備忘録

りっち

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長編作品

ざまぁ代行 カチュア編 旧09

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※こちらは書き直し前の旧verとなります。
 当時のままの文章をそのまま残してありますので、もしも誤字・脱字の報告があったとしても修正は受け付けません。当時の遺構のようなものです。
 大幅に加筆・修正をしている為、恐らくはアルファポリス様の規制にはひっかからないかと思いますが、仮に公開停止処分等を受けた場合は再公開の予定はありませんのでご了承ください。



「エリカ……。どうして貴女が今ここに居るの……?」


 あまりに予想外だった人物の登場で、私の頭は更に混乱してしまう。
 とっくに混乱していた頭がパンクしちゃいそう!

 いったい学園になにがあったって言うの!?
 エリカがここに居たわけは!? エリカが私に謝った理由は!?


「カチュアー? 落ち着いて、ちゃんと説明するからね?
 まずはエリカのことだけど、やっぱりカチュアの次に聖女役に選ばれていたの。
 カチュアの後のことだから期間的には長くないけどね。くだらない捏造行為まではされてないけど、日常的に暴力を振るわれていたみたい」

「ごめんねカチュア……。貴女に授業料未払いの疑いがかけられた後、同室だった私は貴女との接触を禁じられて、学園に監禁されていたの。
 貴女が私の目の前で授業料の支払いをしていたこと、私の解放も訴えていたのだけれど、私が釈放されたのは貴女が学園から除籍されたあとだったのよ……」

「エリカ……、監禁って……。
 嘘でしょう? そこまで、そこまでしていたの? この学園は……」

「ホントよね。正気の沙汰とはとても思えないわ。しかも職員全員が関与してるんだもん。完全に狂ってる。
 カチュア、エリカ。この1ヶ月でランペイジ学園になにがあったか説明してあげたいのは山々なんだけど、まだ最後にイベントが残ってるみたいなのよ。
 事情の説明は、屋敷に帰るまで我慢してね?」


 ええ~!? 屋敷に戻るまで教えてもらえないなんてっ!

 んもう! イベントっていったいなんなのっ!?


「御者は先に帰らせたから、ここに居るのはか弱い乙女が5人だけ。しかも閉鎖された学園跡地。人払いの必要もなく、彼らにとっては庭同然の場所。うん。最高のシチュエーションよねっ。
 シルはカチュアを、マリーはエリカをお願いね。私の護衛は必要ないから。
 むしろ2人のほうが心配よ。学生なんかに遅れを取らないようにね? 貴女達に稽古をつけた私の立場がなくなっちゃうからさー」

「なんで守るべき主が開口一番に、自分の護衛は必要ないとか言ってくるかなー……。
 そりゃあまだまだ私たちじゃチロルには敵わないけどさー」

「私もシルと同じことを言いたいけど、実際私たちはまだまだ初心者もいいところだもんね。
 はい。任務了解です。私は無理せず、エリカ様を守ることだけに集中するっ」

「あああマリーズルいっ!? マリーってほんと要領がいいんだからっ! 私だって任務了か……」

「お久しぶりですわねっ! チロル・クラート!
 私のことを忘れたとは言わせませんわよ!」


 ああもう次から次へとなんなのよぅ!?

 チロルたちの会話に呆気に取られていると、ルリナを筆頭に、学園の執行会役員を務めていた生徒達が姿を現した。

 男子が3人、女子が5人。その全てが上級生で年上だ。

 上級生って、なんでこんなに恐ろしく見えるんだろう……。
 なぜかみんな、ボロボロの服を着て、目が血走っているけれど……。


「御機嫌よう。確か学園長先生のお孫さんでしたわよね? 覚えておりますよ。
 ただランペイジ学園も、ランペイジ伯爵家もなくなってしまいましたから、なんてお呼びすればいいのか困ってしまいますわね?」

「ルリナよっ! ルリナ・ランペイジよっ! ふざけるのもいい加減になさい!」

「貴女の名前などどうでも宜しい。私に何か御用ですか?」

「どうでもいい!? どうでもいいですって!? このルリナ・ランペイジを、どうでもいいと言ったのですか!?」

「おいルリナ! いい加減にさっさと話を進めろよ! ここだっていつ人が来てもおかしくねぇんだぞ!」


 今にもチロルに食って掛かりそうだったルリナを、上級生の男が怒鳴って制止する。

 この声は忘れもしない……。
 あの日、私の背を思い切り蹴飛ばした相手の声だ……!


「ふんっ、いちいち言われなくても分かっておりますわ!
 チロル・クラート! 貴女には私たちと一緒に来てもらいますわ! 貴女に拒否権はありませんからねっ!」

「はぁ……。貴女はいつも私を引き止めようとばかり致しますわね。そんなに私のことが好きなんですか?
 でも、本当にごめんなさい。貴女の気持ちに応えることは出来ないわ……。私にそっちの趣味はないから……」


 ……ほんとかなぁ?
 妙に私と一緒にお風呂に入りたがるところ、あるよね……?


「誰が、誰が貴女なんか好きなものですか! 大っ嫌いですわよ貴女なんて!
 くだらない妄言に付き合う気はありませんっ! 痛い目を見たくなければ大人しく付いておいでなさい!」

「くだらない妄言を仰っているのはそちらでしょう?
 生活に困ったから、私を誘拐してクラート家から身代金をせしめようとしているようですが、そんなこと上手くいくはずないでしょう? ここで手を引けば、まだ未遂のままで終わりますよ?
 貴族から平民になっただけでは飽き足らず、その身を犯罪者にまで落とすおつもりなのですか?」


 チロルを誘拐して、クラート家から身代金を……!?
 普通ならチロルの言う通り上手くいくはずはないけれど、この人たちは貴族。平民とは訳が……。

 って今、貴族から平民になったって言ってなかった……?

 ……貴族って、平民になったりするものなの?


「――――っ! どうしてそのことをっ!?
 ふん、まあいいですわ! 分かっているなら話は早くてよ!
 さぁみんな! そこの平民女を捕らえるのです! 男はチロル・クラートを! 女はみんなで残りを捕まえますわよっ!」


 そんな! 男子生徒がみんなチロルを狙うなんて!

 いくらチロルが護身術を身につけていると言っても、多勢に無勢!
 しかも年上の男性が襲ってくるなんて、いったいどうしたらっ……!


「あー……。ごめんなさいね? 私は15の小娘ですから。しかも人よりちょっぴり小柄なちんちくりんです。
 男性3名を相手にするんですから、ちょーっとだけズルをさせてもらいます。怪我が重くなっちゃいますけど、まぁ自業自得ですね。犯罪者に慈悲などありません」


 とても年上の男性3人に狙われているとは思えないほどいつもの調子で話しながら、チロルは何かを取り出して両手にはめた。

 なにあれ? 見たところ金属製かな?
 チロルの両手に、金属製の指輪が4つ連結したようなものが握られている?


「こちらナックルダスターと呼ばれる代物でして。携帯するのにとても便利なんですよ。
 シルヴェスタ王国ではあまり広まっておりませんが、この高い秘匿性と扱いやすさは、女性の護身具としては、なかなか優秀だと思っております、よ!」


 チロルが1人の男子生徒に近寄ったかと思うと、そのまま男子生徒の左太股に向かって、思い切り拳を振り下ろした!


「ぎゃああああああいてえええええ!! いてえよおおおお!!」


 突如男子生徒の絶叫が響き渡り、襲い掛かろうとしていた相手全員の動きが止まる。

 それに対してチロルの動きは止まらない!

 もう1人の男子の太股も殴りつけ、最後の1人に向き直る!


「いてええええいてえええよおおお!!」

「あああああああ!!」


 男子2人の悲鳴だけが響き渡る。

 私達に襲いかかろうとしていた女生徒たちは完全に動きを止めて、怯えた表情でチロルを見ている。


「煩いですねぇ。貴方達は聖女役の女生徒に対して、今まで散々暴力を振るってきたのでしょう?
 彼女達は殴られても蹴られても、そのように見苦しい悲鳴は上げなかったでしょうに」


 ――――その場の空気が凍りついたような錯覚を抱く。

 その声があまりにも冷たかったから。

 殴られて悲鳴を上げていた2人ですら、言葉を失って黙り込んでしまう。


「貴方達それでも男性ですか? 私のようなちんちくりんに殴られた程度で、何を大袈裟に痛がっているのですか。
 まぁ残りは殿方1人だけですしね。こちらはもう必要ないでしょう。
 おいでなさいな。それとも貴方は素手の女性1人に挑むことすら出来ないほどの臆病者ですか?
 抵抗出来ない相手にしか強く出れない卑怯者ですか?
 これでは地面に転がって喚いている方々の方が、幾分かマシですわね?」


 私には背を向けているチロルが、男子に向かって笑顔を見せているのが分かった。


「そのまま尻尾を巻いて逃げ出せば、痛い想いをせずに済みますわね?
 貴方のような臆病者をなんと言うか知っていますか?
 ――――この腰抜け」

「あああああああ!! てめえええええぶっ殺してやらああああああ!!」


 最後に残った1人、私の背を蹴った男子生徒が、激昂してチロルに襲い掛かるっ!
 危ないっ! ってあれは……!

 男子生徒がチロルに掴みかかろうとした瞬間、大きく弧を描いて男子生徒の体が宙を舞う。
 まるでジャンクロウで父さんと再会した、あの時のように……!

 そしてそのままチロルは、男子生徒を地面に叩きつけてしまった!


「かはぁっ……!」


 まるで体中の空気を全部吐き出してしまったかのような声をあげる男子生徒。

 その顔目掛けて、チロルが開いた手を振り下ろした……。
 ってえええええ!? チロルやりすぎ! やりすぎだからっ!?


「あら? 鼻を折って差し上げたのに反応がないなんて、どうやら意識を失ってしまったようですね。情けない。
 カチュアは完全に意識外から背中を強打されても意識を失わなかったというのに。
 ああっと、このままでは少し危険ですか。シル、マリー! 手伝って! この男をうつ伏せにするわよ!」

「「は、はいっ!」」


 チロルの動きに見蕩れていた2人は、突然の呼び出しに泡を食って飛び出した。


「鼻を折ったから、多分仰向けのままだと、血液が喉に詰まって死んじゃうかもしれないからね。
 いくら完全な正当防衛でも、流石に人殺しにはなりたくないわ。うつ伏せにするわよ」

「いやいや、そんなあっさりと鼻を折ったとか言われても困るんだけど……?」


 チロル、シル、マリーが3人で協力して、気絶している男をうつ伏せにした。


「背中を思い切り叩きつけてやったからね。これでコイツもカチュアみたいに、当分は呼吸障害が出ることでしょうよ。
 でもそれだけだと他2人よりも軽症だからね。呼吸障害を長引かせる意味でも、ついでに鼻も折ってあげることにしたの」

「したの。じゃないでしょチロル……。人間の鼻をついでなんてノリで折らないで?」


 シルの言う通りすぎて言う事がない……。
 っていうかシルとマリーって、完全に私とエリカの為に居たのね……。

 チロルに護衛、必要あるのかな……?


「さてと、流石に女生徒を殴り飛ばすのは気が引けるからね。
 え~っとなんだっけ? そうそう、痛い目を見たくなければ、そのまま大人しくしていなさい。
 少しでも抵抗や逃走の素振りを見せたら、そこで気を失っている男みたいにして差し上げますわ」


 ルリナのセリフをそっくりそのまま返すチロル。
 言われたルリナたちは完全に戦意を喪失してしまったらしく、ただ地面にへたり込んで呆然としている。




 その後マリーが警備隊を呼んできて、8人の襲撃者は拘束された。

 警備隊が8人を連行して行こうとしたとき、チロルが思い出したように声をかけた。


「ああ、警備隊の皆様。少しだけ待っていただけますか? 最後に1つ用事を思い出しましたの」


 そう言ってチロルは拘束された襲撃者達に歩み寄っていく。

 その手に、1枚の書類を持ちながら。


「私、ランペイジ元学園長先生と1つの契約を交わしておりましてね? ランペイジ伯爵家の人間、学園の職員並びに学園の生徒が、カチュア本人、若しくはカチュアの家族、友人に故意に危害を加えた場合、ランペイジ学園の入学金80年分を私にお支払いしてくださるというものです。
 契約を交わしたご本人は処刑されてしまうということですし、今回襲撃してきた皆さんにこちらを払っていただくと致しましょうか。
 ご心配なく。期限も利子も設けませんから。頑張って支払ってくださいね?」

「ふっ、ふふふ、ふざけないで!? そんな金額払えるわけ……」

「今さら何を言っているのです? 貴女達だって同じ事をしてきたのでしょう?
 聖女役の生徒の家の経済状況を事前に調査した上で、絶対に払えない金額を相手に請求し続けてきたのでしょう?
 払えるわけがない? だからどうしました? 貴女の支払い能力なんて知ったことじゃありません。払えるか払えないかは問題ではありません。ただこの金額が貴女達に科せられる。それだけのことです。
 ああ、偽造した借用書を利用してカチュアから大金をせしめた生徒さんにも、その分の金額は負担して頂きますから、少しだけ返済額は減りますよ。良かったですね」


 まぁ今さらお金なんて必要ありませんけど、と言いながら、チロルはルリナ達に背を向ける。

 そして私たちの方に戻ってこようとして、でも何かを思い出したみたいな顔をして、ルリナたちの方に顔だけを向けて言った。


「ああ。大事な債務者のお名前です。生涯覚えておいてさしあげますよ。ルリナさん」


 その言葉を最後に、まるで彼女達への興味を失ったかのように、チロルは柔らかく微笑みながら私たちの居る場所に戻ってきたのだった。


  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※書き直した理由について。

 アシュレイ編の時は更に顕著になるんですけど、整合性やリアリティばかり気にしすぎて、作品としてのエンターテイメント性がとても下がってきたように思えたからです。
 このチロルの暗器無双は結構ノリノリで書いていた気はしますけど、アシュレイ編の解決は本当に酷すぎて自分でも萎えました。一旦投稿活動を止めて、ざまぁ代行を全て非公開にする程度には萎えました。

 イチャラブを書き始めてなんとかざまぁ代行へのやる気が回復して来た時に思ったのは、リアリティよりも面白さを追求すべきで、その為なら多少のご都合主義やファンタジー要素は入れてもいいじゃないかという事でした。
 特にざまぁ代行なんて神様が居る世界観なのに、リアリティだけを追求してこんな決着のつけ方なんて馬鹿じゃないのかと、書き直したくて仕方なくなりました。

 ここでの暗器無双が無くなったのは、ある意味アシュレイ編への伏線、と言えなくもないかもしれません。アシュレイ編での書き直しを考えた上での今回の展開になりましたので、私の頭の中の時系列的にはアシュレイ編の方が先なのでした。
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