりの可憐な少女が待っていた。
「龍くん来ちゃった♡」
「渚ちゃん、来てくれたの!ありがとう!」
間宮は笑顔で渚という名の客の隣に座る。
「龍くんと話してると楽しいんだもん。ねぇ龍くん、聞いてよさっき客がね…」
渚は席につくなりいきなり仕事の愚痴を始めた。いつものパターンだ。
風俗嬢の渚は、かなりの額を間宮につぎ込んでくれる有り難い太客のひとりだ。愚痴を聞くぐらいなんてことはない。
ホストという職業は、華やかな部分だけではなく人の負の感情を受け止めなくてはいけない一面もある。時にはしんどいこともあるが、間宮は心の中で「金のため金のため」と呟き、今日も丁寧な接客を心がけるのであった。
渚のお陰で今日の売上は上々だ。間宮は良い気分で仕事を終えた。
閉店は深夜の0時。アフターが入る日はここからまだまだ休めない。
たまたまこの日はアフターが無く、正直助かったと思った。長い目で見れば顧客の満足度に繋がるメリットがあるとは言え、直接の売上にはならないからだ。むしろデート代は男が負担するのが当たり前の世界だから、マイナスになることもある。
「今日はいつもより長く眠れそうだな…」
最近少し疲れ気味だったのでちょうどいい。間宮は深く息を吐いた。
タクシーを拾うか少し考えて、間宮は歩くことにした。自宅までかなり距離はあるが、なんとなく、今日は夜の空気を吸いたかったのだ。
帰路の途中、喉の渇きを覚えた間宮はコンビニに寄ることにした。ドリンクコーナーから適当に目についたペットボトルを手に取り、レジに並ぶ。
「ーーっ!?」
自分の番が来た時、びっくりし過ぎて思わず手に持っていたペットボトルを落としそうになった。
(なんでこいつがこんなところに…!?)
そこにはコンビニでバイトなんかしてるはずのない知り合いの男がレジ打ちをしていたのだ。
気を抜いていた。先に気付いていれば呑気に買い物なんてせずに帰ったのにーー
「ーーーっ」
間宮と目があったその男は、さっきから瞳をせわしなく瞬かせている。
相手の様子から、向こうも自分に気付いたのだとわかった。
慌てて会計を済ませさっさと店を出ようとしたその時、男が口を開いた。
「まっ、間宮だよね?西中の…。俺、三澄だけど…」
覚えているかな、と言う三澄に、忘れるはずがないだろうと心の中で悪態をついた。
そう、忘れるものか。
網膜にはっきりと焼き付いた、憎くて憎くて仕方がないその顔を。
威圧的な瞳で睨みつけてやると、三澄は遠慮がちに口を開いた。
「あの…少しだけ、時間をくれないかな…」
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