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最終章
エピローグ
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ーー1年後ーー
「おや、龍くん」
「あ、城崎さん。奇遇だね」
休日の街並みの中で、間宮と城崎は、偶然ばったりと顔を合わせた。
あれからしばらくして、「ホスト龍」は、最後までそのイメージを崩さないまま、華々しく引退した。
間宮が演じていた、もう一人の自分。目標金額を達成したことで、間宮は「龍」と別れを告げた。
今は絶賛就職活動中で、ホスト時代とは違った意味で忙しい毎日を送っている。
間宮はしばらくバーにも顔を出していなかったから、二人が会うのは久しぶりだ。
間宮の傍らには、恋人と思われる男性がいた。
城崎は恋人の前で間宮をうっかり源氏名で呼んでしまい、「しまった」と思ったが、当の間宮は平然としている。
間宮の反応に安堵しつつ、城崎が隣の恋人に目線を向ける。
恐らく間宮が過去に水商売をしていたことを知っているであろうその恋人は、城崎に向かって小さくペコリと頭を下げた。城崎も軽く会釈を返す。
間宮は隣にいる恋人に「三澄、ちょっと待ってて」と声をかけ、城崎との久々の再会を喜んだ。
城崎は、三澄という名に聞き覚えがあった。間宮が以前、都合の良い玩具ができたと話していた時に、ポロッと零したからだ。
サラサラの黒髪に、人形のように美しく整った顔立ち。
おそらくーーいや、間違いなく、彼が“例の同級生”だと、城崎は瞬時に察した。しかし城崎は何も知らないふりをして、変わらない穏やかな顔で間宮に向き合う。
「今日は恋人と二人でお出かけかい」
「うん、もうすぐ引っ越しするから、家具の下見でもしようかなって」
そう言って笑う間宮の顔には、以前のような陰りはひとつもない。
「そうか、素敵なパートナーと出会えたんだね」
「城崎さんのお陰だよ。城崎さんが、俺の目を覚まさせてくれたから」
ありがとう、と言う間宮に、城崎は良かったと呟き、目を細めた。
城崎は、その場から動かず二人の後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
心から幸せそうな間宮の笑顔を見て、ホッと胸をなでおろす。
「…本当はわたしが君のことを幸せにしてあげたいと思っていたんだけれどね」
城崎は苦笑しながらそっと呟いた。歳の差もあったし、タチ同士だからといつも一歩引いた位置にいたけれど、どんな過酷な状況でもひたむきに努力する間宮に城崎はずっと惹かれていた。
それでも、愛する人が幸せそうにしている姿が一番いい。
わずかに傷む胸に、次第にじわりと暖かなものが広がるのを城崎は感じていた。
二人の選んだ道が正解かどうかはわからない。
特に間宮の母親からすれば、三澄は自分の可愛い一人息子を自殺未遂にまで追い込んだ憎い相手だろう。
そんな相手と交際なんて、男同士ということを除いたとしても多分普通の親ならば到底許せることではない。
バレれば反対されることは目に見えている。
それ以前に、母親想いの間宮なら、きっと母親を苦しませないために二人の関係を一生隠し通そうとするだろう。
もしかしたら、二人がこれから歩む先は、茨の道になるかも知れない。
それでも城崎は、せめて自分だけでも二人の選んだ道を祝福したいと思った。そして願った。どうか、この先二人が歩む未来が明るいものでありますようにーーと。
end
「おや、龍くん」
「あ、城崎さん。奇遇だね」
休日の街並みの中で、間宮と城崎は、偶然ばったりと顔を合わせた。
あれからしばらくして、「ホスト龍」は、最後までそのイメージを崩さないまま、華々しく引退した。
間宮が演じていた、もう一人の自分。目標金額を達成したことで、間宮は「龍」と別れを告げた。
今は絶賛就職活動中で、ホスト時代とは違った意味で忙しい毎日を送っている。
間宮はしばらくバーにも顔を出していなかったから、二人が会うのは久しぶりだ。
間宮の傍らには、恋人と思われる男性がいた。
城崎は恋人の前で間宮をうっかり源氏名で呼んでしまい、「しまった」と思ったが、当の間宮は平然としている。
間宮の反応に安堵しつつ、城崎が隣の恋人に目線を向ける。
恐らく間宮が過去に水商売をしていたことを知っているであろうその恋人は、城崎に向かって小さくペコリと頭を下げた。城崎も軽く会釈を返す。
間宮は隣にいる恋人に「三澄、ちょっと待ってて」と声をかけ、城崎との久々の再会を喜んだ。
城崎は、三澄という名に聞き覚えがあった。間宮が以前、都合の良い玩具ができたと話していた時に、ポロッと零したからだ。
サラサラの黒髪に、人形のように美しく整った顔立ち。
おそらくーーいや、間違いなく、彼が“例の同級生”だと、城崎は瞬時に察した。しかし城崎は何も知らないふりをして、変わらない穏やかな顔で間宮に向き合う。
「今日は恋人と二人でお出かけかい」
「うん、もうすぐ引っ越しするから、家具の下見でもしようかなって」
そう言って笑う間宮の顔には、以前のような陰りはひとつもない。
「そうか、素敵なパートナーと出会えたんだね」
「城崎さんのお陰だよ。城崎さんが、俺の目を覚まさせてくれたから」
ありがとう、と言う間宮に、城崎は良かったと呟き、目を細めた。
城崎は、その場から動かず二人の後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
心から幸せそうな間宮の笑顔を見て、ホッと胸をなでおろす。
「…本当はわたしが君のことを幸せにしてあげたいと思っていたんだけれどね」
城崎は苦笑しながらそっと呟いた。歳の差もあったし、タチ同士だからといつも一歩引いた位置にいたけれど、どんな過酷な状況でもひたむきに努力する間宮に城崎はずっと惹かれていた。
それでも、愛する人が幸せそうにしている姿が一番いい。
わずかに傷む胸に、次第にじわりと暖かなものが広がるのを城崎は感じていた。
二人の選んだ道が正解かどうかはわからない。
特に間宮の母親からすれば、三澄は自分の可愛い一人息子を自殺未遂にまで追い込んだ憎い相手だろう。
そんな相手と交際なんて、男同士ということを除いたとしても多分普通の親ならば到底許せることではない。
バレれば反対されることは目に見えている。
それ以前に、母親想いの間宮なら、きっと母親を苦しませないために二人の関係を一生隠し通そうとするだろう。
もしかしたら、二人がこれから歩む先は、茨の道になるかも知れない。
それでも城崎は、せめて自分だけでも二人の選んだ道を祝福したいと思った。そして願った。どうか、この先二人が歩む未来が明るいものでありますようにーーと。
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