王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第7章 東の帝国マコラ編

⑨中心都市の朝

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 昨夜シュウと別れ、中心都市まで立ち寄り簡易宿で部屋を借りた。

 異国情緒溢れる東の帝国マコラの都市は、魅力的で活気に溢れているし、人々が嬉々として生活しているような街だった。
 提灯の灯りに浮き足立って、夜でも明るく眠らない街だ。

 マコラは農作物や海産物が豊富で、食事が本当に美味かった。
 生魚や見た事のない料理が多くあるが、どれも美しく盛り付けらて、食欲を唆るものばかりだ。

 酒も珍しいものが多くあり、俺は辛口の米の酒が気に入って飲んでいた。
 レノは梅酒という、これまた甘い酒を好んで呑んでいたな。

 あまり飲ませ過ぎないようにしたつもりが、ふたりとも気がついた時には昨夜の状況だった。

「カイル、おはよう!帰りは同じ道を通るの?あのさ、中心都市の街を見て回りたいな!それで!えっと、みんなにお土産を買いたい。で、珍しい食材とか買って、みんなでBBQしようよ!あ、カイルはどこか行きたい所とかある?あれば行こうよ!」

 随分多弁だな・・昨日の夜の事をはぐらかしているつもりか?
 話題に触れないようにしているのか?
 はぁ・・そんなわけにはいかないだろ?

「レノ、身体は大丈・・んっ!」
「わあー!!カイル!それはいいから!」

 レノは慌てて俺の口を抑えて制止する。
 俺はその手に自分の手を重ねて、レノの手のひらにキスを落とし、ペロッと舐めた。

「ひ、ひゃあ!」

 顔を赤くする。可愛い。
 レノの手を握って、肩を押す。俺の体で、小さなレノの体を壁に押し付ける。

「レノ、おはよう」

 俺はそう言って、レノの唇にキスをした。

「カ、カイル!もう!」

 俺はレノを離して解放する。
 レノに誰かがいたとしても、俺は諦めない。
 レノが俺を意識してくれるように、俺だけを見てくれるようにすればいい。

 可愛い・・抱きしめたい。
 好きだ・・閉じ込めておきたい。

「ははっ!顔が真っ赤だな。行くぞ?街だな。土産か・・アイツら何が欲しいかな」

 レノを困らせて、意識させて、俺を目で追えばいい。時にはキスをして、抱きしめて、見つめて溶かしたい。

 レノは俺の様子を見て、物言いたげにしながら付いてくる。

「まずは朝食にしよう。炊きたての米が食べたい。魚の煮付け?美味いかな・・レノ、どうする?」
「あ、うん・・じゃあ、その魚の煮付けにする」

 動揺が激しいな、俺をたくさん意識してくれ。
 注意散漫で、通りすがる街人とぶつかりそうになる。俺はすかさずレノの腰を掴んで、胸に閉じ込めて抱く。

「わぁ・・っ!」

 柔らかい・・可愛い、離したくない・・

「気をつけろよ?レノ」
「は、はぃ・・」

 店が立ち並ぶ一角の、賑わいのある食事処に入ると俺たちは席に着いて食べ始める。

「本当に食事が美味しいね、マコラは豊かな国だよね。だけど、一方ヨシノ村みたいな忘れ去られた場所では、村人たちが苦労しているんだよね・・」
「ああ。それは、マコラだけに言える事じゃないけどな。アンティジェリア王国にも、リティニア王国にもそんな場所が存在するんだ。国の隅々まで豊かにする事が出来ればいいんだけどな」

 我がリティニア王国も然りだ。
 貧しくて、その日暮らしていく事がやっとの集落があるんだから。
 身分制が絶対だと決めつけて着飾る貴族もいれば、平民の底辺の生活すら出来ず、才があっても教育すら受けられずにいるものが存在するんだ。

 王族はそれを忘れてはいけない。民の暮らしを目に写して、目を逸らしてはいけないんだ。

「カイル、ヨシノ村にまた担い手が戻って、自活が盛んな村になればいいね。俺、少し・・手伝えて嬉しかったんだ。だけど・・たったひとつの村を救った所で、氷山の一角だ。他にも苦しんでいる人たちがいるんだから、浮かれて恥ずかしくなった・・」
「そんな事はないよ。レノに助けられた村が確かに存在するんだ。手を差し伸べる事が出来る者もそうはいない。これからもできる事をやっていけばいいんだよ」

 レノは謙遜しているが、これだけ力量もある。全属性持ちなんて数えるくらいにしかいないというのに。

 確か・・アンティジェリア王国の第3王子レオナルド殿下も全属性だったか・・
 アンティジェリア王国には、優秀な者が多く存在するんだな。

「そうかな・・」

 まつ毛が長い・・瞳がキラキラしている。
 こうやって見れば、どう見ても女性だ。なぜ、レノは男装をしているんだ?
 口調も話し方も男性的だが、いったい何がしたいんだ?

 冒険者にならないといけない理由があったのだろうか・・目的は?

 レノはすでに、女性である事を俺が知っていると分かっても何も変わらない。話題に触れてこない。

 俺から話を振った方がいいのか?
 聞いてみたい・・嫌がるだろうか・・

「レノ・・」

 俺が話そうと目を見ると、困った顔をしたレノが目を逸らすから、俺は何も言えなくなってしまった。









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