◯◯は死んでも治らない

総帥

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香坂カナ

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4月

春光うららかな季節を迎え、道行く人々の表情も一部を除き晴れ晴れとしている。


しかしそんな人々とは対照的に、青白いしかめっ面で佇む女性が1人。
名前は香坂カナ15歳。晴れて本日より女子高生となった。
髪を茶色に染めて、眼鏡をコンタクトに変えメイクをし、制服のスカートも腰の部分で数度折りミニスカに。
所謂高校デビューというやつである。


彼女が幼い頃より憧れていたJK。
友達と高校生になったらみんなで海に行こう!と誓い合った小学生のカナ。
バイトをしてたくさんお金を稼いでいっぱい遊ぼうと夢見ていた中学生のカナ。
入学して1ヶ月もすれば彼氏が出来ると信じて疑ってなかった昨日までのカナ。

そう。JKとは無限の可能性を秘めた国宝級の卵なのだ…!と本人は思っている。




だというのに。




「なんで死んじゃったかなあ、あたしいいぃぃーーー!!?」










事件は数時間前に遡る。


入学式も終わり、友人である近藤サクラと共に帰宅していた。
サクラは幼稚園からずっと一緒のカナの親友だ。
とはいえ最初から親しかったわけではなく、転機は彼女らが中学2年生の時に訪れる。



その日カナは本屋にいた。本日発売のコミックスを買いに来たのだ。
あまり人気のない作品なのか、近くの本屋にはいつも2冊ほどしか入荷しない。そのため学校が終わると同時にダッシュでやってきた。


「…ハッ!ラスト1冊ぅ!!」

お目当の本を見つけ、すぐさま手を伸ばした。
その直後。


「「………。」」


被った。右側に立つ人物に目をやるとそこには、同じくカナを見つめる同じ制服の女子。
そう、彼女こそが近藤サクラだ。

2人は思った。

((こいつ、えーと。名前なんだっけ。顔は分かるんだけど…))

その時までは、お互いその程度の認識でしかなかった。
だがそんな事はどうでもいい。問題は、目の前の本。

本は1冊しかなく、求めているのは2人。となると当然…



「私の方が早かったよね?ね?」

「いやいやあたしでしょ?コンマ1秒早かったし?」


譲り合いの精神など持ち合わせていない。
獲るか、獲られるかだ。


「何言っちゃってんの?私がどんだけこの本を求めていると思ってんの?
こちとら今日が楽しみすぎてここ最近の授業が頭に入んないほどだったんだけど。」

「ふっ。あたしなんて前巻読み終わった瞬間からこの日を渇望してたんだから。
まあ雑誌でずっと追ってたけど。」

「私コミックス派だから。私優先だよね。」


2人に引っ張られる本が嫌な音を立てている。


「関係なくない?あたしだってコミックス描き下ろし特典今すぐ読みたいんだけど。カバー下とか毎回凝ってるの知ってんでしょ?」

「よし分かった。私が先に読むから、その後貸してあげる。」

「いやいやいや。」

「何よ。」

「だからあ…!」


1冊の本を奪い合う女子中学生2人。他の客はどうでもいいから新刊コーナーから早くどいてくれ、と思っていた。
本のシュリンクが徐々に破かれていく。店員も声を掛けたいのだが、2人の迫力に押されてオロオロしている。



「あのお客様…」


「「この『受け止めて、俺のエクスカリバー!~クラスのカースト最下位の僕が、頂点の彼に迫られています~』6巻は譲らん!!!!」」





周囲が静寂に包まれた。



2人の間に、本が落ちる。その表紙は、半裸で抱き合う男2人。



香坂カナと近藤サクラは腐女子と呼ばれる人種だった。



「…あの、お客様。そちらの新刊、まだ在庫ございますので…。」








それが、2人が親しくなったきっかけだった。



きっかけこそは険悪なものだったが、元々同じ趣味嗜好の2人。その日を境に急激に距離が縮まった。







そして現在に至る。

彼女らは自らの趣味を隠してはいないが、女子高生ライフをエンジョイしたかった。
部活、恋愛、勉強…青春したかったのです。
その為にも、外見ですぐオタクと分かる野暮ったい格好は絶対しないと決める。


そして話し合いの結果、カナはギャル系、サクラは清楚系女子を目指した。
春休みはメイクやファッション、会話の勉強に費やした。


結果は大成功。
入学式後、彼女らには女子も男子も次々声を掛けてくれた。
内心ほくそ笑んでいたが、誰も気づかない。




そして式が終わった後、2人でお茶しようということでカフェに向かっていた。
今ちょうどフェア開催中なのである。お目当てのグッズが出るまで飲み続ける覚悟だ。

だがそのカフェに向かう途中。とあるビルの前を通りがかった時だった。
なんだか周囲が騒がしい。


「お、おい、あれ…。」

「なんか…ヤバくね?」

「えっあれマジかな?」

「ちょっと、動画撮っとこうよ。」


1人が声を出したら途端に拡散されていく。どうやら彼らはビルの上を見ているようだ。

「なんかさっきから騒がしいね?」

「ね。上に何かあんの…?」


カナとサクラも何事かと上を向いた。


その直後


「キャアアア!!」
「うわーーーっ!!」
「危ないっっ!!!逃げ」


ヒュッ


ダアン!!




「……え?カ、ナ。」








カナが上を向いた瞬間。
彼女の目に映るのは、直前まで迫った見知らぬ人。
考える間もなく、カナの意識は刈り取られる。






「いやあああああ!!カナあああっ!!!」




腰を抜かしたサクラの横にあるのは、さっきまで隣を歩いていた親友。
その上に降ってきた知らない制服姿の男子。
2人は身体中をありえない方向に曲げ、血まみれになり他にも何か見える。



香坂カナは、飛び降り自殺に巻き込まれた。




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