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5章 王国に潜む悪意2 それぞれの戦い
326 ユーサーパーシモン① 万物を統べる力 (改)
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「まさか君がイントルーダーになるなんてね、シモン……!」
竜王が現れた時と同じ規模の漆黒の魔法陣。そこから這い出るように現れた巨大なシモンの上半身。
……下半身は出てこないね。全裸っぽいから出てきて欲しくないけど。
こんな人間居るはずもないし、鑑定の結果からもシモンが魔物化したことは間違いなさそうだ。
人間の魔物化ですら聞いたことがないのに、アウターエフェクトを飛び越えてイントルーダー化するなんて……。
君はいったい何処まで傍迷惑な男なのさ……?
「マギー。ガルシアさん。シモン陛下はどうやら魔物に身を落とされてしまったようだ。攻撃魔法の対象にも指定できるしね」
声をかけてみたものの、マギーとガルシアさんはシモンの変貌とイントルーダーとの遭遇による衝撃からか、完全に放心状態だ。
元々戦力としては期待していなかったけれど、この様子じゃ自衛すら困難かなぁ?
「こんな魔物を街に放つわけにはいかない。娘であるマギーには申し訳ないけれど、この場で確実に滅ぼさせてもらうよ?」
「お父様が、魔物に……? なんで、どうしてそんなことが……?」
「ちっ……! マギー、しっかりしやがれ! 今は惚けてる場合じゃなさそうだ!」
マギーは実の父親の変貌が受け入れられない様子だけれど、ガルシアさんは立ち直ってくれたみたいだ。
これならマギーのことを任せても平気かな?
2人から視線を外し、目の前のシモンに視線を向ける。
んー。今回僕は1人で戦わなくちゃいけないから、弓を使うわけにはいかないか。
そう判断して翠緑のエストックを構える僕の前で、シモンは両手を地面に向けて、地の底から響くような声で命令の言葉を発する。
「王の名において命ずる。集え。下賎なる者どもよ」
シモンの言葉に、シモンが生えている巨大魔法陣が光を放つ。
すると凄まじい勢いで、夥しい量の魔物が巨大魔法陣から排出され始めた。
竜王のドラゴンサーヴァント召喚と同じで、眷属を召喚してくるタイプのイントルーダーなのか!
「く……! 厄介なことを……!」
シモンがイントルーダー化した以上、僕はここを離れられない。
でもこの大量の魔物を無視したら、スペルディアのどこで被害が出てもおかしくない。
だから可能な限り、この場で全ての魔物を食い止めなきゃ……!
「白き迅雷。不言の雷鳴。滅紫の雷光。雷雲より招くは龍王。産声上げるは霹靂神。猛き雷帝、万象余さず呑み下せ。ドラゴンズネスト」
際限なく湧いてくる魔物には、魔力が続く限り発動し続けられるドラゴンズネストで対応するしかない。
魔物を殲滅しながらシモンにも攻撃を加えられて一石二鳥だしねっ。
ドラゴンズネストで止まない雷撃を浴びせながら、翠緑のエストックを振るって斬撃もお見舞いする。
魔力吸収+があるから、積極的に斬りかかって魔力を奪わないとね。
「ぎゃああああああああああ痛い痛い痛いいいいいいいいいいいい!! 我が玉体を害するとはあああ、恥を知れええええい!!」
ドラゴンズネストと斬撃によるダメージに絶叫しながら、シモンがドラゴンズネストの設置魔方陣に向かって左手を差し向ける。
「王の名において命ずる! 消え失せよおおお!」
「なっ……!?」
シモンが叫ぶと同時に、ドラゴンズネストの魔法陣が引き裂かれるように霧散してしまう。
……今のは魔法妨害?
術者に触れなくても、魔方陣に直接干渉して魔法を妨害する能力?
「貴様もいつまで王の体を斬り付けておるのだあああああ!! 王の名において命ずる! ひれ伏せぇぇぇぇい!!」
「ぐっ!? あぁっ……!?」
シモンが右手を天に翳しながら叫んだ瞬間、まるで空気に押し潰されるかのように、僕は地面に叩きつけられてしまう。
「お、もい……!? な、にがっ……なんだ、これ……!?」
地面に磔にされた僕の背から、更なる重みが圧し掛かってくる。
まるで空気が重さを持ったみたいに、触れないのに重みだけが感じられる……!
「色女如きが王に傷をつけるとは何事だぁっ!! 貴様は黙って我を受け入れておけば良い!!」
「勝手なことを……!! 誰がお前の言いなりになんかなるもんかぁ!!」
「情婦の分際で王に逆らうなど、身の程を知れぇぇい!! 王の名において命ずる! その場を動くな!!」
「ぐっ、ああああああ……!?」
まるで地面に引っ張られるように、僕の体は地面に張り付き身動きが取れない。
いったい何が起きてるの!?
何かに触れられているような感覚は無い!! まるで僕自身の重みが増したかのような……!?
「そうだぁ……。大人しくしておれば悪いようにはせぬからなぁ……?」
戸惑う僕に向かって、ニタニタと気味悪く笑いながら手を伸ばしてくるシモン。
何をされているのかは分からないけれど、この手に掴まれるのは不味い……!
1度拘束されてしまったら、体力が尽きるまで一方的に嬲られかねない!
何をされているのかは分からない、分からないけれど……!
それでもこれがシモンの意思によって引き起こされている事なら、そこには必ず魔力が作用しているはずっ!
「断っ、ち切れぇ……! 断、空っ……!」
右手に握ったままの翠緑のエストックに付与してある、魔法を斬るウェポンスキルである断空を発動する。
磔にされたままだったので効果は薄かったけれど、それでも右腕周りの拘束は弱まった! 今だ!
「もう1度……、断空--っ!」
拘束の弱まった右腕を大きく動かし、自分の頭上に断空を放つ。
すると何も無いように見える空間が切り裂かれて、僕に圧し掛かっていた重さが掻き消えた。
原理は分からないけれど、魔力によって引き起こされた現象なら恐れるに足りないよ!
「なっ!? 何故動け……」
「誰がお前の物になどなるかぁーーっ! お前こそ身の程を知りなよ! 絶空ーーーっ!」
シモンが僕に向かって伸ばしてきた手に、思い切り魔力を込めた絶空を放つ。
「ぎゃあああああ痛い痛い痛いいいいい!!」
一瞬しか魔力を込められなかったけれど、それでも僕の全力の1撃だ。
お前なんかに触れさせるわけにはいかないねっ!
この体は全てダンのものなんだからっ!
「我は王であるぞ!! 我は絶対者であるぞ!! なのになぜこんなに痛いのだあああっ!?」
絶空を叩き込まれたシモンは、やはり痛みで絶叫している。
でもまだ体力も削りきれていないので、肉体には損傷など1つもない。
痛みだけで悶えるような弱さで戦場に出るべきじゃなかったね、シモン!!
「覚悟しろシモン! 今すぐ僕の剣の錆にしてあげるよっ!」
「うわあああ集え集え、集ええええ!! 王の名において命ずる!! 下賎なる者どもよ、その命を持って王を痛みから守るのだぁぁぁぁ!!」
シモンの言葉に、魔法陣から勢いよく吐き出される魔物の群れ。
『王の名において』っていう言葉がシモンの能力の詠唱なのかな?
さっきからあの言葉を起点にして魔法効果を発揮しているように思えるね。
けどまぁ、まずは邪魔な真者達を蹴散らしてしまわないと。
「其は悠久の狭間に囚われし、真理と聖賢を司る者。無間の回廊開きし鍵は、無限の覚悟と夢幻の魂。神威の扉解き放ち、今轟くは摂理の衝撃。クルセイドロア」
いまや仕合わせの暴君の全員が使える、聖属性の上位攻撃魔法。
その衝撃波は魔物を蹴散らし、その後ろに控えるシモンにも到達する。
「ぎゃあああああ痛い痛い痛いいいいい!! 何をしておる下賎な者どもよ!! 貴様ら、命を捨ててでも王を守らんかぁ!! 王の名において命ずる!! なにがなんでも我を痛みから護りきれえええええ!」
設置型の魔法だと妨害されてしまうからと、クルセイドロアで全て吹き飛ばしてあげたんだけれど……。
痛みに耐性が無いシモンは、更に魔物を排出し続けることで肉の壁を形成して攻撃魔法を防ぐ算段のようだね。
せっかく無限に魔物を呼び出せる能力があるのに、それを使って引き篭もってるなんて宝の持ち腐れもいいところだよ!
凄まじい数の魔物を輩出してくるシモンに対して、クルセイドロアとサンダースパークで魔物を蹴散らしながらエストックで斬りつけ続ける。
このまま完封して滅ぼしてあげるよシモンっ!
「痛いいいいい!! 痛いいいいい!! 超越者たる我に対するこの仕打ち、絶対に許さぬぞおおお!!」
「お前なんかに許してもらう必要は無いよ! むしろお前こそ、今更許されると思うなぁーっ!」
「王の名において命ずる! この場においてリーチェの攻撃魔法の発動を禁ずる!」
「……はぁっ!?」
僕に向かって攻撃魔法の使用を禁ずるならまだしも、この場に対して魔法の発動を禁ずるって……。
いったい何言ってるのコイツ!?
「え……、そんなっ……!?」
僕の体に異常は感じられない。
鑑定してみたけれど、何の状態異常にもかかっていない……。
だっていうのに、シモンの宣言のあとから、クルセイドロアもサンダースパークも本当に発動しなくなってしまった!?
「ふっざけるなぁっ! そんなことできたらおかしいだろぉっ!?」
「貴様こそふざけるのは大概にせよぉ!! いつまで王に逆らう気なのだぁ!! 王の名において命ずる! 黙ってその身を我に差し出せ、リーチェ!!」
「…………っ!?」
シモンの言葉に言い返そうと思ったのに、黙ってと言われた僕の口から言葉が発せられることはなかった。
そしてまるで僕の居る空間そのものがシモンに差し出されるかのように、シモンの右手に吸い寄せられる僕の体。
だから、ふざけるなって言ってるだろ! お前になんか触れられて堪るもんかぁっ!
「――――っ!!」
声無き叫びと共に断空を発動し、僕をシモンに差し出そうとする魔力空間を断ち切る。
体の自由を取り戻すと同時に、もしや今ならばとクルセイドロアを詠唱するけど不発。攻撃魔法禁止は解除出来ていないみたいだ。
僕に干渉することなく攻撃魔法の発動を禁止するなんて、いったいどういう原理の能力なの?
これじゃあまるでこの場の魔力がシモンの言葉に従って、僕に協力するのを拒んでいるみたいだよ……!
「…………シモンの言葉に、従っている?」
シモンの能力が分からない僕の頭に、自分が連想した言葉が引っかかる。
魔物化する寸前、シモンはなんて言っていたっけ?
自分の言葉は神の言葉で、絶対の命令である、とかなんとか……?
神の言葉。絶対の命令。
つまりシモンの能力は、発した言葉を現実に起こすことが出来る?
「……いや、それはありえないはず」
黙って身を差し出せと命じられた時も、抵抗自体は可能だった。
シモンの言葉は少なくとも、僕自身に直接作用しているわけじゃないはず。
直接作用していないなら……、関節的に僕に作用している……!?
「風よ! この場の魔力の動きを、僕に詳細に伝えてっ!」
「小賢しいっ! 王たる我が愛してやると言っておる! 黙って寵愛を受けるが良い! 王の名において命ずる! リーチェよ、一切の抵抗を止めよっ!」
「お断りだね、断空ーーっ!」
精霊魔法で場の魔力の流れを知覚した結果、シモンの言葉で魔力が動き出すのが分かった。
僕の動きを拘束しようと固まり始めた空間を断空で断ち切り、シモンの命令を拒絶する。
「……なるほどね」
今のやりとりで、シモンの能力が大体分かった。
シモンの能力は魔力そのものに命令を下し、魔力を意のままに操る能力だ。
この世の根幹である魔力という要素。
魔法も職業補正も装備品もドロップアイテムも、この世界のあらゆる要素に魔力は作用し関係している。
大気に漂う魔力を意のままに操れたとするのならば、それは確かに神の言葉で、絶対の命令と言うに相応しい能力なのかもしれない。
「ちっ! 下賎なる者どもよ、今リーチェは攻撃魔法が使えぬ状態だ。数で圧殺し、我の元にリーチェを差し出すのだぁ!!」
断空で命令を断ち切られる事に業を煮やしたシモンが、大量に吐き出している魔物に僕を襲うように命じてくる。
確かに攻撃魔法を封じられた現状、数で襲い掛かられると面倒だけど……。
面倒なだけで、脅威と呼ぶには値しないね!
襲い掛かってくる夥しい数の魔物を、翠緑のエストックで迎撃して殲滅していく。
そして襲いかかる魔物に姿を隠してシモンの背後に回りこみ、シモンのがら空きの背中を切りつける。
「痛い痛い! 痛いいいいい!! 我は絶対者なのに!! 我は神の如き存在となったはずなのに! 何でこんなに痛い……。なんで我に従わないのだぁぁぁぁ!!」
「お前みたいな情けない神がいるかぁーっ!!」
「王の名において命ず……」
「させないよっ! 絶空ーーっ!」
「ぎゃああああああ痛いいいいいい!!」
翠緑のエストックで斬撃を浴びせながら、シモンが命令の詠唱を始める度に絶空を放ち、痛みによってシモンの詠唱を妨害していく。
敵を前にして痛みで詠唱をキャンセルしてしまうなんて情けないね。
ダンは竜王にインパクトノヴァを撃ち込まれ続けても動いて見せたっていうのにさっ!
「――――斬れた!」
雑魚を蹴散らしながら、シモンの命令を絶空で妨害すること数回。
絶空を叩き込まれたシモンの右腕に、深く大きな裂傷が刻み込まれた。
「ぎゃああああ!! 我が体に、神の体に傷があああああ!!」
ようやく体力を削りきれたみたいだね。
けどイントルーダー戦はここからが本番だ。
「はぁぁぁっ!!」
「ぎゃああああああ!! やめっ! もうやめてくれええええええ!!」
攻撃の手を緩めずに、シモンの体に切り傷を刻み付けていく。
巨大なシモンに対して、エストックの斬撃がどれほど効果があるのかは分からないけれど……。
ならシモンが死ぬまで切り続ければいいだけの話さっ!
「うああああああ王の名において命ずるうううう!! 我が肉体の損傷を今すぐ完治させよおおおお!!」
追い詰められたシモンは、絶空を叩き込まれる激痛に耐えながら詠唱する事に成功する。
すると忽ち魔力が作用し始め、巨大なシモンに刻み込まれた無数の裂傷を瞬く間に治癒してしまう。
「ちぇっ……。流石にそこまで甘くない、か」
防御能力こそ低いみたいだけど、命令魔法を何とかしない限りシモンを滅ぼすことは出来なさそうだ。
でもシモンには悪いけど、もう既に命令魔法の攻略方法は思いついているんだ。
決着をつけようかシモン。
僕もいい加減、君の言葉は聞くに堪えないんだよね。
魔力に直接作用する命令魔法は確かに凄まじい能力だと思うけれど、その程度で屈するほど仕合わせの暴君は弱くないよ。
こっちにはぼく達を幸せにしたいが為に、世界だって滅ぼしてしまえる人がついてるんだから。
竜王が現れた時と同じ規模の漆黒の魔法陣。そこから這い出るように現れた巨大なシモンの上半身。
……下半身は出てこないね。全裸っぽいから出てきて欲しくないけど。
こんな人間居るはずもないし、鑑定の結果からもシモンが魔物化したことは間違いなさそうだ。
人間の魔物化ですら聞いたことがないのに、アウターエフェクトを飛び越えてイントルーダー化するなんて……。
君はいったい何処まで傍迷惑な男なのさ……?
「マギー。ガルシアさん。シモン陛下はどうやら魔物に身を落とされてしまったようだ。攻撃魔法の対象にも指定できるしね」
声をかけてみたものの、マギーとガルシアさんはシモンの変貌とイントルーダーとの遭遇による衝撃からか、完全に放心状態だ。
元々戦力としては期待していなかったけれど、この様子じゃ自衛すら困難かなぁ?
「こんな魔物を街に放つわけにはいかない。娘であるマギーには申し訳ないけれど、この場で確実に滅ぼさせてもらうよ?」
「お父様が、魔物に……? なんで、どうしてそんなことが……?」
「ちっ……! マギー、しっかりしやがれ! 今は惚けてる場合じゃなさそうだ!」
マギーは実の父親の変貌が受け入れられない様子だけれど、ガルシアさんは立ち直ってくれたみたいだ。
これならマギーのことを任せても平気かな?
2人から視線を外し、目の前のシモンに視線を向ける。
んー。今回僕は1人で戦わなくちゃいけないから、弓を使うわけにはいかないか。
そう判断して翠緑のエストックを構える僕の前で、シモンは両手を地面に向けて、地の底から響くような声で命令の言葉を発する。
「王の名において命ずる。集え。下賎なる者どもよ」
シモンの言葉に、シモンが生えている巨大魔法陣が光を放つ。
すると凄まじい勢いで、夥しい量の魔物が巨大魔法陣から排出され始めた。
竜王のドラゴンサーヴァント召喚と同じで、眷属を召喚してくるタイプのイントルーダーなのか!
「く……! 厄介なことを……!」
シモンがイントルーダー化した以上、僕はここを離れられない。
でもこの大量の魔物を無視したら、スペルディアのどこで被害が出てもおかしくない。
だから可能な限り、この場で全ての魔物を食い止めなきゃ……!
「白き迅雷。不言の雷鳴。滅紫の雷光。雷雲より招くは龍王。産声上げるは霹靂神。猛き雷帝、万象余さず呑み下せ。ドラゴンズネスト」
際限なく湧いてくる魔物には、魔力が続く限り発動し続けられるドラゴンズネストで対応するしかない。
魔物を殲滅しながらシモンにも攻撃を加えられて一石二鳥だしねっ。
ドラゴンズネストで止まない雷撃を浴びせながら、翠緑のエストックを振るって斬撃もお見舞いする。
魔力吸収+があるから、積極的に斬りかかって魔力を奪わないとね。
「ぎゃああああああああああ痛い痛い痛いいいいいいいいいいいい!! 我が玉体を害するとはあああ、恥を知れええええい!!」
ドラゴンズネストと斬撃によるダメージに絶叫しながら、シモンがドラゴンズネストの設置魔方陣に向かって左手を差し向ける。
「王の名において命ずる! 消え失せよおおお!」
「なっ……!?」
シモンが叫ぶと同時に、ドラゴンズネストの魔法陣が引き裂かれるように霧散してしまう。
……今のは魔法妨害?
術者に触れなくても、魔方陣に直接干渉して魔法を妨害する能力?
「貴様もいつまで王の体を斬り付けておるのだあああああ!! 王の名において命ずる! ひれ伏せぇぇぇぇい!!」
「ぐっ!? あぁっ……!?」
シモンが右手を天に翳しながら叫んだ瞬間、まるで空気に押し潰されるかのように、僕は地面に叩きつけられてしまう。
「お、もい……!? な、にがっ……なんだ、これ……!?」
地面に磔にされた僕の背から、更なる重みが圧し掛かってくる。
まるで空気が重さを持ったみたいに、触れないのに重みだけが感じられる……!
「色女如きが王に傷をつけるとは何事だぁっ!! 貴様は黙って我を受け入れておけば良い!!」
「勝手なことを……!! 誰がお前の言いなりになんかなるもんかぁ!!」
「情婦の分際で王に逆らうなど、身の程を知れぇぇい!! 王の名において命ずる! その場を動くな!!」
「ぐっ、ああああああ……!?」
まるで地面に引っ張られるように、僕の体は地面に張り付き身動きが取れない。
いったい何が起きてるの!?
何かに触れられているような感覚は無い!! まるで僕自身の重みが増したかのような……!?
「そうだぁ……。大人しくしておれば悪いようにはせぬからなぁ……?」
戸惑う僕に向かって、ニタニタと気味悪く笑いながら手を伸ばしてくるシモン。
何をされているのかは分からないけれど、この手に掴まれるのは不味い……!
1度拘束されてしまったら、体力が尽きるまで一方的に嬲られかねない!
何をされているのかは分からない、分からないけれど……!
それでもこれがシモンの意思によって引き起こされている事なら、そこには必ず魔力が作用しているはずっ!
「断っ、ち切れぇ……! 断、空っ……!」
右手に握ったままの翠緑のエストックに付与してある、魔法を斬るウェポンスキルである断空を発動する。
磔にされたままだったので効果は薄かったけれど、それでも右腕周りの拘束は弱まった! 今だ!
「もう1度……、断空--っ!」
拘束の弱まった右腕を大きく動かし、自分の頭上に断空を放つ。
すると何も無いように見える空間が切り裂かれて、僕に圧し掛かっていた重さが掻き消えた。
原理は分からないけれど、魔力によって引き起こされた現象なら恐れるに足りないよ!
「なっ!? 何故動け……」
「誰がお前の物になどなるかぁーーっ! お前こそ身の程を知りなよ! 絶空ーーーっ!」
シモンが僕に向かって伸ばしてきた手に、思い切り魔力を込めた絶空を放つ。
「ぎゃあああああ痛い痛い痛いいいいい!!」
一瞬しか魔力を込められなかったけれど、それでも僕の全力の1撃だ。
お前なんかに触れさせるわけにはいかないねっ!
この体は全てダンのものなんだからっ!
「我は王であるぞ!! 我は絶対者であるぞ!! なのになぜこんなに痛いのだあああっ!?」
絶空を叩き込まれたシモンは、やはり痛みで絶叫している。
でもまだ体力も削りきれていないので、肉体には損傷など1つもない。
痛みだけで悶えるような弱さで戦場に出るべきじゃなかったね、シモン!!
「覚悟しろシモン! 今すぐ僕の剣の錆にしてあげるよっ!」
「うわあああ集え集え、集ええええ!! 王の名において命ずる!! 下賎なる者どもよ、その命を持って王を痛みから守るのだぁぁぁぁ!!」
シモンの言葉に、魔法陣から勢いよく吐き出される魔物の群れ。
『王の名において』っていう言葉がシモンの能力の詠唱なのかな?
さっきからあの言葉を起点にして魔法効果を発揮しているように思えるね。
けどまぁ、まずは邪魔な真者達を蹴散らしてしまわないと。
「其は悠久の狭間に囚われし、真理と聖賢を司る者。無間の回廊開きし鍵は、無限の覚悟と夢幻の魂。神威の扉解き放ち、今轟くは摂理の衝撃。クルセイドロア」
いまや仕合わせの暴君の全員が使える、聖属性の上位攻撃魔法。
その衝撃波は魔物を蹴散らし、その後ろに控えるシモンにも到達する。
「ぎゃあああああ痛い痛い痛いいいいい!! 何をしておる下賎な者どもよ!! 貴様ら、命を捨ててでも王を守らんかぁ!! 王の名において命ずる!! なにがなんでも我を痛みから護りきれえええええ!」
設置型の魔法だと妨害されてしまうからと、クルセイドロアで全て吹き飛ばしてあげたんだけれど……。
痛みに耐性が無いシモンは、更に魔物を排出し続けることで肉の壁を形成して攻撃魔法を防ぐ算段のようだね。
せっかく無限に魔物を呼び出せる能力があるのに、それを使って引き篭もってるなんて宝の持ち腐れもいいところだよ!
凄まじい数の魔物を輩出してくるシモンに対して、クルセイドロアとサンダースパークで魔物を蹴散らしながらエストックで斬りつけ続ける。
このまま完封して滅ぼしてあげるよシモンっ!
「痛いいいいい!! 痛いいいいい!! 超越者たる我に対するこの仕打ち、絶対に許さぬぞおおお!!」
「お前なんかに許してもらう必要は無いよ! むしろお前こそ、今更許されると思うなぁーっ!」
「王の名において命ずる! この場においてリーチェの攻撃魔法の発動を禁ずる!」
「……はぁっ!?」
僕に向かって攻撃魔法の使用を禁ずるならまだしも、この場に対して魔法の発動を禁ずるって……。
いったい何言ってるのコイツ!?
「え……、そんなっ……!?」
僕の体に異常は感じられない。
鑑定してみたけれど、何の状態異常にもかかっていない……。
だっていうのに、シモンの宣言のあとから、クルセイドロアもサンダースパークも本当に発動しなくなってしまった!?
「ふっざけるなぁっ! そんなことできたらおかしいだろぉっ!?」
「貴様こそふざけるのは大概にせよぉ!! いつまで王に逆らう気なのだぁ!! 王の名において命ずる! 黙ってその身を我に差し出せ、リーチェ!!」
「…………っ!?」
シモンの言葉に言い返そうと思ったのに、黙ってと言われた僕の口から言葉が発せられることはなかった。
そしてまるで僕の居る空間そのものがシモンに差し出されるかのように、シモンの右手に吸い寄せられる僕の体。
だから、ふざけるなって言ってるだろ! お前になんか触れられて堪るもんかぁっ!
「――――っ!!」
声無き叫びと共に断空を発動し、僕をシモンに差し出そうとする魔力空間を断ち切る。
体の自由を取り戻すと同時に、もしや今ならばとクルセイドロアを詠唱するけど不発。攻撃魔法禁止は解除出来ていないみたいだ。
僕に干渉することなく攻撃魔法の発動を禁止するなんて、いったいどういう原理の能力なの?
これじゃあまるでこの場の魔力がシモンの言葉に従って、僕に協力するのを拒んでいるみたいだよ……!
「…………シモンの言葉に、従っている?」
シモンの能力が分からない僕の頭に、自分が連想した言葉が引っかかる。
魔物化する寸前、シモンはなんて言っていたっけ?
自分の言葉は神の言葉で、絶対の命令である、とかなんとか……?
神の言葉。絶対の命令。
つまりシモンの能力は、発した言葉を現実に起こすことが出来る?
「……いや、それはありえないはず」
黙って身を差し出せと命じられた時も、抵抗自体は可能だった。
シモンの言葉は少なくとも、僕自身に直接作用しているわけじゃないはず。
直接作用していないなら……、関節的に僕に作用している……!?
「風よ! この場の魔力の動きを、僕に詳細に伝えてっ!」
「小賢しいっ! 王たる我が愛してやると言っておる! 黙って寵愛を受けるが良い! 王の名において命ずる! リーチェよ、一切の抵抗を止めよっ!」
「お断りだね、断空ーーっ!」
精霊魔法で場の魔力の流れを知覚した結果、シモンの言葉で魔力が動き出すのが分かった。
僕の動きを拘束しようと固まり始めた空間を断空で断ち切り、シモンの命令を拒絶する。
「……なるほどね」
今のやりとりで、シモンの能力が大体分かった。
シモンの能力は魔力そのものに命令を下し、魔力を意のままに操る能力だ。
この世の根幹である魔力という要素。
魔法も職業補正も装備品もドロップアイテムも、この世界のあらゆる要素に魔力は作用し関係している。
大気に漂う魔力を意のままに操れたとするのならば、それは確かに神の言葉で、絶対の命令と言うに相応しい能力なのかもしれない。
「ちっ! 下賎なる者どもよ、今リーチェは攻撃魔法が使えぬ状態だ。数で圧殺し、我の元にリーチェを差し出すのだぁ!!」
断空で命令を断ち切られる事に業を煮やしたシモンが、大量に吐き出している魔物に僕を襲うように命じてくる。
確かに攻撃魔法を封じられた現状、数で襲い掛かられると面倒だけど……。
面倒なだけで、脅威と呼ぶには値しないね!
襲い掛かってくる夥しい数の魔物を、翠緑のエストックで迎撃して殲滅していく。
そして襲いかかる魔物に姿を隠してシモンの背後に回りこみ、シモンのがら空きの背中を切りつける。
「痛い痛い! 痛いいいいい!! 我は絶対者なのに!! 我は神の如き存在となったはずなのに! 何でこんなに痛い……。なんで我に従わないのだぁぁぁぁ!!」
「お前みたいな情けない神がいるかぁーっ!!」
「王の名において命ず……」
「させないよっ! 絶空ーーっ!」
「ぎゃああああああ痛いいいいいい!!」
翠緑のエストックで斬撃を浴びせながら、シモンが命令の詠唱を始める度に絶空を放ち、痛みによってシモンの詠唱を妨害していく。
敵を前にして痛みで詠唱をキャンセルしてしまうなんて情けないね。
ダンは竜王にインパクトノヴァを撃ち込まれ続けても動いて見せたっていうのにさっ!
「――――斬れた!」
雑魚を蹴散らしながら、シモンの命令を絶空で妨害すること数回。
絶空を叩き込まれたシモンの右腕に、深く大きな裂傷が刻み込まれた。
「ぎゃああああ!! 我が体に、神の体に傷があああああ!!」
ようやく体力を削りきれたみたいだね。
けどイントルーダー戦はここからが本番だ。
「はぁぁぁっ!!」
「ぎゃああああああ!! やめっ! もうやめてくれええええええ!!」
攻撃の手を緩めずに、シモンの体に切り傷を刻み付けていく。
巨大なシモンに対して、エストックの斬撃がどれほど効果があるのかは分からないけれど……。
ならシモンが死ぬまで切り続ければいいだけの話さっ!
「うああああああ王の名において命ずるうううう!! 我が肉体の損傷を今すぐ完治させよおおおお!!」
追い詰められたシモンは、絶空を叩き込まれる激痛に耐えながら詠唱する事に成功する。
すると忽ち魔力が作用し始め、巨大なシモンに刻み込まれた無数の裂傷を瞬く間に治癒してしまう。
「ちぇっ……。流石にそこまで甘くない、か」
防御能力こそ低いみたいだけど、命令魔法を何とかしない限りシモンを滅ぼすことは出来なさそうだ。
でもシモンには悪いけど、もう既に命令魔法の攻略方法は思いついているんだ。
決着をつけようかシモン。
僕もいい加減、君の言葉は聞くに堪えないんだよね。
魔力に直接作用する命令魔法は確かに凄まじい能力だと思うけれど、その程度で屈するほど仕合わせの暴君は弱くないよ。
こっちにはぼく達を幸せにしたいが為に、世界だって滅ぼしてしまえる人がついてるんだから。
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それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
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