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一流との差
08 黒い渦 (改)
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死の森の奥に突如現れた黒い渦のような現象。
困惑する冒険者達を尻目に、依頼人側はまるでこの事を分かっていたかのように動き出す。
「魔法使い達はこちらの指示に従って隊列を組んでくれ! この攻撃に失敗は許されない! 確実に1回で成功させる為、みな集中するように!」
指揮官らしい男が激を飛ばしている。その後ろでミシェルは少し高めの足場を用意して、調査団の最後尾から魔法を放つ準備をしている。
遠目に見るミシェルの表情は真剣そのもので、俺と会った時とは別人のようだ。
……あの時はモンスターに囲まれてたってのに、こんなに集中してなかっただろお前。
「く、黒い渦……。ま、まさか実在してるなんて……」
「あ? お前、アレがなんなのか知ってんのか?」
その時、俺と同じく魔法使いの護衛を務める誰かの話し声が耳に届いた。
なかなか気になる事を話しているので、そちらに意識を向けて聞き耳を立てる。
「俺の家はずっとネクスで冒険者やってんだけどよ。昔爺さんが言ってたんだよ。若い頃に、死の森の奥で黒い渦が発生したことがある……、ってな」
「あれと同じモンが爺さんの代にも……? それで?」
「ああ、爺さんも誰かに聞いた話らしくて、俺も詳しくは知らねんだけどよ。この世界には、モンスターが無限に湧き出る黒い渦が発生する場所ってのがいくつかあるらしい」
「……はぁ? そんなの聞いたことねぇぞ? 流石にガセじゃねぇのか?」
「爺さんが聞いた話じゃ、一般にあまり知られていないのは、渦が発生する度に迅速に処理されているからなんだとさ」
モンスターが湧き出るという黒い渦に、それが発生される度に迅速に処理されているという事実。
俺も15年冒険者やってるが、確かにそんなこと初めて知ったぜ。これでも情報収集は真面目にやってるつもりなんだがな。
「こっからが本題なんだがよ。殆どの場合、渦は1撃で処理されて終わるらしいんだが……、ごく稀に1撃での破壊に失敗するケースがあるらしいんだ」
「破壊に失敗したケース?」
渦の破壊に失敗するケースもあるのか。ほぼ1撃で処理されてるって話だし、失敗する確率はかなり低いんだろうが……。
「爺さんに渦の話をしてくれた奴ってのが、まさにその失敗した例に参加した経験がある奴だったらしくてな。震えながら語ってくれたんだとよ」
「……な、何をだよ?」
「その時の惨状を、だよ。まぁその話は爺さんは詳しく教えてくれなかったがな」
惨状ね……。 ちっ、これからまさに同じ事に挑むってのに、縁起でもねぇ話をしやがって……。
だけど気になって仕方ないので、イラつきながらも聞き耳を立てる。
「なんでもあの渦は、魔力に反応してモンスターを出現させる特性があるらしくてな。一撃必殺のつもりで放った攻撃魔法に反応して、凄まじい数のモンスターが一気に生まれてきたんだとよ」
「なっ……! それじゃ攻撃魔法はヤバいんじゃないのか……!?」
「それは俺にも分からねぇがな……。その時も大勢の人間で事に当たったらしいが、生き残りは殆ど居なかったって話だ……」
魔力に反応してモンスターを生み出す黒い渦。それが分かってるのに攻撃魔法で処理しなきゃいけないってのか……!?
ちっ……なるほど。そういうことか……!
俺たち一般人は知らないが、領主なんかの支配層の人間がモンスターを発生させる渦の存在を知らないはずがない。
自分の領地にモンスターの発生源が出現した可能性があるとくりゃあ、手勢を揃えて調査に乗り出すのも頷ける……。
……金貨10枚も払うわけだ。下手をすりゃネクスが壊滅しかねないんだからな。
スムーズに渦を処理できればボロ儲け、だが処理に失敗したらモンスターの氾濫する死地に送られることになるってか? とんだギャンブルだったんじゃねぇか、クソが……!
「間もなく攻撃を開始する! 攻撃の合図はこちらで出す! 絶対に先走るなよっ!」
歯噛みする俺を余所に、指揮官は声を張り上げ続けている。間もなく攻撃が始まるようだ。
「1度目の魔法を放ったら、すぐに次弾の詠唱を開始すること! 我々の指示で直ぐに攻撃魔法を放てる状態で待機! ただし絶対に攻撃は行なうんじゃないぞっ!」
困惑していた冒険者たちも、依頼人側の緊迫感が伝わり、次第に緊張した面持ちになっていく。
……あまり良くない流れだな。不安ばっかり煽られ過ぎてるぜ。
「こちらが安全を確認するまで絶対に気を抜くな! これが終わったら金貨10枚だ! 破格の報酬の為に、諸君は完璧に仕事をこなして欲しい!」
指揮官の合図で魔法使い達が杖に魔力を送り込み始める。ようやく攻撃開始か。頼むぜぇ……?
だがよ、確かにすんなり終わってくれりゃあ何も問題ねぇが、そういう時に限って失敗するのが現実だ。失敗して欲しくはねぇが、失敗することを覚悟しておくべきだろう。
破壊に失敗するとモンスターが溢れてくるんだったか。なら俺の剣なんか何の役にも立ちはしねぇな。
このパーティでは前衛を任されちゃいるが、ここと渦までは少し距離がある。念のため弓に持ち替えておくか。
「お嬢様、お願いします!」
魔法使いたちの準備が整ったことを確認した指揮官が、背後を振り返ってミシェルに合図を飛ばす。
指揮官の声に反応したミシェルが、調査隊の最後尾から攻撃魔法を放った。
「ファイアストーム!」
「今だ、放てぇ!」
ミシェルの魔法に合わせて指揮官から攻撃指示が出され、冒険者側からも様々な攻撃魔法が放たれていく。
ミシェルが放った炎の嵐が黒い渦を包み込む。そこに一瞬遅れて様々な攻撃魔法も着弾する。
調査隊の約半数、50人規模で放たれた大量の攻撃魔法が命中し、黒い渦は土煙で見えなくなってしまった。
これで片付いたと思いたいが、果たして……?
一応何が起きても反応できるよう、弓を引いて矢を番える。
……なにも起きない。処理に成功してくれたか?
「エアブリーズ!」
依頼人側の誰かが土煙を風で払う。
そして風が渦のあった辺りを通り過ぎた瞬間、突然空間に黒い亀裂が入ったのが見えた。
……なんだありゃ?
「ちっ……! 魔法使いは魔力が切れるまで、全力で攻撃魔法を打ち込み続けろぉっ!」
戸惑う俺の耳に、切羽詰った指揮官の声が届く。
これはつまり……、処理に失敗したって事だよな。最悪すぎる……!
「他の者は全て魔法使いの護衛だ! あの渦を破壊できるのは魔法だけだ! 絶対に魔法使いたちを死守せよぉっ!」
衛兵の言葉が終わるや否や、空間に出来た亀裂から、モンスターの顔が這い出てきた。
考えるより先に1番前に居たモンスターの眉間を射抜き、そしてすぐさま次の矢を番える。
剣術と比べて動作が自然なのが、自分でもよく分かるぜ、まったくよぅ!
「烈火陣!」
ミシェルの声が響き渡り、地面から凄い勢いで広範囲に火柱が噴き出してくる。
噴き上がった火柱に巻き込まれたモンスターは、骨すら残さず一瞬で焼き払われてしまっているようだ。
これは……、昨日見たフレイムサークルの上位魔法か? よくもまぁこんな大魔法を平然と連発して、平気な顔して立ってられるもんだ。
「皆の者、お嬢様に続いて攻撃魔法を放つんだ! 休まず撃ち続けろ! 死にたくないのならなっ!」
「く、くそっ! ファイアボール!」
未だ状況が掴めない冒険者たちも、実際にモンスターが湧き出して来たのを見て覚悟を決めたようだ。 大量に湧き出るモンスターに動揺しながらも、指揮官の指示に従い魔法を放ち始めた。
……だが、どう見てもモンスターが湧き出るほうが早い。このままじゃ数分もしないうちにモンスターの大群に飲み込まれちまう!
今のうちにトンズラ決めるか……?
でもこいつらはネクスのほうに向かう可能性もある。トンズラを決めた先まで危険なら逃げ場所なんてどこにも無い。
何より、モンスターが怖くて逃げ出すなんざ、何のための冒険者だって話になっちまうわなぁ!
覚悟を決めてモンスターと向き合い矢を放つ。とにかくモンスターの勢いを殺そうと、弓で1体1体確実に仕留めていく。
「浄火葬!」
絶えず矢を放っていると、度々ミシェルが魔法を放ち、モンスターを大量に葬り去ってくれる。
だけど……、ミシェルの大魔法でなんとか拮抗を保てている感じだな。明らかに劣勢だ……!
このままジリ貧しゃないのか……? ここから渦を消し去る方法なんてあるのか……?
「『我が肉体は理の器。我が両手は滅びの導』」
焦る俺の耳に、突然今までとは様子が変わったミシェルの声が響いた。
思わず渦から目を離してまでミシェルを見ると、ミシェルが言葉を発するたびに目に見えるくらいの濃度の魔力がミシェルの体内に宿っていくのが分かった。
……初めて見たけど、ありゃあ『呪文詠唱』か!? ってことは、ミシェルはこれから最上級魔法を放つつもりなのか!
しかしその時、驚く俺の足元から地面の振動が伝わってくる。
慌てて前を確認すると、間近に迫った大量のモンスターと前衛の者たちが激しく交戦し始めていた。
どうやらミシェルに構っている余裕は無いみたいだな……!
俺も直ぐに弓を投げ捨て剣を握り、迫り来るモンスターの群れに突撃する!
「『滅びの炎よ。浄化の光よ。我が足元より立ち上り、器を通りて形を成せ。我が望むは魔の滅び。我が願うは清き祓い。世界にたゆたう意志なき力よ。形を成して意思を成せ。意思となって力と還れ』」
近場にいるモンスターを片っ端から切り捨てちゃいるが……、どう見てもモンスターの勢いが増してやがる! 殺すのが間に合わねぇ……!
って考えてみりゃ、さっきまでミシェルの魔法込みで拮抗してたんだ。ミシェルが抜けたら劣勢に決まってるか……!
「『我が理は退魔の光。穢れし命を世界に還せ。穢れを祓いて世界に帰せ。魔に染まりしその憐れな生命を、万物流転の流れに返せ』」
いくらモンスターを斬り捨てても焼け石に水って感じだが……。それでも通すわけにはいかない。
この状況を打破する可能性があるのはミシェルの呪文詠唱だけだ! ここは絶対に通さねぇぞぉ!
「『我が理の力を持って、万象全ての淀みを払え。我が両手が導きたるは、神なる裁きの救済の炎也』」
互いの背中を庇いながら、津波のような勢いのモンスターに対抗する前衛たち。
まずいっ。もう限界だ、押し切られる……!
しかしそんな俺達の足元に、突如巨大な魔法陣が出現する。
その巨大魔法陣は渦のある場所を中心にして、ミシェルが居る最後尾あたりまで広がっているようだった。
「『顕現せよ。閃天雷火』」
ミシェルの詠唱の終了と共に、地面の魔法陣が発光する。
発光した魔法陣からモンスターに魔力が流れていき、全てのモンスターが内側から焼かれて口から炎を吐き出している。
ミシェルの放った魔法によって、魔法範囲内の全てのモンスターは内部から浄化の炎で焼き尽くされて、骨も残さずこの世から消えていく。
そしてそれはあの黒い渦も例外ではなく、渦は内側から特大の火柱に焼かれながら、空間の亀裂と共にこの世界から抹消されていったのだった。
困惑する冒険者達を尻目に、依頼人側はまるでこの事を分かっていたかのように動き出す。
「魔法使い達はこちらの指示に従って隊列を組んでくれ! この攻撃に失敗は許されない! 確実に1回で成功させる為、みな集中するように!」
指揮官らしい男が激を飛ばしている。その後ろでミシェルは少し高めの足場を用意して、調査団の最後尾から魔法を放つ準備をしている。
遠目に見るミシェルの表情は真剣そのもので、俺と会った時とは別人のようだ。
……あの時はモンスターに囲まれてたってのに、こんなに集中してなかっただろお前。
「く、黒い渦……。ま、まさか実在してるなんて……」
「あ? お前、アレがなんなのか知ってんのか?」
その時、俺と同じく魔法使いの護衛を務める誰かの話し声が耳に届いた。
なかなか気になる事を話しているので、そちらに意識を向けて聞き耳を立てる。
「俺の家はずっとネクスで冒険者やってんだけどよ。昔爺さんが言ってたんだよ。若い頃に、死の森の奥で黒い渦が発生したことがある……、ってな」
「あれと同じモンが爺さんの代にも……? それで?」
「ああ、爺さんも誰かに聞いた話らしくて、俺も詳しくは知らねんだけどよ。この世界には、モンスターが無限に湧き出る黒い渦が発生する場所ってのがいくつかあるらしい」
「……はぁ? そんなの聞いたことねぇぞ? 流石にガセじゃねぇのか?」
「爺さんが聞いた話じゃ、一般にあまり知られていないのは、渦が発生する度に迅速に処理されているからなんだとさ」
モンスターが湧き出るという黒い渦に、それが発生される度に迅速に処理されているという事実。
俺も15年冒険者やってるが、確かにそんなこと初めて知ったぜ。これでも情報収集は真面目にやってるつもりなんだがな。
「こっからが本題なんだがよ。殆どの場合、渦は1撃で処理されて終わるらしいんだが……、ごく稀に1撃での破壊に失敗するケースがあるらしいんだ」
「破壊に失敗したケース?」
渦の破壊に失敗するケースもあるのか。ほぼ1撃で処理されてるって話だし、失敗する確率はかなり低いんだろうが……。
「爺さんに渦の話をしてくれた奴ってのが、まさにその失敗した例に参加した経験がある奴だったらしくてな。震えながら語ってくれたんだとよ」
「……な、何をだよ?」
「その時の惨状を、だよ。まぁその話は爺さんは詳しく教えてくれなかったがな」
惨状ね……。 ちっ、これからまさに同じ事に挑むってのに、縁起でもねぇ話をしやがって……。
だけど気になって仕方ないので、イラつきながらも聞き耳を立てる。
「なんでもあの渦は、魔力に反応してモンスターを出現させる特性があるらしくてな。一撃必殺のつもりで放った攻撃魔法に反応して、凄まじい数のモンスターが一気に生まれてきたんだとよ」
「なっ……! それじゃ攻撃魔法はヤバいんじゃないのか……!?」
「それは俺にも分からねぇがな……。その時も大勢の人間で事に当たったらしいが、生き残りは殆ど居なかったって話だ……」
魔力に反応してモンスターを生み出す黒い渦。それが分かってるのに攻撃魔法で処理しなきゃいけないってのか……!?
ちっ……なるほど。そういうことか……!
俺たち一般人は知らないが、領主なんかの支配層の人間がモンスターを発生させる渦の存在を知らないはずがない。
自分の領地にモンスターの発生源が出現した可能性があるとくりゃあ、手勢を揃えて調査に乗り出すのも頷ける……。
……金貨10枚も払うわけだ。下手をすりゃネクスが壊滅しかねないんだからな。
スムーズに渦を処理できればボロ儲け、だが処理に失敗したらモンスターの氾濫する死地に送られることになるってか? とんだギャンブルだったんじゃねぇか、クソが……!
「間もなく攻撃を開始する! 攻撃の合図はこちらで出す! 絶対に先走るなよっ!」
歯噛みする俺を余所に、指揮官は声を張り上げ続けている。間もなく攻撃が始まるようだ。
「1度目の魔法を放ったら、すぐに次弾の詠唱を開始すること! 我々の指示で直ぐに攻撃魔法を放てる状態で待機! ただし絶対に攻撃は行なうんじゃないぞっ!」
困惑していた冒険者たちも、依頼人側の緊迫感が伝わり、次第に緊張した面持ちになっていく。
……あまり良くない流れだな。不安ばっかり煽られ過ぎてるぜ。
「こちらが安全を確認するまで絶対に気を抜くな! これが終わったら金貨10枚だ! 破格の報酬の為に、諸君は完璧に仕事をこなして欲しい!」
指揮官の合図で魔法使い達が杖に魔力を送り込み始める。ようやく攻撃開始か。頼むぜぇ……?
だがよ、確かにすんなり終わってくれりゃあ何も問題ねぇが、そういう時に限って失敗するのが現実だ。失敗して欲しくはねぇが、失敗することを覚悟しておくべきだろう。
破壊に失敗するとモンスターが溢れてくるんだったか。なら俺の剣なんか何の役にも立ちはしねぇな。
このパーティでは前衛を任されちゃいるが、ここと渦までは少し距離がある。念のため弓に持ち替えておくか。
「お嬢様、お願いします!」
魔法使いたちの準備が整ったことを確認した指揮官が、背後を振り返ってミシェルに合図を飛ばす。
指揮官の声に反応したミシェルが、調査隊の最後尾から攻撃魔法を放った。
「ファイアストーム!」
「今だ、放てぇ!」
ミシェルの魔法に合わせて指揮官から攻撃指示が出され、冒険者側からも様々な攻撃魔法が放たれていく。
ミシェルが放った炎の嵐が黒い渦を包み込む。そこに一瞬遅れて様々な攻撃魔法も着弾する。
調査隊の約半数、50人規模で放たれた大量の攻撃魔法が命中し、黒い渦は土煙で見えなくなってしまった。
これで片付いたと思いたいが、果たして……?
一応何が起きても反応できるよう、弓を引いて矢を番える。
……なにも起きない。処理に成功してくれたか?
「エアブリーズ!」
依頼人側の誰かが土煙を風で払う。
そして風が渦のあった辺りを通り過ぎた瞬間、突然空間に黒い亀裂が入ったのが見えた。
……なんだありゃ?
「ちっ……! 魔法使いは魔力が切れるまで、全力で攻撃魔法を打ち込み続けろぉっ!」
戸惑う俺の耳に、切羽詰った指揮官の声が届く。
これはつまり……、処理に失敗したって事だよな。最悪すぎる……!
「他の者は全て魔法使いの護衛だ! あの渦を破壊できるのは魔法だけだ! 絶対に魔法使いたちを死守せよぉっ!」
衛兵の言葉が終わるや否や、空間に出来た亀裂から、モンスターの顔が這い出てきた。
考えるより先に1番前に居たモンスターの眉間を射抜き、そしてすぐさま次の矢を番える。
剣術と比べて動作が自然なのが、自分でもよく分かるぜ、まったくよぅ!
「烈火陣!」
ミシェルの声が響き渡り、地面から凄い勢いで広範囲に火柱が噴き出してくる。
噴き上がった火柱に巻き込まれたモンスターは、骨すら残さず一瞬で焼き払われてしまっているようだ。
これは……、昨日見たフレイムサークルの上位魔法か? よくもまぁこんな大魔法を平然と連発して、平気な顔して立ってられるもんだ。
「皆の者、お嬢様に続いて攻撃魔法を放つんだ! 休まず撃ち続けろ! 死にたくないのならなっ!」
「く、くそっ! ファイアボール!」
未だ状況が掴めない冒険者たちも、実際にモンスターが湧き出して来たのを見て覚悟を決めたようだ。 大量に湧き出るモンスターに動揺しながらも、指揮官の指示に従い魔法を放ち始めた。
……だが、どう見てもモンスターが湧き出るほうが早い。このままじゃ数分もしないうちにモンスターの大群に飲み込まれちまう!
今のうちにトンズラ決めるか……?
でもこいつらはネクスのほうに向かう可能性もある。トンズラを決めた先まで危険なら逃げ場所なんてどこにも無い。
何より、モンスターが怖くて逃げ出すなんざ、何のための冒険者だって話になっちまうわなぁ!
覚悟を決めてモンスターと向き合い矢を放つ。とにかくモンスターの勢いを殺そうと、弓で1体1体確実に仕留めていく。
「浄火葬!」
絶えず矢を放っていると、度々ミシェルが魔法を放ち、モンスターを大量に葬り去ってくれる。
だけど……、ミシェルの大魔法でなんとか拮抗を保てている感じだな。明らかに劣勢だ……!
このままジリ貧しゃないのか……? ここから渦を消し去る方法なんてあるのか……?
「『我が肉体は理の器。我が両手は滅びの導』」
焦る俺の耳に、突然今までとは様子が変わったミシェルの声が響いた。
思わず渦から目を離してまでミシェルを見ると、ミシェルが言葉を発するたびに目に見えるくらいの濃度の魔力がミシェルの体内に宿っていくのが分かった。
……初めて見たけど、ありゃあ『呪文詠唱』か!? ってことは、ミシェルはこれから最上級魔法を放つつもりなのか!
しかしその時、驚く俺の足元から地面の振動が伝わってくる。
慌てて前を確認すると、間近に迫った大量のモンスターと前衛の者たちが激しく交戦し始めていた。
どうやらミシェルに構っている余裕は無いみたいだな……!
俺も直ぐに弓を投げ捨て剣を握り、迫り来るモンスターの群れに突撃する!
「『滅びの炎よ。浄化の光よ。我が足元より立ち上り、器を通りて形を成せ。我が望むは魔の滅び。我が願うは清き祓い。世界にたゆたう意志なき力よ。形を成して意思を成せ。意思となって力と還れ』」
近場にいるモンスターを片っ端から切り捨てちゃいるが……、どう見てもモンスターの勢いが増してやがる! 殺すのが間に合わねぇ……!
って考えてみりゃ、さっきまでミシェルの魔法込みで拮抗してたんだ。ミシェルが抜けたら劣勢に決まってるか……!
「『我が理は退魔の光。穢れし命を世界に還せ。穢れを祓いて世界に帰せ。魔に染まりしその憐れな生命を、万物流転の流れに返せ』」
いくらモンスターを斬り捨てても焼け石に水って感じだが……。それでも通すわけにはいかない。
この状況を打破する可能性があるのはミシェルの呪文詠唱だけだ! ここは絶対に通さねぇぞぉ!
「『我が理の力を持って、万象全ての淀みを払え。我が両手が導きたるは、神なる裁きの救済の炎也』」
互いの背中を庇いながら、津波のような勢いのモンスターに対抗する前衛たち。
まずいっ。もう限界だ、押し切られる……!
しかしそんな俺達の足元に、突如巨大な魔法陣が出現する。
その巨大魔法陣は渦のある場所を中心にして、ミシェルが居る最後尾あたりまで広がっているようだった。
「『顕現せよ。閃天雷火』」
ミシェルの詠唱の終了と共に、地面の魔法陣が発光する。
発光した魔法陣からモンスターに魔力が流れていき、全てのモンスターが内側から焼かれて口から炎を吐き出している。
ミシェルの放った魔法によって、魔法範囲内の全てのモンスターは内部から浄化の炎で焼き尽くされて、骨も残さずこの世から消えていく。
そしてそれはあの黒い渦も例外ではなく、渦は内側から特大の火柱に焼かれながら、空間の亀裂と共にこの世界から抹消されていったのだった。
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