王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第4章 西国タリアネシア編

⑤魔女ウィリアの謀略

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 俺たちは、道中に遭遇した魔物を討伐しながら、のんびりとギルドに戻った。
 そして俺は、胸を張って今回の依頼報告をする事ができた。

 今回の調査ではケルピーの確認が大きく評価された。あんな危険な幻獣がいると分かって湖に近づく者などいないし、分かっていれば被害者も出ない。領主にとっては良い報告になっただろう。

 他にも魔物の素材や多くの魔石を買い取ってもらい、想定よりも良い報酬が得られた。

「そんなこと出来ない!絶対に!」
「いいんだよ。俺は金に困っていない。何せお前と違ってS級ランクだからな」

 カイルは今回の調査依頼の報酬を、全て俺に渡して来た。

「あんな怪我までさせられて、危険なケルピーから救ってくれて!報酬なしなんて、カイルはいったい何を考えてるんだよ!」

 全く、信じられない。
 今回の報酬はかなり良かった。俺にとっては大金と言っていい額だ。

「お前が頑張ったから、お前のものでいいんだよ。そもそも、依頼内容はB級ランク対象、つまりお前が受けた依頼だ。俺はただの暇つぶしで付いてきただけだ」

 なんなの?カイルって本当は何者なの?
 そう言えば、アンティジェリア王国の出身じゃないっていう事しか知らない。

「カイルって・・実はどこかの国の王族?こんな事言えちゃう人なんて、そうそういるものじゃないよね?ね、王子様?」

 俺はからかい半分で言ってみた。そしたらカイルは、固まって目を逸らした。
 え?本当に王子様?まさかね・・

「俺は、俺のような野趣に富んだ王子がいたら嫌だけど?それに!そんな馬鹿な話をしてないで、その金で空腹の俺に飯を奢ってくれ」
「あははっ!そうだね!もしカイルが王子様だったら、俺の事、国に連れて帰って遊び相手にでもしてよ!」

 俺はそう言って、ギルドの酒場でカイルと遅い夕食を摂る事にした。

 帰国に1日掛かるから、あとは残り2日間、魔女ウィリアを探せるだろうか。
 仮に探すことができたとして、呪術を解いて貰えなければ意味が無い。

 俺は男性に戻りたい。どうしても戻りたいんだ。

「それで?明日はどこに行くんだ?」

 どこに?うーん、どこに行けばいいのかな・・俺は悩む。えっと・・どこ?
 分からない、どうしよう。

「どこ・・かな・・へへっ」

 カイルがぽかんとした顔で俺を見る。
 そうだろうね・・俺だって呆れてるよ、自分の事・・

「どこかなって、分からないのか?呆れた奴だな・・あれだけタリアネシアに行きたいって騒いでいたのに?」

 いや、本当に俺もそう思ってるよ?

「だよね。俺も自分で自分の事呆れてるよ・・人探しって、どうしたらいいんだっけ・・ここに来たら見つかるかなぁって単純にそう思ってた・・」
「単純に?タリアネシアに来て分かっただろ?広大な広さがある国だぞ?端から端まで探してたら、何年もここにいる事になるぞ?」

 確かに。なんか、もう無理な気がしてきた。
 世間知らず過ぎて、泣けてくる。

「無理かも・・」

 小声で泣き事を言ってしまう。

「聞き込みをしたらどうだ?お前は今、タリアネシアの冒険者ギルドにいる。こんなにいい情報網はないと思うが?」

 カイル!!なんて賢いんだ!なるほど、あちこちに飛び回っている冒険者達に、魔女ウィリアの情報を聞けばいいんだ!

「カイル!頭いい!やってみるよ!」
「ああ、なら早速あそこにいる4人組のパーティの奴らに聞いてみろ」

 近くに座っている人間とリザードマンのパーティに近づく。強面で、すごく強そう。
 俺はちょっと怯みながら声を掛けてみる。

「あの・・少し聞きたい事があるんです。俺、人を探してて・・」

 俺が話しかけると、なかでも優しそうな人間の魔法師がこちらに気がついて笑いかけてくれた。

「おや?こんな時間に子供?ぼく、どこから来たの?」

 うぅっ!また子供に間違われるなんて・・
 でも、この際それはもう諦める。男装した女の子なんて、幼く見えても仕方がない。この見た目は、精一杯取り繕った結果だし。

「俺、成人してます・・あの!魔女ウィリアを知ってますか?」

 俺は、大きな声で聞いてみた。
 すると、辺りがしん・・と静まって注目を浴びてしまった。

「君、どこから来たの?」
「え・・?」
「魔女ウィリアについてこの国が大変だった事を知らないんだね」
「はい、すみません・・」

 魔法師の男性は、謝らなくていいよと言って、魔女ウィリアの事について教えてくれた。

 俺は、魔女ウィリアが他国で指名手配されていた男と共謀して、盗品の売買や、違法奴隷の取引に、殺しの請負、無限連鎖講でキリがない犯罪組織に加担し、謀略を重ねていた事を知った。

 強さや残虐さを兼ね揃え、古代昔より使用を禁じられてきた魔法、それに精神汚染魔法、使ってしまえば闇に堕ちるしかない。

 西国タリアネシアは魔術に長けた魔術師が多く存在する。他国でのエンチャンターとしての需要が高く、魔力を武器に込めて攻撃したり、魔力を変化させることが出来る絶対的信用がなせる存在のはずだった。

 だけど全ての信用を失って、魔法師たちまで迫害的な扱いを受けてしまった。

 魔女ウィリアの陰謀や殺戮で、多くの民に被害が及んだせいで、国としての信用も地ほど落ち、一時的に流通も止まった。
 要だった産業ギルドも商業ギルドも機能を失ない、事実上タリアネシアは孤立した。

 魔女ウィリアの捕獲には、アンティジェリア王国の王子が健闘し、一世を風靡した。

 そして、孤立したタリアネシアを救済したのは、指名手配の男の出身国であるリティニア王国の第3王子ヒューベルト殿下だった。

「ああ!すまない!俺の連れが悪かったな!ちょっと世間知らずで!レノ、行くぞ!」

 カイルは焦った様子で俺の腕を引く。
 4人組のパーティは誰も責めることなどせず、俺たちを見守った。

「いいさ。そんなこと気にする事はないよ。もう行くのかい?どうだろう、良ければ一緒に呑まないか?」

 人間の魔法師イアンさんは、人が良さそうな顔で笑った。

「そうだ!おめえらも一緒に食え!おら!」

 リザードマンのノーブルさんは荒々しいけれど、豪快で楽しそうな人だった。

「いいんですか?」
「いやいや!レノ、行くぞ!」

 カイルが必死になって止めてくる。

「あら、カイル?私から逃げようとしてるのかしら? 」

 そう言って、4人組のパーティにもう1人加わり椅子に腰掛けたのは、とんでもなく色っぽい、赤紫色バーガンディの長い髪の美女だった。

「カイル、知り合いなの?」
「い、いや・・」

 カイルはすぐに否定したけど、美女さんはカイルにジリジリと近づいて来て言った。

「カイルったら!ひどいわ?2人きりの時はいつもあんなに甘えてきて、仲良くしてたじゃないのー!」
「誤解を招くような言い方をするなよ!イヴ!」

 イヴさんは、コロコロと鈴を転がすような綺麗な声で笑って、カイルの胸に体を寄せた。

「離れろ、イヴ。椅子に座れよ」
「はぁーい。カイル、怖ーい!」

 イヴさんとカイルは、以前恋人だったんだろうか・・親しげにも見えるし、そうでも無いような。

「とりあえず、君たちも座ったら?」

 落ち着いた雰囲気のイアンさんは、俺たちに椅子を勧めて来て、ニコリと笑った。
 カイルは、ため息をつきながら渋々椅子に座った。

「レノと言ったかな?君は魔女ウィリアについて知りたいのは、なぜなんだい?」
「知りたい理由・・俺は、その・・とにかく会わないと駄目なんです。直接会って聞かないといけない事があるから」

 理由を言う訳にはいかない。
 だから、説明が難しい。

「自分から質問しておいて、詳しく話せずすみません・・」

 俺は頭を下げる。
 だけど、パーティの人達は、誰も責める事をしない。

「レノちゃん?誰にだって、人には言えない事があるものよ?ねぇ?カイル?」

 ふふふっと笑ってカイルを見る。
 なんだろう・・カイルにも言えない事があるという事かな。

 そういえば、レインもカイルには何か隠している事があるから用心しろと言われたような。

「イヴ!余計な事を言うな、黙ってろよ」

 カイルがすごくイライラしてる・・珍しい。
 こんなカイルは見た事ない。
 いつもは優しくて、落ち着いているし、何か新鮮だな。

「ね、カイル?もしカイルにびっくりするような秘密があっても、俺、気にしないよ?だからそんなに怒らないであげてよ」

 カイルの顔が固まってしまった。
 イヴさんは笑いながらお腹を抱えてる。

「秘密などない。ただ、言う機会がなかっただけの事だ。大した話でもないが、いずれお前にも話すよ」

 カイルはエールを飲み干して、イヴさんに言った。

「イヴ、ちょっとこっちに来いよ」
「分かったわ。ふたりきりね、カイル」
「はぁー・・レノ、少しだけ離れる。イアン、レノを頼むよ」
「はいはい。任せなさい」

 任せる?
 そんなおかしな会話を、俺は納得が出来ないまま、カイルとイヴさんの背中を見送った。

 ふたりきりで、何を話すのかな・・
 今日の逢瀬の話?よりを戻すとか?

 そういえば、カイルの恋愛の話を聞いたことがない。
 そんな事を考えながら、俺はイアンさんのドキマギする楽しい冒険談を聞いていた。





「頼むよ、イヴ。余計な事を言わないでくれ」

 俺は店の外でイヴと話していた。
 レノに誤解をされる事は避けたい。

「なあに?あのぼくちゃんの事、好きになったの?」
「違う!そういう事を言ってるんじゃない!いろいろと複雑なんだよ・・誤解されたら困る」
「誤解?誤解じゃないでしょ?私たち・・」
「悪かったよ!俺もなんて言うか・・良くなかった。はっきりさせないで、本当に悪かった」
「別に謝ることはないわ?私も良くなかったわね。カイルがレノちゃんに真剣だって気が付けなかったんだから。もう揶揄ったりしないわよ。王子様」

 そう言って、イヴは俺にキスをした。
 俺は盛大に大きなため息を付いて、席に戻るイヴのあとを追ったのだった。


「レノちゃん、またね?」

 イブさんは、パーティのみんなとギルドを出て行った。

「じゃあ!また見かけたら声を掛けてね」

 イアンさんが俺たちに言った。
 そしてカイルに何やら耳打ちをして、笑いながら帰って行った。

 カイルは、自分の口に手を当てて、何やらゴシゴシ擦っている。

「カイル?イヴさんからもらったキスマーク、取っちゃうの?」

 俺はカイルに真面目に言った。

「違う!これはイヴが俺を揶揄って!」
「いいから、いいから、恋人だったんでしょ?今からでも、追いかけてあげたら?」

 俺は真剣にカイルに伝えると、何故かカイルが嫌そうな顔を見せて黙ってしまった。

 大人の事情に首を突っ込んではいけなかったかな・・

「ごめん、余計な事だった。俺、先に帰ってるから、カイルはもう少し遊んで来てよ」
「違うって言ってるだろ!」
「・・ごめん」
「部屋に戻るぞ!」

 そんなに怒る事?
 いい大人なんだし、少しくらい遊び歩いても。

 カイル、今日はよく怒ってた。
 カイルくらいカッコ良ければ、周りが放っておかないだろうし、何も俺に合わせなくてもいいのに。

 俺たちはそのまま無言で、それぞれの部屋に帰った。






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